行きて帰りし冒険者達
バッカス王国の首都のとある街角にてセタンタ君が立っていました。
誰かを待っているようでしたが、やがて視線の先に待ち人を見つけたようです。
「マーリン。遅いぞ」
「ウソだぁ、ボクはちゃんと時間厳守で来たもん。けっして立ち寄った女子トイレが混んでて遅れたりしたわけじゃないんだよ」
「俺はお前が面倒くさがって男子トイレ入りそうで心配だよ」
「うへへ、その手もあるねぇ」
セタンタ君は「まあ、とりあえず行こうぜ」とマーリンちゃんを呼びました。
マーリンちゃんはニッコリ笑って頷き、トタトタとセタンタ君の後をついて歩きはじめました。どうも二人でどこかを目指しているようです。
「ボクも一緒に行くけどさ、基本的な説明はセタンタがしてよね」
「何でも一つ言うこと聞いてやるから、お前が話しかけてくれよ……」
「…………いやいや! ダメだよ? 自分のお尻は自分で拭きなさい」
マーリンちゃんは一瞬迷いましたが心を鬼にしました。
セタンタ君はまだウダウダと交渉を続けましたが、マーリンちゃんはピシャリと「付き添いだけね」と言い、そんな会話をしてるうちに目的地に到着しました。
クアルンゲ商会の商館です。
酒保部門の代表である奥さんとお話していたフェルグスさんが二人がやってきたのを見て、こっそりと二人が目指すところへ行き、聞き耳を立て始めました。
「お……おーい、パリス」
「…………」
セタンタ君はクアルンゲ商会で働いていたパリス少年に話しかけました。
パリス少年は運び終わった荷物を前にチェック用の書類に記入していました。セタンタ君の声を聞き、少しだけ顔をあげましたが、ムッとした表情でまたお仕事へと戻っていきました。
「おーい、パリス様よ」
「なんだよっ! 人が仕事中なのに冷やかしにきたのか?」
「違う違う。お前、そろそろ昼休みだろ? 三人でメシ食いにいこうぜ」
「何でお前らとメシ食いにいかなきゃダメなんだよ。オレ様は忙しいんだ」
「今日はもう午前中で仕事上がりで、昼からエレインさんが稽古つけてくれるんだろ? それまでメシ食いに行く時間ぐらい十分あるだろ」
パリス少年は怪訝そうな顔で「そうだけど、何でお前が知ってるんだ?」と聞きましたが、セタンタ君は誤魔化しました。
「俺とマーリンで明日、日帰りで冒険に行くんだけどさ」
「なんだよ、自慢か」
「いや、良かったらお前も一緒に行かないか? その、約束しただろ?」
「…………興味ない」
パリス少年は意地を張り、背中を向けました。
セタンタ君はかける言葉に惑い、困り、小さく呻いています。
それを見たマーリンちゃんは「仕方ないなぁ」とばかりに喋り始めました。
「パリス、セタンタは砂漠での件を気にしてるんだよー」
「ふーん」
「だから、仲直りも兼ねて一緒に冒険に行かない? パリスの訓練にもなるよ」
「別に、そもそも最初から仲なんて良くないだろ」
パリス少年は背中を向けながら、ポツポツと喋りだしました。
「砂漠の事だって、オレが勝手に舞い上がって、勝手に先走った事だって……お前らも思ってるんだろ?」
「え? うん」
パリス少年はムッ! としてマーリンちゃんを振り返りました。
そして顔を赤くして苦々しく「ああ、その通りだよ!」と声を荒げました。
「もういいんだよっ、自分が、お前らと違うことなんて、ホントはわかってるんだ。オレ様はオレ様で勝手にやるから、もう放っといてくれっ」
「セタンタはそれはちょっと嫌なんだって。ボクもパリスと一緒に冒険行きたいなぁー。あと、明日行くとこはそんな危ないとこじゃないから大丈夫だよ」
「うっせえ、もう帰れよ」
「郊外を回ってちょっとお肉を取ろうとセタンタが企画してくれたんだ。この間、魔物の痕跡についての勉強したでしょ? その応用にもなるよ」
「興味ない」
「冒険から帰って来たら、夕飯として自分達で取ったお肉を焼肉するの。郊外の風景と夕焼けや星空見つつ、炭火で贅沢に食事できるとこがあるんだよ~」
「……きょ、興味ない」
「一緒に食べるならパンよりご飯がいいかな? その場で炊飯して、肉汁ごと焦がされたお肉で……こう、白米を、くるんと巻いて食べちゃうの」
「…………」
「美味しいけど少し脂っこいかもだから、炭酸の実とか持ち込もうと思ってるんだよね。お水に入れて炭酸水にして、脂っこくなった口の中を炭酸水で洗い流していけば、シュワシュワとしたら……もういくらでも食べれちゃいそうだよね」
「…………」
「魔物倒したらお肉剥がないとなんだけど、そこで解体作業を教えたり出来るね。上手く解体出来ると同じ部位でもより高価に売れるから、お金稼ごうと思ったら解体技術も覚えていってもまったく損が無いよ」
「…………」
「単なる焼肉だと寂しいから、ボクが特別なメニューを用意しちゃおうかな」
パリス少年が、ギクシャクとした動作で振り向きました。
「……特別なメニュー?」
「肉料理だよ」
「肉料理」
「その名も、粗挽き炭火焼きハンバーグ」
「粗挽き、炭火焼き、ハンバーグ……!?」
パリス少年は呻きました。
炭火の焼肉ならフェルグスさんに奢ってもらった事があります。
ただそれだけでも美味しかったのに、その炭火で粗挽きのボリューミーなハンバーグを食べる事になったら、いったいどんな美味が完成するのでしょう。
マーリンちゃんはニヤリと笑いつつ、追い打ちをかけました。
「みみっちい大きさのハンバーグじゃないよ? 頑張り次第でどんなサイズでも作れる。巨大でも炭火の熱が行き渡るよう、ボクが調理魔術を使うのも手だね」
「…………!」
「その辺の詳細について、お昼食べつつ相談したいな~と思ったんだけど」
「わかった、待ってろ、もうちょっとで仕事終わるから!」
パリス少年は慌てて、小走りに商館の事務室へと向かいました。
セタンタ君はホッとしたような、呆れたような表情でマーリンちゃんを見て、「口達者だなぁ」と言い、マーリンちゃんはフフンと笑いました。
「まったく全然、一つもウソは言ってないよ?」
「まあそうだけど、魔物肉が全然取れなかったらどうするんだよ」
「その時は買って、足せばいいじゃん」
「そりゃそうだ」
本質的な味はそこまで大差が無いかもしれません。
でも、自分で獲ったものなら喜びもひとしおかもですね。
その辺がどうなるかは三人の頑張り次第です。
二人が談笑しながら待っていると、商会の人達に微笑ましそうな笑みで見送られ、パリス少年が戻ってきて、「早く行くぞ!」と二人を急かしました。
「どこに行くんだ!?」
「お前の行った事が無いところさ」
「未踏の地か……ワクワクするな」
「セタンタが主に頑張ってくれるから、ボクらは高みの見物だよー」
「いや、マーリンも働かせるからな。パリス、お前にも頼みたい事がある」
「おう、任せとけ」
行きて帰りし冒険者達は、次の冒険の算段を話し合うべく、三人でワイワイ騒ぎながら食堂への道を歩いていきました。
いずれ道を違える事になるのですが、それでも今は、三人一緒に歩き、未来への展望を語り合っていました。
二章はこれにて終了です。三章も1、2ヶ月中にまとめて投稿出来ればと思っています。異世界職業図鑑の週五更新の方が優先ですが……。
三章は「冒険者の訓練」などを予定しています。
修行回です。修行するのはセタンタ君じゃありませんが。




