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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
一章:採油遠征と酒保商人
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巨袁



 採油遠征三日目。


 吹雪はまだ続いていました。


 羅針計を使えば都市までの帰還はなんとかなる見込みはあるのですが、それだと単にスキーして虎と戯れただけの遠足です。フェルグスさんは赤ちゃんは好きですが、無駄な赤字は大嫌いです。


 かといって無理をすると、それこそ無駄な犠牲から大赤字に発展しかねないので、三日目は大事を取って天候見つつ朝から洞穴での待機を選びました。


 目標が迫っている可能性も高いので、斥候は出しますが殆どの冒険者は洞穴で待機し、寝たり暇つぶしの遊戯に興じたりしています。


 セタンタ君は雪を煮て水を作り、容器に移して料理人さん達のお手伝い中です。フェルグスさんに「俺も斥候に出るー」と言いましたが「身体を休めろ」と置いてかれたので、ちょっとプクリと膨れてます。


 自分の腕にそこそこの自信はありますが、まだ15歳なこともあってまだ完全には一人前扱いしてもらえないのが不満なのです。


 お手伝いを終えたセタンタ君は男冒険者のグループにカード遊びに誘われた事もあり、そちらに行こうとしました。


 行こうとしましたが、女冒険者グループに引っ張られていく事になりました。


 ショタ狩猟ハントではなく、単にガールズトークの場に召喚された形です。



 バッカス冒険者の男女比はやや男性が多い程度で、大差はありません。


 魔術は身体能力面での性差を埋める事ができます。


 使い手次第で男を楽々に張り倒す特に筋肉ダルマではない女の子も生み出す代物です。セタンタ君に冒険者としての知識と技能を手ほどきしてくれた優しい女エルフのお姉さんなどは素手で大型の魔物を殺せる魔術師ゴリラでした。


 ただ、今回の遠征部隊は男の方が多い構成となりました。


 いるのはクアルンゲ商会から派遣されてきた裏方さん達と、9人の女子冒険者だけです。女子冒険者の方はセタンタ君より少しだけ年上の子達だけですね。


 セタンタ君は「あっ、これはフェルグスのオッサンが誰か狙ってるなぁ」と察しました。フェルグスさんは名の知れたヤリチンで、女の子を口説いて妻に迎えるのが趣味の多妻家です。愛妻家なのがせめてもの救いでしょう。


 バッカスのオーク達は神様に意地悪されてるため、女性オークは存在せず、オークは他種族の女性、あるいは妊娠機能を備えた男性とでないと子供が作れません。そして出来るのは100%オークの男の子だったりします。


 そのためナウなヤングオークはちゃんと口説いて女の子と結婚しますが、バッカス王国が出来る前のヤングオークは他所から女の子拐ってきて子供を産ませるという事もやっていました。過去ヤングひどいですね。


 いまやったらバッカスの王に捕まって去勢され、国民の皆さんにも「口説けずにレイプとかダッサwww」「モテたいならモテるための努力しろよwww」と後ろ指さされて馬鹿にされるのがオチです。社会的な死!


 今回の遠征では珍しい部類に入ってしまった女子冒険者の皆さんは女友達同士でパーティーを組み、活動している女子チームとの事。JKぐらいのチームです。


 彼女達は自分たちと対して年が変わらず、それどころか遠征部隊で最年少でありながら腕の良いセタンタ君に興味津々のようです。


「キミ、フェルグスさんとこの子なの?」


「違うよ。親なんていねえ」


「孤児? ひょっとして、赤蜜園の子?」


「うん」


 セタンタ君があっけらかんと肯定すると、女の子達は驚きととも感嘆しました。


 セタンタ君のいた孤児院はバッカスでは結構有名なとこなのです。


 まるで名門であるかのように一目置かれる孤児院です。


 その孤児院、赤蜜園はバッカス首都に居を構える私設孤児院で、現在は1000人ほどの孤児を常時預かり、衣食住を与えつつ教育も施している孤児院です。


 成人したら放り出されますが、孤児院長の意向で孤児院にいるうちから強制的に手に職つけさせられるため、色んな現場で即戦力として喜ばれる人材を毎年輩出している孤児院でもあります。


 その中でも、赤蜜園の冒険者は特に一目置かれる事が多いです。


 その分、苛烈な冒険者技能の訓練を達成してきた子達なのです。


 孤児院長が自分とこの孤児を冒険者にはしたくないので、「それでもなりたいと望むなら実力と覚悟を持ち合わせていないとダメ」という方針を打ち立てており、厳しい訓練を課してガンガン振るいにかけてきます。


 振るいから落ちたら冒険者以外の職業を目指す事になります。


 セタンタ君はそれをくぐり抜けた元孤児で、セタンタ君と同じく赤蜜園の冒険者技能教育を修了した元孤児達は冒険者界でも一角の人物になっている者が少なくなくありません。


 セタンタ君も立派な名の知れた冒険者となる事でしょう。


 この年で既に女性関係だらしないので、良い冒険者になるかはともかく……。


 まだ幼く実戦経験を積んでいっている最中ではありますが、女子冒険者達は「バッカス冒険者の中でも十指に入る実力を持つ冒険者フェルグスが若干14歳の冒険者を相棒に活動していた」という噂は聞き及んでおり、その噂の人物がセタンタだという事は直ぐに思い当たりました。


 すごいねー、えらいねーなどと頭を撫でられるセタンタ君。


 この時、セタンタ君は「やーめーろーよー」と言いつつ「この中の誰かと仲良くなれないかな」などと考えてました。師匠フェルグスの思考回路が伝染しています。


 セタンタ君の見立てでは、敬意は向けられつつも異性としてはあまり見られていないようです。誰しも寮母さんのようにショタ大好きなわけではないようです。


 ただ、ガールズトークの場から少し離れたところに一人若い女の子がいました。


 その子はセタンタ君ともくつわを並べた冒険者の治療と説教に夢中のようです。


 例の雪虎に骨を折られた冒険者に夢中のようです。


 その骨折られた男性冒険者は女の子に怒られながら治療されています。


 聞くところによると、兄妹だそうです。


 普段はガールズトークしている女子友達と活動しているものの、兄妹で冒険者やっている事もあって、ばったり同じ遠征部隊で出くわしたんだとか。


 治療と説教されている冒険者のお兄ちゃんは昨日、セタンタ君とフェルグスさん達と共に囮の役目を果たして重装甲の冒険者の一人で、魔物に腕をへし折られ、完治はしたものの念のため白魔術でマッサージされているようです。


「もうっ、お兄ちゃんがカッコつけなきゃこんな事にならなかったのにっ」


「かっ、カッコつけてねーよ!」


「うそ。どうせフェルグスさんがバタバタ魔物斬り倒してるのに感化されて、おれもやったるぞー! とか思って戦って、防護が疎かになったから噛まれて振り回されて、ボキッて折られたんでしょ?」


「うっ……」


 お兄ちゃん、図星でした。


 男の子ですもんね、カッコつけたい時があるのです。


「お、オークの戦士としての、ブロセリアンド士族の戦士としての血が滾ったんだ。仕方ないだろぉ……そんなプリプリ怒るなよぅ……」


「怒ってないもんっ」


「お、怒ってるじゃん……」


 少し年の離れた兄妹ですが、お兄ちゃんは妹ちゃんに逆らえないようです。ぺちぺちと叩かれつつ、いたいいたいと悲鳴をあげて尻に敷かれています。


 その様子を女子組は微笑ましそうに見守っていますが、男子組は「くっそ、イチャイチャしやがって……」と羨ましそうに見ていました。


 そんなこんながありつつ、遠征三日目は行軍せずに終わりました。


 吹雪が治まる兆候が見える中、斥候から帰ってきたフェルグスさん達が皆に状況を報告しつつ、「天候次第で明日仕掛ける」と告げ、見張りを交代しつつ決戦の日に備えて就寝しました。




 採油遠征四日目。


 吹雪も止んで天候も回復し、この日は朝から出発となりました。


 長引く可能性もあったのでフェルグスさんと商会は予備日と食料物資を多めに用意していたのですが、余裕のある状態で遠征を続ける事が出来そうです。


 ただ、遠征部隊の皆さんの顔にはそれほどホッとしていません。


 微かな緊張と共に気を引き締めながら滑走しています。


 少なめの昼食を取った後、遠征本隊は隊を分け始めました。非戦闘員とその護衛を残し、それ以外は決戦部隊としてフェルグスさんが率い、行軍を再開です。


 決戦部隊が山脈内を進むと、やがて斥候が静かに身を潜めているところへ辿り着きました。皆、緊張の面持ちで山脈の谷間にある静かな雪原を睨んでいます。


「……では、手はず通りに」


 フェルグスさんの指示で、決戦部隊は行軍と散開をはじめました。


 雪原には何もいません。


 何もいないように見えます。


 いくつか雪のこんもりとした丘がある程度です。


 その丘が揺れ動き、上昇を始めるまでは何もいないように見えました。


「来るぞ!」


 という冒険者の叫びに応じ、丘が大きく身震いをし、雪を跳ね飛ばしました。


 中から現れたのは黒い体毛を持つ大きな猿でした。


 全高20メートル、脚は2メートルほどですが腕の長さは30メートルを超え、人型というには歪な魔物です。どの部位も太く、ぶくぶく太っています。


 造詣は猿というよりゴリラかもしれませんね。


 ただし、六本腕です。


 魔物の名をモールリーゼと言います。


 山中の雪原だけで八匹もの同個体が雪の中で眠っていたようです。


 眠りを妨げられた巨袁達はフェルグスさん率いる決戦部隊に向け、犬の遠吠えのような長さで、空気を震わす大音量の咆哮を放ちました。


 その咆哮こそ、遠征部隊が二日目の夜に聞いたものでした。


 そして、此度の採油遠征で討ち果たすべき相手です。


 魔物達の咆哮で大雪崩が起こり、空気中に舞い上がった雪の霧の中、冒険者達は各々の役目を果たすため、走り始めました。戦闘開始です。





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