嵐の前の静けさ
親方さんとロムルスさんが契約を結んだ翌日。
両陣営は早朝から採掘作業を進め、昼近くには三隻に鉱石を積み終わるほどまで掘り終わっていました。
特に親方さんが精力的に働いていました。
まだ完調といった感じではありませんでしたが、それでも希望を掴んだので人一倍せっせと働き、頑張っていました。
取れた鉱石は高値で売れるものでしたが、残念ながら眠っていた場所は近日中に砂原に沈んでいく見込みです。都市まで一度帰って戻ってきた頃にはどこに行ったかわからない状態になりそうなようです。
といっても大体取り尽くしたんですけどね。
「ドンパチにならなくて良かったよー」
「だな。人間同士で殺し合ったところで、何の得にもなんねえし」
マーリンちゃんとセタンタ君が昼食の用意をしつつ、そんな話を交わしました。
バッカス王国の冒険者達にとっての身近な敵は、あくまで魔物です。
人間同士で争う事もゼロではありませんが、正面からやりあったところで得する状況というのは限られています。
例えば殺す事で相手の財布を得て、一時の金銭収入はあるかもしれませんが、バレた時は政府が本気で拘束するか殺しにくる大変リスクが高い犯罪行為です。
窮している人はリスクに目をつぶり、あるいはリスクに気付かず罪を犯してしまう事もあるのですが、ロムルスさんは「金持ち喧嘩せず」とばかりに損得勘定して相手を巻き込んでお互いに儲ける道を選んだようです。
三隻の砂上船の乗員達は寄り集まり、昼食を食べ始めました。
親方さん達も含めた全員の実質的なリーダーとなったロムルスさんは採掘遠征折り返しに達した労をねぎらいつつ、「すまないが昼食を食べたら直ぐに帰路につこう」と言いました。
砂漠だと物資補給に困るので、ここで宴会などせずにさっさと帰ろうとしているのです。宴会、打ち上げは都市に帰った後の楽しみですね。
遠征はまだ終わっていませんが、親方さんはホッとした様子で食事しています。
食べつつ、レムスさんやロムルスさん達にポツリポツリと自分の事情を――借金事情などを話していきました。
「アンタ、無謀なことしてんなぁ」
「言うな。自分でもわかってるけど、後には引けない状況だったんだ」
「後に引いたら死ぬのか?」
「そりゃ……まあ、死ぬっていっても、社会的な死というか……自分の体面とか誇りが傷つくだけと言えば、そうなんだけど……でも、癪だろ?」
「そんなもん、犬に食わせればいいじゃん」
セタンタ君が呆れた様子で口を挟みました。
親方さんはムッとした様子で言葉を返しかけましたが、いまは少し、心に余裕も出来てきたので「まあ……そうかもな」とポツリと呟きました。
「最初から意地張らなきゃ、借金の事とかでも苦しまずに済んだのかも、な」
「別に、今からでも完全に手遅れになったわけじゃないだろ?」
「セタンタの言う通りだな。採掘で儲かりそうに無いのであれば、いま持っている砂上船も売って、返済に関してはコツコツと他の事をした方がいいかもしれない」
ロムルスさんもセタンタ君の言葉を指示しました。
親方さんは曖昧に頷きつつも、モソモソと食事を続け、食べ終わると深く息を吸ってゆっくりと吐き、「元の稼業に戻ろうかな」と言いました。
「金があれば幸せになれて、満足出来ると思ったんだけどなぁ」
「金は金でも借金があったら幸せにはならないだろ」
「まったくだ。船売って、コツコツと借金返済していって……返し終わったら……もう余計な誇りとか捨てて、冒険者も辞めて、ホットドッグ屋でもやろうかなぁ」
「何でホットドッグ屋?」
親方さんは苦笑しつつ、「オレの爺さんが首都八丁目の市場でやってたんだよ」と頬も掻きながら返答しました。
「爺さんはもういないけど、爺さんが教えてくれたホットドッグ作りには少しは自信あるんだ。少なくとも鉱脈探しよりはよっぽど自信がある」
「いいじゃん。店開いたら食べにいくよ」
セタンタ君の言葉に続き、マーリンちゃんやレムスさん達も「食べに行く」と言いました。ただ、「店主の奢りでな」と付け加えました。
親方さんは呆れ顔見せつつ、「冗談だよ、船は売るかもだけど、マジでホットドッグ屋やったりはしない……と思う」と返しました。
とか何とか言いつつ、内心ではわりと真面目に検討し始めてたんですけどね。
この遠征から無事に帰って、いまの背伸びがちな自分を変える事が出来たなら、「そういう未来も悪くないかも」なんて考えていたのです。




