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グラグラグルグルファンタジー

作者: 比我 鏡太朗


 TSUTAYAのロゴが黄色くライトアップされているのを運転席で眺めながら、俺は孤独を感じた。あのライトアップされた黄色は、明るい黄色ではなく、土の混ざった濃い黄色であり、その存在感は俺よりも強く、俺の何千倍も輝いているのだ。恐らく俺よりも人生を生きていないTSUTAYAのロゴは、俺なんかよりずっと生き生きと存在を謳歌しているのだな。


 その横に並ぶゲームセンターの入り口の上には、TSUTAYAのシンプルでいてお洒落なデザインとは打って変わって、時代に置き去りにされたソニックがカートゥーンなシティで躍り遊んでいるかなのようなパノラマがガラス張りの中に描かれ、電光が点滅して、一緒に街に繰り出そうぜと誘っているかのようだ。哀れかな、そんな思いでいつから其処に飾られた光景か分からぬそれを只只見つめていると、うっすらとだが、その透明な窓とパノラマの間の隙間にいる自分の姿が浮かぶ。


 あそこでどんな姿を晒した格好が良いだろうか。コンビニの弁当を車の中で食べながら、TSUTAYAのロゴの横に並ぶゲーセンのショーウィンドウの飾りを見つめながら、あそこに立つ自分の姿を想像しながら飯を箸で口に運ぶ。ゲームセンターらしいデザインであるが、自分が子供の頃と何ら変わっていないその光景が何とも物悲しい。


 あのスペースにいる自分は、気詰まりで、処刑台に立たされた気持ちになるのか、笑い者になるだけで、見た目も冴えず、どんな風に立っていれば良いのかも分かりはしない。そもそも、人が立つ場所では無い。しかし、子供の頃、ヒーローに成れると思っていた自分が、主人公だった自分があそこに立っている。


 ほら、見てごらん。人目を意識するのを隠しきれずに笑うあの頃の僕が君と笑っているよ。楽しそうに。夢みたいに。



 今日、孤独と心の中で呟いた数をとりあえず計算してみた。

部屋の明かりを絞り、机に座って俺はノートに書き出していった。


 孤独と呟くとき、大体4回続けて呟く。それを10回程はしていたので、合計40回孤独と呟いた。そして、孤独と呟くスピードは恐らく一秒ほどの速度になるが、行間やセンテンスやブレスやテンポを考えると、平均2秒程の速度で呟いていたとする。

 つまり、4×10=40。これが、孤独を繰り返した数。

 そこに、40×2=80。これが、孤独を呟いた時間。

  

 しかし、今こうして思い返しているので、それを換算すると、


 恐らく、4×4。つまり、4の二乗×10になり、=160。孤独の数。

 そこに、時間を掛けると、160×2=320。つまり、5分20秒。

 

 5分20秒孤独と呟いていたことになる。この計算式は、途中から自分でも良く分からなくなって来たので、計算が、方程式が間違えっているかも知れないが、俺が言いたいのはそんなことじゃない。


 孤独と心の中で呟いた数=孤独を感じた回数とその孤独の総数である。今日の俺は5分20秒の孤独の時間と、160回の孤独を味わったことになる。




 男は、ノートを閉じた。チラチラと壁に掛かった時計を先程から世話しなく見詰めていたが、ふっと糸が切れたように顔に安堵の表情を浮かべ、椅子にもたれ掛かった。


 『長かったな。今回は 』

そう言って、スマートフォンをポケットから取り出して1分の遅れも無く送られてきたメールを確認する。


 『ご苦労様です。✕✕様 

 一年の契約期間満了の時刻と為りました旨ご報告させて頂きました。


 報酬につきましては、御口座の方に送金させて頂きましたので、ご確認下さいませ。

 又、弊社サービスをご利用の際は、いつでもご連絡下さい。

 

 この度は、弊社サービスをご利用頂きありがとうございました。


 株式会社サクラヒューマンイノベーション。』


 とりあえず、滞りなく勤めを満了出来たようだ。実感など湧かないが、此れで孤独な人間から解放された。一年間孤独な人間の役を演じるのが今回のサクラ代行サービスの仕事だった。



 あれから、一週間が過ぎた。自由を謳歌している筈なのに何かが足りない。といって、普通の生活に戻った迄なのだが、流石に一年というブランクは自分にも回りの人間にも大きいようで前のようには、振る舞えないのがもどかしい。



 それから、一週間が過ぎた。気が付くとまたあのサイトに仕事の依頼を申し込んでいた。流石に一年何て長いのは避けて単発の募集を受ける事にした。


 

 

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