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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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五人の犠牲者



 かくして、奪還作戦の日がやってきました。


 各々が準備を進めてきた事の総決算が行われるのです。


「やっぱ止めない?」


「俺も止めたいけど、他の皆が納得するかの問題があるから」


「それな~!」


 セタンタ君は一人のオークさんと偵察に出ていました。


 エルミタージュは毒の血が流れている犬の魔物に占領され、遠目にもうじゃうじゃと徘徊しているのがよく見えます。


 街中どころか、都市外に塹壕のようにそこら中にある涸れた水路の中にもひしめき合っています。特に沢山いるところなどミチミチと詰まっています。


 幸い、大蛇の魔物はまだ来ていないようです。


 犬の魔物の大群を差し向けるだけ差し向けて、別のところに向かったのでしょうか? そちらはセタンタ君達も魔物の群れに阻まれ、動向を掴み損ねていました。


 二人が砂原に半ば埋もれつつ、岩にしがみついて双眼鏡でエルミタージュの様子を伺っていると、魔物の群れがざわめき、一斉に動き出しました。


 砂原に足を取られつつも、郊外を走り出しました。


 ただ、それはセタンタ君達のいる方角とは真逆でした。


 魔物達はどうも南の方角へと土煙あげて出ていっているようです。


 その方角からは火薬の爆ぜる音や魔物の咆哮が聞こえてきています。



「動いた。俺達も戻ろう」


「あー、ヤダヤダ……」


 セタンタ君はもはや諦めついてしまったので砂上歩行の魔術で足早にその場を去り、オークさんもノタノタとそれに続いていきました。


「走れ走れ、政府から派遣されてきたアンタがいないとゲート直せないだろ」


「はい、はい……わかってますぜー」


 セタンタ君達がしばらく走ると、大きな岩の影に隠れ、停泊している一隻の砂上船の姿がありました。


 親方さんの中古船です。


 魔物からの逃走劇でちょっとボロボロになりましたが、まだまだ航行は可能です。応急処置も施された姿はちょっと痛々しいものでしたが、まだ戦えそうです。


 舵は緊張した様子の親方さんが握り、船には親方さんの部下ではなくロムルスさんやレムスさん、そしてマーリンちゃんやカンピドリオ士族の若者達の一部が乗り合わせていました。


 アンニア号とレムス号はエルミタージュの南方で戦闘中です。


 エルミタージュに巣食っていた魔物達に対する囮の役割として、救援隊としてやってきていたクラン・アルバトロスと合流して戦っています。


 それに釣られ、セタンタ君が見守る中、さきほど魔物が出ていった形ですね。


「エルミタージュに入ってた魔物が囮部隊に食いついたよ」


「戦闘開始の狼煙も上がってましたぜー」


「ご苦労。ではもうしばらく待とう」


 ロムルスさん達は待ちました。


 こうして待っている間も囮としてアンニア号、レムス号、そしてクラン・アルバトロスの船団が魔物と戦っています。


 それでも待つ必要があったのです。


 エルミタージュに入っていた魔物達が十分に囮部隊に食いつくまで待ちました。



「改めて、今回のエルミタージュ奪還作戦のおさらいをしておこう」


 待っている間、ロムルスさんが皆に話しかけました。


「皆も承知の通り、エルミタージュは現在、魔物の群れに占領されている」


 都市間転移ゲートは未だ不通のため、予定通り都市は一時放棄されました。


 放棄にあたって魔物に襲われ死んだ人的被害はゼロ。斥候立てつつ相手の動きを見て取り残された人達を逃し、現在逃された非戦闘員は護衛をつけて街の西側にある海の近くに避難しています。


「我々の仕事はエルミタージュの都市間転移ゲートの復旧だ。マーリン嬢越しに政府の方で調べてもらった結果、こちらのラゴウ君がゲートに辿り着き、幾ばくかの時間があれば復旧出来るそうだ」


「どうも、可哀想なラゴウ君です。誰だよこんなキチガイ作戦立てたの」


「すまん、私だ」


 ロムルスさんはしれっとした様子で短く謝罪しました。


 カンピドリオの若者達は「行きたくないのかよ、変人だな」「私に技師の技術あったら変わって欲しいぐらい」「誉れだぞ」「いいなー」と口々に言い、オークさんは「もうヤダこの戦闘狂士族」と嘆きました。


「話を戻そう。技師として派遣されてきたラゴウが都市の中央地下にあるゲートの管理設備に辿り着き、修理を行いさえすれば、ゲートは正常稼働する」


「5分から10分ぐらい待っててね……ハァ」


「ゲートさえ正常に戻れば後はもうこっちのものだ。首都にはゲート復旧後にエルミタージュに応援に駆けつけてくれる冒険者と戦士団が待機中。彼らがゲートを使って転移してくれれば、もう勝ったようなものだ」


 都市間転移ゲートさえ機能していれば、首都からほぼ無尽蔵に増援が駆けつける事ができ、ゲートを利用した防衛設備も復旧します。


 そうなれば半ば勝ったようなものです。


 魔物の方はゲートを通過する権限が無いので逆に首都へ押しかけられる心配はありません。ゲートが起動し始めるとゲートを壊すべく魔物が殺到する事になりますが、それも加味した戦力が首都の方ではスタンバイしています。


 問題は、ゲートを復旧させるまでの過程です。


 復旧作業終わるまで技師さんを守りきる必要があります。


「復旧には五人の決死隊で挑む。ロムルスとレムス、マーリン嬢、ラゴウ、セタンタの五人でエルミタージュに忍び込んでくる」


「マジでやるんスか」


「諦めろ、楽しめ!」


 技師のオークさんがとても嫌そうに呟き、レムスさんはニッコニコでその肩を叩きました。勢い余って骨が折れましたが、治癒の魔術で何とかなりました。


 カンピドリオの若者達は若者達でぶぅぶぅと不満げです。


「若ー、ボクらも決死隊になりたいですぅ」


「連れってくださーい」


「マーリン嬢が五人が限界と言っている。すまないな」


「というか五人の時点でキツいよぉ……限界超えてるよぅ……」


「私も手伝うから頑張ってくれ」


「でもでも若若、オレたちも若達と戦いたいっ」


「セタンタ君、ちょっと代わってくれ」


「俺も代わりたいけどさぁ……」


「セタンタはダメだ。三番目の優先度で都市内に送り込まなければならん。四番が私で、五番はレムスだな。まあ別にレムスは必須では無い」


「えぇー! 兄者、俺も行きたいよぅ」


 カンピドリオの若者達が「レムス若かわって」「私の方がレムス若より軽い!」「意地悪!」「ずるいー!」と文句を言いましたが、レムスさんは「ええい、俺がいくんだ、俺が」と押し切りました。


「戦力的には俺だろ! 兄者もマーリンちゃん達も俺が守ってやる!」


「レムス若、ロムルス若より弱いじゃないですか」


「カンピドリオ士族の方でもかなり強い方だけど」


「むむっ……それはそうなんだが、兄者には負けていてもお前らよりは強い!」


『それは確かに!』


「いずれレムスの方が私より強くなるさ」


 ロムルスさんは「いまは私の方が勝っているだけだ」と付け加えました。


 それと、カンピドリオの若者達をなだめるように「お前達にはお前達の仕事がある。頼むぞ」と言いながら船主である親方さんを見ました。


「船長の指示を聞き、我々と別れた後はゼーアドラー号に合流して戦いなさい」


『はーい』


「ちょ、ちょっと待て! オレに指示なんて出来ないぞ」


「我が士族の若人は純粋培養で素直な狂犬達ばかりだから安心してほしい。適当に『戦え』とか『逃げるぞ』と言えば犬っころのように従ってくれる」


『ワンワン!』


 親方さんは「えぇ……」と呻きました。


 呻きましたが、「指示は無理だけど運ぶだけはするよ」と答えました。


「アンタらを運ぶのが、オレの冒険者人生における最後の大仕事だ。……最後の締めくくりとして、ほろ苦い敗北じゃなくて、痛快な勝利の思い出をくれ」


「承知した」


「任せとけ」


「ほどほどにがんばりまーす」


「俺は帰りたい……」


 決死隊の中で一人、無言でいたセタンタ君を親方さんが見つめました。


 そして、どちらからともなく差し出した拳と拳を突き合わせました。


「勝って帰って来いよ」


「ああ。勝ったらホットドッグで乾杯という事で」


「ハハ、勝ったら試作品をたらふく食わせてやる」


「えぇー、試作品かぁ……完成品がいいなぁ」


 またどちらからともなく笑い合い、拳を離しました。


 そんなやり取りが行われた後、カンピドリオ士族の中の一人が叫びました。



「若! 囮部隊からの合図です!」


「来たか……」


 エルミタージュの南方にて、黄色い狼煙が何本も立ち上っています。


 狼煙は西からの海風にあおられ、東へと流れていますがロムルスさん達が合図を確認するには十分なものでした。


 狼煙の下には大量の砂煙が広がり、囮部隊の砂上船が後退気味に戦い、魔物をエルミタージュから引き離してくれているのです。


 合図の意味は「囮成功。決死隊を送り込め」というもの。


 囮部隊が展開している南方とは逆側の北方で待機していたロムルスさんは「作戦開始」と告げ、それを聞いた親方さんが船を動かし始めました。


 西側に向け、砂上船を進めています。


 エルミタージュからは遠ざかる進路でしたが、手はず通りでした。


「お前にとっても晴れ舞台だからな……」


 親方さんは操舵輪を握り撫でつつ、自分の砂上船に呼びかけました。


「人間都合で酷使して悪い。それでも頼む、全力で走ってくれ!」


 砂上船は耳も目も触覚も無い、生き物ですらないただの船でした。


 だから、親方さんの言葉に応じ、限界を超えた走りはしてくれませんでした。


 それでも、いつも通りの全力疾走で砂原を走ってくれました。


 親方さんにとっては、それで十分でした。


「これで行けるな!?」


「十分だ! 速度維持! 総員、魔術を起こせ!」


 ロムルスさんの激に皆が応え、各々が魔術の行使を開始しました。


 砂上船の進路上の砂原が光り始めています。


 魔術の燐光です。


 進路上に滑走路の如く敷設された魔術の法陣、ルーン文字フサルクが主の呼びかけと送り込まれる魔力に応え、起動していっているのです。



 航路は未だ、エルミタージュから逃げるように遠ざかるもの。


 しかし、それでいいのです。


 しかし、彼らは逃げ始めたのではありません。


 彼らは、勝つためにここへ来たのです。



「ぐっ――!」


 親方さんを始めとして、多くの方が船にしがみつきました。


 魔術の燐光と共に、船を揺らすほどの上昇気流が砂漠から発生し始めました。


 彼らはそれに吹き飛ばされそうになりつつも、必死に自分の仕事を進めました。


「帆を張れ!」


 ロムルスさんが叫びました。


 開くべきは、砂上船を進めるための帆ではありません。


 むしろ逆の用途として働くものでした。


 砂上船の船尾に白く大きな華――予備の帆で作られた大布が張られました。


 端にロープの繋がれた大布は上昇気流の風を孕み、膨れ上がり、繋がれた船を軋ませ――その様子をマーリンちゃんが緊張した面持ちで見つめていました。


 そして、タイミングを見計らい――叫びました。


「いまっ!」


 大布から船に繋がれていたロープの一部が切り離されました。


 魔術的に起こされた上昇気流により、一気に駆け上がっていきます。


 それと同時に決死隊の五人も空へと登っていきました。


 砂上船から予備の帆と魔術を使い、パラグライダーのように飛翔したのです。


 上昇気流が届かなくなってもなおマーリンちゃんが浮遊と風の魔術も使い、ロムルスさんとセタンタ君がそれを補助し、飛び上がり続けます。


 やがて西から来る海風にも乗り、エルミタージュの上空へとやってきました。


 空挺エアボーンで、都市内に一気に侵入するつもりなのです!


「ひぃぃぃ! ムズいけど出来たァ!」


「本番は成功して良かった」


 オークさんが信じられないものを見る表情でロムルスさんを見ました。


 ロムルスさんはニッコリ笑って「冗談さ」と言いました。


 それはさておき、オークさんは肝心な事を聞いてないのを思い出しました。


「あのあのっ! これ、どうやって着地すんの!?」


「わかりきった事を聞くな」


「だよね! でも、ユラユラ降りたら魔物に気づかれるんじゃね!?」


「そんな悠長な方法で降りるわけが無いだろう……?」


「そうだよ! お前が言う通り魔物に気づかれるかもだろ?」


「エッ! どうするの?!」


「「こうする」」


 ロムルスさんとレムスさんが大布のロープを斬りました。


 この時、五人は都市中央の上空1500メートルほどを飛んでいました。


 いま、自由落下していきました。




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