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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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言霊と冒険遊戯



「セタンタ、何でそんなに満身創痍なの」


「聞くな」


 セタンタ君はフェルグス家にてカレーを食べつつ、マーリンちゃんの問いに答えました。


 答えて、いつの間にやら当たり前の顔でカレーライスをモグモグ頬張り、ネコ耳をピコピコと動かしているマーリンちゃんが隣に座っている事に気づきました。


 どうも夕飯だけたかりに来たようです。


「稼業の装備持ってきてるって事は仕事上がりか」


「そうそう。セタンタは?」


「今日も一日汗水たらして頑張っていたぞ」


 パリス少年の話です。


 マーリンちゃんの方はバッカス政府から直接下された依頼で動いていたようです。類まれな魔術の才を持つ彼女はその腕を見込まれ、政府依頼がちょくちょく転がってくるようです。


 何でも今日は索敵・観測魔術を用いた海域監視の手伝いをしていたようですね。


「魚捕りか」


「違うよ! いや、帰りにブロセリアンド士族の人が『持ってかえんな』って大量にくれたから、ここにおすそ分けにやってきたわけだけど、ボクは漁してたわけじゃないよ」


「俺もらってねえ」


「セタンタは自炊しないでしょ」


 まったく、と溜息をついたマーリンちゃんは帰りにフェルグス家の厨房に寄ってヅケマグロでもわけてもらって帰ればいいよ、と告げました。


「ボクはティアマトを探してたの」


「誰だそれ」


「あれ、まだ知らなかったのか? ホラ、こないだ砂漠に……砂漠のエルミタージュに行ったでしょ? その途中で遭遇した、都市よりデカい大蛇の魔物の公式名称」


「ふーん、そんな名前がつけられたのか」


 大変危険な魔物であるので、存在そのものは先日から公表されていたのですが名前が決まったのはつい昨日の事。セタンタ君は存じ上げませんでした。


 名前をつけたのは魔物を創造している神様で、人類に対しておふれを出すのに使っている神託書にミミズがのたくったような文字で書き記された名称です。


「ティアマトねぇ……神様が自分でつけた名前なんて、使ってやる必要あるのかね」


「まあ人類こっちでテキトーに弱そうな名前つけてあげてもイイかもね」


「魔物は魔物だろ。大蛇とかバケモノとか、適当でいいんだよ」


「いやいや、名前は大事だよ。人は名前をつける事で存在を定義し、その名前の枠に押し込んで、それ以上でもそれ以下でもないものとして戦ってきたんだから」


 名前が存在しない未知バケモノの方が怖い。


 単なる獣、あるいは人に過ぎないもののキチンと定義されずに未確定の存在のまま放置していると、噂に尾ひれ背びれがついていって恐怖が膨れあがっていく。


 名前をつけ、存在を定め、長所と短所を調べて未知ではなく既知の存在に落とし込んでいく事で、人間は夜闇や魔物を克服してきたんだよ――とマーリンちゃんは言いました。


「それっぽい事を言うな」


「それっぽい事を言った人の受け売りだよ」



 カレーをお腹いっぱい食べた二人は「ふーっ、食った食った」とお腹を撫で、「お邪魔しましたー!」と帰ろうとしました。


 帰ろうとしたところでフェルグスさんに首根っこを掴まれました。


 掴まれて、フェルグス家のおチビちゃん達と遊ぶように要求されました。


「そんなー、お風呂入って寝ようと思ってたのに」


「俺も8丁目の大衆浴場行こうと思ったのに」


「まあそう言うな。子供達がお前達と遊びたいと言っているのだ」


『フェルグスじいじと、あそびたーい!』


「ほら、お前達と遊びたいと言っているだろう?」


「「難聴かな?」」


 二人は仕方なく、パリス少年にも手伝ってもらって子守する事にしました。


 フェルグスさんはいつの間にやら姿を消しており、お酒や奥さん達を抱えてそそくさと寝室に行きました。大人の時間突入です。



「仕方ねえ、何して遊ぶよ?」


『冒険遊戯!』


「満場一致で良かったよ……」


「まあもう夜だし、卓上で出来るのがちょうどいいね」


 かくしてセタンタ君達は冒険遊戯をする事になりました。


 冒険遊戯はバッカス王国の子供達に人気の卓上遊戯で、一人ひとりがキャラメイクを行い、卓上に広げた地図を見ながら想像世界の冒険へと出発する遊びです。


 進行役が魔物をけしかけたり、地形や気候による自然の罠で仮想冒険者達を全滅に追い込みにいくという和気あいあいと遊べる遊びです。


 要するに、TRPGです。


 バッカス政府が子供向けに作った遊びで、政府が作った冒険遊戯公式シナリオを作って遊んだり、個人が作った下劣畜生設定のシナリオを使って遊ばれています。


 これもまた、冒険者育成のための遊戯です。


 公式ルールに冒険者になった後に役立つ基礎知識などを盛り込んだり、現実でも危険な行軍方法を取ると全滅しやすいルールを制定し、子供の頃から冒険者としての知識や嗅覚を養ってもらうために作った遊びでもあります。


「ボク達も赤蜜園時代はよくやったよねぇ」


「ああ……冒険者志望は、メーヴ特製のをよくやらされたな……」


「鬼畜難易度だったね」


「日に日に上がる難易度……道具無しで無人島から開始……いきなり竜種に遭遇……出目次第で行動が荒ぶる発狂者の護衛……仲間の中に人殺しの裏切り者がいる……カレーに毒が混ざっている……ゲートの無い都市で魔物の大群に囲まれて数百以上の市民を守らないといけない……死ぬとオヤツが減る……」


「やめて、ボクもう思い出したくない」


 二人は頭を抱えて震えました。


 何度も理不尽難易度を経験させられ、ささくれだった二人の心はフェルグス家で行われた一般的な難易度のシナリオを前にしても癒やされる事はなく、ルールブックを熟読し、酷く虚ろな目で石橋を叩いて渡る以前に近づかず、安全安心固定ダメージで立ち回り、水攻めを提案し、最後は「こんなやさしい難易度ありえない!」と発狂し、揃って「グエエエ!」と気絶しました。


 進行役のパリス少年は可哀想なものを見る目をしつつ、そっと目を逸し、「セタンタ、マーリンはバナナの皮にやられて滑落死……」と粛々と処理しました。




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