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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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砂漠と水



 砂漠の地平線に太陽が沈んでいき、採掘遠征二日目の夜がやってきました。


 ロムルスさん率いる遠征部隊は砂漠の中に沈まず存在している大岩に砂上船をつける形で停泊して、砂上船を持ち上げ、「魔物に壊されても困るしなー」と大岩に人工的に作られた坂道を通り、エッサホイサと砂上から避難させました。


 普通の人間が持ち運べる重さでは無いのですが、身体強化の魔術を使い、数人で持ち上げれば移動も不可能ではありません。


 皆で頭上に持ち上げ、運び上げていっています。


「せんせー! セタンタ君が手を上に上げてるだけでサボってまーす!」


「うるせー! 周りの背が高いから届かねえんだよ!!」


 この辺はさすがに身体強化魔術だけでは如何ともし難いです。


 遠征部隊の人達がゲラゲラ笑いながら二隻の砂上船を岩上に安置しました。


 一日目はこんな事せず、朝まで砂の海を航行しっぱなしだったんですけどね。徒歩の遠征と違い、砂上船使うなら操舵と見張りだけ交代したらいいのです。


 二日目はこうして岩上で夜を明かす事になったのは魔物の影響です。


 ロムルスさんが点呼取りつつ、簡単に説明しています。


「念のため言っておこう。ここからしばらく、アラク・アイスゴーレムの生息地となる。昼間は地中深くに隠れている魔物だが、夜は砂上で暴れ始めるのだ」


「せんせー、ちょうど向こうに湧き始めましたー」


「ちょうど良い。初見のものは遠見の魔術で見なさい」


 セタンタ君達は言われた通りにし、4キロほど先の地面を見ました。


 そこには砂をかき分け、外装が砂まみれになった蜘蛛型のゴーレムが出てきたところでした。ゴーレムは身震いして砂を落とし、星でも眺めているかのようにそこに突っ立っています。


 それ以降、動く様子はありませんでした。


「ここは縄張りの外だから襲ってくる事はまず無いが、踏み込めば一度外に出ても砂上を滑って追ってくる。よほど快速の砂上船で無ければ逃げ切れないほどの速度でな」


「私達なら倒せるんじゃないんですか?」


「そうですよ、若達もいますし」


 カンピドリオの若者達が声をあげました。


 ロムルスさんは「倒す事は不可能ではない」と答えつつ、「しかし今回は採掘目的の遠征なのであえて倒す必要もない」と言いました。


「向こうは朝になれば地中に引っ込むので、それまで待てば安全に通行する事が可能だ。数も縄張りもそれなりのものなので、夜に駆け抜けようとすると数十体以上のアイスゴーレムとの連戦となりかねん」


「あと、俺らカンピドリオ士族の人狼は奴等と相性が悪い」


 レムスさんがお兄さんの言葉を継ぎ、話し始めました。


「俺らは手足を無くしてもサクッと再生できる。土手っ腹に風穴が開いてもな。ただ、あのアイスゴーレム達は肉を切ったり潰したりはしてこねえ。人間を凍らせてくる。いっそのこと、欠損させてくれたらサクサク元通りになるが、奴等に凍らせられると半端な状態で身体の機能が阻害され、脳みそ凍らされて死ぬわけだ」


「確かにそれはつらい」


「ちょっとやられてみたいかも……」


「相対希望者が集まれば採掘ではなく、アレを狩る遠征もするのだがな」


「俺はやりたいぜ兄者! ぶっちゃけ、穴掘りよりドンパチの方が好きだ!」


 レムスさんの言葉にカンピドリオの若者達が元気よく同調しました。


 種族的に戦闘に適しているだけに、戦闘狂が生まれやすいのです。


 セタンタ君はカンピドリオの人達を「さすがバッカス屈指の武闘派士族って言えばいいのかね」とちょっと呆れた様子で見ています。


 ただ、アラク・アイスゴーレムは戦闘狂で無くとも狩りに来る冒険者がいる魔物です。上手くコアだけ抜き取って倒せば、そのコアが高額で売れるのです。


 かなり手強い魔物ではありますが、セタンタ君達がいる大岩の上に滞在し、数日がかりでアイスゴーレム狩りを専門的に行う職業冒険者もいるほどです。


 その冒険者達が野営していた場所に焚き火跡もありました。


 夜に休憩がてら当っていたのかもしれません。


 砂漠の昼は暑く、夜は冷えます。これは物理現象を超えた異常なものではなく、遮蔽の無い砂漠では昼は太陽光を地面が受けて熱を蓄えていく一方で、夜も遮るものがないため熱はいたずらに逃げていくためです。


 他にも水分不足といった要因もありますが、ともあれ砂漠は昼夜で寒暖差が激しいものになりがちです。


 魔術があれば寒暖差はある程度、どうにかなるのですが……問題はその寒暖差を生んでいる要因に関しては温度ほどには対処しづらいかったりします。



「いまは俺達しかいねえけど、金魚のフン達も来て対面出来るかね?」


「マーリン嬢、まだ彼らの位置は掴めそうか?」


「それがさっきこっちの航路から外れちゃったみたい。といっても目的地が別で別れたとかじゃなくて、こっちが今日はここで夜を明かす事を読んで適当にブラブラしてるんじゃないかなぁ?」


「もうこっちから襲いに行っちまうか」


「レムス」


 へへへ、と無邪気に笑うレムスさんをロムルスさんがたしなめました。


「冗談だよ、兄者。まあいざという時があれば俺が殺すさ」


「もし仮にそうなったとしても、指示するまでは何もするなよ」


「へーい。備えだけはしとくぜ」


「ああ。皆に害が及ばないのを優先して頼む」


 マーリンちゃんは狼双子のそんな会話を聞きつつ、「じゃ、ボクは夕食作りの手伝いしてきまーす」とフワフワと離れていきました。


 セタンタ君も料理番の人達を手伝い、配膳とかしているようです。


 準備が整ったら見張りも立てつつ、皆で夕飯と相成りました。久しぶりに船とは違う場所に腰を落ち着ける事が出来たので、皆さんちょっとリラックスできているようですね。



「砂上船での遠征は楽だなー。結構スキかも」


「ちょっと揺れるけど、誰かが船を見ててくれれば寝てる間に目的地に辿り着くってのは他の郊外遠征には無い感覚だよな」


「セタンタ君、それなら海もいいぞ、海も」


「海はべらぼうに危ないって聞くけど」


「ボクは正直、飲料水の事が心配だよー」


 セタンタ君やマーリンちゃん、そしてそれ以外の砂上船による遠征の初参加者達がそれぞれ感想を言い合ってるようです。


 中でも皆が気にしているのは「水の問題」でした。


 魔術は色んな事が出来ますが、こういう砂漠で水を生成するのは少し難しいです。結構、無から有を生み出せたりもするんですけどね。


 掘れば水が出るところもあり、場所によってはオアシスもありますが、森林地帯などよりは格段に水の確保がシビアです。


 それだけに個々人の水も遠征隊長達によってキッチリ管理されています。


 飲まなければ飲まないで脱水症状起こしかねないので、その辺に気をつけつつ、船で運べる量にも限りがあるので節約しながら飲んでいく事になります。


 水不足の影響は飲料水に限りません。


 洗顔も安易には出来ず、身体を洗うためにジャブジャブ使うなど長期の砂漠遠征では論外です。食後の皿洗いなど砂漠の砂を使う事もあります。


 皿洗いに関して言えば、パンを使うのも一つの手ですね。あらかた食べ終わり、肉汁やタレがついた皿をパンで拭き取りつつ食べるのです。こうすればしつこい油汚れを取って出来るだけ少量の水で洗う事が出来るようになります。


 ただ、バッカスでは皿洗い用に調整したスライムがあるので、水気を逃さない形で含んだスライムで皿を拭き、油は舐め取って消化してもらうという方法が砂漠においては特に使われています。



「仮に水無くなったらどう確保するの? 掘るの? 祈るの?」


「ハハハ! マーリンちゃん、水分なんてその辺で見つかるもんさ」


「そうなの、レムスさん?」


「おう。魔物の腹を掻っ捌けばボタボタ出てくるぞ」


 レムスさん、それは血です。


 まあ水分といえば水分ですが……。


「いざとなったら俺がガンガン出して飲ませてやるぜ」


「おしっこを!? へんたいさんだ!」


「尿も飲用は危ないからやめとけよー」


 セタンタ君が片付けしつつ、アブノーマルそうなプレイをたしなめました。


 尿は飲料水より塩分を含んでいるので、そのまま飲むと脱水が進みやすいです。


 蒸留させたり、飲用には使わないという手もありますが、どちらにせよ余裕があるのであれば最後の手段になりがちでしょう。


 幸いと言うべきか、今回の遠征はキチッと水の補給も考えられているため、移動しながら冒険者ギルドが整備してくれている井戸などにもいくつか寄っていく事になります。


 枯れてたり魔物が壊していたりして補給もままならなさそうなら在庫見つつ、「戻る余裕があるうちに帰還」という方針打ち立て、一人一人に節約を心がけてもらうためにもロムルスさんが水の残量などを発表してるようですね。


 船での移動は楽ですが、物資管理は少しシビアな遠征なのです。


 

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