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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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パリスの弟弟子



「オラーッ! マーリン! 出てきやがれー!」


「なんだなんだ、営業妨害か?」


 セタンタ君がズカズカとクアルンゲ商会の商館にやってきたところ、商会の印章付きの前掛けつけたパリス少年が応対のために出てきました。


 事情を話してマーリンちゃんの行方を聞いたところ、「ちょっと前に窓からスイーッと飛んで逃げてたぞ」という言葉が返ってきて、ガックリしたセタンタ君は座り込みました。


「なんだ、追わないのか?」


「アイツ捕まえるのは苦労するんだよ。街中で鬼ごっこする時とか、特に」


 魔術が一般的なバッカスでは遊びにも魔術が使われます。


 鬼ごっこは索敵・観測魔術や隠れ潜むための隠形魔術の良い練習になるので、冒険者になるのであれば役立つ経験となるでしょう。


 ただ、身体強化魔術もガンガン使って街中を所狭しと逃げ回るのは迷惑行為なので控えましょう。悪い子は王様の使い魔が子供用に調整した世にも恐ろしいバケモノの姿で脅しにきて、おしっこちびる事になりかねません。


「あ、そうそう……マーリン逃げたけど、逃げる前に手紙預かったぞ」


「手紙?」


「セタンタ宛だ」


「えー……なになに? セタンタへ、しばらく姿をくらましているティアマト捜索とナス士族の仕事を手伝いで帰ってこれなくなります。ボクがいない間は一人で郊外に出るなんて無謀な事はせず、大人しくママ孝行しててね……知るか」


 知るか、と言いつつ手紙は折りたたんで鞄に入れました。


 パリス少年はその間に仕事に戻っていき、セタンタ君はセタンタ君で「今日だけ泊めてください」とフェルグスさんの家に奥さん達に頼み、今夜の宿を決めました。


 昼過ぎに仕事を終え、訓練のために戻ってきたパリス少年はセタンタ君が客間から出てくるのを見て、「なんだなんだ、当分ここ暮らしか?」と聞きました。


「いや、フェルグスのオッサンのとこで暮らすと持って一日、下手したらそろそろ見つかるかもしれねえし、夜のうちに出ていくかもしれん。ほとぼり冷めるまで寮帰るのは怖い」


「ふーん。でも、泊まるあてあるのか?」


 バッカス王国は大きな国ですが、広さのわりに宿が少ない国です。


 というのも都市間転移ゲートがあれば離れた都市でも一瞬で行き来する事が出来るので、現地で宿など取らずササッと家に帰れば済む話なのです。


 もちろん、療養や観光用の宿や連れ込み宿はあります。一時滞在用のビジネスホテルのようなものがあまり無い国なのです。


「まー、知り合いの家を順番に回ったり、マーリンの部屋にでも泊まりにいけばいいのさ」


「捕まりそう」


「安心しろ、合鍵の隠し場所は知ってる」


「そういう問題じゃなくてだな……あ、そうだ、今日は新しいヤツが来るらしいんだぞ!」


「どこに」


「ここに。エレインさんが新しい弟子を取るんだってさ。オレ様の後輩だ!」


「へー、ほー、いまの時期だったら、自分とこの子供じゃあねえな」


「何かまったくの他人が来るらしいぞ」


「そりゃ珍しい」


 エレインさんは頭が童心に返ってるところもありますが、武術の腕前は確かです。


 近年は第一線から離れて家事手伝いをしつつ、商会の仕事を手伝いつつ、闘技場などに稼ぎに出ている方ですが、王様の側近として取り立てられていた時期もあり、冒険者時代は結構ブイブイいわせてた知る人ぞ知る剣士です。


 その評判を知る他人からも「ぜひウチの子に剣を教えてやってください」と大金積まれてお願いされる事もあるのですが、気分屋なので安定して弟子にとってもらえるのは身内と赤蜜園ぐらいだったりします。


 そんな事情があるため、セタンタ君は「パリスに続いて外から立て続けに弟子取るとか珍しいなぁ」と思い、新弟子の事に興味が湧いてきました。


 パリス少年が「よいしょ、よいしょ!」と稽古を受けるための準備を進める中、セタンタ君は庭先に座り込み、くだんの新弟子の姿を待ち受け――いざやってくると、「あ」と声をあげました。


 エレインさんに連れられやってきた子は、セタンタ君も知る顔だったのです。



「紹介しましょう。今日から稽古をつける事になった――」


「ガラハッドじゃん!」


「誰だ、キミは」


「オレだよオレ、パリスだよ。学院で同学年だったんだけど、覚えてないか?」


「新手の詐欺師か?」


「こいつちょっと殴っていいか!?」


「どうどう」


 パリス少年がワンコのように猛り、ガラハッド君はツンと視線を逸して応対しました。


 セタンタ君は台所から貰ってきたリンゴを齧りつつ、ガラハッド君が「どんな縁でここにやってきたんだろう?」と思いましたが、その思考はエレインさんに遮られました。


「セタンタ君、ちょっとパリス君を見ててくれますか?」


「りょーかい」


 ガラハッド君は稽古初日のため、指導者であるエレインさんは「どんな魔術が使えるか」「何がどの程度出来るか」について確かめたいらしく、しばし付きっきりになりました。


 セタンタ君は細かな指示は受けなかったので、パリス少年に「何かやりたい稽古あるか?」と聞くと、「打ち込みしてるから、たまに見てて、助言くれてるだけでもいいぜ」と言われたものの、少し考え込んだ後に別の訓練道具を使う事にしました。



「せっかくだから、二人だからこそ出来る新しい訓練にしようぜ」


「実戦訓練とか? 剣持って殺し合うとか!」


「ちょっと違う。それに冒険者は魔物と戦う職業だから、対人戦闘の訓練はやらなくていい……と、一番いいんだが、それは後回しでいい」


「人と殺し合う事もあるんだな」


「稀にな。あとはまあ、人型の魔物と戦う事とか……あったあった、これ借りよう」


 セタンタ君は倉庫を漁り、槍のようなものを取り出しました。


 先端部分に金属の穂先ではなく、獣の頭部のようなものがついています。


「なんだその、剥製の頭だけつけた妙な棒は」


「張り子棒って言う訓練用の道具だ」


 セタンタ君は張り子棒の獣頭のホコリを払い、パリス少年に布製の棍棒を渡しました。


「魔物との戦闘を想定した道具でな、槍みたいに持って稽古つける相手にむけて突き出すんだ。単に突き出すだけじゃなくて、あくまで魔物を操るように――先端部の獣頭を相手に食いつかせるように動かし、魔物が食いついてくる時を想定して稽古するんだ」


「へー、なるほどなー。森狼みたいな獣っぽいヤツとの戦闘の練習出来るって事か?」


「そうだな」


 突き出す事により、魔物が飛びかかって食いついてくる動作を再現するのです。


 持ち手の部分にあるレバーを操作する事で、マジックハンドのように先端の獣頭の口を開閉させる事も可能になっています。


 張り子棒を振るわれる側――稽古をつけられる側はそれを躱したり、カウンター気味に布や紙で出来た武器を打ち込んだり、躱しつつ首を断ち切るつもりで張り子棒の柄を叩くのです。


 回避と攻撃を当てる訓練になります。


 振るうために特別な才は必要無し。訓練道具として比較的安価。親が冒険者を志す子供相手に振るってあげている光景が街の路地裏、庭先、市壁の上などで見受けられる道具です。


 構造もレバー以外はシンプル。本物の武器で叩かない限りは簡単には壊れず、口の開閉機能がいらなければ木の棒の先端に布を巻きつけ代用されたりもしています。


 セタンタ君は魔物らしい動きを出来るだけ再現しつつ、張り子棒で攻め立てました。


 パリス少年は中々対応しかねているらしく、「うわっ」「ひぇっ」と叫びつつ、あたふたと棒を躱し、転び、頭に「ギニャーーー!」と噛みつかれています。


 ひよっこ冒険者なので仕方ないですね。


 ただ、どうも対応しかねているのはそれ以外の要因もあるようです。


 後輩弟子のガラハッド君が技を披露しているところをチラチラと気にしています。



「視線が泳いでるぞー。集中しろ、パリス」


「お、おう!」



 元気よく返事しつつも、視線は泳ぎ続けました。


 どうも、同い年の後輩の腕前が気になるようですね。


 自分より優秀だったらどうしよう……と心配もしてるみたいです。




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