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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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アルトリウスの誘い


■前回のあらすじ

 セタンタ君達が夜の森で危うく死にかけ、なんだかんだあってロムルスさん達となんだかんだで砂漠の採掘遠征に行く事になり、ロムルスさんの妹の幼女・アンニアちゃんは「おみあげ~! おみあげはお肉ね~!」と叫びながら遠征隊を見送った後、ムフムフと上機嫌でお家へと帰っていきました。

 翌日もその翌日も友達と遊び、別のグループの子達と遊び場を巡ってナワバリバトルしつつ、負けそうになったら泣きべそかいて「ふぇ~! かりちゃ~ん!」と従姉妹に助けを求めに行く面白おかしい日々を過ごしていました。

 とても楽しい日々だったのですが、お兄ちゃん達が帰還予定日になっても一向に帰ってくる様子が無く、砂漠の都市まで「にいたーん……」とお兄ちゃん達の姿をてくてく探しに行ったり、小雨降る中で傘をさして家を飛び出し、「ロムに~た~ん! レムに~た~ん!」と涙目でお兄ちゃん達の姿を探し求めていました。

 ロムルスさん達――というかセタンタ君達は何かデカい蛇を目撃したり、色々やってて大変なので帰れなかったのですが、まだちっちゃなアンニアちゃんはお兄ちゃん達に全然会えないのが辛くて辛くて、寂しくて寂しくて泣いちゃう日々を過ごしていました。

 見かねたアンニアちゃんのパパが「美味しいものを食べさせてやろう!」と言い、アンニアちゃんは涙目で膨れました。「あんにゃはたべものさんには、つられない!」と言ってツンとしつつ、匂いにつられて家の食堂に突撃すると、そこにキロ単価1万ほどの肉がこんもりと積み上がっており、キラキラした目で「ふぇー! おいししょ~!」とお肉を牛一頭分ほど食べ続け、トコロテン式にお兄ちゃん達の事を忘れ、食事に没頭しちゃいました。

 なんだかんだで帰ってきたお兄ちゃん達を見ると、「あれっ、にーたん達だ。どこをほっつきあるいてたのん?」と頭をひねりましたが、「まー、いいやっ」とニコニコ笑い、お兄ちゃん達にたっぷり甘える日々を過ごし始めました。

 一方その頃、セタンタ君はグラム単価タダの肉を獲るため、マーリンちゃんとパリス少年とせっせと都市郊外へと繰り出していました――――。





 ある日の夕暮れ時、セタンタ君がフェルグスさんと連れ添って歩いていました。


「すまんな。手間を取らせる」


「いいよ、別に。カラティンに誘われた時と同じみたいなもんだろ?」


「同じ大手クランには違いないが……まあ、取るべき対応は同じでいい。遠慮せず断れ。包まず言うと、お前にあのクランは合わないだろう」


「だよな、俺もそう思う。そもそも向こうも何で手のひら返してきてんのか、俺にはよくわかんねーよ」


「それだけ買われるようになった、という事だ。そこは喜んでおきなさい」


 そんな会話をしつつ、やってきたのはとある冒険者クランの事務所でした。


 クランの名を円卓会。


 冒険者の互助組織、クランの中でも「五大クラン」として数えられるだけの勢力を誇るところで、今日はそこフェルグスさんを経由して呼びつけられていました。


 呼びつけられたものの、フェルグスさんは途中で引き離されました。


「フェルグス様はこちらでお待ちください」


「同席させていただきたいのだが」


「アルトリウス総長の指示です」


「総長が呼んだのは、そちらの少年です」


 甲冑を普段着のように着込んだ冒険者達に止められたフェルグスさんは小さく溜息をもらし、引き離されたセタンタ君は「いいよ、行ってくる」と言いたげに軽く手をあげ、一人だけ事務所の奥へと通されていきました。


 通されたのは大きな円卓が置かれた会議室で、出入り口から最も遠いところに機嫌良さそうにセタンタ君を見ている男性の姿がありました。


 円卓会の総長、アルトリウスさんです。


 先日、豪雨と豪雷降り注ぐ群峰における遠征でセタンタ君と出会い、雷に打たれながらもしぶとく生き残った方で、セタンタ君を呼びつけた張本人です。


 二人の部下も着席させて侍らせつつ、セタンタ君にご機嫌で声をかけました。



「よくぞ参った、若き冒険者セタンタ」


「どうも……です。今日は何の御用ですか」


「フェルグス殿から話は聞いているだろうに。フン、まあいい」


 座れ、と総長さんは椅子を指差しましたがセタンタ君は応じませんでした。


「我が軍門に下り、円卓会に入れ、セタンタ」


「いまはどこのクランにも入るつもりはありません。一匹狼を気取ってるクソ生意気なガキなので、加入したら円卓会に多大な迷惑がかかると思います」


「私はお前を高く評価している。お前にとっても悪い話ではあるまい? 円卓会はバッカスでも指折りの名門クラン。孤児院出身のお前が総長である私直々の! 直々の誘いにより、円卓会に加入出来るのは大変名誉な事なのだぞ?」


「前に会った時は、寄生だとかゴチャゴチャ貶されてた覚えがあるけどなー……」


「はて? そのような事は言った覚えがないな?」


 思わず顔を歪めて小声で呟いたセタンタ君に対し、総長さんはとぼけ顔で呟き返しつつ、「お前が勝手にこちらの発言を悪い方向に勘違いしたのだ!」とものたまい、平気な様子で言葉を続け始めました。


 五大クランの総長ともなると、これぐらいの図太さは必須技能なのかもしれません。この方の場合、単に無神経なだけですが。


「お前の事は、こちらでも少しだけ調べさせてもらった。母親と弟と共に暮らしていたものの、五歳の時に難民としてバッカス王国へ来着。六歳の時に私営孤児院・赤蜜園に入り、冒険者としての技能知識を学び、現在は槍を得物に戦っているが剣を始めとした多彩な武具の扱いも習得済み。魔術はルーン魔術を基礎に行使し、空間転移魔術すら修める万能選手オールラウンダー。孤児院を出た後はフェルグス殿に付き従い、各地を転戦。天魔の単独討伐経験もある才気あふれる若者――」


「よく、調べてるな」


 褒められたものの、あまり触れられたくない個人情報まで調べられているためにセタンタ君は冷めた目つきへと変わっていきました。


 真逆に楽しげな様子になっていく総長さんを蹴りつけるために円卓に飛び乗り、一直線に走っていく想像も過りましたが、同時に「不可能だ」とも思いました。


 そう結論付けるほど、総長さんが侍らせている冒険者二人が強いのです。


 軽くひねられるのがオチ。そもそもここで短気を起こしたら、またフェルグスのオッサンに迷惑がかかる――とセタンタ君は考えながら堪えました。


「私は才能ある者が好きだ。その意味では、お前に合格点をやろう」


「それはどうも」


「ゆえに、私自らがお前が我が円卓会に入れるよう、推挙してやる。バッカス最古のクランにして最強格として名高い円卓会に入れるのだ。もっと喜べ」


「結構です」


「単に円卓会に入れるわけではないぞ? 好きな隊に入れてやる」


 そう言いつつ、総長さんは抱擁でもするように大きく両手を開きつつ、その手のひらで両隣の席に控える配下の冒険者二人を指し示しました。


「お前も一端の冒険者であれば、この二人の事――ランスロットとガウェインの事は知っているだろう。円卓会最精鋭……いや、バッカス冒険者の中でも最精鋭の二人のうち、どちらかの下に就き、第一線で学ばせてやる。特別に許す」


「…………」


「お前はまだ年若く、この二人と比べれば弱い冒険者だ。だが将来的には凌駕しかねないほどの才能に恵まれている。これほどの礼を尽くして円卓会に人を招くなど、私の代ではお前が初だ。光栄に思え」


 アルトリウスさんは誘う側ながらも、高圧的な態度を崩しませんでした。


 それが許されるか否かはともかく、大言を壮語するだけの背景はありました。


 円卓会は単に「冒険者クランの中では五大勢力の一つ」というだけではなく、古い歴史を持ち、それに恥じないだけの武力も持ち合わせているクランなのです。


 特に「装甲術」と呼ばれる甲冑を媒介とする魔術を使った重装部隊による正面突破力には定評があり、広いバッカスでも「装甲術と言えば円卓会」と多くの人々が口にするほど腕利きの戦士を揃えているほどです。


 ただ、それはあくまで円卓会という組織が築いた評判であり、世襲で継いだアルトリウスさんが鼻にかけても鼻で笑われそうな事なのですけどね。



「どんな条件を提示されようと、円卓会に入る気は無い、ですよ」


 セタンタ君は踵を返し、会議室を出ようとしました。


 そもそも最初から断る腹積もりだったので、ろくに会話もせずに帰るようです。


「ふむ、これは……フェルグス殿との取引も考えなければならないな?」


「…………」


 投げかけられた言葉に、出ていこうとした少年はピタリと立ち止まりました。


「先程も言った事だが、重ねて言おう。お前の事は、こちらでも少しだけ調べさせてもらった。それはお前の交友関係も含めての話だ」


「…………」


「孤児であったお前に、家族同士の繋がりはもはや存在しないが、クアルンゲ商会……フェルグス殿達とは、家族のように親しく付き合っているのだろう?」


「…………」


「そのうえ、お前は孤児院を出た後に金を稼ぐため、フェルグス殿にかなりの無理を言って彼の相方としてもらった。それが務まるだけの実力は確かにあったのだろうが、それでも大恩ある相手である事には違いない」


「…………」


「円卓会はバッカスでも指折りの名門クラン。クアルンゲ商会には酒保事業でかなりの金を落としている。……お前の返答次第で彼らの売上が下がりもするし、上がりもするかもしれんなぁ……?」



 アルトリウスさんは嫌らしい笑みを浮かべました。


 セタンタ君は、憎々しげな顔で振り返りました。


 振り返って、正面から見つめて――迷った末に返答しました。




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