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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
四章:復讐と裏切り
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奴隷解放



 レムスさんが士族を一時追い出されてから一週間が経ちました。


 仕事で都市郊外に出ていたマーリンちゃんは「そういえばその後どうなったんだろう?」と気になり、レムスさんを押し付けたセタンタ君の寮を訪れました。


 幼馴染を部屋に迎え入れたセタンタ君は何とも言い難そうな顔をしつつ、「あれからずっと落ち込みっぱなし」と答えました。


「へぇー……今は出かけてるの? いないけど?」


「いや、ずっとそこの納戸の中にいる」


「カビ生えてそう」


 マーリンちゃんがそっと覗き込むと、納戸の隅っこでダンボールを敷物にしてレムスさんが寝込んでいました。


 図体がデカいので敷物から身体がはみ出ていますが、5秒ごとに溜息をついて鬱屈としているレムスさんには大して重要な事ではないようです。


「夏至祭中もずっとここでウジウジしてたみたいなんだよ。メシとか枕とか差し入れて俺は遊びに出てたんだけど、ずっと飲まず食わずでああしてたんだぜ」


「うわあ、これは相当キテるね」


「さすがにキロン先生呼んで見てもらったんだけど、先生、メシと水を無理やり流し込むだけ流し込んで『心の病は専門外』って帰ってくだけでさぁ」


「アンニア……アンニアァ……」


 うめく獣人の青年を見て、二人は頭を悩ませました。


「……この納戸の中、くさい」


「お前もそう思うか」


「臭気の元凶レムスを洗濯……もとい、お風呂にでもつれていこう」


「お前の浮遊魔術が頼りだ。触らず運べるからな」


「仕方ないにゃあ」


 二人はひとまずレムスさんを全裸にしました。


 一週間お風呂にも入らず臭気を纏った衣服は寮母さんに拝み倒して洗濯してもらう事にし、レムスさんには適当な布を巻いて大衆浴場に移動。


 身体だけは綺麗サッパリになり、マーリンちゃんが買ってきた服を着せるとそれなりの状態に整いました。表情はまだまだ暗いものでしたが。


「で、どうしようコレ?」


「正直このまま置いて帰りたい」


「寮母さんに洗濯物預けてるんだから、それぐらいは引き渡さないと」


「うーん……まあ、このままマジで死なれると寝覚め悪いから、どこか楽しくなるとこに連れてってあげるか? まずは元気にしてあげないと」


「娼館にでも放り込んどく?」


「向こうにも迷惑かかりそうだしなぁ。何か良い娯楽でもないか?」


「んじゃあ演劇でも見に行こう」


「何で演劇なんだ」


「ちょうど見たいのがあるんだよぅ。セタンタも関わりあるやつだから、レムスさんも連れて一緒にいこ?」


「まあ、たまにはそういうのもいいか……レムスの兄ちゃんもそれでいいか?」


「…………」


「架空のアンニアちゃんを抱っこして、微笑してるねぇ」


「うーん、マジでこのまま天に登りそう」


 三人――レムスさんの頭の中では四人――は首都の劇場街へとやってきました。


 既に見るものを決めていたマーリンちゃんがチケットを買いに行き、セタンタ君が飲み物とツマミを買いに行き、レムスさんは架空妹を愛でるという役割分担をした後、一同は劇場内へと入っていきました。


 外はそれなりに人がいましたが、中にはあまりいません。


 どうも客入りが悪い劇を選んだようですね。


「評判そこまで良くないとは聞いてたけど、ここまでとは」


「何でそんなの見に来たがったんだ……いや、いいけどよ」


「むふ。知ってる人が出演するからだよ」


「知ってる人……?」


「本人が出て来るわけじゃないけどね。劇の中の登場人物として出て来るの」


「ふーん? 誰だよ、どんな話だコレ?」


「それは見てのお楽しみ」


 それきりマーリンちゃんはワクワクした様子で開演を見守り始めたので、セタンタ君もそれにならいました。


 黙って見ていると幕が開き、少し時代がかった格好の演者達が出てきました。


 どうも歴史物――実話に基づいたを演じるようです。



 今から約500年前。


 バッカス王国がまだ無かった時代の事。


 世界の覇権を握っていたのは人間――ではなく、神様と魔物でした。


 それは今でも支配している領域の広さで言えば変わっていませんが――人類の中に限れば――最も権勢を誇っていたのは「ヒューマン種」という人種でした。


 彼らは他の種族と比べると身体能力で劣り、寿命でも劣り、これといった特異性も持ち合わせていませんでした。


 しかし、繁殖能力には優れていました。


 村落を国へ、国々を宗教でまとめ上げ、数を増やして他種族に負けない勢力を築き、数の力で人類内での覇権を確かなものとしていきました。


 そんなヒューマン種の国々の連合を西方諸国と言います。


 現在もバッカスの首都から見て西の方角に存在する諸国連合で、バッカス王国の登場で大分おちぶれてしまったものの、500年前までは世界一の大勢力でした。


 向かうところ敵なし! 他種族なんて数の暴力でノックアウト!


 人類の間では、確かに最大勢力となっていました。


 なりすぎました。


 強くなりすぎた西方諸国――ヒューマン種は他種族の弾圧を開始しました。


 西に獣人の集落があれば万の兵力で滅ぼし、東に剛力無双の巨人種がたむろしていれば数十倍の数で夜襲をかけ、敵味方関係なく滅ぼす勢いで戦いました。


 ヒューマン種以外の種族は安全な住処を追われたうえに――勝利の報酬として――ヒューマン種達の奴隷として捕らえられる事となりました。


 奴隷の用途は多岐に渡り、危険な鉱山労働、使い捨ての戦力・労働力、農奴、嗜好品として酷使されました。


 そのために望まぬ交配までさせられるほどでした。


 ヒューマン種が権勢を確固たるものにすればするほど、他種族の恨みを買い、それが山のように積み上がっていったのですが省みられる事はありませんでした。


 しかし、省みられなかったからこそ虐げられた者達が立ち上がったのです。


 数で劣るヒューマン種以外の種族は異種族間で連携を深め、対ヒューマン種の連合を組み、大戦争をしかけました。


 異種族連合の秘密兵器が上手く機能した事もあり、ヒューマン種側は一気に窮地に陥り、それが続くようなら「確実に滅びていた」というほど異種族連合の力は強大なものとなりました。


 結局、内部のゴタゴタで異種族連合は瓦解したのですけどね。


 瓦解しましたが一人の女性が王に祭り上げ、全ての種族を受け入れる国――ヒューマン種すらも受け入れる国――バッカス王国が建国されたのです。


 バッカス王国は破竹の勢いで勢力を拡大しました。


 武力では異種族連合時代の秘密兵器の力で他国を遥かに圧倒し、異種族連合に参加していた者達――様々な種族の士族を傘下へと引き入れ、確固たる地盤を固めていきました。


 力では優れているものの、基本は外交によって傘下を増やしていきました。


 そこで活躍したのが、バッカス王国の外交官。


 セタンタ君達が見ている劇の主役です。


 外交官さんは一触即発の事態を類稀なる手腕で収め、同時にバッカス王国の勢力を拡大させ、他に脅かされない国を作るために尽力しました。


 強くなったバッカス王国は他国を侵略せず、魔物相手に戦って領土を広げる事を宣言し、国の運営が軌道に乗った事で外交官さんは職を辞して引退。


 戦災や戦後の波乱で親を亡くした子供達を預かる孤児院を運営に注力しました――というところでめでたしめでたし、というお話でした。



「いやぁ、良い話だったねぇ」


「いや、フツーに退屈な話だったぞ」


「アンニアも退屈だったって言ってる」


「ご、娯楽作品に毒されおって~! 確かに地味な内容だったかもだけど、時代考証とかしっかりしてたでしょ?」


「「よくわかんない」」


「んも~!」


 500年以上の寿命を持つ人々も存命なバッカス王国において、100年以上前の出来事を実際に見てきた人達は珍しくありません。


 考証は比較的しっかりした作品だったようですが娯楽作品として見ると楽しめない作品だったようです。マニア受けはよろしいようですが。


「時代考証とか言うなら、途中に出てきた姫騎士ってなんだよ」


「ウッ……」


「出てきて捕まって、『くっ……殺せ!』ってなんだよ。威勢だけだったぞ」


「え、あの子はおっぱい大きくて可愛いうえにオークに股開かせられて悔しげにしてた姿が可愛いって俺の中で話題になってるぞ。あそこだけガン見したわ」


 マーリンちゃんが言いよどみ、レムスさんが首を傾げながら口を挟みましたが、セタンタ君は「魔術がろくに普及してなかった時代に女の子があんな風に戦うかよ」と言いました。


「そこは不思議な力でどうにかしたんだよ」


「そこは百歩譲るにしても一国のお姫様があんな風に前線出て来るかぁ?」


「いるとこにはいるんだよ! その方が何か盛り上がるでしょ?」


「何かって……まあ、どっちでもいいや」


「良くな~い! この後、ゴハン食べながら徹底討論しよ」


「面倒くさい事になってきたぞ……ん?」


 セタンタ君は劇場の外に出ていこうとして立ち止まりました。


 レムスさんがセタンタ君達を手で遮り、足を止めさせたようです。



「レムスさん、どうかしたの?」


「いや、アレがなぁ……」


「ん? ああ……いいじゃん、普通に横通って出れば」



 三人の視界の先には署名活動をしている人々がいました。


 署名活動をしつつ、声高に叫んでいるようですね。



「私達のバッカス王国を取り戻そう!」


「ヒューマン種を許すな!」


「ヒューマン種のいない健全な国を!」


「皆の先祖が奴隷にされていた歴史を忘れないでくれ!」


 署名活動をしながら政治的な主張をしつつ、一部の人はヒューマン種であるセタンタ君に気づき、睨んできました。他のヒューマン種の方も睨まれています。


 レムスさんがセタンタ君とマーリンちゃんと架空のアンニアちゃんを庇うように立ちつつ、睨み返した事もあってか特に問題は起きず素通り出来ましたが、今度は劇場の従業員の方々に「営業妨害だ」と言われ、ちょっと口論になっています。


「ヒューマン種の追放運動ってヤツか」


「みたいだねー……」


「暇なヤツらだ。マジでやったら国民の大半を追い出さないといけないし、魔王様がそんなのに乗るはずがねえだろうに」


 レムスさんは眉を潜めて呟きました。


 それを聞いたセタンタ君は「まあ、仕方ないよ」と返しました。


 三人が見ていた劇はバッカス王国ができ、全ての種族を受け、手を取り合う事で平和が手に入りました――というハッピーエンドでした。


 が、現実の方はちょっとどころではなく複雑な状況となっています。


 バッカスの王様は種族差別をせず、ヒューマン種もその他の種族も手を取り合い、魔物と神という脅威に挑むべく協調できる国作りをしています。


 ヒューマン種が憎まれる出来事――他種族の奴隷化はバッカスではどの種族に対しても認められていませんが、ヒューマン種が他種族の奴隷扱いをやっていたという事実は変わらず残っています。


 バッカス王国が出来た時点で西方諸国に対する電撃的な奴隷解放作戦で多くの方が救われましたが、救われたところで奴隷だった事実は消えません。


 建国当初は特に「嫌ヒューマン種」の方々が多く、バッカス王国内でも沢山の揉め事、事件が起こっていたほどです。時に殺人事件にまで発展しました。


 建国から500年近く経った今ではバッカス王国はかなり平和になりましたが、それでも当時を直接知る人――長寿族の方々などは今もヒューマン種への恨みをつのらせているのです。



「俺達、ヒューマン種の先祖がド畜生な事をやってたのは事実なんだ。農奴、性奴隷、挙げ句の果てには美容に良いとかのたまって、エルフの人達の生き血を果汁みたいに搾り取ったとか……そういう事が本当にあったらしいし」


「そりゃあくまで先祖の話だろ。ガキのお前らが背負うべき話じゃねえ」


 レムスさんは気に入ら無さそうに鼻を鳴らしました。


「しかし、ここ数年、ああいう運動がまたチラホラと見かけるようになったなぁ。俺の生まれた頃には、もうかなり減ってたみたいなんだが」


「そだねー……」


「11年前の集団拉致事件の影響、だと思う」


「11年前……あぁ……埒外士族の集落がいくつも襲われた事件か?」


 バッカス王国が出来て以降、士族という集団で生活していた者達の多くはバッカス王国の庇護下に下っていきましたが、それ以外の士族もいました。


 それが埒外士族です。


 庇護下に入らないという事は人相手にも魔物相手にも自分達で身を守らないといけないうえに、都市間転移ゲートの恩恵を受ける事が出来ません。


 危険な状態なのでバッカス王国としても領内に来てくれるよう何度も交渉しているのですが、過去の恨み――ヒューマン種への恨み――から未だ独立独歩でやっているところもあるのです。


 そこに付け込む形で西方諸国が拉致をしようとしてきたのです。


「でもあれって、魔王さまや騎士達の活躍で連れ去られた人達も直ぐに奪還できたんだろ? 追放運動が一部とはいえ、また始まるほど、酷い扱いは……」


「いや、十分過ぎるほど酷い扱いを受けたよ」


「拉致されかけた人達はともかく、集落を襲撃された時点で抵抗した人達は大勢いて……そういう人達は殺されて、それきり帰ってこれなかったから」


「あぁ……そうか、そうだな……そりゃ、確かに酷い扱いだ……」


「死者数、1000人は超えてたと思う。家族や友達を殺されて怒ってる人は、拉致から助けられても当時の事で当然、まだ怒ってるんだよー」


「11年前なんてお前ら物心ついてない頃だろ。よく知ってるな」


「まあ、そりゃ、集団拉致の主犯が……」


「赤蜜園の出身だったからねー……」


「あ……悪い」


 掘り出すべきではない話に行き着いてしまった事に対し、レムスさんは謝罪し、気まずそうに頭を掻きました。


 あくまで主犯が育った場所。


 それでも赤蜜園は「子の罪は親の罪、孤児院全体の罪」だとして糾弾された事がありました。孤児院周辺で抗議活動が起り、赤蜜園の出身者らと大きな乱闘騒ぎに発展したことすらありました。


 幸い、声高に赤蜜園の罪まで追求していたのは国民全体から見るとごく一部の方々で、そういった活動に関しては一年ほどで鳴りを潜めたようですが――。


「前に、赤蜜園出身の冒険者狙いの殺人犯が出たのはその絡みか……」


「そういうのもあったね。殺された人達は保険で何とかなって死んだままの人は出なかったし、ボクらが大きくなってからは露骨な嫌がらせは少なかったみたいだけど――」


「当時はホントに酷かったらしい」


「そうか……お前らも大変だな……」


「へへっ、孤児院長ママがギュッと守ってくれてたから平気だもんね」


「だな」


 そう言って笑う子供二人に対し、レムスさんは「強えなぁ」と呟きつつ、「なっ?」と同意を求めて架空のアンニアちゃんの頭をナデナデしました。


 劇場を出た三人はレムスさんの奢りで夕食を食べ、大衆浴場にゆっくり浸かり、セタンタ君の寮に戻る事にしました。


 気落ちしていたレムスさんでしたが、年下二人の境遇を聞いてからは「気落ちばかりもしてられない」と思ったらしく――まだまだ空元気ながらも――いつもの調子を取り戻しつつありました。


 寮母さんも三人をニッコリ笑ってお出迎えです。



「ただいまー」


「おじゃましまーす」


「セタンタ君おかえりなさい。マーリンちゃんいらっしゃい」


「寮母さんこんばんわー、今日もお邪魔しまーす」


「あらレムス君、また帰ってきたの? 年下の男子ショタの部屋に居候して家賃の一つも払わないって人として恥ずかしくないの……?」


「ヒェッ……!」


 ただでさえ脆くなっているレムスさんのハートが砕け散りました。


 寮母さんは子供に優しく、ショタに特別優しく、青年以上はジジイ扱いです。


 ただ、虐げるような事はしません。


 今回は、口は悪くてもレムスさんに対しても配慮はしてくれたようです。



「あ、そうそう、レムス君の洗濯物なんだけどね?」


「捨てた?」


「捨てませんよ、特別料金にばいで貰ってるんですからね」


 そう言って微笑んだ寮母さんは封筒を取り出しました。


「これ、レムス君の服に入ってたわ」


「手紙かな? 誰からだろ」


「レムスさん、これ捨てちゃっていいの?」


「俺は捨てられたんだ……」


「駄目だ、自分の世界に架空アンニアちゃんと引きこもってる」


「大変ねえ。捨てていいならその辺のゴミ箱に捨てておいてね。くしゃくしゃになりかけで、封切ってないみたいだけど……読まなくていいのかしら?」


 寮母さんが去り、レムスさんが調子を取り戻すのを待った後、セタンタ君達は手紙の封を切りました。


 そこにはとても大事な事が書かれていました。



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