Merry go round (夏ホラー2017)
メリーゴーランド。
遊園地の遊具の一つ。回転する床の上に、床の回転に合わせて上下する座席を備えた遊具である。座席は馬に似せて作られ、騎乗をシミュレートする。
英語では一般的にmerry-go-roundと言うが、アメリカ合衆国ではcarousel、イギリスではroundaboutとも言う。
フランス語ではcarrousel、あるいは、manègeと言う。
日本語では英語風にメリーゴーランド、あるいは、メリーゴーラウンドと言う。別名は回転木馬。なお、フランス語風にカルーセルと称する場合もある。
(Wikipediaより。一部改変)
「なあ、『裏野ドリームランド』って知ってるか?」
「なんだよ、唐突に」
無味乾燥とした生活。
平日は仕事に行き、休日はネットをぶらついて終わる。
灰色の生活、灰色の人生。幸せって何だろう。見失ってしまったのかもしれない。
そんな日々に嫌気がさしてきたころ、友人のKがいきなり電話してきた。
「ああ、かなり前に廃園になった遊園地らしいんだが…」
「…幽霊でも出るのか?」
「…それもある。近頃、オカルトマニアの間じゃ『心霊スポット』として有名なんだとよ」
電話がかかってきたときは、宗教の勧誘かと思って身構えたが、むしろそれよりも悪質な勧誘だった。
「行こうぜ、D。どうせ休日は暇だろ?」
「……」
「…どうした?大丈夫か?」
「今調べてる」
ケータイを左手に持ち、余った右手で「裏野ドリームランド」とパソコンの検索窓に打ち込む。
出てきたのは、ありきたりな心霊体験の話。「アクアツアーの怪物」?「ドリームキャッスルの拷問部屋」?どれも非現実的で、信じられるものではない。
「それ、本当なのか?そういうモノって、でっち上げが8割だと思うんだが」
「知り合いのオカルトマニアが実際に行ったらしいぜ。んで、ある場所で、何か『進んではいけない』って本能的に感じたらしく」
「ふうん…」
まあ、どうせ行かなかったとしても、パソコンと向き合っているだけで休日は終わる。
そんな休日を過ごすのも、正直飽きていたところだ。
…行ってみようか。小さな好奇心が、僕の中で動き出した。
「…行こうかな、僕も」
「よし来た。場所はここからそう遠くないし、今から車でお前んとこに迎えに行くわ」
灰色の人生。少しの色が欲しくなった。
刺激が欲しくなった。
たとえ、それがどんな色でも良い、と思っていた。
「…随分と年季が入ってるな」
くだんの遊園地は、夜の闇に紛れてなかなか見つからなかった。明かり一つない山奥の、さびれた遊園地なのだから当たり前だ。
入場ゲートをくぐる。廃墟とはこういうモノなのかと、身をもって知った。
「こういうの、テンション上がるよな!」
「…そうなのか?」
廃墟好きには、たまらないものがあるのだろう。僕には分からないが。
真夜中で、月の光もない園内。懐中電灯を照らして、順番に噂の元を探っていくことになった。
アクアツアー、問題なし。ミラーハウス、異常なし。ドリームキャッスル、荒れ果て過ぎて入れなかった。観覧車も、ピクリともしていなかった。
「なんだよ、つまらないなぁ」
「…ほんとに何かあるのか?」
期待した結果がこれだ。この世界では、何か行動をしても、何も変わらない。
何の色もない真っ暗闇を、歩き回るだけなのだ。
「これじゃあ、来た意味がないじゃんか」
「全く…なら誘うなよK」
その時だった、急に目の前が明るくなったのは。
メリーゴーランド。回転木馬ともいわれるそのアトラクションが、色とりどりの光を放ってそこにあった。
「…!」
目がくらむ。そこから視線を逸らしKを見ると、何故か、彼はその場に膝をついてしまっている。ものすごい冷や汗だ。
「おい…これ、ヤバいんじゃないのか…!?」
ここまで恐ろしがっているKは初めて見た。
しかし、僕は別のものを感じていた。
(…乗ってみたい…!)
目の前で輝いているそのドームが、何だか自分を呼んでいるような気がした。
その衝動に耐えられず、僕は歩き出してしまっている。
「おい…それ以上行くとまずいぞ…!」
「何言ってるんだK、ただのメリーゴーランドだろ」
その「ただの」物に、無性にひかれている自分がいる。自分でもなぜか分からない。
でも…。
柵を乗り越え、カラフルな木馬の一匹に飛び乗る。しばらくして、それは勝手に動き出した。
ゆっくりと上下し回転するそれ。単純でつまらない動きだ。だが。
(……!)
頭がぼーっとしていく。意識が遠のいて、眠くなるような感じがする。
閉じてしまっていた目をうっすらと開くと、目の前にはカラフルな世界が広がっている。
(…これは、僕が求めていた「色」…?)
なんだか、胸が切なくなってくる。意識はどんどんまどろんでいく。
(…幸せって、こういうモノなのか…?)
それは確信に変わっていく。ああ、もう何も考えられない。
色とりどりの光に包まれているのが、とても心地よくてたまらなかった。
ああ、幸せだ…。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
幸せ…。
…目が覚めると、目の前には白い天井が。
「大丈夫かD…!おまえ、三日間もあそこで回ってたんだぞ…!?」
心配するKの声が聞こえる。正直うるさかったが、おかげで次第に意識が鮮明になっていき、ベッドから起き上がることが出来た。
ここは、病院だろうか…。僕の腕には、点滴がつながれていた。
「だいぶ衰弱してたんだぞ、お前…!」
「…?」
「お前は放心状態で、あの木馬にまたがってた。俺が引きはがそうとしても抵抗するし…」
ひどく慌てた様子で、彼は続けた。
「俺が救急車を呼ばなきゃ、間違いなくお前は死んでたんだ!あれはヤバい代物だったんだよ…」
「あ、ああ…」
リハビリ生活も終わったころ、一週間が過ぎていた。
退院して、僕は元の生活に戻る。
灰色の生活。
灰色の人生。
前と変わらない、代わり映えの無い生活。
だが、僕はあの日の事で頭がいっぱいで、何も手に付かない。
色とりどりの光。カラフルな世界。いまいるこの世界とは大違いだ。
(あの幸せを…もう一度…)
昼も夜も、頭にこびりついて離れない。
ある夜、僕は自転車を走らせ、あの遊園地へと向かった。
生活に支障が出るほど、あの幸福を求めていたのだ。しばらくぶりに戻ってきた遊園地は、何故かとてもきらびやかに見えた。
(そういえば、最近ドリームランドの話を聞くことが多くなったような…)
でも、そんなことに違和感を感じることは無かった。
一歩足を進めるごとに、期待が胸の中からあふれ出す。
頭の中には、「もう一度乗ったら、死んでしまうのではないか?」という恐怖は無かった。
むしろ死ぬなら死んでしまえ。そう思い始めていた。
(あの灰色の中で死ぬのは、まっぴらごめんだ)
そして僕は、また「そこ」にたどり着いた。鮮やかな光が僕に手招きしている。
「あああああ!」
気づかないうちに、喜びの叫びが漏れ出していた。
走りだす僕。
走る。走る。柵を越える。
飛び乗る。回り始める。
もう、何の迷いもなかった。
手を伸ばし、馬の背に伸びるバーを掴む。
乗り込んだ僕は、木馬の背に体を預けた。
(ああ…ああ…!)
言いようのない幸福感に包まれていく僕。
幻想的で幸せな世界へ。
幸せは廻る。
幸せは廻る。
幸せは廻る。
廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。
廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。
廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。
廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。
廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。
廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。
廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。
廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。
廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。
廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。廻る。幸せ。
「幸せ……」
…いかがだったでしょうか(*'▽')
怖がってくださったでしょうか?
「モノ」に依存していくという恐怖を描いてみました。
正直、作者自身書いてる間冷や汗書きっぱなしで、マジでビビってたんですけどね…w
さて、気づかれた方もいるとは思いますが、この小説はSCPを意識して書かれています!
海外初の都市伝説創作サイトで、こわ面白いモノがたくさんあるので、ぜひ調べてみてはいかがでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございます。もしよろしければ感想よろしくお願いしますm(_ _)m