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【 ババア無双 】  作者: W.A.M
第参章 『ババア、誰が為に戦う』
14/24

第14話 『ババア、地獄の殺し屋を黙らす』

 今日もいい天気だ。

 そんな風に言っていられる、今日という日がとても愛おしい。

 町のみんなは復興に勤しんでる。

 その原因って、ちょっと前に魔物に襲われたからなんだよね。



 私は今日、お休みをいただいてます。

 ちょっと最近、こき使われてたような気がするから。

 特にあの勇者パーティー関連で。



 で、お休みの今日は。


「お茶が美味しいねぇ」

「そうだね、おばあちゃん」


 おばあちゃんの家に来てる。

 私、ワーカホリックなのかもしれない。






【 ババア無双 】


 第14話

『ババア、地獄の殺し屋を黙らす』






 縁側でお日様に当たりながら、お茶をすする私達。


「お茶請け代わりに、アメちゃん食べるかぇ?」

「ありがと。んんーコレおいしー」

 こないだのヤツとは違って、とは言えない。

 それにしても、深い色の柔らかな甘味が、口内でとろけて広がる。


 ぽかぽか。

 はぁ、口の中のアメと共に、私も溶けそう。


 おばあちゃんも、そんな様子。なんかほわほわしてるし。

 ほわほわ、してる……し?


 おばあちゃんが、本当に周囲に煌めきを纏ってるのに気づいた。

 あれって、魔物を倒したりとかして経験値入手のときに見えるやつ、だよね。

 え?どういうこと?


 『職業/レベル測定ダテメガネ』をかけて、おばあちゃんを見てみた。

 覗きみたいでゴメン、でもこれ仕事だから!今日お休みだけど!



 『 職業;ババア レベル;62 』


 あの時より、レベル上がってる!しかも6も!!

 どうして!?


 機能を切り替えて、もう一度見てみる。今度は経験値欄だ。


 200万をとっくに超えた数字が、

 ギュルンギュルン回転して上昇している。



 思わずアメ玉を噴出しちゃった。

 戦闘中に気を練ったりするとステータスメータがあんな風に回るらしいけど、

 何で、縁側でお茶を啜りながら……


 え、まさか。

 おばあちゃんらしい行動をすると経験値アップする、とか?





 その時!


 小屋の裏側、森の方から……

 一頭の、人間と変わらないくらいの大きさの、四足動物の影が!

 そして目を血走らせながら、唸り声とともに駆け寄ってきた!!


 あれは……ヘルパンサー!

 地獄の殺し屋とも呼ばれる、凶悪な魔獣だ!!

 こんな平和なところで出てくるはずがない、血で血を洗う危険地域に君臨する魔物なのに!!何で!?


 いやそんなことより、おばあちゃんに一目散に飛びかかってきた!!

 危ないっっ!!!




「あらあら困った子だよ」

「グルルルル、ルル……」



 おばあちゃんの細腕に、地面に押さえつけられ。

 大人しくさせられている、ヘルパンサー。



「子猫ちゃんはねぇ、首の後ろを掴んで持ち上げると大人しくなるんよぉ」

「いやおばあちゃん、今地に押さえつけてるよ……」

「地面に向けて持ち上げてるんよぉ」


 うん、何言ってるかわからない。


「ていうかおばあちゃん、子供だって何で知ってるの?」

「何でだろうねぇ、なんとなく、そんな気がしたのよぉ」


 まぁー、おばあちゃんだから、わかるのかな。



「あらこの子、痩せこけてるじゃないの。アメちゃん食べるかえ?」

 そう言うと。空いた手をポケットに突っ込み、何やらスティック状のアメ?を取り出した。野生動物にあんまり餌付けしちゃだめだよ。

 ていうか危険だってば!!さっきまでグルル言って牙向いてたじゃない!!


 ところが。

 口に近づけた瞬間、そのスティックを一心不乱にベロンベロンピチャピチャと舐め始めた。さっきまで目を血走らせてた凶暴な魔獣なのに、リアルに子猫になり下がってる……まるで魔法だ。


「まっしぐら、だねぇ」

 さすがは、レベルが上がったおばあちゃんのアメ……

 ていうか、あわや大惨事だったんだけど。私、まだドキドキが止まらないし。




 アメ?をすっかり食べ終わって、毒気が完全に抜かれてしまった魔獣。

 おばあちゃんが首から手を離すと、ぴょんとひと跳び遠ざかり、その後ててててっ、と森へ走り去っていっ……


 森の手前で、こちらを振り向き。少し優しく甘い鳴き声を出した。

 そしてまた歩いていく。


「何だろうねぇ、ついてこい、ってことかねぇ」

 おばあちゃんが、よっこらせと立ち上がり後を歩き始めた。

 ちょ、ちょっと!!


「危ないってば!」

「大丈夫だよぉ、心配性だねぇステラちゃんは」

「もう……」

 仕方ない、怖いけど……私も行くよ!!




 森を歩くこと、数分。

 前を歩く子ヘルパンサーに、あまり近づきすぎないように追いかける。

 子パンサーは、ちょっと駆け、止まり、振り向く。


 辿り着いたそこには。

 子供の数倍はあろうヘルパンサーが、血まみれになって横たわっていた。


「こんな知らないところに連れてこられて、お母さんがやられて、

 さぞかし怖かったんだろうねぇ」


 子パンサーは、お母さんの顔を舐めている。

 でも。微かに、呼吸で体が上下するのみだ……きっともう、助からない。


 おばあちゃんは、そこにそっと近づき、

「かわいそうにねぇ……少しでも、楽になっとくれ」

 ポケットから、アメと、水筒を取り出し。

 アメを少しだけ掌に出し水に溶かして、お母さんの口元に垂らした。


 体がほんのりと淡く光り、傷口からの流血が止まった。

 そして、ほんの少し目を開けると、

 自分の顔を舐め続ける、子供をひと舐め、して。


 再び、目を閉じた。

 その目は、もう開かなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 その後。

 私は“ギルド”に行き、“事の顛末”を報告した。


 お母さんパンサーは、おばあちゃんが供養をしてくれた。

「このままじゃ、子猫ちゃんもお母さんもかわいそうだ」、って。


 本当ならば、 “ギルド”が遺骸を調べなきゃいけないけど、

 でも。私も……平らけく安らけく、あってほしかったから。


 だから。

 始末書になってもいいから。“事の顛末”を、報告した。

 課長は、黙って聞いてくれた。




 供養の件だけど。

 おばあちゃんが、必死に祈りを捧げてくれた。


 動かなくなったお母さんと、その顔を舐め続ける子の前に座り、

 合掌し、何やら唱えると、

 お母さんは光となり、消えていった。

 おばあちゃんのところの神様の元で、昇天させてくれるらしい。


 子は、細く短く悲しく、一回泣き声を上げると、

 草むらに消えていった。




 その晩は。

 課長にも許可を得て、私はおばあちゃんの家に泊めてもらった。


「寂しくてねぇ、助かったよぉ」

 おばあちゃんは歓迎してくれた。


 何も言わずに、ただただ私は、その厚意に甘えた。




 その晩、変な夢を見た。


 坊主頭の、着慣れないスーツを着た人が。

 ケモ耳の美人さんと、やんちゃっぽいケモ耳の男の子を連れてきて。


 美人さんが、男の子の頭をぶん殴りながら、ムリヤリ頭を下げさせた後、

 おばあちゃんに、寂しげな笑顔でお礼をして。

 美人さんと坊主さんだけ、消えていった。

 男の子だけ残して。


 とても寂しい、夢だった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




「あら、あらまぁ」


 翌朝。

 おばあちゃんの声で、私は目覚めた。


 声の方には。



「義理堅い、子だねぇ~」


 昨日、お茶を飲んでた軒先で。

 その辺で捕まえたであろうジャイアントウサギを、地べたに並べ、

 そのすぐ横で丸くなってる、

 子ヘルパンサーがいた。


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