冒険者クラン設立
レムスさんがセタンタ君のところから出ていった翌々日。
セタンタ君とマーリンちゃんは改めてお礼として、ちょっと高めのお昼ごはんを奢ってもらった後、「好きなものを買ってやる」と言われ、商店を巡りました。
巡った結果、セタンタ君は解体用のナイフを二本、マーリンちゃんはフライパンを買ってもらったようです。
「欲の無い奴らだなぁ。もっと良いもんねだってくれればいいのに」
「大した事してないし、これで十分過ぎる」
「中古だったからちょうど欲しかったの。レムスさん、ありがとー」
「おうおう、良いって事よ。あ、そうだ、クランの事務所借りたから寄ってけや」
「もう事務所まで借りたの?」
「早くね?」
「へへ、まずは形からってな」
レムスさんは自分の新しい「城」を人に見せたいらしく、上機嫌で二人を先導していきました。昨日のうちに物件を探し、手早く契約したようです。
「首都7丁目に良い物件があって、速攻で契約よ!」
「もっとじっくり見比べなくて良かったの?」
「家賃、高くなかった?」
「いや、マジで良い感じなんだぜ? 一階が事務所で二階に住居あるから家と事務所の両取り出来るし、家賃も表通り沿いじゃねえからそう高くねえよ」
「へー。月おいくら?」
「5万」
「安っ……! そんな大きくない物件なの?」
「いやぁ、フツーの戸建てぐらいの大きさはあるぜ? 何でも夫婦で小さな商会経営しつつ暮らしてたらしいんだが、男の方が浮気して、浮気相手の女が乗り込んできて、妻と浮気相手がガチで使う殺し合いをして、間に挟まれた男がミンチになって、残った二人も共倒れで死んだんだと!」
「それってさぁ……」
「事故物件って言うんじゃね……?」
「ハハッ、安心しろ。全員、蘇生魔術で生き返らせたところ、また元気に殺し合い始めて旦那はミンチになって、最後は妻と浮気相手が引っ付いたらしい」
でも家の中にベッタリと血痕とか肉片が飛んでたんでしょう? とマーリンちゃん達は思ったものの、本人が平気そうに笑っているのでそっとしておきました。
そんな会話をしているうちに事務所前に到着。
敷地いっぱいに建てられているので庭等はついていませんが、外から見ると中々悪くない二階建ての物件でした。
痴情のもつれの話を聞かなければセタンタ君達も「わっ、ステキ……」と手放しに褒めれたでしょう。
「どうだ? いい感じだろ?」
「うん、いいんじゃないかな……?」
「マーリン、どっかの隙間に肉片あったら探して取り除いてやれよ」
「い、嫌すぎる」
「細かい事を気にする奴らめ。聞け、実はここの売りは他にもあるんだぞ」
「まことに~?」
「フッ、聞いて驚け……実は、隣の家に絶世の美女が住んでいるらしい」
「「絶世の美女」」
セタンタ君達はその隣の家を見ました。
見ましたがカーテンが締め切られている普通の家にしか見えません。
当然、その絶世の美女らしき人物の影さえ見えませんでした。
「絶世の美女が何でこんなとこに住んでるの?」
「それは知らん! アレだ、絶世の美女過ぎて世を偲んで静かに暮らしてるんだろ……お近づきになって一発ヤらしてもらえたらな~って思わないか?」
「本当に絶世の美女だったら、まあ」
「男性二人に残念なお知らせ。いま観測魔術で視たらさぁ……その隣の家からスゴい禍々しく、毒々しい魔力が放出されてるんだよね……。家の中がぐんにゃりと歪んで、様子がまったくわからないぐらい。死にたければ訪ねるといいよ」
「まったまたー、マーリンちゃんは冗談が下手だな?」
「冗談じゃないよ!? わりとマジでヤバイんだよ! どんぐらいヤバイかと言うと、放っておくと首都が壊滅しかねないぐらいの禍々しさなんだよ」
「まだ絶世の美女が住んでる方が信じれるぞ」
男性陣はマーリンちゃんの言葉を話半分に聞き、事務所へと入っていきました。
マーリンちゃんは頬を「むぷぅ」と膨らませていましたが、「いいよいいよ、別にボクがここ住むわけじゃないしっ」とプリプリしつつも二人の後に続きました。
事務所の中は家賃が安いわりにはとても立派なものでした。
カランコロンと入り口の扉につけられた鐘を鳴らしながら立ち入ると、観葉植物や革張りのソファ、木製の机が置かれた室内の様子が飛び込んできました。
他にもそれらを取り囲むように、揃いの基調の棚も壁際に並べられている内装は、探偵事務所のように見えます。
昨日借りたばかりにしては整っている事務所内の様子を見て、思わずセタンタ君達は感嘆の声をもらしました。
「すげえなぁ、一日でこれだけ買い揃えるなんて」
「いや、家具も付いてきたんだ。前の住民が残していったもんだよ。こっちでした事といったら、多少残ってた血痕を拭いたぐらいでな」
レムスさんは「良い買い物だったぜ」と言って笑いました。
セタンタ君達は何とも言い難そうに黙り込みつつ、慎重にソファに座り、部屋の中を見回しつつレムスさんがお茶を入れてきてくれるのを待ちました。
「あ、見て、あそこの机。アンニアちゃんの名札が置いてる」
「ご満悦の笑顔で自分の机確保した光景が目に浮かぶな……」
アンニアちゃんの遊び道具や絵本が置かれていたり、仕事をしている風に見せるためのノートなども置かれているようです。
他にもレムスさんのものと思しき机もありましたが、兄妹以外の人が事務所を使っている様子はありませんでした。
「士族の若手がレムスさんについていきた~い、って言ってたんじゃ?」
「なんか選抜のために殺し合いしてたんだよな」
「あー、あれなら断って解散させてきた」
カチャカチャと茶器を鳴らしつつやってきたレムスさんが答えました。
一昨日、止めにいった時点でよく話し合って収めてきたそうです。
「クラン作るなら仲間集めなきゃいけないのに、断ってきたの?」
「カンピドリオ士族の人達なら、戦力としては十分過ぎるほどなのに」
「いや、よく考えたら俺の事情に付き合わせるのもなーと思って」
それこそお兄さんと同じく自分の人生を大事にしてほしいからこそ、断って「お前らはお前らで好きにやれ」と言ってきたそうです。
「んで、アンニアと二人だけの冒険者クランを立ち上げたんだよ」
「アンニアちゃん、未成年で冒険者なれないから実質一人じゃん」
「寂しい……何か可哀想な人みたいな事やってんなぁ」
「んだとぉ? 俺はこう見えてもちゃんと考えてそうしたんだぞ」
「まことに~?」
「おう。冒険者として動けるのは俺だけだが、状況に応じて人を雇うんだ」
正社員一人、あとは皆さん派遣で会社運営する感じですね。
冒険者クランの場合、一応は出来ない事も無いです。
構成員の多い大手クランでも依頼の規模に応じて外部のクランを下請けとして雇うという事は多々あります。お一人様クランも他に存在しています。
人脈が無いとちゃんとした仲間を集めるのは難しい方法ですが、転移ゲートを通じて世界各地を転戦してきたレムスさんはそこそこ顔が広く、武勇でも一目置かれる強さを持っているため、頑張れば何とかお一人様でもやっていけるでしょう。
人集める以外にも色々と苦労はあるのですけどね。
「お前らも良かったら付き合ってくれよな。報酬は弾むぜ」
「う、うん……とりあえず最初は日帰りの冒険がいいんじゃないかな?」
「市壁の周りをぐるぐる周って、昼飯は都市内で食べれるようなやつとかさ」
「お前ら俺の総長としての資質を疑ってるだろ!?」
「疑いもするよ。事務仕事とかロムルスさんに丸投げしてきたんでしょ?」
「ウッ」
「遠征時の兵站管理とかレムスの兄ちゃんわかるのか……?」
「そ……それはこれから勉強していく! 勉強していけって兄者が言ったもん」
「もん、って……」
マーリンちゃんは苦笑しつつ、一つ質問しました。
「あ、そうそう。噂で聞いたんだけど、ロムルスさん城勤めになるってホント?」
「なにそれ知らない」
「レムスさんも知らなかったか。まあもう確定事項みたいだけどね」
「どういうお話……? 聞きたい……?」
レムスさんは女の子みたいなポーズをしてマーリンちゃんに近づきました。
マーリンちゃんはそっと後退しつつ、自分が聞いた話を語りました。
「ボクが聞いた話によると、ロムルスさん、政務官になるらしいよ」
「ええ~、うそ~、兄者、冒険者辞めちまうのか?」
政務官とはバッカス王国の公務員のような方々です。
王様の使者として政に関わっていき、他国や国内の組織との交渉の席に王様の名代としてつく事もあるエリート達です。官僚です。
職を拝命する倍率はかなり高いものの、ロムルスさんは既に試験はパスして内定している――という話をマーリンちゃんは聞いていました。
「冒険者稼業は休業するんだろうね。ひとまず、外回りの政務官として埒外士族の集落とか回ったりするから、郊外にいる事とかは多いんだろうけど」
「ふぇぇ……兄者が出世して、遠い人になってしまう……」
「次期士族長なのに城勤めするんだ」
「むしろ次期士族長だからかな? 箔付けのためにも政務官や騎士として城勤め出来るよう、努力させられる士族長家の嫡子って多いから」
「ここにいる黒狼のあんちゃんは?」
「馬鹿野郎、俺は頭の出来が悪いから政務官なんて難しいのダメだ! 性務なら多少は自信あるが、寝技より口の方が達者じゃなきゃダメなんだろ?」
「ダメだろうねぇ。まあ、レムスさんは騎士目指せばいいんじゃない?」
「あっ、そしたら兄者と一緒に仕事出来るのか……それもいいなぁ」
騎士の倍率は政務官よりもグッと高くなります。
必要となるのは政務官とは別の技能なので、レムスさんも頑張っていけばチャンスは十分にあるのですけどね。
「セタンタも俺と一緒に騎士目指そうぜ、騎士!」
「えー、騎士って魔物狩るの制限されるしなぁ……」
「バッカスの男の子がなりたい職業、冒険者抜いて1位だぞ、騎士は」
「面倒そうだしいいや。……あ、それよりさぁ」
「うん?」
「クランの名前、もう決めた?」
「ふふん……そこは任せろ、完璧だ」
「どんな名前?」
「白狼会だ!」
指定暴力団みたいな名前ですね。
ですがセタンタ君達は先日の砂上船――イカレムス号のような妙ちくりんな名前が来ると構えていたので、「意外と普通だった」と評価しました。
「名前もつけた、事務所も構えたとなると、近々初仕事?」
「おうよ! しかし、何すりゃいいのかな? テキトーに魔物狩ればいいよな? とりあえず竜種討伐の遠征部隊でも結成すっかな!」
「いやいやいや! 冒険しすぎ!」
「アレだ、砂漠であったティアマトでもしばきに行こうぜ」
「まだ見つかってないから見つけるとこからになるよ」
「えぇ? あの図体でまだ見つかってないのか? うーん……じゃあ、オー・メドックのタコ討伐がそろそろだから、白狼会でやっつけてきてやろうかな」
「だから冒険しすぎだって!」
セタンタ君は呆れ顔でレムスさんを止めました。
止めて、「もう少し身近なとこからコツコツやっていけば?」と言いました。
「冒険者としては腕利きでも、クランの総長として部隊仕切るのは初なんだからさ? もうちょっとこう、駆け出し冒険者でも出来るような仕事から……」
「うーん」
レムスさんは悩み、二人に説得されて考えを改めました。
ひとまずは手近なとこからコツコツと。
総長としての経験を初心者レベルから積んでいく事にしました。
「あ、そうだ。セタンタ、この間ウチの……カンピドリオ士族の修練場につれてきた二人がいただろ? ほら、お前と同じ年頃の……」
「パリスとガラハッドの事?」
「おう。アイツら誘って行けるぐらいのとこで一つ考えてみようかな」
レムスさんはそう言い、「先にギルドに依頼でも漁りにいってくるわ」と事務所を出ていこうとし、セタンタ君達も「心配だから」と後に続きました。




