悪役令嬢ですって?王子様、何してくれるんですかっ!!
優しい王子が「行っておいで」と言ったから・・・
なのにこれはどう言う事?
@短編その86
「外国に行って勉強したい」
「よし。僕と入れ替わって、留学すると良い」
「え?いいの?」
「いいとも!」
私はグレニエ公爵令嬢、コーフェ。
勉強が大好きだけど、『女は勉強などせずに裁縫やマナーを』という両親の所為で、させてもらえなかった。
その事を婚約者であるこの国の王子、ハリーズ様につい愚痴を言ってしまったら・・・こんな事を言い出した。
でもそれに便乗すべし!!
私は王子様に変装して、外国に留学をする事にしたのでした。
・・・そうなると、王子様は・・・私に化ける事になるのですけど・・・
なので、パーティーでお互いを入れ替えて出席して見たところ・・・バレなかった!!
私はいつもローヒールを履いているので、踵が高いブーツを履いて、王子様はローヒールを履いて・・いつもの私よりはちょっと高くなるけど、そんなに目立たないようです。
これはいける・・・!!そう確信しました。
ですが、王子様・・・お妃教育を・・・うーん。どうするのかしら?
「なんとかするから安心して!」
と言ってくれたので、私は安心して留学したのでした。
楽しい一年でした。
多くの学友も出来て、本当幸せでした。
勉強が本当に楽しくて・・・でももう国に戻らなくては。
後ろ髪惹かれる思いで帰国・・・
王子様のおかげで、独身最後の我儘をきいて頂けました。感謝感激です。
これから王子様のために、私は心から尽くす所存です!
・・・と、思っていたのです。ええ、本気で。
誠心誠意、王子様のために。
なのに・・・帰国した私の耳に入ってきた噂話に仰天!!
「コーフェ嬢は思い上がった娘だ」
「王子様が帰国したら、きっと断罪されるだろうな」
「悪役令嬢とは、あの娘の事を言うのだ、本当に恥知らずめ」
え?えええ?
どう言う事なのーーー?!
私はとにかく王子様の元に駆けつけた。
「やあ、おかえり、コーフェ」
私のために用意してくれた部屋に王子様はいました。
まあ、変装して私になっているのです、ここにいても当然です・・・ですが・・・
「おお!本当にお前にそっくりに変装しているな!」
「すごいな、コーフェ嬢」
「勉強は楽しかったか?王子に感謝しなくちゃな」
「王子は女装してまで頑張ってくれたんだからなー」
・・・・・・・。
そう言う事なんですね・・・
私、コーフェは王子がいない間、王子の御学友と遊びまくっていた。
そう言う事になっているんですね?
4人の御学友と楽しそうに話している王子様・・・
退屈だったでしょうね。分かります。分かりますけど・・・
私は彼女が王子様と分かっています。だって、私と入れ替わっているんですもの。
・・・私は・・・目眩がしました・・・
男遊びをするふしだらな女・・・ですか・・・
私の名誉、地に落ち、た・・・
「王子様・・・ありがとうございました・・・私・・・貴方との婚約を・・・無かった事にします」
「え?」
王子様、キョトンとした顔をしています。まあ、本当に女性らしい表情が出来るように・・
もう、虚脱感が半端ないです・・・泣くことも、怒る気力も・・・無いです・・・
「婚約を解消してください・・・私、修道院に行きます・・・」
「何を言っているんだい?コーフェ、婚約解消だなんて」
「・・・分からないなら・・いいのです・・私の我儘のせいなんです・・・」
ああ・・なんだか泣いちゃいそう・・・
私はよろよろとドアに辿り着き、外に出ようとしたのをドレス姿の王子が引き止めます。
「どうして!僕は君が行きたいと言うから、こうして女装をして留学に行かせたんだよ?」
「留学はとても楽しかったです。王子様の名誉も守り、高評価だったと思います」
私は脱力する体をなんとか奮い立たせ、王子様に告げました。
「ですが、王子様。私、先ほど周りの者の噂を耳にしました。『コーフェ嬢は王子様が留学しているのをいい事に、御学友達を部屋に侍らせて遊んでいる』と!」
「え?そんな事、僕に耳には入ってこなかったよ?」
「そうでしょうとも。王子様が帰国した後、私は・・・『婚約者としてだけではなく、女性としてもふしだらな娘だ、こんな女は将来の妃に相応しく無い』と言われ、断罪するつもりだったのでしょう」
「え・・・・・・・・・嘘」
王子様、呆然としています。
御学友達もびっくりした様子ですが・・・思いもしなかったようです。私もです。
王子様が退屈だろうと、遊びにいらしただけでしょうし。でもせめて目立たないようにして欲しかった・・
今更です。
たしかに一年も、女装させるなんて酷い事でした。
女が男装はまだ抵抗はないでしょうが、仮にも将来の王である嫡男に、一年ドレスを着せただけでも罰があって当然です。私も軽く考えすぎていました。甘く見ていました。
一年の楽しい留学生活をさせていただいたのです・・・
呑気で、友達も多く、優しい王子様。でもちょっと迂闊。責めるのはお門違いです。
快く留学させてくれたんですもの。ただ、ちょっと迂闊だっただけ。私もそこまで考えが及びませんでした。
ああ、王子様、何故貴方が申し訳なさそうな顔をするのです・・本当にいい人なんだから。
だから、私は必死で勉強をしてきたのです。貴方をお支えするために。
でもそれも・・・無駄に終わりそうです。
御学友の方々、王子様にお仕えしてください。人の良い方なのです。もうご存知でしょうけど。
「ああ・・・言い忘れていましたわ。ただいま帰りました、ハリーズ様」
ぽた。
ぽたぽた・・・
目から涙が落ちてしましました。私の泣き顔は、猫のエキゾチックショートヘアのようなへちゃむくれになってしまいます。しかも、鼻水も出てしまうんです。ぶちゃいくな顔なんです。
「そして・・・さようなら」
ぽたぽたぽたっ。
・・・ずび。
「だめだよ、コーフェ。僕の側にいなくちゃ」
そして隠しポケットからハンカチーフを取り出して、私の鼻を摘んで拭いてくれます。
「君に信頼されていながら、迂闊な行動で君の名誉を傷つけてしまった。僕は君を喜ばせたくて、留学に行ってもらったのに、泣かせてしまうなんて・・・すまない、コーフェ」
コツコツ。
誰かがドアをノックをしています。
返事を待つ事無く、ドアは開かれて、数人押し入ってきました。宰相と侍従長、そして文官数名です。
いよいよ断罪ですか・・・
「王子様、ご覧になられましたか。コーフェ、じょ・・・えっ?」
彼らは私たちを見て固まっています。その視線の先には、王子様の頭、そして床。
「あ」
王子様、頭に手をやり・・・そして床に視線を向けます。
床に王子様の被っていたカツラが落っこちていました。
そして私の被っているカツラも半分ずれて、本来の私の髪色が見えています。
二人が入れ替わっていたことが、バレてしまいました・・・
まあここまでバレてしまっては、もう正直に言うしかありません。
一年も女装させた事には大変お叱りを受けました。当然です。
そして入れ替わって留学したことも、王子様と一緒に怒られてしまいました。当然です。
その後どうなったかと言うと・・・
私と王子様の『入れ替わり留学』の話を、吟遊詩人達に面白可笑しく歌わせて、イメージアップ大作戦!!
女性が男装して、外国に留学の冒険譚は大人気となり、大劇場で公演までされるようになったのです。
私が留学した国でも公演されました。
そして留学先の友人達が手紙を送ってくれました!
『女性とは思わなかった』と言う手紙が圧倒的に多かったです・・・ははは・・はぁ・・
「君の男装は、僕より凛々しいもの」
ニコニコ笑って宣うハリーズ様です。むむむ?
褒めてませんよね?王子様!
何はともあれ、うまくいった・・かしら?
最近王子様は女装・・というか、レースが多く使われているチュニックをお召しになり、私の髪型のカツラを付けて。私は王子様のカツラを被り、男の服装で公務に出かけます。国民が皆喜びますからね!
なんだか皆んなに愛されてる感半端ないです!
こうして私と王子様は、来年には結婚する事となりました。
再来年の劇『王子と公女の入れ替わり』では、ラストは私達の結婚でエンドに書き換えられる事でしょう。
王子様、私一生貴方のお傍でお支えしますから!
優しくて、私を甘やかしてくれる貴方を本当に愛しています。
9月は『令嬢』がお題。
思いつくまま、ペースは落ちたけど、2日に1作うp。
タイトル右のワシの名をクリックすると、どばーと話が出る。
マジ6時間潰せる。根性と暇があるときに、是非。