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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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冒険者の死



「……何が起こっている」


『わ、わかんない! ああ、でも、反転してくる前になんか声みたいのを観測魔術が捉えたかな! 出処は不明だけど、多分――』


「例の大蛇か」


 ロムルスさんが表情を歪めました。


 魔物は基本的に人を見たら一目散に追ってくる行動を取りがちですが、中には群れのボスの指示に従い、基本通りには動かない特殊なものもいます。


 マーリンちゃんの聞いた声がそのボスのものだったのかもしれません。


 真偽はともかく、確かなのは魔物が一斉に行動を変えた事です。


 この場に残るなら対応しなければなりません。


 群れの矛先は、全てロムルスさん達に向かう事になるでしょう。


「マーリン嬢、復旧は」


『もうちょっと耐えてって』


「そうか。すまないが弟とセタンタには死守するよう伝えてくれ」


『了解……』


 マーリンちゃんはレムスさんとセタンタ君にも連絡を取りました。


「しゃあねえ……マーリンは程々のとこで飛んで逃げろよ」


 マーリンちゃんは無視しました。


 無視して、自分に出来る事を続ける事にしました。


 セタンタ君は溜息をつきつつ、「まあ死んだ時は死んだ時でどうにでもなる」と呟きつつ、転移して魔物の群れの機先を挫きにかかりました。


 レムスさんも魔物の前に飛び出しつつ、勢い良く長柄の鎚を振りました。


 一匹の魔物が、べこんと頭を砕かれ、噛んでやろうと飛びかかってきた魔物がアゴを蹴られて強制的に閉じられた上に回転しつつ他の魔物を巻き込んで転び――窮地だというのに心底楽しそうに大笑いしながら魔物を撲殺し続けています。


「オラオラどうしたどうした! 自慢の毒も、斬られなきゃ出ねえだろ!」


 魔物が吐血し、血がレムスさんの股間にかかりましたがレムスさんが瞬時に魔術で強化した自分の爪で股間をえぐり取り、直ぐに再生させました。


「いてえな畜生! 遊ぼうぜ畜生! 問題はジリ貧過ぎる事だ、なッ!」


 また一匹、二匹、三匹と殺していきましたが……実際、ジリ貧です。


 魔物の数が一気に増えすぎて対応しきれず、レムスさんも後退していきます。


 犬歯剥き出しで楽しんでますが、どうしても相手が多すぎます。脳内麻薬ドッパドパのレムスさんなので押し切られ殺される時も笑顔でしょう。


『ロムルスさん北も対応出来る!? 100体ほど回り込んできてる!』


「了解、射線は通る。ゴーレムは……骨の方は打ち止めだ」


 最後のボーンゴーレムが盾ごと群れに押しつぶされるのを知覚しつつ、塔に登り、ほぼ間断なく速射を続けるロムルスさんが少し移動し、壁に穴を開け、そこに片足突っ込んで足場とし、結構無茶な姿勢で射ち始めました。


「やはり交信魔術は便利だな。私も覚えたい、生きて帰れたら覚えよう」


 ロムルスさんが呟きながら射撃を続け、それに加えて都市内に敷設した罠で魔物の群れをまとめて殺しました。殺した数より増援の方が遥かに多いです。


 多すぎて捌ききれず、やってきた魔物達が塔に爪を立て登って来ようとしたり、何匹もが体当たりで塔を壊そうとしています。揺れでさすがのロムルスさんも狙いを外しましたが、それでも矢を放ち、全員の援護を続けました。


 焦ったのはレムスさんでした。


「兄者があぶねえ! 兄者ー!」


『レムスさん左!』


「お?」


『そっち右!!』


 右を見ていたレムスさんの裏拳が左の魔物の鼻面をバッキバキに粉砕しました。


「兄者、いま行くぞー! っていてて! 邪魔だくそ、食らいつくな!」


『レムスさんが自分の事なんとかしろって――ぬわわわあああ!?』


 マーリンちゃんが悲鳴をあげました。


 同時に、数が多すぎて位置情報を処理しきれず、バリケード越しに魔物に囲まれ始めたようです。噛みつかれてはいませんが、修羅場です。


 ロムルスさんがマーリンちゃんの援護をしつつ、叫びました。


「レムス! セタンタ! 彼女を守れ!」


 セタンタ君は魔力不足で身体異常が発生し、血を吐きつつそれを聞きました。


 急いで魔力補充用の魔薬を飲み――全て飲みきる前に飛んできた魔物の爪に薬を砕かれ、悪態をつきながらふらつき、転移しようとしました。


「セタンタ、俺も転移させてくれ!」


「無理ッ! デカすぎる!」


「じゃあちっちゃくなる!」


「どうやって!?」


「こうやるんだ、こっち来い!」


 レムスさんは都市中央の空に向け、鎚を投げました。


 その直ぐ後、自分の首を、自分の爪で切り飛ばしました。


 転移してきたセタンタ君は突如、自殺を図ったように見えるレムスさんにギョッとしつつ、意図を察して飛んだ人狼の生首を掴み、中央に転移しました。


「待たせた……!」


「セタン――なにそれっ!?」


 マーリンちゃんはレムスさんの生首を見てビビり、ちびりました。


 が、セタンタ君は放置して上空に生首を放り投げました。


 放物線を描き、落ちてきたレムスさんの長柄の鎚に向けて。


「復ッ! 活ッ!」


 再起リザレクション


 レムスさんが再生の炎と共に首から下を生やし、鎚を掴んで振り下ろしました。


 セタンタ君に空間転移させてもらうために自分の首を自分で落とし、小さくなり、転移後に人狼の再生力で無理やり身体を再生させたわけです。


「ハハハハハ! どうだこの賢い戦法!」


「「ドン引きだよ!」」


 カンピドリオの人狼は大半が頭のネジが飛び気味です。



 セタンタ君とレムスさんは戦いの場を中央広場に移しました。


 もう、後退出来るだけの陣地がありません。


 転移したところでそこかしこに魔物がいます。


 ロムルスさんもついに倒れた塔から飛び、中央に戻ってきました。


「進捗は?」


「秒読み!」


「そうか」


 ロムルスさんはマーリンちゃんに宝玉のようなものを投げ渡しました。


 それは、アイスゴーレムのコアでした。


「マーリン嬢、あとは頼む」


「…………!」


「レムス、セタンタ、あと一踏ん張りだ」


「「応ッ!」」


「すまん、死兵となってくれ」


 レムスさんとセタンタ君は、最後はもう言葉の代わりに行動で応じました。


 マーリンちゃんはロムルスさんが最後に残していたアイスゴーレムのコアを手に、泣きべそかきながらオークさんのところへ駆け寄りました。


「セタンタ、あとでねっ!」


「ああ、またあとでな!」


 セタンタ君がマーリンちゃんに不敵に笑いかけました。


 そして、横合いから突っ込んできた魔物に轢かれました。


 即死でした。



「……………」


 マーリンちゃんはその光景を見つつも、涙ぐみつつも唇を噛み、ロムルスさんが技師の人の力を借りて調整していたゴーレムコアを起動させました。


 コアはマーリンちゃんと復旧作業をしているオークさんを囲む形で、氷の防壁を構成しました。


 ロムルスさんが親方さんから買い上げ、妹さんを喜ばせるためのカキ氷機の材料に使おうとしていたコアだったのですが、マーリンちゃんとオークさんを守る最後の防壁として使われる事になりました。


 堅牢な氷の防壁です。


 それでも長くは持ちません。


 しかし、マーリンちゃんは必死でそれを維持しました。


 こわいこわいこわいと死の恐怖に怯えつつも、オークさんを守りました。


 首があらぬ方向に曲がっているセタンタ君が踏み潰され、砕けました。


 レムスさんとロムルスさんは再生能力に物を言わせ、戦い続けています。


 レムスさんは最期まで笑い続け、戦い続けました。


 ロムルスさんはマーリンちゃんとオークさんを囲う氷の障壁を出来るだけ守り続け、最期はレムスさんと同じく毒を浴びて動かなくなりました。


 カンピドリオの二人とも死にました。


 セタンタ君も含めば、三人とも死にました。


 マーリンちゃんは唇を噛んだまま泣き、自分の仕事を続行しました。


 障壁の外では魔物がひしめき合い、爪牙を立て続けています。



「……復旧した、行くぞ」


「…………」



 マーリンちゃんはオークさんの言葉に無言で頷きました。


 頷きつつ、交信魔術による合図を送りました。


 直ぐには、何も起きませんでした。


 何も起きていないように見えました。


 実際は中央広場上空に三人の人間が空間転移してきました。


 復旧した都市間転移ゲートを介し現出し、広場に向けて落下を開始しました。


 三人のうち一人目は、流体操作魔術の行使を開始した年配の女性でした。


 三人のうち一人目は、二本の剣を抜き放った二刀流の女エルフでした。


「行使完了。いつでもどうぞ」


「私が合わせます。やってしまいなさい」


「承知」


 最後の一人は、サングラスをかけ、ぬらりと大剣を抜き放ったオークでした。


 オークの大剣が振られ、それを追う形で女エルフの二刀が閃きました。


「「露と滅せよ――虹式カラド煌剣ボルグ!」」


 二重の詠唱と共に放たれた剣撃の光が、都市中央の魔物達を消し飛ばしました。




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