事後報告
エルミタージュ奪還の翌々日。
とある建物の一室に猫系獣人の女の子の姿がありました。
「そんなこんなでエルミタージュは奪還され、現在復興中です」
「そう。マーリンちゃんもお疲れ様。事後の調査も疲れたでしょう?」
「くたくたですっ」
あんまりくたくたには見えない様子のマーリンちゃんが笑いました。
それを見た銀髪の小さな女の子が穏やかに微笑みました。
マーリンちゃんがいるのは、まるでお城の謁見の間のような場所でした。
マーリンちゃんの視線の先にいる銀髪の女の子はちょっと大きめの玉座のような椅子にちょこんと座り、マーリンちゃんの話を聞いています。
銀髪の女の子の傍らには美老人という形容が似合いそうなエルフの老爺の姿があり、マーリンちゃんの少し後ろには大柄の男性の姿がありました。
「でも、ごめんなさい、魔物の親玉の方は逃しちゃいました」
「マーリンちゃんの所為では無いわ。通常とは違う動きをする魔物だったし……大きさだけを聞いても、戦士団一つ二つではどうにもならなさそうなものだったから……。いつもの事だけど、嫌な時に駒を動かしてくるわ、神様は」
「騎士団での対応許可さえ取れれば、何とかしてみせるのですが……」
マーリンちゃんの後ろにいた大柄の男性が言葉を漏らしました。
「許可申請だけはしてみたんですけどね。でも、予想される被害が被害だけに一時抜刀許可ぐらいは下りるかもしれません。備えはしておいてください、騎士団長」
「はっ」
大柄の男性が礼をし、マーリンちゃんが入れ替わりに口を開きました。
「海上での捜索はどうなったんですか?」
「ブロセリアンド士族の戦士団が動いてくれているのですが、何も。マーリンちゃんが報告書に書いてくれていた推測通りの逃走経路かもしれないわ」
銀髪の女の子の言葉に、マーリンちゃんが「むぅ」と唸りました。
「デカいのに追えないって、怖いなぁ……。都市奪還前に何度か隠れているはずの渓谷地帯も調べたんですけど、あの巨体で全然痕跡が残って無かったってのはもう、逃走経路はともかく異能は確定の気がします」
「そうね。空も気をつけなきゃダメね」
「下も十分に気をつけろ」
銀髪の女の子の傍らに立つエルフの老爺が重々しく口を開きました。
「痕跡が残りにくく潜りやすい場所が、直ぐ傍にあったのだから」
「うぇぇ、怖い。あっ! それと政務官長様、例の音の件は」
「まだ調査中だ。ロムルスも砂漠に戻って調査に加わっており、そこで少なくとも一体は群れから逸れた……お前達が戦った毒の血を持つ魔物の死体が見つかった」
「場所は」
「渓谷地帯の東、砂原の中で干からびつつあった。ただ、他とは少し違ったのが同種にはない特殊器官があった事だ。渓谷地帯は早々に去り、東側に逃げつつ配下の魔物に伝達の中継をさせていたという説は、あながち間違いでは無いかもしれん」
「うぇー……ますます捉えにくくなりそう。ペイルライダーじゃあるまいし」
「アレと同種の異能を持つ可能性も捨てきれん」
「それどころではない異能を持つ魔物かもしれないけどね」
銀髪の女の子がポツリと「何せ、レイラインを食べるほどだし」と呟きました。
マーリンちゃんは、おずおずと心配そうに問いました。
「食べて、何をしてたんでしょ」
「まだわからないわ。神様は自分の身体をかじられていたようなものなのに黙秘してるし……一応、食べられたところは治ったみたいだけれども」
「エルミタージュのゲートが不通になったのも、それが一因なんですよね?」
「ええ。マリアの子がイタズラした事が最終的なトドメになったけど、子供のイタズラだけで壊れるほどやわな作りにはしてないもの……」
銀髪の女の子は憂鬱そうに溜息をつき、話を切り上げる事にしました。
「ともかく、まだ色々わからない事だらけ。雨雲を造った騒乱者の事も含め、今後も調査続行しつつ対応していきます。マーリンちゃんにも色々とお願いする事になっちゃうでしょうけど……ごめんなさいね」
「ううん、いいの、おかあさんの仇を討たなきゃだし」
銀髪の女の子はマーリンちゃんの表情を見ました。
見つつ、無理して微笑んで「無茶しちゃダメよ」と言いました。
「この話はこれでひとまずおしまい。マーリンちゃんはデートの約束があるでしょう? 待ち合わせに遅れちゃダメだから、そろそろ行ってきなさいな」
「で、デートじゃないもん……」
「でも、男の子と街を歩くんでしょう?」
「お、男の子と街を歩くぐらい、そこまで珍しい事じゃないもん……それにお昼は三人の予定だし? 別に改めてどうこういうことは~……」
マーリンちゃんはモジモジと言い訳しました。
それを見た銀髪の女の子の頬が自然と緩みました。
「気をつけていってらっしゃいね。転ばないようにね」
「ボクもうそんな子供じゃないもん。大人ですよー?」
「私から見たら赤ちゃんみたいなものよ。気をつけて楽しんでらっしゃい」
「はぁい、魔王様」




