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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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魔術適正



 夜。エレインさんは自室で頬杖をついていました。


 頬杖をつきつつ、パリス少年とガラハッド君の訓練記録を見ながら二人の強さと今後の事に関して考え込んでいました。


 二人共、訓練の経過は「まあまあ良好」といった感じ。


 ガラハッド君は――事情もあって――才能のある子です。


 駆け出し未満のひよっこ冒険者の彼ですが、身体強化魔術と武器強化魔術の練度と上達ぶりは目覚ましいものがあり、そこだけ切り取ればもう冒険者として実際に稼業を始めさせても良い水準は通り過ぎています。


 ただし、それ以外はあまりよろしくありませんでした。


 索敵や治癒といった魔術の習得は常人より遅れ気味なのです。


 本人が直接戦闘用の魔術ばかり習得したがり、他の魔術には身が入っていない事もありますが元々持っている才能が尖っている影響も少なからず及んでいました。


 それは、まあ十分許容出来る程度ではあるのです。


 集団で行動するならば一つところに特化し、苦手分野は他に任すという手もあります。ガラハッド君の場合、単純な武力に特化し、パーティーの前衛として動けば十分に需要ある人材となるでしょう。


 問題は性格。


 エレインさんにとって最も悩ましきガラハッド君の悪癖で、他者を労り協調する心が未だ欠けていました。


 バッカスでは成人として数えられるとはいえ、まだ10代も半ばの男の子ですからね。境遇の事でイジメも受けていた事もあり、頑なになっているのです。


 集団に属すれば十分過ぎるほど活躍する余地のあるガラハッド君ですが、いくら戦闘の才能があっても一人でやれる事が限られる以上、他者と触れ合えるコミュニケーション能力に欠けているのが大問題でした。


 最悪、不和が死に繋がりかねません。


 それ以前に「こんなパーティーやめてやらぁ!」と一人でやっていく道を選び、尖り過ぎている性能ゆえにサクッと死ぬ未来すら横たわっていました。


 最大の課題はコミュニケーション能力。


 エレインさんは「キャピピ~★ ガッチャンだょ~★ みんな! テンアゲで逝こうね★」ぐらいのテンションまでは要求しないにしても、「事務的ながらも冷たいではなく物静かぐらいになってくれませんかね」と溜息つきつつ想いました。


 対人関係さえ何とかしてくれれば、様々な問題が片付く見込みでした。



 エレインさんは実のところ、手抜きをしています。


 ガラハッド君の訓練に関しては手を抜いちゃっているのです。


 手抜きと言ってもいい加減に教えているのではなく、「教えると伸びすぎるであろう余地」に関しては触れずにいるのです。


 最大の課題が片付かないうちにそれをやらせてしまうと、「もうお前に教わることなんてないわ!」ぐらいの事を言い放ってガラハッド君がバビュ~ンと逃げてしまう可能性すらあるものなのです。


 エレインさんは、彼の真価を開花させずに保留にしていました。


 せめてもうちょっと他者と協調出来るようになってから開花させないと、「一人で出来るもんっ!」とばかりに我道を征きかねないのでセーブ中なのです。



「早く何とかしてあげたいのですが……うん?」


 部屋のドアがノックされ、そこからフェルグスさんが入ってきました。


 何か荷物を抱え、運んできたようです。


「捗ってますかな、お師匠様」


「イマイチですね。自分の教才の無さが嫌になります」


 エレインさんはむくれ、フェルグスさんは苦笑しました。


「ガラハッド君と同じような感じなのです。人に教える才が無いのですから」


「彼とは別種の事でしょうよ。人と仲良くなっていくのと、人を伸ばしていくのは同じ分野のようでいて、やらなければいけない事は違うのですから」


「ヴーディカに任せたいです、性格の矯正だけでも」


「彼女が帰ってくるのはもうしばらく先ですな。いまは天魔を追っているので」


「むむぅ……」


 フェルグスさんは苦戦している師匠に苦笑しつつ、持ってきた荷物を部屋の一角にある机に置きました。


 エレインさんはトテトテと小走りでそこに行き、夫の背中にピョンと飛び乗り、首に手をかけてぶら下がって足をブラブラと子供のように揺らしました。


 揺らしつつ、フェルグスさんが机に置き、広げた品を見ています。


 それは魔術で編まれた服でした。



「こちら、ご依頼の品です」


「良いですね。ちゃんと防護の加護はついてますか?」


「もちろん。値段相応ですが、急所ぐらいはしっかり守れるものを」


「良いですね良いですね。アラクネが作ってくれたのですか?」


「いえ、断られました。テセウスにやらせろと」


「ふむー」


「気温調整に関してはつけなくて良かったので?」


「あまり楽をさせすぎると、その手の基礎魔術を覚えませんからね」


 エレインさんはフェルグスさんの手に服を取らせ、ふんふんと頷きながらしげしげとそれを眺めました。


 魔術は物づくりの現場にも当然のように使われており、冒険者の使う剣や鎧は多くが何かしらの魔術の加護が込められています。


 服に関しても魔術の力が織り込まれているものがあり、その手のものはバッカスでは「紡器つむぎ」と呼ばれています。物によっては鎧並みに魔物の爪牙を通さず、軽さは見た目相応に軽いものも存在しています。


 エレインさんはパリス少年とガラハッド君用の紡器を注文し、それを贈るつもりのようです。比較的安いものを頼んだようですが、駆け出し冒険者が使うものとしては十分な性能があるでしょう。


「しかし、二人でお揃いのものにしてくれなかったのですね?」


「大して仲の良くない二人が、揃いの装備も嫌でしょうよ」


「なるほどですねー。まあ、パリス君の方はともかく、ガラハッド君の方は直ぐに使わなくなるかもですけどねー」


「彼が持ち合わせているであろう才を考えると、そうかもしれませんな」


「……覆せるものもありますけど、魔術の適正という才は残酷なものです」


 エレインさんは少し不機嫌そうな様子で呟きました。


 バッカス王国では広く一般に魔術が使われています。


 しかし、その魔術には個々人で適正が存在しており、時には同じ人間とは思えないほどの高い適正の持ち主が誕生する事もあります。


 逆もしかりで、残酷なほどに才能の差が生まれる事もあります。


 エレインさんはパリス少年の将来を案じました。


 才能の差、適正差は努力で埋める事も絶対に出来ないわけでは無いのですが……スタート地点は確かに違うのです。


 同じ速度で努力し、走り続けていればスタート地点の差は必ず残り続けます。




「せめて、皆同じ適正であればいいのに」


「適正だけの話ではありますまい。魔術が無かろうが、本人の性格、環境、寿命……関わるもの全てが一人ひとりで違うのですから。人は平等ではありません」


「せめて……一度関わり始めたからには、変えてあげれるところに関わっていってあげる事しか出来ないわけですね」


「そうなるでしょうな。……ただ、パリスも手をこまねいているわけでも無い」


 フェルグスさんはそう言い、エレインさんを別の場所にいざないました。


 そこはフェルグス家の一室を与えられているパリス少年の部屋でした。


 二人がこっそりと覗き込むと、紙や道具を机に並べ、唸っているパリス少年の姿がありました。何やら考えをまとめているようです。


「射撃の腕は、オレへたっぴだし……直ぐに改善は無理だなー……」


 借り物のクロスボウを眺め、パリス少年は難しい顔をしました。


 クロスボウはそれなりにしっくりきているものの、だからといって熟練者と同じぐらいに使えるわけでもありません。


 自分で使うためにクロスボウに本格的に触れ始めてから間もなく、矢の軌道を修正する魔術もまだまだ練習して慣れていかねばなりません。


 もっと良いクロスボウにする――という案は金銭面の問題もありますが、パリス少年は却下しました。自分に与えられたものが癖の少ない初心者向けの使いやすいもので、だからこそ「これも使いこなせないようじゃ先が無い」と思ったのです。


「射撃の腕以外で……足りないものを埋める……」


 パリス少年は狼を模した可愛らしい人形を手に取りました。


 いまの彼の仮想敵は森狼です。


 郊外に出る以上は熟練冒険者になっても戦う機会が多い魔物で、これを上手く倒せるように策を練るのがエレインさんに与えられた課題でもありました。


「もっと近づいて、射てば当てやすくなる……当たり前の事だな」


 遠い的を狙うからこそ難しい。


 近くからなら当てやすい。


 けれど、近づけば近づくほど魔物に気づかれやすくなります。


 多くの魔物は死も恐れずただ人を殺すために神に創造されています。獣相手でも――いえ、獣相手だからこそ、向けられる殺意は恐ろしいものがあります。


 パリス少年も、猛然と近づいてくる森狼に恐怖を感じていました。


 セタンタ君かエレインさんが護衛してくれているので、近づかれても二人が倒してくれる……とはいえ、それは自分自身の力ではありません。


 自分の力で恐怖を克服しないと、とパリス少年は思いました。


「こっち走ってくる時は狙いにくいからなー……横からが当てやすい……」


 でも、近づくのも難しい。


 姿を完全に隠す隠形の魔術は難しいもので、パリス少年は習得していません。


 煮詰まったパリス少年は呻き、伸びをしました。



「うー……! ダメだー!」


 伸びをした拍子に机に身体がガン、と当たりました。


 揺れた机から並べていた道具がコロコロ、コテンといくつか落ちていきました。


 パリス少年はとてもムッとしました。


 ムッとして――何か気づいたらしく――ハッとしました。



「音の魔術、使えばいいんじゃないか!?」


 落ちた道具の片付けもそこそこに、机に向き直ったパリス少年は自分の考えをメモ帳にまとめてみたり、実際に魔術行使の練習も始めていました。


 失敗も覚悟で挑戦を繰り返そうとしていました。


 フェルグスさんとエレインさんは集中している彼の部屋を覗き込むのを止めて、信を持ってパリス少年なりに考え、試行錯誤するのに任せる事にしました。




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