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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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魔物用の片袖



 ガラハッド君がエレインさんに師事し始めて五日目の朝がやってきました。


 逃げる、あるいは辞めるんじゃないか、と思われたガラハッド君ではありましたが、ムッツリと眉間にシワも寄せながら訓練に食らいつき続けています。


 エレインさんの指導は飛び抜けて厳しいという事もなく、生徒側の身の丈にあった指導をするので優しい方です。


 生意気いう子には実戦訓練で襲ってきますが、良い子には優しい先生です。


 治癒魔術で死傷すら直せるバッカスにおいては、もっと酷い教え方をする指導者は山ほどいます。身体で覚える前に心が折れる事すらあります。


 ヒドイオブザイヤーを挙げるとすれば、笑いながら心臓を破壊して全身もミンチにして廃人を量産する鬼や、無言で空間を押しつぶす巨石の弾幕で圧死させてくる狐さん、という指導者も存在します。前者はセタンタ君の師匠の一人です。


 それらと比較すると、エレインさんはかなり良い部類です。


 第一線から引いても実力は備え続けているため、本人が気まぐれで動かず、ちゃんと訓練所の一つでも開設すれば腕利きが量産される――かもしれません。


 本人は「何人もまとめて面倒見るとかムリです」と言っているのですけどね。


 ガラハッド君が生意気な事を言わない限り、懇切丁寧に教えてくれます。


 彼も乱打事件から少しは控えるようになったものの、まだ生意気な事を口走る事もありますが……仲間を貶めるような事を言わない限り、エレインさんは飄々としていました。


 ただ、「このままではよろしくないな~」という事で対策としてセタンタ君が訓練の手伝いに呼ばれる事となりました。



「……何でキミと行動を共にしないといけないんだ」


「まあまあ、そう言うなよ」


 歯噛みするガラハッド君に対し、セタンタ君は気安い様子で応じました。


 本日は二人だけで行動しています。


 ホントはパリス少年とエレインさんと訓練する予定だったのですが、ケンカ腰という意味でコミュ障なガラハッド君を一時パリス少年から引き離し、エレインさんがパリス少年、セタンタ君がガラハッド君の相手をする事になったのです。


 エレイン組の方はパリス少年の得意な魔術を自覚させつつ、ヨイショして元気とやる気を育てようという作戦です。


 セタンタ組の方は逆です。


 あと、セタンタ君がズンズン踏み入ってズケズケと言って、「お前性格悪いぞ」と程々に性格悪く指摘し、自覚させて控えさせる役割のようですね。


「お前さあ、訓練休みの時も郊外に出てるだろ」


「キミには関係ない。私も遊びで冒険者を目指しているんじゃないんだ。それに冒険者が冒険者稼業せずにどうする。ただ生活するだけでも金はかかる。常識だ」


「お前は駆け出し以下の半人前だから、休みの時は冒険者以外の仕事してればいーの。臨時雇いの仕事でも探せ」


「断る。私は私のやり方を貫かせてもらう」


「あー、はいはい……じゃあ、今日はお前の好きなようにやっていいぜ」


「む?」


 冒険者ギルドで森狼の駆除依頼を受けたセタンタ君達は郊外へ向かいました。


 そしてガラハッド君の後ろにつきました。


「俺はお前についていく。お前は夕方までテキトーに魔物狩ってろ」


「は? 指導放棄か? まあ、別にキミの指図は受けるつもりは無いが」


「口悪いなぁ、そんなんじゃモテねえし友達出来ねえぞ」


「そんなもの必要無い。私は最強の冒険者になるのだ」


「お前わりとマジで友達いなさそうだな……」


 います。


 前のお仕事していた時も学校通っていた時も一人で昼食食べて、仕事は真面目にこなすものの会話を弾ませず、仕事が終わればサッと帰ってしまうような子ですが……近所のミィちゃんとは仲良しです。一緒に寝た事もあります。


 ただしミィちゃんはビッチなので、エサさえくれれば色んな人の寝床に転がりくんでくる子です。コミュ強者ですね。


 ガラハッド君はそんな事は露知らず、アゴを撫でるとゴロゴロと鳴くミィちゃんが来るのを部屋の窓開けてそわそわ待っている夜もあります。


 ツンとして孤高を貫いているのはカッコイイようで、色んな弊害があります。無口系として振る舞い、自分視点の外面を磨く前にコミュ力を高めましょう。



 ガラハッド君はズンズンと都市郊外の森に立ち入っていきました。


 いつもはもう少し慎重に立ち回ります。が、セタンタ君が「お手並み拝見」と言いたげについてくるので、「私の実力を見せてやろう」と息巻いてるようです。


 ただ、息巻くだけの実力はちゃんとあるのです。


 好戦的な森狼が口角からツバを撒き散らしながら駆け寄ってくると、ガラハッド君は武器――ではなく、片腕に巻きつけたボロ布の塊を突き出しました。


 森狼は喜び勇んで布の塊に食いつき、布の中に潜んでいた木板に歯が突き立って抜けなくなったところにガラハッド君の剣が振るわれ、殺されました。


「鮮やかだな、お見事」


「フン……」


「森狼対策の片袖ってわけだ」


 片袖とは、ガラハッド君が腕に巻きつけている布と板の塊です。


 犬の訓練に使う道具ですね。


 それの対魔物版をガラハッド君は使用しています。


 森狼のような比較的小型な魔物が食いつきやすい程度の大きさのものを用意し、突き出して噛ませ、その隙に反対の手に持っている武器で仕留める事を目的としています。


 布の中身に金属製のスパイクや返しがついているものもあります。普通の盾とは違い、攻撃を防ぎつつ動きを止める役割として使えるので、噛み付いてくる魔物相手には有効な手段になる時もあります。


 やられる前に頭かち割ればいいじゃん! という冒険者さんもいて、それはそれで正解なのですが、戦闘慣れしていないと動いている相手の頭をカチ割るのも中々に大変なのです。



「お前がこの間受けてた単騎討伐試験にも、使う気でいるんだな」


「なっ……! 何でキミがその事を知っている!?」


「お前の後で俺の試験があったから、たまたま観戦してたんだよ」


 パリス少年の声援は届いてなかったようです。


 ガラハッド君は少し恥ずかしそうにムッツリと頬染め、「笑いたければ笑え! でもこの方法が確実なんだ!」と怒りました。


 セタンタ君は「笑わねえよ」と言いつつも、一つ助言をしました。


「一対一なら片袖は便利だ。けど、試験の時みたいに一対多の場合、食いつかれてるのを処理してるうちに他のが襲ってくるし、片腕封じられる事になるぞ」


「む……それは、確かに……」


「この辺の森狼は基本単独行動だが、中には群れで動くヤツもいる。そういうのとやり合う場合、片袖は逆に邪魔になる時もある」


 森狼に一匹狼と群体の差異が存在しているのは、対人用の罠です。


 魔物を作っている神様が意図して差異を作り、一匹でウロウロしている森狼を倒した駆け出し冒険者が「森狼とかヨユー! じゃんじゃん来い!」と慢心し、群れという数の暴力に晒そうと画策して魔物を設計しているのです。


 群体の森狼に冒険者が殺される事は「バッカス冒険者あるあるネタ」として挙げられるほど多く、腕利きでも油断するとたま~に殺してくるのが森狼です。


 特別強いわけではなく、むしろ弱い部類に入る中型犬程度の強さの魔物です。それでも死ぬ時は死ぬのが人間です。


「対多なら、片袖より盾で殴ってる方がいいかもなー」


「むぅ……!」


 ガラハッド君は一理あると唸りました。


 唸りましたが、今日はこのままで行く事にしました。


「何なら、帰りに防具屋で盾でも見て帰るか? 案内するぞ」


「不要だ。キミに頼らなくても私は強くなってみせる」


「そんなツンケンするなよ。人一人にやれる事は限られてるんだぞー」


「……わかってるよ、そんな事は」


 ガラハッド君はムッツリと黙らず、とても悔しげに呟きました。


 ただ、その後は黙々と森狼駆除依頼を続けようとしました。


 ガンガンガン、と金属音を鳴らして魔物を呼び寄せる形で森を練り歩き、戦い続けましたが――夕方までは持ちませんでした。


 比較的弱い魔物相手とはいえ、連戦を戦い抜くほどのスタミナも無く、ガラハッド君の動きは戦闘を重ねれば重ねるほど精細を欠いていきました。


 やがて片袖で森狼の牙を受け止め損ね、押し倒されて殺されかけましたが、そこはセタンタ君が身体強化魔術の乗った脚で森狼を蹴り飛ばし、木にぶつかって地面に落ちた相手をミスリルの槍で無慈悲に殺しました。


「立てるか?」


「き、キミに手助けされるほど、落ちぶれてはいない!」


「たったいま助けてやっただろ」


 セタンタ君は槍で肩を叩きつつ、固い表情で鼻息を漏らしました。


 同時に「一人で郊外うろついてる俺も同じような目で見られてんのかなぁ」と思いつつ、ガラハッド君の将来を案じながら声をかけました。


「少し休憩しようぜ。見張りしててやるから、メシ食って水分補給しろ」


「キミの指図には従わない」


「エレインさんに言いつけるぞ~」


「…………」


 ガラハッド君はムッツリ眉間にシワを寄せ、従いました。


 腐ちて倒れた木の幹に腰を下ろし、背嚢から水筒と手製の弁当を取り出し、それを食べながら「別に、エレインさんが怖いわけじゃないからな」と言いました。


 黙って食べていましたが、やがて口を開きました。



「……一つ、聞いていいか?」


「おう」


「キミは何で冒険者になったんだ?」


「…………」


 セタンタ君は黙り込みました。


 ガラハッド君もさすがに空気を読み、「言いたくないならいい」と告げましたがセタンタ君は首を振って答えました。


「結構、くだらねえ理由だよ。好きになった女がいた。その人に告白するために冒険者になって稼いで……でも俺よりずっと大人で年上のスゲえ美人で、結局はフラれたんだ。だせえ話だ。笑え」


「…………」


 ガラハッド君はムッツリと、首を振りました。


 そしてボソリと言葉を投げかけました。


「フラれても、フラれないように頑張ったんだろ、キミは」


「まあ、一応はな」


「なら、信念に裏付けされた理由だったんだろ」


「下心だよ」


「それでも本気だったんなら、笑う気にはなれない」


「……そうかよ」


「ぼく……私の方が、数段くだらない理由だ」


 ガラハッド君は俯きました。


 俯いて、大事そうに、弁当箱の中の小ぶりなオムレツを口にしました。


「最強の冒険者……強くなるってのは、余程カッコイイ理由だと思うけどなぁ」


「それはあくまで手段なんだ。……本当の目的は、くだらない意地さ」


「なんだ、本当の目的って」


「…………」


 ガラハッド君はムッツリと黙りました。


 今はまだ、それを教えてくれませんでした。


「単騎討伐試験を受けたのも、あくまで手段か」


「もちろんだ。クランの加入試験を受ける最低条件としてあっただけで……」


 ただ、少しだけ口が滑ったようです。


 試験を受けた理由を口にしたガラハッド君はハッとして、モゴモゴとお弁当を口にしつつ、「ま、まあ、色々としがらみがあるんだ」と言いました。


 セタンタ君は「そっか」とそっけない様子で声をかけ、遠くを見つめました。


「じゃあ、次は絶対うかるように、強くならなきゃだな」


「うん、そう……いや、そうなのだ」


 ガラハッド君は、またまたムッツリと答えました。


 昼食後は何度か休憩を挟みつつ、片袖を使って魔物を狩り続けました。


 セタンタ君は索敵魔術や隠形魔術を駆使し、不意打ちで狩る事や、他の魔術を使う事も勧めましたが、ガラハッド君は頑なに正面から狩る事に拘りました。


 小細工など不要、と言いたげに狩り続けました。


 ちょっと脳筋な思考回路ですが、その方法も不正解では無いのです。


 勝って生き残りさえすれば、それが正解になるのです。




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