兄の期待
「あっ! これ、そういや……家追い出される時に兄者が後で読めって」
「「…………」」
セタンタ君達はレムスさんのうっかりを信じられないものを見る目で見つめましたが、気を取り直して萎れた手紙を読む事になりました。
レムスさんも何を書かれているかわからないものの、お兄さんからの手紙となると少しだけ目に活力と期待が戻ってきたようです。
「じゃあ読むぜ」
「どうぞどうぞ」
「愚弟レムスへ。呆然自失といった状態で家を出て行くお前がこの手紙を読むのは一週間以上先の話になるだろう。記しているのは急を要するような話ではないので、落ち着いてゆっくりと読み進めなさい」
「先読みされてる」
「さ、さすが兄者だぜ……!」
「何で双子の兄弟でここまで思考回路違うんだろうネ」
「お黙りになって! えー……なになに? さて、先に書いておくがこの手紙にはお前を士族から一時的とはいえ追い出した事情を書いておく」
手紙にはこんな事が書かれていました。
曰く、双子として生まれてこの方、ちょっとばかし先に生まれた自分が後継者問題で揉めないよう、次期士族長として定められ、教育されてきた。
弟が全ての面で兄に優れていたところで、それは覆らないのが我らがカンピドリオ士族の決まりである。
だからこそなのか、お前は次期士族長の影として振る舞おうとしてきた。
自分が、我がまったく無かったわけではなく、お互いに喧嘩もしてきたがお前は大事な局面や戦場において私を立て、私の付属品として動いてきた。
それも使い捨ての付属品としての立場を「それで良し」と思い、納得しているような様子だった。お前や士族の視点からはそれでもいいのだろう。
だが、私は納得していない。
お前には自分の人生をもっと大事にしてほしいと思っている。
影あるいは付属品としての一生をお前が良しと思っているのは、それ以外の生き方をよく知らない事と、私の存在が原因だと私は考えている。
そう考えたがゆえに、少々乱暴な手段となったが士族の古い規律を掘り出し、親父殿もお祖父様もお前を精神的に自立させる方向で納得してもらい、爪磨の儀を口実にお前を遠ざけたわけである。
「ちなみにここに記している内容は、追い出す前日に口頭で説明したものだが、お前は上の空だったようなので書面に記しておくぞ――だってさ!」
「「だってさ、じゃない」」
「てへーっ! スマン、マジで上の空で聞いて無かった……」
「もういい。続けて」
「はい。ええっと、この機会に色んな事を経験し、今までに無い視点で見聞を広め、その上で自分の将来を決めなさい。遊び歩くのも、まあ良し。お前なら馬鹿はやるだろうが悪さはしないだろうから、そこは信頼しているって! 照れる」
「はいはい。でも、結構あやふやな指示だなぁ」
「それな。うん、わりと困る」
「でも、そこも含めて自分で考えろって話なのかな。趣旨としてはそこだし」
「うーん……」
「……って、まだ二枚目の手紙があるじゃん」
「あ、ホントだな」
レムスさんは二枚目の手紙を読み進めました。
「急に見聞広めろと言われても困るだろう。参考までに指針を示しておく。ただし、これに従わないのが望ましい。……冒険者稼業は続けるとして、そのうえで今までやってこなかった事、例えばクランの設立や運営をするのはどうだろうか」
「クランを作る? レムスさんが?」
「兄者の手紙にはそう書かれてるけど……うーん」
ロムルスさん曰く、レムスさんは今まで冒険者としての技能は収めてきたものの、それに関する裏方仕事は殆どやってこなかった。
来なかったからこそ、そういうのにも触れていくのはどうか、と提案しているようです。今までの経験も活きますからね。
「なるほどね。その辺を頑張れば、功績を上げれば良い爪磨の儀も早期に終わらせる事も出来るって事なのかな」
「レムスの兄ちゃんの事、放り出すだけじゃなくて心配してるわけだ」
「さすが兄者だぜ……俺の事を俺以上に考えてくれてたんだな」
「文末に『もちろん、お前が犬っころのようにベタベタと私についてくるのを暑苦しくてウザいな、と思っている理由もあるのだからな』って書いてるよ」
「そりゃアレだ! ツンデレってヤツだよ! 兄者は恥ずかしがり屋だな~!」
「無駄に前向きになりはじめたよこの人」
「納戸が臭くならないならもう俺はそれでいいよ」
「へへっ、しかし、俺に冒険者クラン運営なんか出来るかなぁ」
レムスさんは頭をひねりました。
冒険者稼業は今まで沢山やってきました。
戦う事なら大得意ですが、それ以外の事はあまり触れてこず――お兄さんに丸投げとかしちゃったりしつつ――門外漢だったのです。
それでもお兄さんに期待されていると考えたレムスさんは「やるだけやってみるかな」と思い直し、一つ一つ手をつけていく事にしました。
「冒険者クラン作るとなると、仲間を集めねえとな」
「だね」
「せっかくだ、お前ら入らねえか? ガッツリ稼がせてやるからよ!」
「「遠慮しておきます」」
「何でだよぅ、二人揃ってよぅ!」
レムスさんに問われたセタンタ君達は顔を見合わせ、曖昧な表情を浮かべながら返答しました。
「だって、なぁ?」
「うん……レムスさん、戦闘狂……もとい戦闘大好きっ子でしょう?」
「ああ、女の子と同じぐらい大好きだ」
「戦いっぱなしのクランとかキツそう……」
「カンピドリオの人狼さん達ならついていけるんだろうけど、俺ら常人なんで」
「んだよー、つれねえヤツらだなぁ」
「常勤じゃなくて、暇な時だけで参加で良ければ誘ってね」
マーリンちゃんに「セタンタもそれならいいでしょ?」と聞かれたセタンタ君は少し首をひねりつつ、「まあ、それぐらいなら」と言いました。
「でも、レムスの兄ちゃんの仕切りはちょっと怖いな……メシは全て現地調達とか言い出しそうだし……道端のもん何でも食いそうだし……」
「その辺の魔物、全部にケンカ売りそう」
「、お前ら俺の事そんな目で見てたのかよ!? そんな事はあるけど、くっそぅ、兄者みたいな完璧な冒険計画を練ってやるから、今に見てろよ!?」
「期待して待ってるよ」
「おう、期待して待ってろ。さて……今日から早速動くかな!」
「もう夜だよ。……ん? お客さんかな?」
マーリンちゃんが寮の外を見ると、ふわふわとした白い獣尻尾を揺らす幼女を先頭に子供達が「わああ~」と揃って走ってやってくるところでした。
ちびっこ達の来訪に目の色変えて出ていた寮母さんをセタンタ君が押さえ、マーリンちゃんとレムスさんは子供達を出迎えました。
「れむに~た~ん」
「わかしゃま~」
「バカしゃま~」
「おっ、アンニアと皆、どうしたんだ、晩メシ食ったのか?」
「んにっ、食べたよ?」
カンピドリオ士族の子供達がぞろぞろとやってきたようです。
10人、20人どころではなく後からゾロゾロとやってきています。
「わかさま、ボクたちも仲間にいーれて?」
「ぼくもつめとぎする~!」
「若様といっしょに、りっぱな戦士になりゅんだ」
「若様つれてって~」
「は、話が見えん」
レムスさんは首を捻りつつ、キャイキャイはしゃぐ子供達に事情を聞きました。
どうもレムスさんが爪磨の儀で士族を出て以降、「若様と一緒に冒険するんだ~!」とテンション上がった子供達がレムスさんを探し求めていたようです。
日頃からよく遊んでくれて、戦士としての心構えや技術を教えてくれる「近所の気のいいあんちゃん」みたいなレムスさんを慕ってやってきたようですね。
レムスさんはそれに相好崩しつつも、相手がまだまだ子供という事もあって、「大きくなったらな」と程々のところであしらいました。
「んにっ……ざんねん」
「わかさまのばか~!」
「悪い悪い、こりゃ俺の問題だからお前らを付き合わせるわけにはいかねえんだ。お前らが立派に大きくなったら一緒に冒険の旅に出ようぜ」
「約束だよ?」
「んにーっ! 兄ちゃん達はいいのに、ぼくらはダメなのん?」
「兄ちゃん達?」
「ティベリウス兄ちゃん達は、若様についていくって言ってたよ?」
「鼻息フンフンで張り切ってた、皆」
「なんか皆でついていったら迷惑かかるからって、勝ち抜け戦してる」
「殺し合いして、生き残った10人が若様についていくって」
「えぇー……! 俺、そんなこと許可してねえんだが……?」
「何人ぐらい集まってるの?」
『1000人ぐらい』
「うわ……」
マーリンちゃんは思わずドン引きました。
レムスさんを慕うカンピドリオ士族の戦士達――主に若手の戦士達が1000人ほどで血を血で洗う抗争を引き起こしているそうです。
おかげさまで士族内ではその争いを肴に屋台が出て、大人達が面白半分に囃し立て、お祭り騒ぎになっている真っ最中。収拾つけがたく、士族内でも特に収拾つけるつもりがない事態になってるみたいですね。
レムスさんはクラン設立を脇に置き、慌てて現場へと急行していきました。
子供達も「わ~い」とその後を追って走っていきました。セタンタ君達はそれをさらに追いたがる寮母さんを必死で止めつつ、見送りました。
「すまーん! セタンタ! マーリンちゃん! 今回の礼は、またいずれ!」
「「おたっしゃでー」」




