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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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次期士族長と元孤児



 遠征二日目の夜、セタンタ君は敷物を敷いた岩の上で寝転がっていました。


 移動中でも砂上船の上で寝れるとはいえ、寝れるうちに寝ておかないと他の人達に負担かける事にも繋がりかねないのでササッと寝るべきです。


 ただ、砂上船のおかげで移動の疲れも溜まっていない事もあり、まだまだ眠気を覚えていないようです。


 最悪、魔術で無理やり眠るつもりではあるようですが……眠気の有無以外にも、眠れない理由があるようです。


「眠れないのか」


「お? ロムルスさんか」


 寝転がっていたセタンタ君が呼びかける声に答え、立ち上がろうとしました。


 ロムルスさんは手のひらを下に向けて振りつつ、「楽にしててくれ」と言いながらセタンタ君から少し離れた場所に座りました。


「まだ悶々と悩んでいるようだな」


「……別に、そんな事は」


「アルヒの桟橋の上で、私が追い返した少年の事を気にしているのか?」


 ロムルスさんは「友人であればすまない。彼には私が融通の利かない男だったと説明しておいてくれ」と言いました。


 セタンタ君はその言葉に対し、首を振りました。


「いや、どっちにしろ俺が追い返してた。物資の事もあるだろうし、アイツ自身の強さ考えると危な……邪魔だから、連れてくるわけにはいかないし」


「赤蜜園の旧友、というわけではなさそうだったが」


「最近知り合ったばっかり。友達……って言うほどでもない、かも」


「だが、彼の事を気にしているようだ」


「…………」


 セタンタ君は、自分でも「どうなんだろう?」と思いました。


 気にしているといえば気にしていますが、パリス少年は友達と言い切れるほど長い付き合いでも指切りげんまんした仲でもありません。


 ただ、それでも、ちょっと胸につかえているのは事実かもしれません。


「少し、昔のキミに似ていたような気がしたよ、私は」


「は、はあ!? 無い! それは無いっ」


「もちろん、私の勝手で個人的な感想だ。キミの場合はフェルグス殿が背中を任せるに値する実力の持ち主で、もっとこう……栄達より金が欲しいといった感じで、目つきも暗くギラギラとしたもので彼とは違ったかもしれないが」


 セタンタ君は気まずそうに恥ずかしそうに「やめてくれ」と言いました。


「ロムルスさんにも儲け話タカった事あるのは、意地汚くて悪かったと思ってるよ……謝るから、あんま昔の事をほじくりかえさないでくれ」


「いや、私はむしろああいう、わかりやすい反応を好ましく思った。ウチの愚弟も眉ひそめつつ、後で『でも結構おもしろいヤツかもなぁ』と気に入ってたよ。斜に構えてるところはあったが、実力は確かにあったのだから」


「やめてくれー……」


 セタンタ君は両手で顔を隠しました。


 彼にとって、ちょっとした黒歴史なのです。


「キミとあの少年は、少し似ているものを感じた」


「そうかなぁ……まあ、俺もどこがって言われると返す言葉に困るけど、どことなく似てるかな、って思ったりしてる……のかも」


「そうか」


「例えば、赤蜜園に引き取られなかったら、ああなっていたかもな……とか」


「それは、まったく無いとは言い切れないな。赤蜜の孤児院長をされているメーヴ様は立派な方で、子供達の未来をよく考えている優しい方だ」


「大人には結構容赦ないけど……」


「容赦の無さと優しさは両立出来るさ」


「マーリンが言ってたけど、この間、おつかいに行かせた子にぶつかって怒鳴り上げてきたヤツは箱詰めにされたらしい」


 セタンタ君は頭は何とか入りそうな箱を手で表現しつつ、「こんな感じの大きさので」と言い、ロムルスさんは苦笑しながら「それは容赦無いな」と言いました。


「……自分でも、何か気持ちの歯車? みたいなもんが、うまくハマってないというか、心が浮ついてるような感じがして……ごめん」


「謝る必要はない。別にキミが何かやらかしたわけでもなし、まあそういう事もあるさ。何度か遠征隊長をやってきたが、キミなど話にならないほどに心揺らして最終的には他の仲間にまで悪影響及ぼす者は何人も見てきた。キミぐらいならそこまで気にする必要は無いさ」


「遠征隊長って、めんどくさそうだなぁ」


 ロムルスさんは苦笑ではない笑みを浮かべ、「実際めんどうだ」と言いました。


「商会長などと違って、長という特典で利益も享受しにくいからな」


「そのくせ、人間関係の整理とかもめんどくさかったり?」


「そうだな。ただ、商会より流動的に人員を配置出来るから問題があれば次の遠征ではこの二人は引き合わせないようにしよう、とか配慮する事は出来る。こちらの知らないところで因縁出来ていがみ合い、不和が連携の不備に繋がる時もあるが」


「ホントめんどくさそう」


「そうだな。面倒な事の方がはるかに多い」


「それなのに、ロムルスさんは遠征隊長として取り仕切ったりしてるんだ」


「将来的な事もあるからな」


 ロムルスさんはカンピドリオ士族の次期士族長です。


 生まれた時からそうなる事が内定しています。


 というのも、生まれた後から兄妹姉妹の間や親族間で「次期士族長は誰か」という争いで分裂したり衰退していく士族もいるので、カンピドリオ士族では「どんな阿呆だろうと長男が士族長を継ぐ」と定めているのです。


 それならなおのこと、危険な冒険者稼業を避けるべき立場なのですが、カンピドリオ士族の場合はバッカスでも武闘派として名が知れ渡っており、その長になる以上はそれなりには武勇に通じていなければ下の人達もついて来にくいのです。


 武勇という実績を積むためにも、遠征隊長を務めているわけですね。



「ホントに面倒な事が多いから、セタンタ、キミが遠征を取り仕切る立場になれ」


「言ってる意味がわかんねぇ……」


 ロムルスさんは「良いこと思いついた」という顔で言いました。


 セタンタ君は今の会話で「遠征隊長はいいぞ」と思える要素も無かったので呆れ顔で返しました。


「弟ほどではないが、私も身体を動かし、魔物と殺し合うのは好きだ。面倒な遠征隊長としての立場はキミに任せ、今回とは逆に雇われて戦うのも一興だろう」


「ロムルスさんはそれで楽しいかもしんねーけど、俺が楽しくなさそうだし……そもそもカンピドリオの若様をアゴで使うとか恨まれそう」


「私はそれで楽ができて楽しくて、私がいいと言ってるからいいのだ」


「えぇー……」


「まあ、人をアゴで使えるという特典もあるのが遠征隊長だ」


「使い過ぎたら後ろから蹴られたり刺されたりするんじゃ」


 ロムルスさんはハッキリ答えず、ニヤリと笑うだけでした。


 セタンタ君は嘆息しながら寝転びました。


 同時に、フェルグスさんにしろマーリンちゃんにしろ、遠征隊長みたいな率いる立場になれと勧められる事が重なるなぁなどと思いました。



「ところでキミに一つ、聞きたい事があるのだが」


「聞きたい事?」


「マーリン嬢はキミの恋人か?」


 セタンタ君はギョッとしつつ、上半身を起こしました。


「ないない! 単に孤児院時代からの腐れ縁だよっ」


「ふむ? キスぐらいはした事がありそうな親しい関係に見えたが」


「ねーよ!」


 セタンタ君はウソをつきました。


「見た目はわりと可愛い方だと思うけどさ、あいつ、あんなナリして股間にわざわざチンコつけてんだぜ?」


「それはなかなかに刺激的な少女だな」


「つけてなきゃフツーに可愛いのに、もったいないよな」


「セタンタ、それは個人の趣味だ。好きなようにさせてあげなさい」


 ロムルスさんはそう諭しつつ、仲間と集まってぐーすか寝ていた弟が「フヒヒヒヒ……」と笑いながら寝ているマーリンちゃんに尻を撫でられはじめ、うなされ始めたのを見てしまいましたが、「個人の趣味だ」と見ないふりをしました。


「つーか、何でそんなこと聞いてくんだよ? あ、アイツに惚れてんのか!」


「興味があったので聞いただけさ。彼女は非常に優秀な魔術師だからな」


「…………」


 魔術の才能は遺伝します。


 マーリンちゃんの子供は、マーリンちゃんの才を受け継ぐ可能性が高いです。


 親の素質を受け継いだ子は、両親が得意としていた魔術の才に開花しやすいため、優れた魔術の才能――それも稀有な魔術の才能を持つ者は重宝されます。


 マーリンちゃんは自分で戦う事こそ苦手ですが、浮遊の魔術などの会得が難しい魔術の適正があり、便利な観測・索敵の魔術の腕も類稀なものがあります。


 もちろんそれは生まれ持ってのものばかりではなく、マーリンちゃん本人が陰ながら頑張ってきたからこそ手に入れたものでもあるのですが、そうして育まれた才もまた子孫に引き継がれやすいのです。


 武闘派のカンピドリオ士族でも、そういった才と血は尊ばれます。


 カンピドリオに限らず、露骨にサラブレッドを生み出そうとする家もあるほどです。魔術が広く使われているバッカスでは、その辺りの勘定で婚姻を行ったり、特定の相手に限らず金銭で遺伝子のやり取りをする人もいるほどです。


 セタンタ君はロムルスさんの言葉の意図を察しました。


 少し無表情になって怒りかけましたが――止めました。


 その代わり、冷静に言いたい事は言っておく事にしました。



「マーリンは魔術ばっかりじゃない。頭も結構回って聡いとこあるし、料理も美味い。変わったとこもあるけど、良い奴だよ」


「親しいキミが言うのなら、その通りなのだろうな」


「もし万が一、ロムルスさんにしろレムスの兄ちゃんにしろ、アイツの魔術の才能を第一に見込んで政略結婚みたいな事を仕掛けるつもりなら……せめて二番目ぐらいにはアイツ自身の事をちゃんと見て、幸せにしてやってくれよ」


「そうだな……。すまない、軽率な発言だった」


 ロムルスさんは頭を下げました。


 セタンタ君は少し居心地悪くなり、顔を背けました。


「まー、その……ホント、気分屋で遊び人なとこあって癖強いやつだけど、結婚とかしたら大分大人しくなると思うし、カンピドリオ士族長家とか嫁ぐ機会があるなら、そうなった方が一番幸せになれるかもなー、って俺も思うよ」


「そうか。お褒めいただき光栄だ、と言うべきだろうか?」


「いやいやっ、言うほど褒めてねえから」


 セタンタ君は顔は背けたままでしたが、少しだけ吹き出しました。


 そして少しの間、沈黙した後に再び口を開きました。


「マーリンは孤児院時代からホント才能あって、その才能目当てに養子にしたいって言ってくるようなやつらがいっぱいいたんだ。孤児院長が断ってたけど」


「メーヴ殿はそういう、私みたいな下世話な悪人から彼女を守っていたのだな」


「子供みたいなとこが結構ある人だけど……あ、えっと、その、ロムルスさんなら何だかんだでアイツを幸せにしてくれるかもって気がするけど、孤児院に来てたのはどう考えても露骨で、家畜か何かと勘違いしてんじゃねーのって言いたくなるようなヤツもいてさ。マーリンが浮遊の魔術でウンコ投げたりしてさー」


「それは愉快そうな光景だな。……一つ、思いついた事を言っていいだろうか?」


「思いついた事?」


 セタンタ君がロムルスさんの顔を見ました。


 ロムルスさんも、静かに見つめ返しながら口を開きました。


「彼女が自分の股間を整形しているのは、自分の意志か?」


「えっと、まあ一応は。元々は孤児院でイタズラしまくった事で孤児院長に怒られて、おしおきとしてとっかえられたんだけど、本人が気に入っちまってさ」


「ひょっとするとそれは、個人の趣向というより嫌々かもしれんな」


「そうかな? ……いや、どういう事?」


「才能を次代に引き継ぐため、子供を産むために求められるのを辟易としているのかもしれないという事だ」


「あー……」


「自分は股間をこうしてるので、そういうのを真面目に求められても知らないよ、といった感じでな」


「…………」


「魔術を使えば同性だろうが逆であろうが子供は作れるが」


 セタンタ君はロムルスさんが立てた仮説に対し、半分は「いやいや、さすがにそれは無い」と思いながらも、まるっきり否定は出来ませんでした。


 同じ孤児院で育ち、一緒に遊び、一緒に学び育ってきた中で才能目的で求められる事に対し、実際にウンザリした様子の陰りのあるマーリンちゃんの表情を見た事もあったためです。


 皆の前では「へへん、あんな脂ぎったオジさんのとこなんて行かないよ」と笑いつつ、陰では座り込んで顔を隠し、震えながら鼻をすすっている様子のマーリンちゃんも見てきたからこそ、完全には否定出来ませんでした。


 いまどう思っているかはともかく、発端としてはそういう嫌気がマーリンちゃんの中にあって、その発散としてイタズラとかしていた――のかもしれません。


 複雑な心境のセタンタ君とは違い、ロムルスさんは静かに微笑んでいました。


 年下でも一目置いている冒険者に対し、マーリンちゃんの事で一つ助言をしようとしましたが、「下手につつかない方がいいか」と思い、言葉を飲み込みました。



「ま、まあ、アレだ! ロムルスさんとか、次期士族長って立場上、どうしても政略結婚とかしないといけないかもだけど、結婚相手と子供の事は大事にしてやってくれよな」


「ああ、約束しよう」


「うん――頼んだぜ、未来の士族長」


 セタンタ君もまた、言葉を飲み込みました。


 政略だけの不幸な家庭を作って、不幸な子供が生まれないようにしてくれよな――と言いかけ、飲み込んで立ち上がりました。


「今日と明日は見張り当番ねえけど、もう寝るよ」


「そうか」


「寝て、ここまで腑抜けていた分を挽回出来るように明日から頑張る」


「ああ、期待しているぞ。ほどほどに気を張っていてくれ」


 ロムルスさんも立ち上がり、寝る事にしました。


 ただ、その前に――自分達がやってきた方向を見つめました。


「我々を追ってきている相手と、殺しあいになる可能性もあるからな」


「……そうならないよう、祈ってるよ」


「そうだな。魔物相手にやりあうのとは、訳が違うのだから」




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