才能ある外来種
新たにエレインさんに師事する事になった金髪碧眼の少年、ガラハッド君。
パリス少年と同い年の彼は、パリス少年よりも冒険者として活動した経験が浅く、それだけに知識も浅い駆け出し未満のひよっこ冒険者でした。
そしてエレインさんとは、つい先日出会ったばかりだそうです。
とある試験を受けた後、トボトボと家路についていたガラハッド君に対し、「そこの少年!!」と赤いマフラー棚引かせ、街路樹のてっぺんに直立していた不審者――もとい、エレインさんが話しかけてきたのが二人の出会いになったそうです。
ガラハッド君が「なんか頭おかしい人がいる!」と思いつつ、目の前に「とう!」と飛び降りてきたエレインさんが勢い余って石畳をドカンと砕き、王様の使い魔にピーポーピーポーと連行されていった翌日、何事も無かったように「そこの少年!」とトテトテ歩いて話しかけてきた事で本格的に出会い、言葉を交わす事になったそうです。
「まあ、エレインさんはたまに荒ぶる頭おかしイテテテテ! ほっぺ! ほっへちぎれう!」
「今でこそ主婦してるものの、荒鷹と呼ばれたエレインさんの握力を食らいなさい」
「主婦してねーじゃん! 台所出禁じゃん!」
「むむむ……!」
セタンタ君が赤くなったほっぺを押さえつつ、ひぃひぃ言ってエレインさんから逃げました。
逃げて、疑問たっぷりの表情で荒鷹さんに言葉を投げました。
「明らかにおかしい。ガラハッドもよくこんな不審者についてきたな」
「そこはホラ、私は交渉上手ですからね」
「下手な部類だと思う」
「下手でも頑張ったのです。郊外に引っ張っていき、ずんばらりんと魔物達を斬り刻んで力を示し、強くなりたがってる彼を弟子に誘ったのです」
押し売りですが、エレインさんの剣技は十分な説得材料となりました。
「そこはまあ、俺もわかるよ。エレインさんはべらぼうに強いからな」
「えっへん」
「解せねえのはエレインさんがガラハッドを誘った理由だよ。親しかったわけでもなく、それどころか知り合いとも言えない程度の仲……指導好きってわけじゃないのに、何で誘ったんだ?」
「はてさて、気まぐれと言えば信じてもらえるでしょうか?」
「……大方、誰かに頼まれたんじゃねえかなぁ?」
エレインさんはセタンタ君の言葉に微笑を返しました。
「まあ、彼の才能に惚れ込んだ事にしておいてください」
「うーむ……」
嘘っぱちではありましたが、ガラハッド君はまったく才能が無いわけではありませんでした。
才能がある、と言っていいぐらいです。
いま直ぐ冒険者として実戦に出て大活躍出来るほどではありませんが、それでも冒険者として下積みしてきたわけでもないのに剣を振るう姿は様になっています。
いまは土像に対し、武器強化と身体強化魔術を使って剣を打ち込み続けています。
「ついこの間まで、ブロセリアンド士族とサッカラ士族が協同でやっている海底採掘現場で人夫として働いていたそうです」
「身体強化魔術ならお手の物って事か」
「走るのはまだまだですが、力だけは中々のものですね」
エレインさんがそう評した瞬間、ガラハッド君が土像を首を力任せに斬り落としました。
師事を受けるようになってまだ二日目ですが、ガラハッド君は一日目で通常の土像の首を斬り落とし、斬り落とすたびに像の硬度を上げていっています。
それを誇るでもなく、ムッツリと難しい顔を浮かべ、エレインさんに対して「首じゃ細すぎます。胴体を狙っていいですか?」と聞き、了承を得て再び剣を振り始めました。
「軽く適正を見た感じでは、直接戦闘用の魔術に高い適正がありました。身体強化も武器強化魔術も遠からず立派なものに仕上がるでしょう」
「持ってるなぁ、才能」
「まあ、あくまで直接戦闘系のものなので……個人的にはそれ以外の技巧も磨いて欲しいのですが……本人がさっさとわかりやすく強くなりたいようですからねー」
「好きにさせるの?」
「もちろん、こちらの希望も通りますよ。でもとりあえずは単純な戦闘能力の方を強化する方向で行こうと思います。小細工無しでも直ぐ強くなれそうな子ですからね」
「……パリスに悪影響与えそうで、怖いなぁ」
「影響はもう与えていますよ。良し悪しはともかく」
二人はガラハッド君の隣で打ち込みをしているパリス少年に視線を移しました。
パリス少年は、明らかに焦っていました。
自分はまだ首を斬り落とすとこまで出来ていないのに、追い抜かされてしまったためです。
一打ごとに工夫を修正する事もなく、ただがむしゃらに打ち込み続けています。
それはガラハッド君も同じではあるのですが、ガラハッド君は元々持ち合わせていた適正と――冒険者になるつもりではなくても磨かれていった――身体強化魔術の下積みで押し切り、それで成功するのでエンジンの回転数が上がるかのように調子を上げていっています。
対するパリス少年は「後輩に追いつく」事しか考えておらず、自分の打ち込んだ傷跡が浅いものになっていっている事も気付かず、「くそっ」「なんでだ!」と悪態をつきつつ、とても焦った様子でただただ振り続けています。
「そろそろ止めて口添えして、少し打ち込んだら他の訓練に切り替えます」
「その方が良さそう」
「索敵の練習をするので、商館に箱詰めしている練習道具一式を持ってきてもらえますか?」
「りょーかい」
セタンタ君はフェルグス家の庭を出て、クアルンゲ商会の商館に行く事にしました。
行く途中、ちらりとパリス少年の事を見ると、エレインさんに何かを言われ、俯き、唇を噛み、両手をギュッと握り込み――投げかけられる言葉も右から左に抜けていっている状態でした。




