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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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身体強化魔術練習のメッカ



 カンピドリオ士族の訓練に参加させてもらった翌日。


 セタンタ君はエレインさん、パリス少年、ガラハッド君と四人で首都サングリア外周をぐるっと囲っている市壁の上を走っていました。


 バッカス王国の首都・サングリアはバッカスが建国された当初からある街で、当時は村と呼ぶに相応しい慎ましい広さでしたが、建国から500年近く経った現在は10万ヘクタールほどのバッカス最大の都市です。


 ざっくり言うと東京都の半分ほどの大きさです。


 それをぐるっと囲んでいるだけに首都の市壁は長大です。


 一般の方々も「登ってもいいよ」と解放されている事もあり、長い市壁の上は身体強化魔術の練習したい方々のマラソンコースとして有名で、一日に何百どころか何千以上の人々が走っています。


 街中では人の迷惑になって怒られる事があり、都市郊外では魔物が邪魔してくるので、駆け出し冒険者にオススメのタダで使える訓練スポットなのです。


 魔物がいる関係もあって土地を無作為に広げる事も出来ず、武闘派士族の修練場を使えないような子達にとっては一種の救いとなっている場所です。


 エレインさん達もそこを使っていました。


 パリス少年は本日のランニングで首都外縁一周分の長さを走りきる事になるらしく、ウキウキしながら張り切って走り、いま走りきってガッツポーズしました。


「初周回記念として、市壁にパリス君の名前を刻んでおきましょう」


「えっ、いいのか? 国の持ち物なんじゃないのか?」


「多少刻むぐらいでしたら、別に」


 皆さんやっている事です。


 目をこらすと色んなところに名前や日付が刻まれており、政府の方も大きく破損しない限りは目こぼししています。家の柱に身長を刻み記すみたいな感じです。


「セタンタ様参上、ウェーイ! って感じの落書きは消されます」


「…………」


 セタンタ君は両手で顔を覆いました。


 記録刻みついでに休憩となり、一同は一度市壁下に下りて屋台で飲み物を買う事にしました。魔術で治癒も出来るとはいえ、水分補給も大事です。


 同じように走っている方々がカフェや食堂に座って休憩している姿もありますね。エレインさんは「もうちょっと走ったらお昼にしましょう」と告げました。



「本日はパリス君の周回記念という事で、パリス君の好きなものを食べにいきましょうか。べらぼうに高くなければ私が奢りましょう」


「ホントに!? オレ、カツカレーがいいなぁ」


「もうちょっと高いものでもいいのですよ」


「……先に上に戻って、往復しながらちょっと走ってます」


 イライラした様子のガラハッド君が市壁上に戻っていきました。


 エレインさんは「この後は少し走り方変えますから、今日は先にズンドコ進んでいかないでくださいね」と言いましたが、ガラハッド君は返事もしませんでした。


「大分グツグツと煮えてきているようですね」


「ごめん、昨日カンピドリオ士族の修練場連れてかない方が良かったかな?」


 セタンタ君の言葉にエレインさんは首を振りました。


 首を振って、「最終的に勧めたのは私なので、セタンタ君には非がありませんよ」と言いつつ、ガラハッド君が走っていく様子を見て嘆息しました。


 元々――早く強くなりたいためか――焦ってイライラしているガラハッド君でしたが、カンピドリオ士族の修練場で良いとこなしで、自分より年下の子供らにも訓練内容で負けた事で大きく自尊心が傷つけられたようです。


 傷つけられつつもやる気無くす事はなく、逆に奮起して今朝から行われている訓練はパリス少年以上に張り切っているのですが、ちょっと空回り気味。


 走りつつ、観測魔術を起動したエレインさんが走り方のアドバイスも適時告げていたのですが、それもいつもより聞き届けられませんでした。


「若いって良いですね」


「大丈夫かなぁ……? ポッキリ折れたりしねーかな?」


「大丈夫でしょう。それに、一度根本から折れるのもアリです」


 セタンタ君とパリス少年はエレインさんの横顔を見ました。


 そこにはいつもと変わらない様子のエレインさんの横顔がありました。


「正直に言いますが、彼は傲慢なところがあります。自分に自信を持つのは想像イメージで行使する魔術においては大事な事ですが、他者と協調出来ないというのは冒険者として、とても致命的な悪癖です」


「少ぐらい、しおらしくなれって事?」


「最低限の人付き合いが出来れば、それぐらいでいいと思います」


 そう呟くエレインさんは少しだけ遠い目をしていました。


他人ひとに敬意を、敵には警戒を。双方とも侮る事が無きようにしてもらいたいですね。もちろん、過剰ではなく適正な評価をしてもらうとして」


「仲間は全面的に信じろって事だな!」


「違います。疑念無き信頼は単なる丸投げです。たとえ仲間であっても腕前や知識をちゃんと持っていて、人間性も問題無いかを把握しておく必要があります」


 相手がどんな存在かをよく知る。


 その事が戦ううえで、「アイツはこれぐらいは完璧に出来る」という信頼に繋がり、連携と勝率を高めてくれるとエレインさんは言いました。


「それに、冒険者の中にも頭のおかしい人はいますからね。相手の善意に頼りきっていると、後ろから刺されるという事もありますよ」


「それはひょっとして、経験談?」


「その通りです。私が初めて人を殺した時の話です」


 後ろから殴られ、組み伏せられたところで首掻き斬って殺したそうです。


 パリス少年は自分の迂闊な質問を恥じ、「ごめんなさい」と言いましたが、エレインさんにとっては自分を強くしてくれた思い出なので、「気にせずとも良いのですよ」と言って微笑みました。


 微笑みつつ、少年達が自分のように同じ人間を殺すような機会に巡り会いませんように……と祈りました。祈ったところでどうしようも無いにしても、少しだけ祈りにすがりました。


「ガラハッド君はちょっと疑いすぎて、突き放しているところもあるので……私としましては、パリス君達とも早く仲良くなってほしいところです」


「オレ、アイツのこと苦手で……嫌いだ」


 パリス少年は率直な感想をこぼしました。


「でも、オレも人付き合い苦手で……苦手ってのは言い訳にならないだろうけど……アイツがいっつもプリプリ怒ってるの見ると、自分は気をつけないとだなー……って思う。そういう意味では感謝したい、かも。あと勿体無いよな」


「確かに、パリス君もちょっと人付き合い苦手ですね?」


「そこは否定して、それっぽい慰めの言葉をくれよー!」


「私も人付き合い苦手なので、上手い言葉が出てこないのですよ」


 セタンタ君は市壁上を見上げました。


 そこを少し走って戻ってまた走っていったガラハッド君の姿がありました。


 彼はセタンタ君達の方を一瞥もせず、ただひたすら――思考停止して――走り続けました。ただガムシャラに走り続けていました。



「……なあ、エレインさん」


「何ですか、セタンタ君」


「ガラハッドは、何であんなに焦ってるんだ?」


 最強の冒険者になる。


 ガラハッド君が公言した目標の事も持ち出しつつ、セタンタ君は問いました。


「最強の冒険者になるって目標を達成するために、焦る必要あるのか?」


「彼にとってはあるのですよ。早く達成したいのです。そして……申し訳ありませんが、その辺りの詳細に関して私は事細かに話すつもりはありません」


「そっか」


「ただ、少しだけ口を滑らせていただくと、彼は人のためにそれを成そうとしているのです。本人は『自分のために意地になってる』と言うのでしょうけどね」


「…………」


「頑ななのも境遇の影響もあるのです。それで許せとは、言いませんが」


 エレインさんがそれ以上、ガラハッド君に関しての事はこぼさなかったので、セタンタ君もパリス少年も黙っていました。


 エレインさんも少し黙っていた後、ポツリと呟きました。


「ガラハッド君を見ていると、ウチの夫と真逆でちょっと面白さもあります」


「夫って、フェルグスの旦那の事?」


「そうですよ」


「フェルグスのオッサンって、小さい頃はどんな感じだったの?」


 セタンタ君もパリス少年も興味津々といった様子でエレインさんの言葉を待ち、エレインさんも少し嬉しげに語りだしました。


「とても真面目な子でした。ただ、大人しく縮こまっている子ではなく、強くなろうという想いを小さな身体にギュッと詰め、不言実行で黙々と頑張っていた優しい良い子でしたよ」


「意外……ってわけでもないか」


「我の強くない子でもありました」


「あ、そこは変わってるんじゃねえかな……?」


 現在は一夫多妻で、隙あらば新しい妻も迎えてくる人ですからね。


 エレインさんは変わったという事を肯定しつつ、「周りに沢山の人を寄せ付けて背負っていったからこそ、いまのように成長してくれたのですよ」と少し誇らしげに口にしました。


「育ての親が良かった事も大きいですね。彼が頑張り始めた原点は、あの方達に対して親孝行をしようとした事が、とても大きかったでしょうから」


「へぇー……」


「真面目にひたむきに頑張っている子だったからこそ、私も力になってあげたくて、師匠として剣と魔術を教えてあげる事にしたのです」


「師弟関係なのに夫婦になったの?」


「師弟である前に、一人の人間同士ですからね。とはいえ、私は可愛い愛弟子程度にしか思っていなかったのを、彼が『この勝負に勝ったら結婚して、子を産んでください』と言ってきたのです。とってもビックリしました」


「ビックリして、負けたんだな!」


「ビックリして、首を跳ねてしまいましてね」


 訓練中の致命打クリティカルでした。


 蘇生魔術が無ければ大変な事になっていましたね。


 その後も何度か結婚をかけた勝負が行われ、ついには剣鬼エレインが自ら鍛え上げた一振りに負け、彼の求婚を受ける事にしたそうです。


「勝負の後、彼は『もう辛抱できません』と言い、逞しい腕で倒れた私の事をお姫様抱っこして運び始めたのです。私が男として見ていなかった少年が成長し、いつの間にやら立派なオスになっていたのです」


「「…………」」


 セタンタ君は居住まいを正し、傾聴し始めました。


「私は柄にもなくドギマギし、借りてきたネコのようにされるがままになりました。彼は辛抱出来ないと言いつつも、『師匠に恥をかかすわけにも参りません』と言い、縮こまっている私を連れ込み宿の一室に立たせ、後ろから慣れた手つきで衣服を脱がせ、宿の風呂で身体を洗ってくれたのです」


「「どうやって」」


「素手でしたね。手のひらで直接私の肌を撫で洗いしてくれました。体の隅々まで洗われた後、寝所に生まれたままの姿で転がされ……自分がメスになっていく事に戸惑いと悦びを得つつ、ああ、この子の子供を孕んであげたいなぁ……と思いつつ、フェルグスに全てを任せました」


「「それで?」」


「すけべえな話はこれにて了、です」


 エレインさんはいたずらっぽく笑い、手のひらをポン、と合わせ鳴らしました。


 ブーブーと不平を言う二人をポンポンと叩き、立たせました。


「休憩も終わりです。こういう思い出が欲しいなら、自分で世帯を持ちなさい」


「「えぇ~!」」


「良いことだらけではありませんが、結婚し、子を成すのも中々に面白い事ですよ。夫婦同士だからと言ってナアナアで済まさず、互いに敬意を持って接する……その辺は冒険者仲間と同じなのです」


 エレインさんはそう言って市壁をトントントン、と登っていきました。


 セタンタ君達もそれを追って階段で登っていき、ガラハッド君とも合流して訓練の続きへと戻っていきました。




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