フェルグスの師匠
「ギャアアアアアア!」
セタンタ君の骨が折れる寸前まで軋みました。
軋ませている張本人は「大人しくついてくる気になりましたか?」と囁き、セタンタ君は痛みで涙浮かべながら「ギエエエエ! わかった! ついてく! ついてくから!」とタップしてギブアップしました。
セタンタ君がこんな目に会う半日ほど前。
彼は鼻歌混じりに首都の街並みを歩き、仕事休みを満喫していました。
ただ、この日は狩りをする予定にしていました。
街中で行う狩り――ガールハントです!
セタンタ君はマセガキで、たまに女の子を引っ掛けて過ごしているのです。マセショタ、プレイボーイ系ショタなのです。
ガキといっても14歳で基本的に成人となるこの国において15歳の彼は一応は成人男子でしたが、セタンタ君に限らず同じ年頃の子らは子供扱いされがちです。
そんな事情もあり、街中で「へい彼女!」とナンパを決行したところで「あら~、カワイイボクちゃんね」と言われてしまうのが普通です。
実際、セタンタ君と同じく休日を楽しんでいる大人のお姉さんには苦笑されながらたしなめられました。……が、この流れはセタンタ君も予想済み。
普段は出さないような媚び媚びの声で「純朴ショタ」を装い、お姉さんの「ショタ萌え魂」をくすぐり、お茶に誘いました。
お茶している間も相手に疑われない程度に媚び、無害を装い、同時に露骨ではない程度にお姉さんを褒めちぎりました。
人間、他人相手でも褒められると満更では無いものです。
気を良くしたお姉さんはセタンタ君の好印象を深めていき、口はどんどん軽くなり、やがてお茶の次にとっかかりになる話題をセタンタ君に掴まれました。
「最近は印探しにハマってるかなー。子供の遊びだけど、ついつい……」
「そうかな? 大人でも結構ハマってる人、多いよ。それ専門で探してる人が集って情報交換している喫茶店や酒場もあるしね」
「え、そうなの?」
「店の名前と住所教えるよー。あ、印探しと言えば……首都7丁目の特定条件下でしか出現しない印があるって知ってる? 見つけるの少し難しいけど」
「えっ、それも知らない……近所だからもう大分探したんだけど……」
「今から行くと丁度いい時間かな……一緒に見に行こうよ、案内するからさ」
「うん、行く行く!」
セタンタ君はにこやかに笑いつつ――内心では自分の手のひらで事が運んでいるのでほくそ笑みつつ――案内を買って出ました。
印探しとは、バッカスの王様が茶目っ気きかせて作っている遊びです。
バッカスの都市の壁や道路など、安全なところに特徴的な印を作り、どんな印があるかを公表して皆に探させるのです。
印の場所は一年単位で変更され、印があった場所を最初に全て見つけた人にはささやかな賞金が出る事になっています。
宝探し、あるいはエッグハントのような遊戯ですね。
元々は子供好きの王様が子供向けに趣味でやり始めた事でしたが、大人にもハマる人がおり、シーズンごとの最初の到達者が誕生するまで、よく血眼になって街を練り歩いている大人の姿が見受けられ、子供達も引いているという風物詩も存在しています。
大人が大人気なく大人の情報収集能力を発揮し、「オラァー!」と雄叫びあげた大人ばっかりが最初に全て見つけてくる事にゲンナリした王様が「大人の部、子供の部にわけましょ……」と決意するほど、大人にもハマる人がいる遊びなのです。
セタンタ君は会話のネタに仕入れていた特定条件下でしか見つからない印――構造物に当たった陽の光により、影としてしか出てこない印の場所をお姉さんに教えつつ、印探し達が集う酒場にお姉さんを案内しました。
お姉さんはセタンタ君の話術と場の空気で上機嫌。ほどほどにお酒を飲みつつ、すっかり日も暮れたので店を出る事にしました。
セタンタ君はそこで「今日は楽しかったよ~」とお姉さんとサヨナラしかけ、寂しげな顔をしつつ、帰ろうとしたお姉さんの服の裾をそっ……と掴みました。
「お姉さん……」
「どうしたの……? 大丈夫……?」
「お姉さんのおウチ、行っちゃだめ……?」
お姉さんは驚きつつ、寂しげな少年に母性本能をくすぐられました!
しかし騙されてはいけません! 半日かけて距離を縮めたセタンタ君は孤独ショタを装ってるだけで……ああ~! ダメです、お姉さんダメですよ、そんなドキドキしつつ、セタンタ君をギュッと抱きしめて「いいよ」と言っちゃいけません。
セタンタ君は「堕ちた……」とほくそ笑み、お姉さんの背中に手を回し、お姉さんの後方からやってくる人物に「ヒッ!」と悲鳴をあげました。
黒髪巨乳のエルフのお姉さんが、「コラ、セタンタ君」と言いつつ、武人のような足運びで近づいてきていたのです。
セタンタ君は「やべえ!」と叫びつつ、お姉さんから離れ、全力で身体強化魔術を使ってその場を離脱――逃走を図りました。
が、構わず追ってきた黒髪巨乳のエルフさんに追いつかれ、捕まり、後ろ腕を取られて「ギャアアアアアア!」と叫び、屈する事になったのです。
「また純粋な乙女を引っ掛けて、お宅に上がり込もうとしていましたね?」
「ひぃぃ、痛い……合意の上だからいいじゃん!」
「そこから結婚を前提としたおつきあいをするなら、私も目くじら立てません。キミの場合、同じ事を十人近くやって、あちこちに恋人作ろうとするから私も見かけた以上は捨て置けず、毒牙が突き刺さる前に止めに来たのです」
「ごめん、さっきので二十人目イタタタタ!」
「少年がそんなヤリチンのような事はしてはいけません」
「フェルグスのオッサンなんか色んな人と関係持ってるだろーーー!?」
「ウチの夫の場合、関係持つのは家族なので。結婚を前提とした付き合いをしつつ、合意取れればガッツリ孕ませてくるので良いのです。責任を取れるのであれば、私は一夫多妻でも構わない派ですよ」
「そんなー!」
セタンタ君が邪悪なプレイボーイになろうとしていたのを止めた黒髪巨乳のエルフさんはセタンタ君の首根っこを掴み、「話の続きはウチでしましょう」と告げ、連行を開始しました。
彼女の名前はエレインさん。
フェルグスさんの奥さんの一人で、彼の剣と戦いの師匠さんでもあります。
御年400歳ほどですが、エルフ種は長寿であり、セタンタ君のようなヒューマン種基準の容姿では20代そこらの美人のお姉さんに見える方です。
セタンタ君の事も小さい頃から知っており、彼が「遊び人ではなく器の広い真人間になりますように」と祈りつつ可愛がったり、孤児のセタンタ君をフェルグスさんと共に養子縁組にしようとした事もある方です。
エレインさんとしては母親代わりになってあげれたらな、と思っていたのですが、今の二人の関係は年の離れた姉弟のように見えます。
「ヤダヤダヤダーーー! 説教はヤダーーー!」
「もう、暴れるとドブに捨てますよ?」
「ギエエエエ!」
悪ガキと怖い近所のお姉さんの方が正しいかもしれません。
「私はですね、暴力振るいつつセタンタ君の将来を危惧してるのです」
「暴力振るいつつって言っちゃったよ」
「キミが年上スキーなのは知っていますが、誰かれ構わずつまみ食いしてると、いつか天罰が下りますよ。痴情のもつれで脇腹を杭で刺されるとか……」
「具体的な天罰だなぁ」
セタンタ君はお説教されつつ、フェルグス家へと連行されていきました。




