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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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血統主義



 ある日の事。


 エレインさんは単騎討伐試験を見学すべく、試験場へとやってきました。


 そこではちょうど自分の教え子が試験に挑むべく試験場に降り立ったところで――緊張の色は見せていたものの――応援にかけつけた少年二人の声援に軽く手をあげて応じるぐらいの余裕はあるようでした。


 エレインさんはほころび、視線を教え子から彼が対峙する存在へと移しました。


 それは大型の虎の如き擬似魔物でした。セタンタ君がフェルグスさんと行った雪山の採油遠征で戦った雪虎に似た存在です。


 それが三匹、場に形成されつつありました。


 教え子が本来挑もうとしていた森狼を模した擬似魔物と戦う試験より数段上の難易度ではありましたが、彼もエレインさんも、そして彼の仲間達も「きっと勝てる」と確信し、挑む事になった試験でした。


 その証拠に、試験開始から三秒と経たず、擬似魔物の一体が吹き飛びました。


 開始と同時に一気に突貫したエレインさんの教え子――ガラハッド君が盾を構えた体当たりで吹き飛ばしたのです。


 それで仕留める事は叶いませんでしたが、吹き飛んだ擬似魔物は大型車に跳ね飛ばされたような衝撃を得ていたがために、もう殆ど行動も出来ない状態にまで陥っていました。


 ガラハッド君は盾と剣、そして新たに得た武器で激しく立ち回りました。


 新たに得た武器は防具でもあり、彼に攻防一体の力を――いえ、彼が本来持ち合わせていた力を攻めのうえでも守りのうえでも振るう一助となっていました。



「安物ではありますが、良い具合ですね……全身甲冑」


 ガラハッド君は全身甲冑に身を包み、装甲術に手を出していました。


 どうしても使いたくないと思っていたものの、友人二人に諭された翌日、エレインさんに「試してみたいんです」と自分の口で助力を請いに来たのです。


 ガラハッド君が本来持つ資質――持っているであろう装甲術への適正を知っていたエレインさんは、彼に練習用の鎧を貸し与えました。


 そこで問題無く使える事を確かめた後、ガラハッド君は友人二人と共に中古屋や露天を巡り、比較的サイズの合う安物の鎧を買い求めました。


 それは木の板で作った本当に安い物で、粗末なものでした。


 でも、ガラハッド君が追加の鉄板を買って運び、パリス少年が手慣れた仕草でそれを木鎧に装甲として追加し、セタンタ君が仕上げにルーン文字を刻んで簡易の加護を付け加えました。


 所詮は、安物を無理やり、それっぽい形にしただけのもの。


 出来上がったのは「みずぼらしい」と言っても差し支えないものでした。


 それでも新しい甲冑を買うよりずっと安く済んで、ガラハッド君は皆で作ったそれを「これがいいんだ」と不敵な笑みで着込んで使う事にしました。


 遠目ならともかく、近くで見れば見栄えはよろしくないものでしたが、高い装甲術の適正を持つガラハッド君の手腕にかかれば足し算どころか掛け算のように戦闘能力を飛躍的に上げる力になりました。


 今も擬似魔物を正面から打ち据え、剣をねじ込んで無理やり倒しています。


 後ろから別の擬似魔物が噛みついてきましたが、魔術によって強化された装甲は牙を一切通さず、大きく身体を振ったガラハッド君に無理やり引き剥がされ、地面に打ち据えられ、盾で乱打されると直ぐに大人しくなりました。


 単純な戦闘能力はバッカス最高水準――にはまだまだ届かずとも、そこらの冒険者ぐらいなら容易く正面から撃破するものになっています。


 そして、最後の一匹も打倒され、単騎討伐試験合格を決めました。


 歓声をあげたパリス少年とセタンタ君が試験場に入り込んでいったのに続き、ガラハッド君が兜を脱いでそれを出迎えました。


 エレインさんはその様子を満足げに見た後、試験場から外へと向かいました。


 その途中、一人の女性に廊下で出くわしました。


 冒険者ギルドの職員、ギネヴィアさんです。



「あれっ? ガラハッド君の試験、もう終わりました?」


「ええ、荒々しくも鮮やかな手並みで勝利しましたよ」


「あちゃぁ……見逃しちゃった」


 ま、勝ったならいいのかなとギネヴィアさんは苦笑しました。


 エレインさんは無造作にナイフを投げました。


 ギネヴィアさんの顔横の壁に向けて。


「んなっ!? な、何です?」


「いえ、空間転移魔術用に刻まれたルーン文字があったもので、消したのです」


「そういう事は一言声かけてからやってくれませんか……?」


「声かけてたら跳んできてました。油断ならない少年なのですよ。……まあ、とりあえず単騎討伐試験の方は通ったのですから、我々も退散しましょう」


 さすがにルーン文字を刻んだ少年が「あ、くっそー! 現場押さえてやろうと思ったのに!」と地団太踏んでいる事までは知らず、エレインさんはギネヴィアさんを外へと誘導しました。


「ガラハッド君の装甲術、どんな感じですか?」


「アレが一番適正高いでしょうから、相応に凄まじいものです」


「はー……そうですか。ま、親が親というか……家系が円卓会に相応しい最強の戦士を作るために交配まで上が管理してきたものだから、問題なく魔術適正が遺伝してたら、血統的にそうなりますか」


「…………」


 魔術の適正は親世代から遺伝しやすくなっています。


 例えば浮遊魔術が使えるマーリンちゃんが子を成せば、その子供も難易度が高い浮遊魔術の適正を得る可能性が高くなります。


 突然変異的に親や先祖にない適正を得る事もありますが、「遺伝しやすいなら結婚や出産を管理して強い血統を作ろう」としている家もあるのです。


 バッカス王国建国初期から存在する、最古の冒険者クラン・円卓会でも現在進行系で行われている事です。一部の家系に関しては、かなり露骨に。


 さすがに「高い魔術適正を持つ者にとにかく子供を作らせる」という事までは円卓会もしていませんが、バッカス全土と歴史を紐解けばそういう事を行っている家もあるのが遺伝する魔術適正の影響です。



「とりあえず弟子二人の頼みなので……今後もガラハッド君の指導に関しては続けていきます。大した事は教えられませんが」


「ご謙遜を。彼もエレインさんには大いに期待してましたよ」


「困りましたね、私は指導者としては三流以下ですので……」


 エレインさんは物憂げに溜息をつきました。


「結局のところ、私程度では教え子が伸びる伸びないは本人次第なのです。それでも何とかしてあげたいので、出来る限りの環境は整えてあげますけどね」


「それでも十分です――って、彼は言うと思いますよ。あと、一応は私も期待してますからね、師匠」


「円卓会総長の妻の期待には応えられませんよ」


「そういうのじゃなくて、個人的な興味ですよ。……ところで、ガラハッド君、単騎討伐試験がクランの加入試験の最低条件でしたよね?」


「クラン・カラティンの加入試験なら、今日で最低条件は少し余裕持って突破出来たので……ちょうど試験が明日あるので、受けに行くでしょうね」


「はやっ……加入試験、突破できそうです?」


「いえ、まず間違いなく落ちると思いますよ」


 エレインさんはあっけらかんとした様子で断じました。




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