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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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治癒の訓練方法



「オレ様の名はパリス。よろしくな」


「あんにゃはー、あんにゃだーよ。ありすちゃん」


「パ・リ・ス」


「パリスちゃん」


「いいな、お前は覚えられやすい名前で……」


「言うほど覚えにくいか? セタンタの名前……?」


 セタンタ君とパリス少年が顔見合わせて首捻っているうちに、アンニアちゃんがトテトテ歩いてムフムフ! とレムスさんのところに行きました。


「にーたん! あんにゃ、じこしょーかい、できた?」


「ああ、出来てたぞ。もう一人いるから頑張ってきな」


「んっ、んっ……こあいけど、がんばぅ……」


 少し人見知りのアンニアちゃんはお兄さんに促され、こわごわながらも自分一人だけでガラハッド君のところに行きました。


 そして、ツンとした様子で立っているガラハッド君に話しかけました。


「あんにゃは、あんにゃだよ」


「…………」


「?? あんにゃは、あんにゃだよ?」


「…………」


「あー、えっと、この仏頂面はガラハッドって言う名前なんだ」


「がら……んにゃぁ……!」


 アンニアちゃんが悲しげに呻きました。


 ガラハッド君が思わずビクッと泣く一歩手前の幼女を見て、周りにいるカンピドリオ士族の方々が、主君の娘のような存在のアンニアちゃんの悲しげな声と顔を見て、殺気立ちながらスッ……と各々の武器を抜き放ちました。


 セタンタ君達が冷や汗をかきましたが、レムスさんが手をパタパタと振って皆を下がらせ、妹ちゃんを抱っこしてあやしました。


「名前が長くて覚えられなかったんだよな? よちよち」


「んにゃぁ……!」


 幼女のプニプニの脳細胞は五文字以上の名前に非対応のようです。


 今のところは三文字以下ぐらいがちょうどいい難易度のようですね。


「という事で、お前はガラハッドだから……ガッちゃんだ」


「は?」


「ガッチャン! カワイイ!」


 ガラハッド君が「なんだそれ!」と言いたげな顔をする中、アンニアちゃんはコロンと上機嫌に転じて、ムフムフと鼻を鳴らして笑いました。


 これにはレムスさんもニッコリ。周りのカンピドリオの方々もニッコリと微笑みつつ、武器だけは構えてガラハッド君に「口答えするなよ」と威圧しています。


 さすがのガラハッド君も空気を読んで不承不承に従いました。


 従いつつ、セタンタ君に対してブツブツと愚痴りました。



「ガッチャンなどと呼ばれるほど、私は子供ではないぞ」


「はいはい、そうだな」


「それにエレインさんはどうしたんだ? こんなところで寄り道している暇など私にはない。エレインさんが行けって言うから来てやったが……」


「エレインさんは闘技場の仕事だよ」


 本業は闘士なのです。


 育児もあるので第一線から引いたエレインさんはクアルンゲ商会の仕事をしつつ、闘技場で自分の技術を活かして仕事をしています。


 ちょうどいま、蝶のように舞い、ギロチンのように相手を仕留めてるとこです。残忍なる闘技場の女王なのです。家でまな板をダメにして、他の奥様に「も~! エレイン!」と怒られるとシュンとしていますが。


「それに今回は結構良い機会なんだぜ? カンピドリオ士族って言えばバッカスでも指折りの武闘派士族。最強志すならそういう人達の稽古に参加させてもらうのは、スゲー良い経験になる」


「けど、ここにいるのは殆ど子供じゃないか」


「まあ、そうだけど」


 実際、いるのは幼児に毛が生えた程度の子達が殆どでした。


 都市郊外は魔物がわんさかいるため子供は許可無しでは自由に外に出る事が出来ず、それは同時に訓練の場が限られる事にも繋がります。


 だからこそカンピドリオ士族のような戦士団を持つ士族は都市内に修練場を設け、そこで未成年の子達に訓練を積ませているのです。


 大人も使いますが、子供のうちに下積みを都市内で終わらせ、大人になってから都市外で実地訓練を行う形なのです。ちょうどロムルスさんが若手戦士達を引き連れ、出ていっているように。


 見てくれは子供ばかりなだけに、ガラハッド君は不満げです。


 武闘派士族という事は知っていてもウロウロしているのが自分より年下の子供ばかりで、それに混ざって訓練しないといけないのは自尊心の強い彼にとっては不満でたまらない事でした。


「見た目は無害そうな子供でも、今のお前より強いのがワンサカいるぞ」


「馬鹿言え、そんなわけないだろ」


「じゃあ、お前もアレやってみるか?」


「アレ?


 セタンタ君は修練場の一角を指差しました。


 そこでは大人が子供の頭を鉄槌でぶん殴っていました。


「ヒェーーー! 児童虐待!」


「防護魔術の訓練だよ」


 幼少期からの修行で骨折を繰り返す事により、兜の如き頭蓋を得ようとしているとかそういうのではなく、自分の身体を硬く、あるいは衝撃を受け流す魔術を張って防御の練習をしているのです。


 失敗して死ぬ子も出ますが、士族専属の蘇生魔術の使い手が常に控えており、脳漿を撒き散らした子が「いっけねー! 失敗しちゃった☆」と生き返って友達とゲラゲラ笑うのは武闘派のカンピドリオではわりとよくある光景です。


「魔術は何でも小さい頃から鳴らしといた方が上達するって言うからなー。考えがフワフワと柔軟なうちに練習した方がいいとかなんとか」


「で、でも、アレはやり過ぎだろう?」


「もっと酷いところがある」


 セタンタ君は修練場の別の一角を指差しました。


 そこでは再生能力を強化する人狼化を習得したばかりの子達がぺたんと土の上に座り、大鉈を持った大人の人狼を見つめていました。


 大人の人狼は講釈を垂れつつ、ずんばらりんと自分の腕を斬り落としました。


「血が! 血がドバァ~って!」


「自己再生の訓練だよ」


 大人の人狼が血を吹き出しながら講釈の続きを垂れつつ、念じて再生魔術を起動させ、新しい腕が生やしました。


 自己再生は軽いものなら習得しやすいのですが、腕一本を即座に生やすというのは難易度が高くなっています。


 しかし、カンピドリオ士族は500年近くに渡って自分達の品種改良を進めており、それによって得た人狼化の特性を活かし、高い再生魔術の適正や戦闘に適した身体作りに成功しているのです。


 普通の良い子は真似しないでください。


 カンピドリオに限らず、治癒魔術を極めんとする人も似たような訓練はします。


 例えばどんな状況でも平常心で治癒出来るよう、お腹斬られて腸を引っ張り出された状態にしてもらい、自分で自分の身体を治癒する訓練方法も存在します。


「今日はお前とパリスにも同じ事をしてもらうからな」


「えっ」


「冗談だよ。ゴーレム相手の訓練に混ぜてもらう約束だから行こうぜ」


 セタンタ君がアンニアちゃん達と先に行っていたパリス少年に追いつく形で走っていき、ガラハッド君はしばし、立ち止まってオロオロしていました。


 していましたが、自尊心をくすぐられ、「ええい、ままよ!」と言いながらカンピドリオ士族の修練場へと踏み入っていきました。




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