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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
四章:復讐と裏切り
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愛さなければ愛されない



 鷹の魔物、アルコンの巣を壊しに来たレムスさんと愉快な仲間達。


 一行は昼休憩中に別の冒険者パーティーに――ガラハッド君とパリス少年の同級生達が寄り集まったパーティーに遭遇しました。


 郊外で冒険者達が顔を合わせれば、おおむね和やかに接触が終わります。


 お互いに仕事で来ている事もあり――都市郊外は一種の治外法権という事もあり――オラオラ! と他の冒険者達にちょっかいを出すと、後で密かにしっぺ返しを食う可能性すらあります。


 よくあるのが軽く挨拶を交わす程度。


 休憩中なら一緒に食べつつ、お互いに持ちつ持たれつで休憩中の索敵や魔物の対処を分担し合うのがマナーと言われる事もあります。


 が、声をかけてきた若き冒険者達はどちらでも無いようです。


 ズカズカとガラハッド君達に近づいてきて、笑いつつ声をかけ、ちょっかいを出して二人に腕を振り払われています。


 さすがに見かねたセタンタ君とレムスさんが割って入りました。


「なんだテメエら、物見遊山にでも来たのか?」


「違いますよオジさん」


「何だとコラ。俺はまだオッサンって年じゃねえぞ」


「というか、パリス達なんかを連れてきてる方が物見遊山でしょ?」


「違いない」


 ハハハ、と冒険者達が笑い、その中から一人の少女が歩み出てきました。


 マーリンちゃんと同じぐらいの背丈で、同じく獣人の少女です。


 ただ、猫系獣人のマーリンちゃんと違い、獣の耳は持っておらず――代わりにちょっと重そうな羊の角――羊角ようかくを持つ羊系獣人の少女でした。


「失礼、オジ様。わたくしから一つ忠告をさせて頂いてよろしいかしら?」


「はい、どうぞ」


「おい、レムスの兄ちゃん、オッサン呼ばわりなんだから怒れよ」


「セタンタ……俺は可愛い女の子に弱いのだ」


 レムスさんは真面目くさった顔つきで対峙している女の子を見ました。


 特に胸部に視線を注ぎました。背丈は小さな少女でしたが、その胸部はとても豊かで一つ一つが少女の頭並みの大きさでした。


「あと、おっぱいにも弱い」


「くそっ、場の女子度が下がってさえいなければ……」


「そういう問題なのか?」


「忠告させて頂いてよろしいかしら?」


「あ、はい、どうぞどうぞ。つーかお嬢さんのお名前も聞きたいなぁ、俺」


「アイアース、と申します」


 少女はたおやかに微笑みました。


 レムスさんも女の子にデレデレのあまり、ニコニコです。


「アイちゃんね。よろしく。で、忠告って言うのは?」


「見たところ、まあ熟練冒険者ぐらいの実力はお持ちのオジ様のようですけど、組む相手はよく考えられた方がいいと思いますわ」


「うん? どういう事かな?」


「そこの貧乏人二人……パリスとガラハッドの事です。二人共最近冒険者を始めたニワカ者のようでして、冒険者をやれるほど強くはありませんの」


「ほー」


「そして、それを補えるほどお金を持っているわけでもない貧乏人。パーティーを組んでいたところで得るものは何もありません」


「なるほどな。アイちゃん、ちょっといいか?」


「ですので、即刻彼らを放り出す事をオススメしますわ。甘やかしたところで誰も得をしません。寄生虫のようにまとわりつかれる前に、追放を――」


「うん、もういいぞ、アイちゃん」


 レムスさんはニコニコ笑っていました。


 ニコニコ笑ったまま、アイアースちゃんの口と口を「むんず」と片手で無造作に掴み、小さな身体を宙吊りにしてリンゴの握りつぶすように手に力を込めました。


「ひきゅっ!? ひきゅきゅきゅきゅ?!」


「可愛いからって調子に乗るなよ、メスガキ」


 レムスさんはニコニコと笑っています。


 アイアースちゃんは頬骨を砕く勢いで込められていく力に抵抗すべく、真っ青になって身体強化魔術を起動し、レムスさんの腕を全力で掴みました。


 掴みましたが、無意味でした。


 地力が何もかも段違いだったのです。



「俺からも忠告しといてやるよ。一時雇用中とはいえ、パリスもガラハッドも俺の仲間ダチだ。仲間を不当に悪く言われたら気分悪くなるのが人間だ」


 わかるな? とレムスさんが穏やかに問いかけました。


 アイアースちゃんの仲間達は突然の事に浮足立っていましたが、口々に罵倒の言葉を吐きつつ、各々の武器を抜き放ちました。


 抜き放ちましたが――人狼化するまでもなく――狼系獣人の青年の存在感、威圧感に気圧され、抜き放った後の動作に移る事が出来ませんでした。


「アイちゃんは可愛くておっぱい大きいから、今から可愛い顔が可愛くなくなるぐらいで済ませてあげるけどな」


「んーっ! んーっ!?」


「お前が男だったら先にブン殴ってるわ……ごめんな? 俺、兄者ほど人間がデキてない馬鹿だからよぅ……キレる時は先に手が出ちゃうんだわ」


 レムスさんはニコニコ笑いながら、少女を地面に下ろしてました。


 少女の顔には指の痕が青あざが出来たように残っていましたが、レムスさんは「悪い悪い、治癒魔術で何とかしな?」と言って笑いました。


「こっこっ! こんな事して! 許されると思ってるんですの?」


「まあ、これぐらいならギルドからは口頭で両成敗って感じだろうな。兄者は頭良いから、喧嘩っ早い俺に『どのぐらいなら喧嘩していいか』を教えてくれてるんだ。兄者の慧眼には痛み入るぜ」


「わ、わた……わたくしが誰だかご存知ですの!?」


「アイちゃんはアイちゃんだろ? あとは羊系獣人となると、タルタロス士族の中にそういう一派がいたよなぁ、って覚えはあるぐらいかな?」


「そう! そうでしゅのよ!? わたくし、バッカス王国最強! 最強士族! タルタロス士族に属する家柄の者なのですのよ!?」


「それが?」


「た……タルタロス士族なのですのよ?」


「自分の喧嘩に士族おや持ち出して満足か? ハハハ」


「…………!」


 鼻で笑われた少女は顔を真っ赤にして地団駄を踏み、怒りながら「行きますわよ!」と他の子達を先導して出ていきました。


 少女の仲間達は浮足立ちつつも、仁王立ちして見送るレムスさんとは視線を合わせたくないらしく、パリス少年達に向けて捨て台詞を吐いていきました。


「せ、せいぜい上手く寄生するんだな!」


「俺達は今から火竜狩りだ! お前らは逆立ちしても出来ねえだろうよ!」


「お前なんかメドがいたら瞬殺なんだからな!!」


「おう、お前らいま最高にカッコついてねえぜ。ハハハハ!」


 レムスさん大笑い。


 わらわらとアイアースちゃんと仲間達が逃げていった後、エレインさんとマーリンちゃんが首を傾げながら入れ替わりに戻ってきました。


 戻ってきて、何があったのかを聞いてきました。



「いやね、エレインさん。あのガキ共がこの二人をからかいに来たんですよぅ」


「レムスの兄ちゃんが撃退したんだけど、一人顔面に青あざ作られてさ」


「あら、それはそれは。若殿は喧嘩っ早いですね」


「へへ! まあ、ホントは青あざつくまで握りしめちゃあいないんだけどな」


 レムスさんが手をパッと開くと、そこには青い粉がありました。


 どうも顔面掴んだところでそれをつけ、青あざが出来たように周囲に錯覚させたようです。アイアースちゃんが頬に手を当てれば直ぐにわかる小細工ですが、動揺した少年少女達を追いやるには十分な効果だったようです。


 種明かしをしたレムスさんは愉快そうに笑っています。


 が、パリス少年とガラハッド君はちょっと申し訳なさそうにしていました。


「なんかゴメン、俺らの所為で」


「大した事ねえよ」


「でも、向こうはアレでもタルタロス士族の一員ですよ」


 ガラハッド君が眉根を寄せつつ、「確か彼女はその中でもそこそこの家柄だったはずです」と呟きました。


 反面、レムスさんは平気そうに肩をすくめました。


「タルタロスは確かにヤベえけど、あれぐらいの小競り合いはあるとこではあるもんさ。一々取り合っちゃらんねえから、何かあっても適当に手打ちだろ」


「その後が面倒なような気が……タルタロスってバッカス最強の士族ですし」


「最強はカンピドリオ士族だ。最強はカンピドリオ士族だぜ!」


 レムスさんはそこはとても拘りました。


「何かあったら俺の所為にしろ。まー、似たような事は何度かした事あるけど、親に泣きついたとこで、あそこの士族なら身内の恥で終わる話さ」


 レムスさんは「ちょっとやりすぎたか」と仲間の二人に対して悪びれつつ、「親族に関しても心配するこたぁねえと」と二人を安堵させようとしました。


 エレインさんはまだ首を捻っていましたが、やがてポン、と手を叩きました。



「あ、先ほどの子達、どこかで見た覚えがあると思ったら……アレです」


「何です?」


「先日、ウチの店で真面目に働いてたパリス君にちょっかい出してきて、営業妨害してきたのでムカッと来たので土に還した子達です」


「俺よりスゴイ事してない?」


「若殿、私は常識と法律に縛られない女なのです」


「やっぱエレインさんはスゲえよ……」


「ヤベえよの間違いだよね」


 マーリンちゃんは嘆息しつつ、「ハハハ」「フフフ」と笑う青年とエルフのお姉さんからそっと目を逸しました。


 セタンタ君はセタンタ君で、別の事を気にしていました。


「さっきのヤツら、パリスとガラハッドによくちょっかい出してくるのか」


「うーん……冒険者なってからは、そうかも」


「そっか……さっきは悪かった」


「は? 何だよ突然、謝ってきて」


 パリス少年は申し訳なさそうにしたセタンタ君を訝しみました。


 セタンタ君は首を掻きつつ、「レムスの兄ちゃんみたいにパッと庇ってやれなかった事だよ」と言いましたが、その言葉にパリス少年はむくれました。


「いいよ、別に自分の事だし。今度は自分で言い返してみせらあ」


「口だけで済まなさそうなら言えよ。たまにあるんだ、そういう事件」


「平気だ。余裕だ。お前はこの後の事を気にして頑張れ」


「おう」


「オレ様はエレインさんと大人しく待ってる。今回は待ってるけど、そのうちガラハッドみたいに前に出れるようになってみせるぜ」


「おう、こっちはそれを待ってるよ」


 少年達のやり取りを見たレムスさんは、今度こそ心からニコニコと笑いました。


 笑って、訓示を与えました。


「お前らは大丈夫だと思うが、さっきのヤツラみたいにはなるなよ」


「はい……気をつけます」


「へーい」


「はーい」


「人間、誰しもケンカ売られると気分悪くなるもんだ。色んなヤツと仲良くやっていく事は良い事だから、色んなヤツに礼節を持って接すると後で得するぞ」


「愛さなければ愛されない、ってやつだね」


「マーリンちゃん良いこと言った! カワイイ子は言う事も一味違うな!」


「えへっ、褒めても何も出ないよ~。人の受け売りだけどね」


 休憩中だと言うのに、ちょっと心が安らがない出来事があったものの、場の雰囲気が少しだけ和やかなものに。


 一行はお腹がこなれてきた頃合いを見計らい、依頼のために動き始めました。

 




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