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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
四章:復讐と裏切り
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悪魔の如き者達



 パリス少年の所に戻ると、マーリンちゃんの言う通りになりました。


「なんか変な音が聞こえるんだ!」


「どんな音だ?」


「えっと……何か、人の声みたいにも聞こえるけど、ずっと聞こえてるんだ」


 エレインさんと一緒に待っているうちにパリス少年が捉えた音のようです。


 パリス少年はその正体が正確にはわからないらしく、焦れったそうにしつつ、「マーリンならオレ様よりずっとよくわかるだろ?」と聞きました。


「いや、ボクにはよく聞こえないかな?」


「えぇー……となると、オレ様の聞き間違えか……」


「ボクも完璧じゃないから、念のため探してみようよ。どこから聞こえてきた?」


「ホントに人がいて、助けを呼んでてもいけないからな。探そう探そう」


 ニコリと微笑んだマーリンちゃんとレムスに促され、パリス少年が耳をそばだて、音の魔術による集音索敵を全開で起動しました。


 すると、ちょうど「謎の音」が聞こえてきたところだったらしく、聞こえてきた方向を元気よく指差しました。



「あっちだ! さっきより音が大きくなってる」


「そうか、行ってみるか」


「それに、やっぱコレ、人の声だ。たすけてくれって聞こえる」


「そりゃ助けないとなぁ」


 レムスさん達の態度に、パリス少年は少しだけおかしなものを感じました。


 感じつつも、それがどういう事なのかはわからなかった事もあり、直ぐに音が聞こえてきた方向に向かう事に夢中になりました。


 パリス少年の先導で、一行は少しだけ郊外奥地へと歩みを進めました。


 進めば進むほどよく聞こえてくるらしく、パリス少年はさっさと進みがち。レムスさんは少年をつまみ上げ、肩に乗せました。


「こらこら、危ないから先行くな」


「でもやっぱこれ、人が助け呼んでるよ! 早く行かなきゃヤバイかも……」


「じゃあ、どっち行くか指図してくれ。俺が馬になってやろう」


 セタンタ君達は士族長家の青年の言葉に「豪華な馬だなぁ」とは思いつつも、パリス少年を先行させるのは危険だと判断し、レムスさんに任せました。



 やがて、一行は洞窟に辿り着きました。


 そこまで来ると索敵が苦手なガラハッド君でも「確かに人の声のようなものが……」と判断出来るぐらい、音が聞こえてきました。


「この中にいるのか、パリス?」


「きっとそうだ! おおい! 助けにきたぞ!」


 パリス少年という御者に促されたレムスさんは仲間を引き連れ、洞窟の中へと歩みを進めていきました。


 音を聞くのに夢中のパリス少年が気付いていない事はいくつかありました。


 手近なところだと、例えばレムスさんやセタンタ君がそっと各々の得物に手を添え、いつでも振るえるようにしている事には気づきませんでした。


 そして、最後尾を歩いていたエレインさんとマーリンちゃんが洞窟に入った後、手旗信号で示し合わせ、ふっと姿を消した事にも気づきませんでした。


 パリス少年、レムスさん、ガラハッド君、セタンタ君は洞窟の奥へ進みました。


 そして、暗闇の中で蹲る人影に気づきました。


『う、う……いたい、いたいよ……たすけて……だれか……』


「お前、大丈夫か!? 助けに来たぞ!」


 パリス少年は元気に人影に声をかけました。


 しかし、人影は何の反応も示しませんでした。


 闇の中にうずくまり、頭に生えた羊のような角を震わせています。


「怪我してるのか? 大丈夫だ、オレ様達が助けてやるからな!」


「手当を――」


『ありがト、オッ!』


 人影は、突如パリス少年達に向けて飛びかかってきました。


 ガラハッド君は演技に騙され、思わず手当のために歩み出ようとしていました。


 一方、レムスさんは足を無造作に突き出していました。


 地面の小石を蹴るように、飛んできた人影に蹴り飛ばしていました。


「んなっ!? レムスさん何を――」


「まあ見てな。手早く済ませるぞ」


「了解」


 闇の中、二つの白刃が煌めきました。


 一つはレムスさんが抜き放った剣の刃。


 もう一つはセタンタ君がくるり、と奮った愛用のミスリル槍の刃。


 二つの刃は――横合いから飛び出てきた別の人影を通過し――空気と共に、人間のような物体を真っ二つにしてしまいました。



「う、うわあああ! 二人が、ひ、人殺しを……」


「いや、単なる魔物殺しだ」


「魔物……えっ?」


「直ぐに灰になるぞ。パリスもガラハッドも見とけ」


 セタンタ君がパチン、と指を鳴らしました。


 すると中空に魔術の灯りが灯り、洞窟内と人影らしきものを照らしました。


 灯りの下、切断された人影らしきものの醜悪な顔――人型なれども人間とは言い難い頭に角の生えたしわくちゃの顔――が浮かび、消えていきました。


 人型から、同質量の灰へと変わったのです。


「な、なんだぁ……?」


「魔物の一種だ」


悪魔デーモンっていう、魔物の中で一番、たちが悪い奴らさ」


 セタンタ君が悪魔まものの灰を蹴り飛ばしました。


「他の魔物みたいに人間を襲ってくるんだが……コイツらは面倒な手を使うんだよ」


「さっきみたいに、人間の声に偽装して獲物を誘き寄せたりな。罠を仕掛けてきたり、静かに不意打ちしてきたりするんだ。まるで人間みたいにな」


「オレ様は、まんまと騙されたって事か……」


 パリス少年は悔しげに顔を歪めました。


 歪めましたが、セタンタ君達があまりにも即応で――伏兵の悪魔にも気づき――ずんばらりん、と魔物を斬って捨てた事におかしさを感じました。



「あ、さてはお前ら、ホントは魔物の声って気づいてたな!」


「うん」


「マーリンちゃんが最初に教えてくれてたからなぁ」


「くそぅ、皆してオレ様を騙しやがってー!」


「一応、私も騙されたんだが……」


「駆け出し二人には良い教材になると思ったのさ」


「実際に少しだけ痛い目みれば、覚えやすいだろ?」


「むっ……なるほど……なるほどなー」


 パリス少年はムッとしつつも、「それも道理だ」と考え、レムスさん達に「ありがとう」とお礼を伝えました。


「悪魔、やばそうなヤツだ」


「実際ヤバイぞ。こっちの存在に感づいてても直ぐには仕掛けてこずに、他の魔物と戦ってるとこから平気で横槍入れてくるって事もするからな」


「いやらしいな」


「あと、いま見てもらった通り、悪魔は死んだら必ず灰になる」


「これがまたホント、価値の無い灰でなぁ。死体が有効活用できねーんだわ」


「人間に似ていたから、生理的に活用したくない気がするが……どっちにしろ、面倒な特性だ。冒険者が駆除する動機が乏しくなりそうだから……」


 ガラハッド君が顔をしかめつつ、洞窟内に転がった灰を足で弄びました。


 元は悪魔の身体を形作っていたとはいえ、いまはただの灰です。


 何か特別な力を発揮できる媒体になるという事もなく、金属に混ぜれば硬度が増すという事も無い、単なるゴミです。


 アルコンですら羽という旨味はあるのに、悪魔の身体はそれが皆無。


 それがガラハッド君の言う通り、「駆除する動機の欠如」に繋がってくる事に関しては冒険者ギルドの方でも危険視しており、それはそれで工夫をしています。



「悪魔はギルドも警戒してるから、討伐報酬も他よりちょい多めなんだ。上位種の悪魔になると常に高額の報奨金が設定されてたりな」


「今の最高額は……ペイルライダーの1兆だったかなぁ」


「桁がおかしい」


「そんだけ厄介な相手なんだ」


「でも、灰しか取れねえって事は討伐の証を立てるのも難しそうだ」


「そこなんだよな。生け捕りも一つの手だが、討伐後しばらく目撃情報無ければ討伐扱いになる事もある」


「上位種は誰が狩ったか、わかるようにはなってるんだけどな」


「ふーん」


「つーわけで、今日遭遇した悪魔も一匹生け捕りにしておこう」


 生け捕りなら討伐の証も立てられるでしょう。


 ギルドから貰える――貰えるかもしれない――報酬に関してはパリス少年とガラハッド君で山分けしろ、とレムスさんは言いました。


 二人は突然の臨時報酬の予感にちょっとそわそわ。


 早速、「うわ、何に使おう」「母さんに贈り物をしようかな」と使い道に関して浮足立ちつつ、考え始めました。


「必ず貰えるわけじゃないぞ? 今日狩った奴らは弱いヤツだからなぁ」


「帰るまでワクワクだ。……ん? でも、どいつ生け捕りにするんだ?」


「俺が最初に蹴ったヤツがいるだろ? 手加減したから、アイツ連れていこう」


「そこで灰になってますが……」


「あれぇぇぇぇ!? ホントだあああああ!!」


 打ちどころが悪かったようです。


 最初に飛びかかってきた悪魔は、いま、サラサラと灰になっちゃいました。


 レムスさんはそれを足蹴にしつつ、「根性ないヤツめ!」「おっきして! おっきしてよぅ」と怒りましたが……ただの屍のようです。



「なんかごめん」


「良いですよ、別に」


「そもそもレムスさんとセタンタが倒したヤツだもんな」


「お前らの優しさが目に効く」


「ご安心を、ちゃんとこちらで確保してきましたよ」


 そう言い、やってきたのはエレインさん――とマーリンちゃんでした。


 途中で一行から離れ、洞窟の入り口の影に潜んでいた二人はレムスさん達を包囲すべく、隠れ潜んでいた悪魔を引っ捕らえてきたようです。


 その数、3匹。


 さすがにこれだけの数を一度に捕まえてきたとあっては冒険者ギルドも報酬を出さないわけにはいかないでしょう。


 それだけ、悪魔とは厄介な魔物なのです。


 質の悪さでは人間並み、です。



『ヒニソフクョエヤハ!』


『フクョエニハヒサッツデヒ?』


『イイイイイ! エミケウッチナカヤッチハヌ! ケタゲーセギアダワ!』


『チスキヌ。チダハNPCヌストヒテラセギダラノ』


『ザサジャニケト、ノーメドダッチハキヤニ』


『ドエデヤウウキリ、ヒニスユガロ! サワシソワ!』


「コイツら、何か喋ってね?」


「鳴き声だろ?」


「その通り、鳴き声ですよ」



 レムスさんはあっけらかんと言い、エレインさんは――僅かに無理に断定する響きを含みつつ――気にかけなくていいと言いました。


 人間の声に偽装してそれっぽく喋る事が出来る個体は一匹しかいなかったのか、エレインさん達が捕まえた悪魔はキィキィと高音で喚くだけでした。


 あまりにもうるさいので、口らしき器官に即席のさるぐつわをはめ、念のためロープでさらにキツく縛って簀巻にし、レムスさんが持って帰る事にしました。



「さーて、依頼も終わったし帰るとするか」


「あ……ちょっと待って」


 洞窟を出た一行の中で、マーリンちゃんが立ち止まって遠くを見ました。


 視線だけではなく、索敵魔術を行使して観測したい地点の事をよく注視し――状況を確かめ――悩ましげに息をもらしました。


「むぅ……」


「その反応は面倒事かな?」


「その通り。なんと! パリスとガラハッドをからかってた冒険者達がね? 向こうで、こう……バタバタと死んでいってまーす」


 マーリンちゃんは「見物にでも行く?」と付け加えました。


 一連の言葉に対し、セタンタ君はレムスさんと顔を見合わせました。




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