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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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孤立



 一つになった採掘遠征部隊が意気揚々と帰路について間もない時の事。


 セタンタ君と談笑していたマーリンちゃんが頭を押さえ、苦しみだしました。


「う……なぁ……?」


「どうしたマーリン」


「な、なんか、あたまいたい……」


 ズキズキと痛むそうです。


 どう考えても普通の頭痛では無さそうなので、セタンタ君が治癒魔術を使える人を呼びに行ったのですが、連れ戻ってきた時には少し落ち着いたようです。


「もう大丈夫なのか?」


「一応は大丈夫ー。ただ、ちょっと大丈夫じゃない事になってるみたい」


「何が?」


「ボクらが戻ろうとしている都市、アルヒが魔物の群れに襲撃されてて――」


「へー。何でお前が知ってるんだ?」


「バッカスの王様……魔王様から聞いたんだよ。たった今」


 そう言い、マーリンちゃんは自分の頭をペシペシ叩きました。


 どうも交信の魔術を使っていたようです。テレパシーのようなものです。


 これまた非常に難易度の高い魔術ですが、マーリンちゃんは一応使えます。でも、それほど遠くの相手とは話をする事が出来ません。


 いまマーリンちゃんと脳内で直接話をしているバッカスの王様はとても遠くにいるのですが、王様はマーリンちゃんすら軽く凌ぐほどの魔術師なので、王様の方からマーリンちゃんに交信の魔術を届かせているようです。


 ただ、王様の方もちょっと無理したので、そのしわ寄せがマーリンちゃんに頭痛という形で現れたようですね。


「え? いいよいいよ魔王様ー、そんなごめんねごめんねって謝らなくてもー」


「端から見ると、マーリンの頭がおかしくなったようにしか見えねえ」


「俺らからしてみると独り言だからなぁ」


 マーリンちゃんはしっかり王様とお話出来てるので、ケラケラ笑って身振り手振りも交えつつ話してるのは軽く頭おかしくなったようにしか見えませんけど。



「王様がわざわざ知らせてくれたのか? 街が襲撃されてる事を?」


「アルヒが魔物に襲撃されてるのなんて日常茶飯事じゃね?」


 実際、セタンタ君達が砂上船に乗り込んだ都市・アルヒはよく魔物の群れに襲われます。週に一度ぐらいは群れがやってきます。


 その分、しっかりと防備を整えていますし、都市間転移ゲートがあるので必要に応じて首都から増援を招く事が出来ます。


 ただ、マーリンちゃんが王様から聞いた話によると「今回はいつもよりも沢山来てるんだって」との事です。


「大型の魔物もドンドコ来てるみたい」


「大型ってどんぐらいだ?」


「全長1キロ級のサンドワームが30匹ほど」


「うげ、えぐいの来てるな」


「他にも小型から中型の魔物が数千匹ほど押しかけてきてるんだってさ」


「大量発生かー」


「下手すると俺ら戻った時には、直ぐに街に入れないのかな」


「つってもいまアルヒの防衛担ってるのってゲルマニカだろ? 即落ちしたならともかく、ゲルマニカだけで足りないならカンピドリオ戦士団の本隊来るだろうから、俺達が戻った頃にはもう片付いてんじゃないのか?」


「仮に急な遠征で出払っていたとしても、防衛を担う戦力はいくらでもいる」


 レムスさんとロムルスさんもやってきて、会話に加わってきました。


 親方さんも呼ばれたので、操舵を任せて飛び移ってきました。


「うん、アルヒの防衛そのものは問題無いみたいだよ。魔物の群れがまだ途切れないみたいだけど、野戦じゃなくて防衛戦だから凌ぎきれてるみたい。といってもあと三日四日は戦い続けなきゃいけないっぽいけど」


「ふーん。アルヒ周辺をうろついてるはぐれた魔物に要注意って事か?」


「いや、そんな事でわざわざ連絡はしてこないだろう」


 ロムルスさんがそう呟き、「問題は別にあるんだろう?」と聞きました。


 それを聞いたマーリンちゃんはコクリと頷きました。



「エルミタージュの都市間転移ゲートが使えなくなったみたい」


 マーリンちゃんの言葉を聞いた皆さんがざわめきました。


「不通の原因はまだ調査中。政府側の推測だとエルミタージュ側のゲートがブッ壊れたんじゃないかなー、って事みたい。ボクみたいに魔王様が超遠距離で交信魔術で話しかけれる相手もいま向こうにはいないから確かめれないんだって」


「マジか。アルヒ以上に大事になってんな」


 エルミタージュとは都市の名前です。


 アラク砂漠の北部に存在する都市で、かつては砂漠採掘の拠点として期待されていたものの、砂漠北部はそれほど鉱脈が見つからず、砂漠中央にアルヒが出来てからはすっかり寂れてしまった悲しい過去を持つ都市です。


 要約すると、今は寂れた都市です。


 寂れつつも都市間転移ゲートで首都と結ばれていたはずでしたが……どうもエルミタージュのゲートが使えなくなったようです。


 大変便利な転移ゲートですが、それが使えなくなったという事は残された住民達に待っているのは孤立した都市を魔物に襲われ、死んでいく未来かもしれません。


「だから、魔王様はボクらに調査に行ってほしいみたい」


「可能であれば生存者の救援も、という事か」


「そうそう。さらに可能ならゲートも復旧させてね、って事ですよー」


 遠征隊長のロムルスさんは、ちょっと渋い顔をしました。


 最初から調査救援の依頼を受けていたならともかく、いまのロムルスさん達は鉱石という荷物を抱え、あとは帰って鉱石売ってキンキンに冷えた麦酒を嚥下しつつ「遠征おつかれさまー!」と皆でワイワイするだけだったのですから。


 寄り道するとなると物資も余計に使う事になります。


 勿体無いとか以前に、補給の目処が立たないと最悪は餓死です。その前に水不足で死亡、あるいは砂漠で立ち往生してるとこを魔物に襲われるかもです。


 レムスさんは「いいじゃん、助けにいってやろうぜー」とワクワクした表情で戦闘狂の血をたぎらせていますが、遠征隊長としてロムルスさんは仲間の命と金銭的な問題も含めて損得勘定をせざるを得ませんでした。


 とりあえず突っぱねたりはせず、詳しく話を聞く事にしました。



「マーリン嬢、魔王様との交信はまだ繋がっているか? 話がしたい」


「繋がってるー。ボクを介してになっちゃうけど、お話出来るよ」


 ロムルスさんは「それで十分だ」と言い、話を聞き始めした。


「まずはアルヒにおける防衛戦の状況について詳しく聞きたい」


「防衛戦そのものは順調みたいだよ」


 ただ、魔物の群れが多すぎて邪魔で、直ぐにエルミタージュへの救援をアルヒから出せない状態にあるそうです。


 だからこそ連絡が取れて防衛戦の外側にいるロムルスさん達に話が持ちかけられたのです。他にマーリンちゃんのように連絡取れる子が近場にいないので、一番最初に救援として向かえそうなのがロムルスさん達みたいですね。


 ゲートさえ通じていれば、こういう手段取らずに済むのですが……。


「もちろんアルヒからも出来るだけ急いで救援部隊は派遣するって」


「最悪、水と食料、砂上船を動かすための魔物油はそこで補給出来るか」


「魔王様も『必要なものがあったらそこで渡すから言ってね』だって」


「有り難い。ですが魔王様、こちらはいま鉱石を持ち帰っている途中なのです」


「その辺の事情もロムルスさんの……ええっと、パパさんから聞いてるみたい」


 エルミタージュのゲート不通になってから、二時間ほどが経過しています。


 ゲート不通となった時点でバッカス政府は対応に動き始め、緊急対策会議の場に来たロムルスさんのパパさん……つまり、カンピドリオ士族の現士族長が「いまウチの息子達がエルミタージュの近所にいますよ」と言ったようです。


 運良くそこにマーリンちゃんという交信相手もいたので連絡の目処が立ち、ロムルスさんのパパさんが事前に採掘遠征中という事情も話していたようなので、魔王様は「今回の依頼の報酬とは別に鉱石を失った場合の補填も金銭で行います」と言ってきました。


 出来るだけ早く救援行って欲しいので、邪魔な鉱石は先に捨ててほしい、とも。


 それはそれで補填してくれるそうです。



「でも命を失わない保証だけでは出来ないから、魔王様も強要はしないって」


「ふむ……」


「ただ、エルミタージュにはバッカスの国民が取り残されてて、大人どころか子供もいる。その人達を助けるために、どうか力を貸してください……って」


「……マーリン嬢と魔王様の交信は継続可能か?」


「ボクが交信以外の事をろくに行えなくなるから、ボクからの合図に応じて交信繋ぐって。神様が妨害してくるから、直ぐに連絡を取り合うとかは出来ないみたいだけど……現地の状況伝えるぐらいは十分」


「エルミタージュに残されていると思しき人々の保険は?」


「未稼働。いまのところは誰も死んでないはずだって」


「保険を利用して連絡取ってくれる気配は……」


「まだいないって」



 ロムルスさんは悩みました。


 悩みましたが、そう長くは悩み続けませんでした。




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