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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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落ちて帰りし冒険者



「実技は完璧だったんだ……」


「いや、索敵と観測の方はダメだったと思うぞ」


「実技は、完璧、だったんだ」


「こいつ、自分を守りに入ってやがる……」


 セタンタ君が虚ろな目でつぶやくガラハッド君に軽く戦慄しました。


 エレインさんの見立て通り、ガラハッド君はクランの加入試験に見事に落ちました。


 装甲術を得たガラハッド君は、そんじょそこらの冒険者クランならわりと楽~に加入出来てもおかしくない程の実力になったのですが、それでも落ちました。


 直接戦闘能力はともかく、他の魔術の実技はボロボロ。技能経歴書に書けるほどの経歴は殆ど無しという、まごうことなき「脳筋」でしたが、それでも戦闘で秀でたものがある以上は青田買い的に求められてもおかしくないほどの才能がありました。


 ある意味、試験を受けたクランが悪かったのです。


「実技は完璧だったんだ」


「まだ言うか。あのな? 一応言っておくけどな? お前が受けようとしてたのは円卓会と同じくバッカス五大クランの一つ……カラティンだからな? 相応に試験も厳しいんだよ」


「じ、実技は完璧だったんだ……筆記試験がボロクソな結果だっただけで」


「ったく……『また受けにおいで』って言われただけでも十分買われるんだぞ? ボロクソだった筆記の方の対策と、索敵や治癒の基本の魔術も修めていけば、次はきっと受かるさ」


 ガラハッド君が加入試験に落ちた最大の要因は、筆記試験でした。 


 一番ボロクソな結果に終わったのが筆記試験で、「とりあえず腕っ節さえあればいいんだろう!?」と勘違いし――試験範囲はクランが常に公開してるのに――筆記の方はまったく、全然! 恐ろしいほど! 対策せずに自信ありげに試験に挑み、玉砕したのです。


 エレインさんは筆記ある事は知っていましたが、「いや、私そういう対策は専門外なので~面倒なので~」と素知らぬ顔をしていました。


 ゆえに自己申告で「指導者としては三流以下」なのです。


 まだ大手に入るのは早いでしょう、と確信犯的に黙っていたところもありますが……。


 冒険者クラン・カラティンは規模が大きいとはいえ、円卓会と同じように「質も重視する」という考え方の武闘派クランです。円卓会はまだコネが通じる方ですが、カラティンはその辺、一応は結構ガッチガチです。


 ただ、ガラハッド君はフォローしてくれたセタンタ君を恨めしげな目で見ていました。


「キミは試験すっ飛ばして、直ぐに入れと勧誘されたんだろ……?」


「俺の方はコネみたいなもんだよ」


「いいなぁ……」


「赤蜜園の冒険者は院出たらよく誘われるんだよ。大体、別のクランを経て入るんだけど」


 赤蜜園出身の冒険者は一目置かれる存在です。


 赤蜜園内――孤児院内にいるうちに冒険者への就職希望者は厳しい訓練課程にふるいにかけられているため、実力なければ突破出来ないのです。


 また、カラティンは赤蜜園出身者によって創設された冒険者クランであり、赤蜜園出身者も多く在籍しており、赤蜜園の冒険者訓練課程にも協力しているので「院にいるうちから気心や実力が知れた仲」という事も関係しています。


「そろそろ落ち込むのやめて、切り替えて次がんばれよ。なっ?」


「装甲術でノリにノッていたところを『お前つかえねーわ』と突き落とされた気分なんだ……もうちょっとぐらい、落ち込ませてくれ」


「そんなんじゃ最強の冒険者なんて、夢のまた夢だぞ」


「…………」


 ガラハッド君は、少しだけ背筋を伸ばしました。


 伸ばして、セタンタ君に案内される形で歩きはじめました。



「今日はどこに行くんだ? 戦闘か? 魔物討伐か?」


「ちょっと前のパリスみたいな事を……」


 セタンタ君は苦笑いしつつ、「慰労会だよ」と言いました。


「お前、落ちたとはいえ、クラン加入出来るように色々頑張ってきただろ? 試験終わって一区切りって事で、パリスが企画してくれてなぁ」


「そう、だったのか」


「ちょうど俺の馴染みの冒険者で――マーリンって名前なんだけど、そいつが依頼が一段落して帰ってきて、慰労会の食事で腕振るってくれる事になったんだ。つっても焼肉だけど、パリスも一足先に行って準備手伝ってる。マーリンはそこで改めて紹介するよ」


「わかった。有難く参加させてもらう」


「財布は出さなくていい」


「しかし」


「それは今日仕事で参加出来ないエレインさんが、全部出してくれたんだよ」


 今頃、闘技場でミンチ肉を量産している事でしょう。


 二人は闘技場のあると思しき方角を拝みました。


 ガラハッド君はマーリンちゃんとパリス少年が待つ市壁上のバーベキュースペースに案内され――マーリンちゃんの可愛さにキュンとときめき、頬を赤らめました。


 数少ない友達のミィちゃんの面影がある気がしたのです。


 ミィちゃんがどこの馬の骨とも知れない子種で孕んでケロッとした様子で遊びに来て卒倒した事もあり、ガラハッド君はモジモジしながらも可憐な猫系獣人の女の子に話しかけていきました。


 股間の真実を知った後、真顔になり――短い恋でしたが――それでもちょっぴり甘酸っぱい経験が出来たので万々歳かもしれません。


「やはり、女性はこう……胸が大きくないといけないな」


「なに言ってんだ、ガラハッド」


「オレ様は尻派だぞ」


「パリス……!」


 ガラハッド君とパリス少年はガシィィ! と堅く握手を交わしました。


 二派は共存出来るようです。


 年上スキーのセタンタ君はどっちでもいいので呆れ顔で二人を見て、マーリンちゃんも呆れながらも笑っているセタンタ君の様子を見て、ちょっとほっこりしました。


 幼馴染が自分がいない間も元気に人と仲良くやっていたのを見て、ほっこりしながらセタンタ君達に対し、ちょっとした提案をしました。



「四人でちょっと遠出でもしちゃう?」


「海とか?」


「海はボクよく泳いできたからいっかな……まあ海でもいいけど、ともかく都市の郊外に冒険に行くんだよ。依頼受けてもいいし、自分達で何か取ってくる事を企画してもいいねぇ」


 マーリンちゃんは小首を傾げつつ、冒険者としての道を歩みだした二人――パリス少年とガラハッド君に問いました。


「どっか行きたいところとか、欲しいものとかないの?」


「「金が欲しい」」


「浪漫ないなぁ! いや、お金は大事だけどね?」


「私は鎧代で金欠気味なのだ」


「オレ様もクアルンゲ商会に借金してるから、返さなきゃなんだよー」


「返済は出世払いでいいって言われてなかったっけか」


「でも借りたもんは返さなきゃだろ? それに借金以前に住むとことか、物とか、訓練とか、色々恵んで貰ってるから……返すためには、お金あれば色々出来るだろ?」


 パリス少年は難しい顔をしながら腕組みをして、唸りました。


 ガラハッド君の方はパリス少年よりは差し迫っていないとはいえ、いま使っている鎧も仮の鎧。新しいちゃんとしたものを買うためにもお金は必要でしょう。


 本人はいまの鎧を気に入ってるので、新調に関してはそこまで深く考えていないようですが、冒険者として活動し、栄達し、最強の冒険者を目指すためにはお金必要になるでしょう。


 ただ、パリス少年の方はお金以外にも心配事があるようでした。



「けど、いまのオレで冒険者稼業ってやってけるのかな……訓練足りてるのか?」


「おやぁ、パリス君は自信なくしてるのかな?」


「ち、ちげーよ! オレ様はキチンと考えて、自分の実力を分析してるんだ! ガラハッドはマーリンが索敵とかで援護したら十分なんだろうけど、オレで何とかなるのかなぁ……?」


「お前だけじゃ無理だな」


 セタンタ君は容赦なく言いました。


 ただ、言葉少なに毒舌を吐くのではなく、さらに言葉を続けました。


「でも、それは誰だって同じだ。都市郊外に魔物がワンサカいる以上、お互いに足りないもんを補い合って活動するのが正しい冒険者の姿なんだからな」


「いつもの事だけど、セタンタがそれを言うんだ」


「言うぞ。自分の事はガンガン棚にあげて言うぞ。保険も自力で再加入出来るからいいんだよ」


「保険を過信しすぎるのもどうかと思うけどねー」


 肩をすくめるマーリンちゃんから視線を逸し、セタンタ君は後輩冒険者の二人を見ました。


 ガラハッド君は乗り気ですが、パリス少年はちょっと前の積極さが嘘のように消極的で、まだ迷っている様子です。


 セタンタ君は「経験を積むのもお前の糧になるぞ」と言いつつ、エレインさんがそろそろ本格的により実践的な訓練も入れていこうとしている事に触れつつ、二人を誘いました。


「パリスも色々出来るようになってきただろ? 都市郊外で実際に活動してるそこらの駆け出し冒険者には負けないぐらいになってきたと思うぜ」


「うーん……」


「便利な音の魔術だって上達しつつあるんだからさ」


「へぇ、パリスって音の魔術が使えるんだ。地味だけど結構良いの持ってるね」


「地味って言うな! オレ様も価値見直してきてるけど、ちょっとは気にしてるんだからな!」


「じみじみじみじみじみ」


「ぐぬぬ……! お前の減らず口を無くす事も出来るんだぞっ」


 パリス君が消音魔術を行使しました。


 それはマーリンちゃんの口元へと働きかけられ、じみじみ繰り返していた唇から音が消え、パクパクと動くだけになりました。


 ただ、効果範囲内に入っているのは口元だけではありませんでした。


 消音魔術をかけられたマーリンちゃんが訝しげに首をひねったのです。


「オレ様もちょっとは考えてるんだぞ! あんまり広い範囲とか、沢山のヤツの音を消してやるのはまだ厳しいけど……相手の耳元にも行使したら、そいつには音が届かなくなる! これで擬似的に広範囲の音は消せるぞ!」


「「おおー」」


「音が消えたって事で直ぐ違和感抱かれるから、奇襲目的には使いづらいかもだな」


「奇襲はさておき、正面切っての戦闘なら使えそうだな。五感の一つは潰せるから、視覚外の音を聞いて背後に回られつつあるってのは気づかれづらくなるだろ」


「中々やるようになったじゃん、パリス!」


「だろ? ……って、何でマーリンがもう喋れるようになってるんだ!?」


 消音魔術は解いてないのに、とパリス少年が目を白黒させました。


 それに対してマーリンちゃんは「解呪ディスペル魔術で効果を消したんだよ」と言いつつ、自分も消音魔術を行使し始めました。


「こういう事も出来る。セタンタの声真似! 『俺は熟女とか好きだ』」


「うおっ、似てる……それも音の魔術か?」


「そだよ」


「んだよー、人が苦労してるのに、アッサリと前を走っていきやがってー」


 パリス少年は悔しげにむくれました。


 マーリンちゃんは少しだけ優しげな目になりつつ、「手抜きすればいいの?」と問いました。


「んなわけあるか! お前も音の魔術は使えるんだな?」


「いくらかはね」


「真似して覚えて上達してくから、役に立つの教えてくれ!」


「へへっ、お安い御用だよ~」


 慰労会の食事そっちのけで始まったマーリンちゃんの講義にパリス少年がメモ帳取り出し、かじりつきになり、ガラハッド君も「私ももっと器用にならねば……」と傾聴し始めました。


 セタンタ君は三人の様子を少しだけ見守った後、伸びをしながら立ち上がり、広く深く広がる都市郊外を――人に牙向く大自然を見つけました。


 見つめつつ、四人で行く冒険計画を考えている時の事でした。


 セタンタ君達を呼ぶ声が都市の中からやってきたのです。



「んにゃ~~~! タンタちゃん、リンちゃん~~~!」


「あれ? アンニアだ」


「まさか、お肉の匂いを嗅ぎつけて……!」


「かもなぁ」


 アンニアちゃんは市壁下まで近づいてきたものの、階段がどこにあるかわからないらしく、しばしピョンピョンとチビッコジャンプをしていました。


 見かねたマーリンちゃんが浮遊魔術をかけてひきあげてあげると、「ふわふわあんにゃ!」と得意げにポーズを取りながら市壁上までフワフワやってきました。


 やってきて、「わぁ、お肉だ~~~!」とつられ、目を輝かせつつ、自分がここにやってきた理由をかろうじて思い出してハッ! としました。


「おにくたべるのは、あとだよ!」


「「食べるんだ」」


「んとんと! たいへんなの! タンタちゃんたちに、たしゅけてほしーの!」


「遊び相手が欲しいのかな?」


「肉だろ?」


「ちゃうよ!! タンタちゃんたちに……あんにゃ依頼クエストを持ってきたよっ!」


 アンニアちゃんは、ちょっとだけキリッとした顔をつくりました。


 でも、直ぐにカワイイおめめをウルウルさせて、「ついほーされちゃったの!」と叫びました。


「追放? 誰が? どこから?」


「れむにーたんが、士族ついほーされちゃったの! にーたんを、助けたげて~~~!」


 セタンタ君達は寝耳に水の話に驚きつつ、ひとまずは詳しい話を聞いてみる事にしました。



三章はこれにて終了です。四章は9月予定です。

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