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【 ババア無双 】  作者: W.A.M
第弐章 『ババア、異地にて隣を忘れず』
10/24

第十話 『ババア、精霊との盟約により生命の炎を捌く』

 ~前回のあらすじ~


 勇者の姦計により決闘を受けることになったおばあちゃん、そしてジャッジをすることになってしまった私。いい加減にしてよあの勇者、ていうか最初とキャラ違いすぎるんじゃないの、最初の真面目な剣士のイメージは何処へ?それともそんなにおばあちゃんに魅せられたのかな?まぁそれなら仕方ないね、おばあちゃんだからね。そんなこんなで町の復興で頑張るみんなのために炊き出しで対決することになったよ。何故って?ここがギルドで彼等が請負者だから!そして開幕のゴングは鳴っている、そして私達のお腹の虫も鳴っている。お昼だからね!では実況;私ステラがお送り致します。






【 ババア無双 】


 第十話

『ババア、精霊との盟約により生命の炎を捌く』






「フハハハハハ!勇者と書いて何でもできると読む!

 炎の魔法・表面こんがり中はレア!水の魔法・45ml噴霧!秘剣・短冊切り!」


 巨大な俎の前で。勇者が、有らん限りのスキルを惜しみなく発揮している。

 初めて披露するファンタジー要素が調理に使われてるのは何かアレだけど、でも次々と滑らかにスキルを連発しているアレは高等技術だ。確かに凄腕だなぁあの人、便利だし。今度から『台所の勇者』って呼ぼう。

 そして傍らでは、メガネをクイクイさせながら小皿を用意してる。


 !?

 まさかあのコンビ……


「待たせて悪いな、これでも食べてお腹を誤魔化しといてくれ!」


 空腹に耐えかねたギャラリー達に、先付を出す、だと……!?

 何ていうお気遣い!この勝負、本気だ。

 ていうかその気遣いを何故私にできないんだ。あ、美味しい。


 そしてメインの準備、巨大な寸胴を準備し始めた。身も心も温まる汁物。これぞまさに、炊き出しって感じ。



 一方で。



「おばぁちゃーん、あーし料理できないんだけどぉ~」

「あらまぁそうなの?頼りにしてたのにねぇ」


 全く調理が進んでいない、おばあちゃんチーム。

 いや、その調理台を見れば……おばあちゃんは下拵えを少ししているけど。でも完成品をイメージできてない仕事なら意味は薄い。


「フハハハハハ!チーム分けは前と同じで良かったんだよな? 」


 その様子を見て、台所の勇者が煽ってきた。うざい。

 でも何故か、ギャルちゃんは黙ってぐぬぬしてた。何で?


「そう、ソイツは不器用なバトルマスター。ギャルの皮を被ったオッサン!剣は振れても包丁はからっきし!!こういうシーンではただの可愛い失敗っ子にしかならんのだよ!」


 台所が理由を教えてくれた。さりげなく褒めてない?

 でもその言葉に、ただ俯くばかりのギャルちゃん。


「その、通り……なんだよ」

 呟くギャルちゃんの握った拳から、骨が軋む音がした。


「ソイツと……勇者と違って!あーしは何でもできない!

 変な魔法しかできないし!炎とか水を出せないの!!

 それにソイツみたいに、小さい頃から料理教室に通ってないし!家庭科“2”だし!」

「真面目に授業は受けてたんだねぇ……」

 よくわからない会話だけど、おばあちゃんは精いっぱいのフォローをしたことだけはわかった。




「ところで。アンタはどんな魔法が使えるんだい?変な魔法とか言ってたけど」

 ギャルちゃんが、ギクッとした。

 ああ、これは本当に秘密にしたいやつなんだね。


「……笑わない?」

「笑うもんですか、味方のことを」



 意を決するように、ギャルちゃんが言葉を振り絞った。


「カロリー魔法。

 カロリーを与えたり、奪ったりできる、んだよ……」

 そう言いながら何やら呪文を呟くと。手に持った果物が輝き、果汁が滴ってきた。

「ちなみに味は変わらない、っぽい……」

 呪文を唱えた。再び果物が輝き、果汁がピタッと止まった。



「ちょっと待てぃ!」ガタッ

 私は思わず立ち上がり叫んでいた。


「あらあら、ステラちゃんどうしたんだい?」


「貴様……何故それをギルドに、いや、私に報告せんかった!?

 それ使えば、実質どころかパーフェクトノーカロリー理論が実践できるじゃないの!!?

 ううん、もう過去のことはいい、今すぐ私と専属契約を……」


「落ち着きなさい」

 隣の席に座っていた課長が、私を宥めた。


「課長!これが落ち着いてられますか!」

「落 ち 着 け 。いいか三度は言わんぞ」

「アッハイ」


「うちの部下が失礼致しました。

 その力があれば、いざという際の飢餓対策に大いなる助力になる。そう驚き、取り乱したようです。ですねステラさん?」

「ソノトオリデゴザイマス」

「では対決をお続けください」

「モウシワケゴザイマセンデシタ」




「その魔法を使えば、とんでもない料理ができるんじゃないかねぇ?」

 おばあちゃんが閃いたみたい。


「アタシはマッチを擦るくらいの種火しかできなかったからねぇ、火力をどうしようかと思っていたのよぉ。

 でもアンタのその魔法をかければ、強火になるんじゃないかねぇ」

「でもあーし、料理下手だから、黒コゲにしちゃう……」


「“炎と友達になる”んだよぉ」

 ……え?

 おばあちゃんの難解な言葉に、私もギャルちゃんも困惑した。


「炎と、友達に、……なる?」

「そうさね。きっとなれるよぉ、炎さんもカロリーは大好物だからねぇ」

「……」


 でも、おばあちゃんは優しく、でも真剣に続けた。


「その為には、怖がっちゃ駄目さぁ。炎も、何より失敗も。

 大丈夫だよぉ、誰だって最初は怖いよ。アタシだって昔、失敗して母ちゃんに叱られたもんさねぇ。

 でもいつかは、きっとできるさね。さぁ、今日はその第一歩目」

「……」


「そういえば。アタシゃアンタの名前聞いてなかったよぉ。何ていうんだい?」

「……アゲハ。」

「アゲハちゃんなら大丈夫よぉ、ふぁいと!」

「……」


「……やってみる!」



 そのギャルちゃんの言葉に、笑顔でおばあちゃんが頷いた。

「はいよ、じゃあマッチを擦るかねぇ」


 そう言うと、おばあちゃんは左人差し指で、右掌をスッと擦った。

 指先に、小さな炎が灯っている。


「さぁアゲハちゃん、見せ所だよぉ~」


 ギャルちゃんが、決意とともにおばあちゃんの指に両手をかざし、

 呪文を呟いた!



 ゴオオオオッッッ!!

 天まで届くほどの、巨大な火柱が!!

 ギャラリー大歓声。

 盛り上がってる場合か!おばあちゃん達、無事!?


「……きれい」

「きれいだねぇ」


 火柱に感動してた。大丈夫っぽい。



「あーしに、力を……貸してくれる、っていうの?」

「よかったねぇ」


 火柱と会話してた。大丈夫じゃないっぽい。


 いや、違う。

 収束してきた火柱の中に、……人影?



「あらまぁ、久しぶりだねえ」


 そこには、炎の精霊……

 いや、腕組みをした白い調理服のおじさんが立っていた。

 ……誰?


「……」コクリ

 そのおじさんが、手に持っていたボウルみたいな鉄鍋を、頷きながらギャルちゃんに差し出した。

「お借りします、師父せんせい!」

「よかったねぇ」

 だから誰?



 そしてギャルちゃんが、左手に持った黒鉄の鉄鍋を振りかざし、

 右手のバスタードソードのようなシャモジで叩き、カンカンと鳴らすと。


「反撃開始☆って感じ? 

 そっちが汁物ってなら……」


 !?

 黒鉄色が……燃えさかるような真っに、変わっていく!!

 あれは……


 炎の……属性付与武器エンチャント・ウエポン!!?



「こっちは!炒飯・百人前じゃぁあ!!

 ギャラリー全員、まとめてかかってこいやぁああ!!!」



 鉄鍋が、文字通り火を噴いた。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 勝負は、引き分けに終わった。

 何故って?

 前菜、炒飯、汁物と、2チーム合わせて最高の食事になったから。

 ギャラリーもみんな口をそろえて「勇者もおばあちゃんもありがとう」だったし、甲乙つけがたし。ご馳走様でした。



「おかしい、今回は勝てるはずだったのに……」

 必勝を期してガチった台所の勇者は、不満げに首をかしげていた。

 でも。そう言いながらも、どこか嬉しそうに見えたんだよね。

 それもこれも、


「おばーちゃん!やっぱ、あーし達って最強のコンビじゃね!?」

「ふふふ、そうだねぇ」


 仲間が成長したから、なのかな。

 勝負の途中のウザ発言はあったし、私へのぞんざいな扱いは忘れないけど。やっぱり真面目で仲間思いなんだろうな。





「それにしても。おばあちゃんったら、炎の精霊を召喚できたんだね。すごい!」


 帰路についても何度も振り返ってくる勇者達を見送り、

 諸々の書類を渡しながら。

 私はおばあちゃんに、ちょっと興奮気味に話しかけた。


「え?なんですって?アタシゃそんな知り合い居ませんよぉ」

「いやいやご謙遜を。さっき火柱の中から出てきたじゃない」



「ああ、あの人?

 昔ウチの近所で中華屋やってた、陳さんだよぉ」


 ……おばあちゃんの力は、異世界人?を召喚できるのか。







〜第二章〜


『ババア、異地にて隣を忘れず』 完

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