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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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思考停止せず、進み続ける苦行


 

 パリス少年の考えを聞いたセタンタ君は、その実行を手助けする事にしました。


 エレインさんに話をし、了承もらってフェルグス家の倉庫にある武器や道具を借り、途中、ペンキや必要な道具を買い、都市郊外へと出かけていきました。


 エレインさんはこっそりつけていこうとして――止めて、少年達に任せました。


 都市を囲む市壁近くに陣取った二人は準備を進めていきました。


 パリス少年は持ってきたものを持ち出し、セタンタ君は近くの木にペンキを塗り、魔術で乾かして赤と白の二重丸を作りました。


まと作ってきたぞー」


「ありがとな! よーし、やるぞ……!」


 そう言ったパリス少年は、まず弓矢を手にしました。


 パリス少年がセタンタ君に語った考えは、「武器を変える」というものでした。


 ガラハッド君と同じ方向性で競っていても勝負にならず、相手との差異がチラついて苦しいばかり。それが悔しくてつらいとパリス少年は言いました。


 だから、ガラハッド君とはまったく違う武器を使う事にしました。


 具体的には弓やクロスボウ、スリングを試す事にしたのです。



「これって、要は逃げだよなー……」


「否定はしねえ」


「してくれよー!」


「お前自身がそう思ってるなら、俺がどう言ったところで――どれだけそれっぽい理屈を語ったところで――心にしこりの一つや二つは残るだろ?」


「かもなー……」


「けどな、賢いやり方でもあるんだよ。弓矢やクロスボウ使う冒険者は結構な数がいる。それこそ剣や槍みたいな近接武器に負けねえぐらいいるんだ」


 セタンタ君は下手な慰めの言葉ではなく、理を説きました。


 遠くから攻撃出来る事は大きなアドバンテージになります。相手や地勢次第では一方的に攻撃する事が可能で、仕留め損なっても距離があるなら逃げる余裕が生まれやすく、近づいて攻撃するより不意打ちも行いやすくなります。


 都市郊外は木々や岩といった遮蔽物が多く、索敵を怠ると相手側に不意を打たれて弓矢の間合いよりずっと近くから戦闘が始まる事もあります。


 また、剣や槍といった武器の方が強化魔術により魔力を流し込みっぱなしにしやすいため、バッカス王国では剣槍の方が弓矢より物を破壊しやすいのが普通です。


 矢をチマチマ打ち込むより、鉄さえ断つ武器強化魔術で斬りつけ、一撃で仕留めれずとも失血死を狙う方が早く安上がりに事が片付く事も多いです。


 そういう意味では、弓矢等の武器は劣っています。


 しかし、その手の弱点を覆す魅力も持っています。


 その一つが射程で、他にも近接武器より体捌きのセンスが不要な事。


 一矢射て動いて相手に見つからないまま勝負を終わらせる事もでき、前線の仲間を離れた場所からいくつもカバーしやすいという長所も持っています。


 一長一短なのです、何事も。


 ちなみにバッカス王国には銃火器が存在していますが、火薬が高価で魔術で弾丸を作り出す技も――浮遊魔術ほどではないにしろ――難しい部類で、銃声などの問題もあって冒険者の間では一般的なものではありません。


 よく使われているのは銃ではなく、弓矢やクロスボウです。


 威力の面でも魔術を併用する事で原始的なそれらでも銃弾に匹敵するものが出せるのです。撃ち込む魔物が丈夫なので相対的に豆鉄砲になる事もありますが。



「それにさ、とりあえず射程持ちで戦う事に慣れて冒険者になって、冒険者稼業そのものに慣れていきながら剣や槍も練習していけばいいのさ」


「器用貧乏にならないかなー……」


「お前次第だな。けど、一つの武器に一辺倒であるより、剣も使えて弓も使えるとか、槍も使えてクロスボウも使えるって切り替えが出来るのも便利だぞ。状況や魔物によって戦いやすい武器に変えれるからな」


「なるほどな」


「もちろん、特化するのもアリだ」


「うーん……とりあえず色々試してみる」


 試してみて、これからの事も考えていくとパリス少年は呟きました。


 同時に、こんな事も呟きました。


「考えるのって大事だな」


「だな。成長したいなら思考停止しないのが重要だ」


「けど、考え続けるってキツいなー……」


「まあなぁ……考えて頑張った先に実りあればいいけど、苦行にもなるからなぁ」


「うん……でも、やってみる」


 パリス少年が頷き、凛とした顔つきで弓から矢を放ちました。


 放たれた矢は明後日の方向にバビョン、と跳ね飛んでいきました。


 二人はそれに呆気にとられ、一拍遅れてゲラゲラと笑いました。



「すげー! すげー方向に飛んでった!」


「矢の代金、一つ分無駄になったな」


「ぐえー! そうか、弓矢とかって、そういうとこで金かかるんだよなー」


「最初のうちはな」


 セタンタ君は頷き、語りました。


「そのうち魔矢を覚えればいいのさ」


「魔矢? 魔術で矢を作るのか?」


「そうだ。魔力消耗するけど矢の代金は浮くし、オマケに地味にかさばる矢を持ち歩かなくていい。銃の弾丸は、まあ高いけど、そういうのより矢はデカいからな」


「難しそうだけど、頑張るだけの甲斐はありそうだな」


「ああ。それに剣や槍も手入れ用の油とか消耗品買ってたら金かかる。物によっては矢代よりかかる事も珍しくない。弓だったら弦の取替で済んだりする事もある」


「ああ、刃こぼれとかでダメになる事もあるのか……」


 パリス少年はひとまず、弓をいくつか試してみました。


 長弓、合成弓、短弓……どれもしっくり来ない様子でした。


「つーか難しいな、弓……狙ったとこに飛んでいかねえ」


「矢の軌道を魔術で修正する事も出来るけど、魔力消耗抑えるためにもある程度は狙ったところに飛ばせるようになっといた方がいいぞ」


「うーん、そこは練習しなきゃだな……」


 そう言いつつ、パリス君は両手が塞がる事にも文句を言いました。


 構造上仕方ないのですけどね。


 弓は結構扱いが難しい部類です。


 弦を引き絞るのにも筋力必要で――バッカスだと身体強化魔術があるとはいえ――引き絞ったところから狙いをつけ、放たなければなりません。


 パリス少年は直ぐに弓を使う事には決めず、他も試す事にしました。


 次に使い始めたのはスリング――パチンコでした。


 魔術併用すれば魔物を打ち倒す事も出来るので、子供の遊び道具とも言い切れません。そもそもスリングは狩猟用のものが存在しており、魔術無しでも魔物を殺す事は不可能ではありません。


「スリングの売りは弾以外にも色々飛ばしやすい事かな」


「薬とかか?」


「そうだ。当たると粉が飛散する弾を魔物の頭に当てて、目潰しする方法もある」


「うーん、これは結構……面白いかも!」


「使いやすいじゃないのか」


「練習しなきゃムリだ! けど、あんまりかさばらないから、鞄に潜ませておくのもありかなー。魔物倒す以外にも色々使えそうだ」


 実際、スリングをサイドアームのように使う冒険者も少なくありません。


 熟練者にまでならずとも、ある程度の威力と命中が保証される程度の腕前があれば森狼ぐらいは離れたとこから殺せちゃうのです。


 セタンタ君が言ったように目潰し用の薬品をぶつけ、しかる後に槍を抜き放って相手の視界が塞がれているうちにプスッ! と刺して倒しちゃう人もいます。


 武器に頼らず、自分の手でも――投擲でも出来るので、身体強化魔術を使った豪腕でそこらの石を投げ、森狼の頭をパァン! と割る人もいます。


 流れ弾でパァン! と死人が出る事もあります。投擲に限らず。



「スリングは保留だ、保留」


「弓よりはイイ感じか」


「うん。けど、どれを使うにしろ、まずは当てる事からだよな」


 当たらなければどうという事が無いのは弓矢に限らず、剣槍も同じです。


 次にパリス少年はクロスボウを手にしました。


 身体強化魔術で弦を引き、ボルトをつがえ、射ちました。


 射ちましたが上手く飛ばず、地面にボテッと落ちました。


 どうも弦がブチッと切れてしまったようです。


 セタンタ君は弦買ってくる、と言おうとしましたが、それより早くパリス少年がポケットからゴソゴソと新品の弦を取り出してきました。


 どうも倉庫から借りてきた時点で大分へたっている事に気づき、クアルンゲ商会の冒険者用品店で買ってきていたようです。


 パリス少年はセタンタ君に手伝ってもらう事もなく、とても慣れた動作でスルスルと弦を張り直し、クロスボウを直してしまいました。


「へー、お前、結構器用だな」


「へへ、まあな」


「随分慣れた様子だったけど、どっかで触ってたのか?」


「んー、まあ、そうだなー」


 パリス少年は曖昧な返事をしつつ、クロスボウをまた使い始めました。


 連射用ではないシンプルな構造のクロスボウであるため、弓よりは連射が効きづらいという難点はありましたが、弓よりはずっと狙いがつけやすいらしく、放たれた矢は的の直ぐ近くをかすり、飛んでいきました。


 直すのは得意でも、狙い撃つ方はまだまだのようです。


「むぅ……やっぱ難しいな」


「でも、弓よりは良い感じなんじゃないか?」


「そうだな! もうちょい使ってみる」


「矢の軌道を変える魔術、教えとくか?」


「んー……どうしよっかな……もう10本、無しで当てる練習したい」


「わかった」


 セタンタ君は黙り、集中してクロスボウを構えたパリス少年を見守りました。


 10本のうち、9本は森の中へと消えていきました。


 でも、最後の1本はペンキで描かれた的に突き刺さりました。


 それはド真ん中ではなく、何とかギリギリ刺さった程度のものでしたが……それでも、当たった瞬間にパリス少年は満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに「見たか!?」と叫んで的を指差し、セタンタ君も頷き、微笑みました。




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