ゴーレムとのぶつかり稽古
カンピドリオの修練場にて、セタンタ君はゴーレムと戦っていました。
ゴーレムと言っても魔物ではなく、魔物のゴーレムから摘出されたコアとその辺の土で作られた土のゴーレムで、動かしているのは魔物の本能ではなく人です。
人が操る事により戦闘や土木作業に転用する事が可能で、今回のように訓練の敵役として使われる事もあります。フェルグス家でエレインさんがパリス少年達に使わせてくれていた打ち込み用の土像の動く版です。
セタンタ君は借り物の剣で自分より大きなゴーレム相手に戦いました。
その様は五条大橋における牛若丸と弁慶の戦いの如く。セタンタ君がひらりひらりとゴーレムの攻撃を避けつつ、急所として擬似的に設定されていた場所を斬り、刺し、倒しました。
魔物のゴーレムはコアを破壊するか、抜き取らなければ倒せません。
例えば土で出来たゴーレムは土の腕が欠損しようと土を補給し、再生します。
その辺の機構は人が操るゴーレムも同じですが今回はあくまで訓練。ゴーレムもゴーレムとして戦っているのではなく、別の魔物を模しているので、「この魔物ならこの辺を攻撃すれば倒せるよ~」という条件満たした時点で終わりなのです。
一々コアを壊していたらもったいないですし。
「こんな感じだ。ガラハッドとパリスも協力して倒してみろー」
「よーし……! 行くぞ、ガラハッド!」
「キミに言われるまでもない」
もうちょっと仲間っぽく振る舞えないのか、とパリス少年がギャアギャアと怒り、ガラハッド君がツンとした様子で先に行ってしまいました。
いきなり戦ってみろとけしかけるのも不親切なので、手本として一戦交えたセタンタ君はアンニアちゃんを肩に乗せたレムスさんと共にガラハッド君達の訓練を見守りました。
「あのガラハッドって坊主は中々に筋がいいな」
「荒削りだけど、現状でも伸びそうな感じはあるよな」
「お前、熟練の戦士みてえな事を言うなぁ……」
「茶化すなよ!」
ちょっと怒ったセタンタ君に対し、レムスさんがヘヘッと笑いました。
アンニアちゃんもフヘヘ! と真似して笑いました。
セタンタ君は嘆息しつつも、レムスさんにパリス少年に関してはどうか――と聞きましたが、レムスさんの答えは冷たくそっけないものでした。
「冒険者、辞めさせた方がいいかもしれん」
「…………」
「冒険者稼業は誰でも就ける仕事だが、やっていけるかどうかは人それぞれだ。上手くやっていけりゃあガンガン稼げて楽しいんだが、やっていけねえならさっさと見切りつけて普通の仕事を探した方がいい。才能の有無が生死に関わってくるんだからな」
「パリスにハッキリそう言うのは止めてくれよ」
「当たり前だ。現状じゃ才能無さそうに見えるが、それでもやる気はあるみたいだからな。パッと見た感じではガラハッドほど光るもんはねえが、ガラハッドよりも冒険者を目指す事は楽しめてるみたいだからな……その心と行動が、いつか実を結ぶ可能性もある」
「…………」
「逆もしかりだが、ケツ持ってやるつもりならアイツの人生が無茶苦茶にならないよう、しっかりと将来の事も考えてやんな。若いつっても、時間は有限なんだから」
「わかってるよ……」
「ろむにーたんと同じこと言ってりゅ! ぱくり!」
「バラすなよアンニア~!」
獣人の兄妹がキャッキャとはしゃぐ隣で、セタンタ君は考え込みました。
パリス少年の将来に関してはフェルグスさんやエレインさん達が強く懸念し――本人のやる気を削がないためにもハッキリ言っていませんが――冒険者稼業をやっていける域に到達しない場合の事も考えてくれています。
バッカスの冒険者稼業は未成年以外は誰でも就けます。
一種の雇用政策的なところもあり、身分不確かで住所不定の者でもなれるほどです。就職・就学・職業訓練もしていないニートさんが「冒険者になっておいで?」と追い出される事もあります。
魔物から取れる素材も国の経済に密接に関係し、魔物という脅威を取り除くための世界開拓事業のための尖兵としての側面もあるため、冒険者稼業は就職の容易さのわりにかなり稼げる可能性を秘めた職業です。
しかし、全員が全員稼げるわけではありません。
それなりに稼ぐとなると相応の能力が必要となり、駆け出し冒険者程度の実力では装備や住居を揃えていては収支もカツカツ……下手すると赤字になる事もあります。
身の丈にあった依頼と装備、そして生活をしていれば長年に渡って冒険者稼業一本で食べていく事もでき、治癒魔術によって肉体の衰えもある程度は改善出来るバッカス王国では年配になっても元気に冒険者稼業を続け、稼いでいる人もいます。
パリス少年も「そこそこ」の冒険者ならなれるでしょう。
それすらなれなかった場合も、フェルグスさんが「拾い上げた責任」としてクアルンゲ商会で正式に雇い、都市内で商会員として業務をさせる事も考えています。
逆に早めに冒険者稼業に見切りをつけ、それ以外の職業の仕事に慣れ親しんでいった方が幸せになれるかもしれません。少なくともフェルグスさんとクアルンゲ商会の好意を素直に受け取れば、少なくとも破滅する事はないでしょう。
それで彼の望む存在になれるかどうかは、ともかく……。
「ただまあ、結局のところ最後はアイツ次第だ。どんだけ才能あっても、神童とかもてはやされてあぐらかいてたら、いつの間にか単なる凡人になってる事もあるし……本人がいまのやる気を維持出来てたら、大成出来るかもしれん。よく見ててやりな」
「うん……」
「あんにゃも、たいせーできる?」
「アンニアは今のままでいいんだぞ~」
「まことに~!?」
「カワイイは強いからな」
「かわいいは、ちゅよい……あんにゃはおぼえた、わあっ!」
三人のところにガラハッド君が飛んできました。
ゴーレムの大腕にブン殴られ、飛んできてしまったようです。
パリス少年はまだ「うわああ!?」と叫びながら逃げ回り、カンピドリオ士族の若い子達が「助太刀してやる~!」と助けにきてくれましたが、結局ゴーレム相手にパリス少年が致命打を与える事はありませんでした。
「ぐ、ぐそ……」
「動くな動くな、多分内蔵までグチャッといってるぞ」
レムスさんが無理して立ち上がろうとするガラハッド君の身体を横たわらせつつ、治癒魔術が得意な方を呼んで治療を施させました。
治癒や蘇生の魔術が存在するバッカス王国は無茶な訓練をしても取り返しがつく事が多いです。死んでも完全に死に至るまでに蘇生すればよく、怪我の後遺症も取り除けます。
取り返しがつかない場合は、備えなく長時間死にっぱなしになった時です。
人類を人間たらしめているのは本人の意思や記憶が詰まった魂魄――魂が存在しているためです。
肉片と化しても蘇生魔術さえ使えば復帰出来るのは魂に内蔵された情報を呼び出し、肉体を再構成しているためです。
死体を放置したままだと、魂はその場から無くなってしまうため、そこまで行ってしまうと取り返しがつかなくなりますが、都市内で訓練している分にはそういう事が起きるのはまず有りえません。運びこめば蘇生してくれる術士さんがいるところもちゃんとあるので。
ガラハッド君も治癒魔術で全快しました。
悔しげな様子で立ち、「まだだ!」と叫び、またゴーレムに突っかかりに行こうとしました。
レムスさんはそれを「考えなしに行くなー」と間延びした声をかけ、身体強化魔術を使って砲弾のように突っ込んで行こうとしていたガラハッド君を万力のような力で掴んで止めました。
「離せ! 私は時間の無駄遣いを許容できるほど、怠惰では無いのだ!」
「おうおう、上昇志向の高い糞ガキめ。いいぞ」
レムスさんは大層面白そうに笑いました。
ガラハッド君は全力で振り払おうとしましたが、力負けして出来ませんでした。
「いまから即突っ込んでいって、どう勝つんだ?」
「あのゴーレムは、首を落とせば勝てる!」
「お前はさっきの相対でも首狙いだったな」
「ああ!」
「それでまったく手も足も出ず、ぶっ飛ばされて終わってたな?」
ガラハッド君はムッツリと黙りました。
「確かにお前の言うように正面から行く手もある。セタンタなんか正面から上手く斬り伏せてたな。けど、そういう勝ち筋がある事と、今のお前に実現可能かどうかは別問題だ」
「…………」
「惜しいところだったならともかく、身の丈にあった戦略を考えろ。あくまで訓練だから、いっぺん失敗したら戦略を修正してから挑め。よく考えろ」
「か、考えてる……ちゃんと考えて、ここにいる。エレインさんにもそれぐらいの事、耳にタコが出来るぐらい、何度も言われてて、僕はちゃんとわかってる……」
「じゃあ、具体案の一つでも言ってみな。もしくは……アイツを見習え」
レムスさんはパリス少年を指差しました。
パリス少年はゴーレム相手に勝つ事を諦めていました。
ガラハッド君が殴り飛ばされてからは逃げ回っていましたが、カンピドリオ士族の若い子達が助太刀にやってきてからは逃げる事も止めていました。
安全なところで立ち止まり、他の子達がどう戦うのかをメモ帳を持って観察しています。
特に自分と同じクロスボウを使う子を注視し、ゴーレムが倒されると「ちょ、ちょっといいか?」と緊張した様子で話しかけにいきました。
質問したいようです。
クロスボウを使った立ち回りについて。
相手が質問に応じてくれると、一度見ただけではわからなかった事や、同じクロスボウを使う者として「どう立ち回ったらいいか」などを質問し始めました。
相手は年下の小さな子でしたが快くぺちゃくちゃ喋って応じてくれて、話が弾んだのか「こっちだよ!」とクロスボウを持った大人のところに手を引いて案内してくれていました。
大人にもっと詳しい話を教えてもらうつもりのようです。
「アイツは勝てないなりに、一歩引いて色々考えてる」
「私の方が強い!」
「お前それは、さっきのゴーレムに勝ってからほざけよ」
「…………!」
レムスさんが手を離すと、肩を怒らせたガラハッド君は去っていきました。
それでもう一度ゴーレムと戦う事を望み、焦燥感まみれの顔で戦いに挑んでいきました。
「もったいねえ、頭に血が登ってやがる」
「うん……けど、あれだけ才能あって何度も何度も助言して、何度も何度も考える機会与えてれば、いつか気づいてくれるってエレインさん……アイツの師匠は言ってたよ」
「なるほどな。いまはバネみたいに押さえつけられて、悔しさ溜める時期なのかもしんねえな。自分が弱いって事を理解出来るようになりゃ、改めるようになるだろ」
レムスさんは神妙な顔で頷きました。
才能あるガラハッド君が、熱くならず考えて戦えるようになったら、きっと強くなるでしょう。
才能ある子が努力すれば、才能無い努力家は勝つ事が出来なくなる……かもしれません。




