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「瀬良明志の武士基礎講座、はっじめーるよー」

「ヒューヒュー!」

「やんややんや」


 所変わってここは森の中、僕が毎日の様に来ていたちょっと開けた空間だ。

 わざわざホワイトボードも持ってきたし、今日から此処が僕の主催する青空教室の会場になる。

 超絶棒読みな僕の言葉に愛の手を返してくれる教え子達。……掴みは完璧だろう。


「まず、この位は知っとかないと技術以前の問題だっていう事の抗議から」

「えッ!? 座学があるのか!?」

「ド素人相手の講習なのに無い訳無い。嫌なら帰って良いよ。しゅばりーには綾小路と二人でなるから」

「や、やるに決まってるッッ! どんとこいッッ!」

「結構」

「明志、騎士(シュバリエ)だよ」


 し、知ってたし。ちょっとうろ覚えなだけだし。


「因みに魔殿(ネスト)に挑む上で、技術的に何が重用か分かる?」

「……根性?」

「いらないとは言わないけどそれは技術じゃない」

「魔法かな」

「はい綾小路正解」


 僕はマジックのふたを取り、ホワイトボードに術理と書く。

 ちなみに、現代においては西洋文化が入ってきて魔法って言う言い回しが出てきたけれど、僕の時代では『術理』といい、それを行使する為に『術式』を学んだ。

 この辺の言葉の違いは歴史の授業で習ってるから多少言い回しに違いがあっても伝わる。


「じゃあ術理には決まった系統があるのは知ってた?」

「……いや、それは知らないな。私に魔法の素養は無かったし」

「俺も」

「うん、それがそもそも間違ってる。術理には素養もクソもありません」

「……は!?」

「確かに術式使いを名乗れる位になるには素養がいるけれど、術理を使う事自体は生物であれば誰でもできます」

「いやいやいやいや!? 明志、それは流石に私でも違うって分かるよ!?」

「家にテレビがねぇのか!?」


 あるわ。

 テレビ見る度にあぁーコイツ嘘ついてんなーって思ってたわ。

 現代における魔法使いって言うのは医者に並ぶ高収入職業だ、業種は多岐にわたり、魔殿(ネスト)に挑んで立身するまでも無く勝ち組で、もし僕が声高らかに理路整然した根拠に基づいて「このホラ吹き共め」とか騒いだ日にはこの日の元であってさえ暗殺されかねない。

 人間って自分の立場を脅かされるのを死ぬほど恐れるし……。


「あれは技術を秘匿する為の隠蔽工作だから。術式使いって言われる人達の商品価値を引き上げる為の嘘っぱちに過ぎないよ」

「……成程ッ! そういう事だったのかッ!」

「えぇぇ……そんな馬鹿な」

「ていうか広義的には武士の剣術も術理に含まれるものもあるんだぞ」


 というか、型はほぼ全部そうだぞ。

 そもそもの問題として、人間の腕力じゃ仮に世界一の名刀を用いても『天津・穿チ貫ク鎗搭』に巣食う鬼共の表皮すら引き裂けない。

 他国の魔殿(ネスト)であれば話は変わるのんだろうけれど、日ノ本のは余計なルールが一切存在せず、単一種……鬼しか存在しない代わりにその鬼共が兎にも角にも凶悪だ。

 個体差はあるが、動きは速い、力は強い、体力は無限に等しく、恐ろしく頑丈で、腕一本切り落とされた位じゃ怯みもしない。

 そんな怪物が群れを成して襲ってくる様な所で、術理も用いずどうやって勝つというのか。


「あぁ、知ってる。アーツってやつだろう?」

「あ、あーつ? 術理と同じって言ってるだろう」


 何で同じものに幾つも名前をつけるんだ、訳が分からないよ。


「理屈としては剣舞を奉納し力を下賜される感じかなぁ。実際は詠唱を動きで表現して空気中の魔素を用いて行使する感じなんだけど、自分の魔素は一切消費してないから昔はそういう勘違いがあったりしたよ」

「へ、へぇ」

「まあぶっちゃけ意識して出来るもんでもないからこの辺は考えるだけ無駄。その内出来る様になってるから気にしなくていいよ。術理を勉強して覚えるもんでもない」

「因みに魔殿(ネスト)内でなきゃ覚えられない言われてるんだけど……」

「それは嘘っぱちだよ。上キョウする前に最低でも五つ位は出来る様になってるんじゃないかなぁ」


 てかなんだそれ。技術隠蔽の延長だろうけどそんな訳分からん嘘誰が信じるんだよ。

 ……あ、いや魔殿(ネスト)内で技術を身に着けるのが普通になってる現代ならそこまでバレやすくもないのか? 術理の知識がないと使っててもそうだと自覚出来ないだろうし。


「話を続けるよ? その反応なら術式の系統についての説明はしっかりしたほうがいいね」


 因みに隠蔽工作に関して僕は欠片も思う所は無い。好きにすれば、という感じである。無駄に恨みを買う必要性は感じないし、技術の秘匿は情報の価値を知る者からすれば当然の行動だし、魔殿(ネスト)への進軍の必要性が低下している現代なら嘘で利得権益を守ろうが知ったこっちゃない。

 僕自身、理由に多少の差はあるけれども自分の技術は秘匿する気満々な訳だしね。

 大なり小なりそういうのは昔からあったよ、流派の秘奥義とか。

 ホワイトボードに淀みなく文字を綴り、また向き直る。


「術理系統は全部で五つ。『流』『纏』『砲』『変』と、まず間違いなく取り扱う事の無い『禍津』。最後に関しては行使した後が取返し付かないから絶対使わない事」

「先生、ヤバそうなのはそもそも教えないでください」

「いや、ヤバくない術理なんてないから。戦争の技術だぞ」


 ヤバくない拳銃とか誰が使うんだ。

 ましてや怪物を相手取れる技術だぞ、術理で阿保かませば余裕で人が死ぬ。

 ……その辺の常識は座学でしっかりやろう。


「『流』は、体内に魔素を巡らせて身体強化する技術で、これが出来ない奴は死ぬよ」

「『纏』は、魔素で実体の無い鎧を作り出す技術で、これが出来ない奴は死ぬよ」

「『砲』は、魔素を放出する技術で、魔力を過剰摂取してしまった際吐き出すのにもつかうので、これが出来ない奴はやっぱり死ぬよ」

「『変』は、魔素を用いて物の性質を変えたりする技術で、これが出来なくて死ぬ奴は多いよ」

「『禍津』は元々内臓とかそういう重要器官の無い怪物の肉体を形状を異形化させる術理なので、人間が下手に使うと死ぬよ」


「成程ッ! つまり、魔法が使えないと死ぬッッッッ!」

「その通り、理解してくれてなにより」


 そう、魔殿(ネスト)に挑む上で術理を使えないと死ぬしかないのだ。

 綾小路は無言のまま持参していたらしいノートに綺麗な字で板書していた、意欲が感じられて良い。


「中でも重要なのは『流』。これに関しては今日からもう訓練を始めるよ。目標が中学卒業だともう遅い位だから」

「え、そうなのか?」

「『流』の習得自体は多少死ぬかもしれんけど一週間もあれば事足りるんだけど、その副産物が結構重要なんだよね」

「え、死ぬかもって言った?」


 言ったけど。

 綾小路も板書を止めて此方を見ている。


「いや、術理習得だぞ? 普通に死ぬ可能性位あるから。元々魔殿(ネスト)に挑むつもりだったんなら命位賭けて当たり前だろ?」

「……おぉ、うぉぉぉぉぉぉ! その通りだッッ! 俺は賭けるぞッ! 命をッッッ!」

「こう言っちゃなんだけど、僕にいわせりゃ現代の主流っぽい魔殿(ネスト)で戦って覚える戦法は命知らずの馬鹿な行動にしか見えないんだよね。命を賭ける、なんていっても間違いなくこっちの方が死ぬ可能性は低いよ」


 テレビで新人騎士(シュバリエ)が報道されている時、期待の新人とか言って剣道何段とかそういう肩書が出てたりするけど、阿呆の極みかと。テレビ越しにもわかる術理の術の字も知らんど素人に何を期待しているのだろうと常々思ってた。


「因みに、確率的にはどんなものなの?」

「うーん、五分五分じゃないかな? 死ぬ前に止める事も出来なくはないけど、此処を乗り越えられないなら武士としては死んだも同然だし」

「マジかよ!? 初日脱落もあり得るって事か!?」

「だけどコレを乗り越えられるなら僕は君等を途中で投げ出したりしないよ。騎士(しゅばりえ)になる為の試金石と言っても良いかな」

「おぉ! ならやるしかないなッ!」


 そう、やるしかないのである。

 後、投げ出さないのは二人の為じゃなくて社会の為である。

 子供に対戦車ミサイル渡して放置するとかそういう有り得ないだろうという当たり前の話だ。


「ならすぐやろうぜッ!」

「座学が終わってからね、コレが出来たら実は魔法を使えると言っても過言じゃなくなるからその前に魔法を使う上で気を付ける事を僕なりに考えたらからそれを頭に叩き込んでからじゃないと」

「うぇーい……」


 その後、二時間に渡って術理が如何に危険なものかという講義を行い、ソルはグッタリと綾小路はしっかりとメモを取りながら聞いていた。ソルにはまた後日改めて説明する必要がありそうだが取り敢えず詰めるだけは詰めたので今日のところはこの位で良い事にする。


「あ、因みに後日テストするから」

「嘘だろ!?」

「50問100点満点で90点以下は赤点だからしっかり復習しておくように」

「鬼かよ!?」


 鬼じゃないよ、僕は人間だ。

 学校の勉強と違って、最低限九割は頭に入ってないと話にならんからな。

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