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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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黄金を生む鳩の糞



「よっこいしょー!」


 レムスさんが砂漠を疾走しているアンニア号にイカ号から飛び乗りました。


 先に移動して待っていたマーリンちゃんはロムルスさん達に視線を注がれつつ、壺をかき混ぜていました。ぬか床でも触っているかのようです。


 ただ、中身は漬物などではなく、そこら中にあるアラク砂漠の砂を拾って入れており、追加で粉末や液体の薬品も入れながら魔術を込めているようです。


「はいはい、おまたせおまたせ~」


 マーリンちゃんは壺を逆さにし、砂を外にバサーッと出しました。


 すると、砂が意志を持っているように動き出したではありませんか!


 実際にはマーリンちゃんが自分の魔術を反映しやすいように調整した砂を魔術で操り、動かして形を取らせているのです。


 砂は重力に逆らい動き、船の形を取りました。


「後ろから追いかけてきている砂上船の形はこんな感じ。あ、乗組員も反映しとくね。えっと、乗ってるのはご覧の通り8人。ただし遠隔で相手に気づかれない範囲で無理やり見てるから隠形の魔術で隠れられてると見逃すかも」


 マーリンちゃんの言葉に従うよう、船の細部まで描かれていっています。


「うわ、何だこの精度、再現率……」


「ブロセリアンドの観測機並みか……」


「どれぐらいの間隔で反映出来てるのかしら?」


「いや、申し訳ないけど1分ぐらい……」


「十分過ぎるわ」


「相手が止まっててくれれば読唇まで持ってけそうなんだけど、ちょっとボクじゃ無理そう。でも相手方の装備と物資はおおむね把握出来てると思う」


「やばい、私、観測手って名乗るのが恥ずかしくなるほどに格が違うわ」


「赤蜜園の子ってハンパねえのな。この子と同じぐらいにずば抜けた術師を何人も輩出してんのか? さすが胡蝶様……」


 マーリンちゃんを褒め称える声に対し、セタンタ君が「いや」と呟いて口を挟んできました。


「マーリンが本人がズバ抜けてるだけだよ。孤児院出る時に政府とナス士族の研究にいきなり誘われたぐらいだから」


「はー、どっちにしろマーリンちゃんパネエって事か」


「かな?」


「てへーっ! 照れるよぅ! セタンタが珍しくボクを褒めてる」


 マーリンちゃんがニヘニヘ笑いながらテレテレと後頭部を撫でています。


 セタンタ君は「性格とか目を瞑ればマーリンはスゴイよ」と補足し、マーリンちゃんがムッとした様子でそのお尻をつねりました。


 それはそれとして、一同はマーリンちゃんが相手に気づかれないように読み取ってくれた追跡者の様子と砂上船を観察しました。


 レムスさんがまず最初に鼻で気づき、次にロムルスさんが気づいてたまたま行き先と出港時間が重なったのか、と相手方の反応を見ていたものの、「あまりにも航路が一致しすぎている」という結論に至ったようです。


 実際、離れたところにいる後続の船はアンニア号とイカ号を追っていました。


 偶然にしては長く続き過ぎのようです。


 まるで追っかけてきているようです。



「アラク砂漠の採掘って南部が本場ですよね? 私達はあくまで小規模な鉱床あるって情報買って掴んだから、そこに真っ直ぐ進んでるだけで」


「腐肉漁りだろ。俺らが採掘しようとしてる鉱石を掻っ攫うつもりとかの」


 一人の獣人さんの言葉に皆さんが渋い顔をしました。


 冒険者を長く続ければ続けるほど、他者に寄生しておこぼれを奪っていく腐肉漁りに悩まされるものです。


 話に聞く分にはまだ笑えるものもありますが、いざ自分が同じ目に合うと渋面にならずにはいられません。


 特に今回の遠征はカンピドリオ士族の若者が多く、バッカスでも名の知れた武闘派である彼らは腐肉漁りという行為を嫌悪しています。


 ただ近くをうろついてるだけなら目溢ししますが、魔物を刺激して起こしてけしかけてくるような者も時には現れるので、あえて関わりたくもないのです。


「でも、アラク砂漠で腐肉漁りは珍しいから、違うの……かも?」


「採掘するなら砂上船がほぼ必須だから、腐肉漁りにそれだけの金があるかだな」


「だが、いるところにはいるものだ」


 そう言ったのはロムルスさんでした。


 ロムルスさんはマーリンちゃんが投映している追跡者の船の様子を指差しつつ、船に置かれた機材が採掘用のものである事を指摘しました。


「アラク砂漠で個人採掘業を営もうとしたものの、技術ノウハウが無くて立ち行かなくなったという例は毎年存在している。我々の後ろにいるのもそういう類の者達かもしれない。本当にたまたま行先が同じなだけ可能性も捨てきれんが」


「……まさか、情報元が二重に売り渡したって事は?」


 案内として同行していたドワーフ山師の助手さんが慌てた様子で首を振り、その可能性を必死に否定しました。周りは怖いオオカミさん達ばかりですからね。


 ただ、ロムルスさんが直ぐに弁護してくれました。


 一見の取引相手というわけではなく、カンピドリオ士族とドワーフ山師さんはそこそこ長い付き合いです。


 短期的に見れば小さな取引だったとしても、一度信義が問われるような行いをしたらこれまで築いてきた関係がパアとなります。


 ドワーフ山師さんの方もその辺は心得ているはずです。



「助手さんは客人だ。そこはかとなく殺気をおもらしするのは辞めるように」


『ごめんなさーい』


「い、いえ……」


 マジでやったら武闘派士族の狼達が「糞ったれがぁ!」「良くもまあケチくさい事をしてくれたのぉ!」と士族の面子もあって動き出すのも目に見えています。


 都市間転移ゲートで街が結ばれているバッカスでは「よその街に逃れて雲隠れ」という事もしづらく、他国に渡るのも色んな面で難しいのでドワーフ山師さんが裏切ったという事はないでしょう。


 酔っ払ってたとかならともかく。



「……あ、コイツ見覚えあるわ」


 そう言ったのはレムスさんでした。


 マーリンちゃんが投映している追跡者の砂上船の甲板をイライラした様子で右往左往している人物を指差し、「昨日、アルヒの酒場で見た」と言いました。


「確か酒場の店主相手にくだ巻いてたぜ。採掘が上手くいかねえとか借金が減らねえとかどうのこうの。そん時は酒臭いのしか記憶残らなかったけど、容姿は似てる……気がする」


「私達を出し抜いて一山当てるつもりなのでしょうか?」


「かもかも。どします、ロムルス若様?」


 皆が遠征隊長であるロムルスさんの顔を見ました。


 ロムルスさんは「追ってこれないよう痕跡を消すのもアリだが――」と言いつつ、自分の考えを皆に明かしました。


 イカ号にも何人か操船と見張りのために残っているので、全員がロムルスさんの話を直ぐ聞けたわけではありませんでしたが、とりあえず最初に聞いたカンピドリオ士族の若者達は「若が言うならそれで」とコロッと従う事にしました。


 セタンタ君とマーリンちゃんはほぼ外様なので、首を傾げて「大丈夫かな?」と言っていましたが、ロムルスさんは柔和な笑みを浮かべてそれを諭しました。


「大丈夫、いざとなったら相手方の血が砂原を染めるだけだ」


 諭してるんですよね……?


 どう考えても「場合によっては相手殺すで」と言ってる気がしてなりません。


 どんな意図があるにしろ、ロムルスさんは遠征隊長です。


 この遠征の責任者でリーダーです。


 リーダーの決めた事ですし、特別反対すべき事でも無いとセタンタ君達も思い、ロムルスさんの決定に従う事にしました。



「兄者、ウンコの臭いがするぜ?」


「愚弟よ、せめて糞の臭いと言ってくれ」


 ケロッとした様子でウンコと口走ったレムスさんに少し呆れた顔を見せつつ、ロムルスさんは「どこだ?」と問いました。


「北西にちょいと逸れたあたりかね? 少し進路変えればマーリンちゃんがサクサク見つけてくれると思う」


「わかった。少し寄り道しよう」


 船がレムスさんの言葉を反映させつつ、少しだけ進路を変えました。


 夕焼け空の下、砂原を征く船の進路中には一見すると何もありませんでした。


 しかし、観測魔術を起動したマーリンちゃんが「あそこちょっと埋もれてる」という場所に辿り着くと微かに臭いがしました。糞の臭いです。


 数人が採掘用のゴーレムを操り、臭いのする場所を掘っていくと砂に埋もれた魔物の糞がありました。


 彼らは糞を見つけただけでは止まらず、そのままザクザクと糞を掘り出していきました。まるでそれが宝物であるかのように。


 魔物の糞は結構な大きさのようです。



「屑であれば捨て置くとして、良いものあれば持っていこう」


「船が満載になるぐらい埋まってたりして」


「これぐらいの大きさの砂原鳩のものでは難しいだろう。だが、そうなったらそうなったでいいのだがな。満載にならずともひとまず持って帰る手もある」


 ロムルスさんとレムスさんがそんな会話をしつつ、ゴム手袋をハメて掘り出された糞をいじくり回そうとしていると、カンピドリオ士族の子達が止めに来ました。


「ちょっ、若様達は見ててください!」


「ばっちいから触ってはなりません!」


「そんな俺達だけ仲間はずれにするなよー。砂原鳩の糞ぐらい何度か漁った事あるし、別にそんな難しい事でもあるめえよ」


「うんこだからダメと言ってるんスよ!」


「死にたての魔物を解体し、その臓腑を漁る方がよほど汚い」


 二人は「おらおら、うんこついた手で触っちゃうぞ」と手をニギニギしつつ、ゴム手袋越しに魔物の糞をいじりはじめました。


 カンピドリオ士族の人達は次期士族長である長男と、士族長とはならずとも士族戦士団を率いる事になるであろう次男がウンコ触りだした事で「んもぅ」と怒りましたが、「若様達ばかりにさせてられるか」とせっせとウンコに触りだしました。


 そして、まずレムスさんが糞の中から何か硬いものを取り出しました。


「おっ! アダマンタイトだ、幸先いいなぁ」


「手を突っ込むのは糞だが、こうして金目のものがポンと出て来るのは心地よいものがある。駄菓子屋のクジを思い出す感覚だ」


「わかる。触るのはウンコでも、金目のもんが出てくると嬉しいぜ」


 皆がいじっているウンコは砂原鳩という魔物のものです。


 砂原鳩とは鳩の名を関していても、容姿はまったく似ておらず、近いものを挙げるとしたらオオサンショウウオのような外見をしています。


 体長は大きなもので30メートルほど。直ぐ近くに人間がいても呆けたまま無視する事もあり、魔物の中では非常に温厚な性格をしています。


 ただ、人の方からちょっかいを出すと反撃はしてきます。


 普段はゆっくりと砂の中を移動している砂原鳩は戦いにおいてもノンビリとした動きで、大きさのわりに非常に弱っちい魔物です。


 ただし、顎は非常に強靭なものお持ちで、人間はもちろん岩石でもシャクシャクと噛み砕いてくるので注意しましょう。


 砂原鳩が面白いのは、その弱っちいところではありません。


 そのウンコの中に希少鉱石が混ざっている事がよくある、という事です。


 だからレムスさん達は楽しげにウンコに手を突っ込んでるわけですね。


「おおっ!? 蒼鉱石……! と思ったらただの鉄鉱石かよ」


「とりあえず積んでおけ。邪魔になったら捨てればいい」


「りょーかい」


 ウンコの中に鉱石が混ざっているのは、砂原鳩が砂中や地下深くにある岩石をボリボリと食べているためです。


 消化しきれなかった鉱石がお腹の中に残り、ウンコと一緒に排出されてくるため砂原鳩のウンコを見つけたら「とりあえず漁っておく」のがこの砂漠を征く者達の稼ぐための知恵となっています。


 取れるものも地表には現れづらい希少な鉱石が混ざっている事も珍しくないので、砂原鳩の糞を主に探す採掘業者さんもいるほどです。


 数少なくなった食事をする魔物である砂原鳩の特性が「小石などを食べて消化の助けとし、やがては削れて排出されていく鳩に似てるなぁ」という事で名前に鳩の名を冠しているわけなのです。


「麻袋二杯分、ってとこかー」


 レムスさんが砂で洗った鉱石達の入った麻袋をジャラジャラと鳴らしました。


 希少鉱石も混じっていたので、それだけで数十万の買値がつきそうですね。もちろん鉱石の種別ごとに分ける事にはなりますが。


 砂上船の戻り、砂上歩行の魔術を切った皆さんが砂を払い落としているとロムルスさんが「では再度出発しよう」と言いました。


「今夜は停泊しての宿泊となる。一夜だけの事ではあるが、揺れない足場で身体を休めてくれ」




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