親不孝
商店街の路上。
二人の男がいきなり喧嘩を始めた。
一人は学生風の若者。
もう一人は四十歳前後のサラリーマン。
「おっさん、あんたがぶつかってきたんだろ」
若者が口をとがらせて叫ぶ。
「なにを! おまえの方からぶつかってきたんじゃないか」
サラリーマンも鼻息が荒い。
どうやら通りすがり、互いの肩が触れ合ったことから言い争いが始まったらしい。
「いいや、あんたの方からだ」
「いや、おまえの方だ」
互いに意地となり、二人とも一歩も引き下がろうとしない。
二人の周囲では、ヤジウマたちが徐々に輪を作り始めていた。
サラリーマンが若者の頭を指さす。
「男のくせに、なんだその金髪頭は? そんなヤツにロクなもんはおらんとしたものだ」
「オレがオレの髪をどうしようと勝手だろ」
「おまえの髪だと? もとはといやあ、親からいただいた大事なもんだろう。それを粗末にして、この親不孝の恩知らずが!」
立て板に水とばかり、サラリーマンは若者に向かって説教をした。
だが、若者も負けていない。
「親不孝だと? それはあんたの方だろう。えー、そうじゃねえのか」
「オレが親不孝だと?」
「ああ、親からもらった大事な大事な髪をよ、一本残らず失くしちまってから。このタコ頭!」