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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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成長途上と鎧の付き合い方



 採掘遠征参加を決めたセタンタ君は遠征に向けての準備を開始しました。


 遠征に必要な物資関係はロムルスさんが手配していますが、砂漠の遠征となると少し装備を新しく買い整える必要がありました。


 砂漠に行くのは初めてではありませんが経験を積んでいるロムルスさん達のアドバイスを聞き、この機会に新たに買う事にしました。


 これ以降、砂漠の遠征に行かないなら無駄になる物もありましたが「べらぼうに高いもんじゃないしいいや」とセタンタ君は割り切ることにしたようです。


 あと、ついでにフェルグスさんのところへ報告に行きました。


 しばらくアラク砂漠行ってくるから仕事手伝えねえや、と。


 フェルグスさんの妻の一人である寮母さんに言伝ことづてを頼んでも良かったのですが、クアルンゲ商会の冒険者用品店に行く必要もあったので、そのついでに話をしにいったようです。


 セタンタ君から遠征の話を聞いたフェルグスさんは嬉しげでした。


「そうかそうか、ユリウス殿のところの若殿に誘われたのだな」


「うん、まあ、一応は」


「次期士族長の若殿は大変聡明な方だそうだ。あの年で武は御母上の才を継ぐ士族有数の戦士で、現在から将来に至るまでカンピドリオ士族をさらに盛りたてると評判の方だ。失礼のないようにしなさい。タメ口はならんぞ」


「う…………」


「タメ口はならんぞ」


「う、うん、これから気をつけるよ」


 フェルグスさんは珍しくニコニコと笑っています。


 笑っている事そのものは珍しい事ではないのですが、ここまで嬉しそうに笑みを浮かべるのはそうポンポンは無い事です。


 笑ってそこそこ良いお値段のするお酒を出してきて、「お前が買ってきた事にして遠征隊に差し入れなさい」と渡してくるほどでした。


「これからも末永く頼りにされるよう、いつも以上に頑張ってこい」


「あー……うん……」


 セタンタ君はちょっと戸惑い気味。


 フェルグスさんの言動は商人としての下心とか以前に、マーリンちゃんの言っていた「親心」の話が真実であろうと裏付けるようなものなので、「そこまで心配されてたのか」と戸惑ってしまったのです。


 むずかゆく、心がそわそわしたセタンタ君は足早にその場を去りました。


 去りかけて、フェルグスさんとは別の人に呼び止められました。



「あ、おまえ! ちょっと待て!」


「ん?」


 呼び止めてきたのはパリス少年でした。


 今日はフェルグスさんに言われ、クアルンゲ商会で荷運びをしていたようです。


 技能と知識的に冒険者として働くには不足なため、フェルグスさんが言いくるめて商会の仕事を手伝わせつつ、指導を行っているようですが本人は「はやく一端いっぱしの冒険者として活躍したい!」とムズムズしているようです。


「パリスか。どうした?」


「どうしたもこうしたもねえ! お前、オレ様を冒険に連れていかなかっただろっ? ずるいぞ、自分ばっか活躍しやがって」


「冒険って……ああ、女の子探しに行った時の事か?」


 セタンタ君は夜燕に襲われた時の事を思い出しました。


「別に活躍はしてねえよ。むしろ魔物に良いようにやられたぐらいだ」


「うそつけ! 生きて帰ってきたって事は勝ったんだろ? ずるいぞ!」


「ずるいのか……?」


「オレ様だって冒険行きたくてウズウズしてんのに、お前はずるい。昨日なんて魔物の痕跡の勉強をまたやってたんだ。オレ様はカッコよく戦いたいのに、エレインさんが剣も振らせてくれねえんだ。まだ早いって言ってさー」


「そりゃ災難だな?」


「そうだぞ、大変なんだぞ」


「でも、冒険者として活動していくなら、戦う以外の基礎知識とか技能もちゃんと身につけるべきだと思うぞ。じゃあな、頑張れよ」


「帰るなっ、ずるいぞっ」


 セタンタ君はちょっと困惑しました。


「何だ、俺はお前の愚痴を聞かないといけないのか?」


「違うっ、約束しろっ」


「約束?」


「今度は、ちゃんとオレ様も冒険に連れてけ! オレ様を活躍させろ」


 パリス少年はプンプンしながらグイグイ引っ張っています。


 セタンタ君は「しつこそうだなぁ」と思いつつ、適当に返しました。


「はいはい、わかったよ、今度は考えておくよ」


「ホントか!? 絶対だぞ! お前ばっかいい格好させないからな!」


「そんな華やかなもんじゃねえと思うけどなぁ……」


「お前もオレ様のこと、役立たずと思ってんのか?」


 パリス少年はムッとして眉をひそめました。


「オレ様は役立たずじゃない。ちゃんと戦えば、ちゃんと強いんだ」


「なら、ちゃんと人の話を聞いて訓練と勉強に励めよ」


「なら、ちゃんとオレ様も冒険に連れて行けよ!」


「はいはい。あ、そうだ、この間の約束がまだだったな」


「約束?」


「メシ奢るって言ったろ? 昼メシで良かったら一緒に行こうぜ」


「あ、うん、でも、まだ仕事あるしなー……」


 パリス少年がそわそわとクアルンゲ商会の商館を振り返ると、二人のやり取りを微笑ましそうに見守っていた年配の女性と目があいました。


 フェルグスさんの奥さんの一人です。年配の女性はニッコリ笑ってパリス少年に「お言葉に甘えてきなさいな」と言いました。



「えっ、でも、仕事ちゃんとしなきゃダメなんだろ?」


「お昼休憩よ、お昼休憩。少しだけ早いけど、私がお昼に行かせたって話しておくから、セタンタ君と一緒に行ってきなさい」


「大丈夫かな……誰も怒らないか?」


「大丈夫よ。何せ、私が酒保部門の長だもの。文句は言わせないわ」


「んー……」


「そうね……じゃあ、ちょっと一緒に来てくれる? 私と一緒に『お昼休憩に行ってきます』って言いにいきましょ?」


 パリス少年は年配の女性の言う通りにしました。


 そして意気揚々と戻ってきて、セタンタ君に「大丈夫だって!」と言って笑い、二人は一緒にお昼を食べにいきました。


「グレンデル亭でいいか?」


「安くて沢山食べれるとこなら、どこでもいいぞ」


「じゃあグレンデル亭でいいな。行くぞ」


 二人が食堂に行くと、少しだけ混雑していました。


 もうすぐお昼なので早めに来たお客さんが沢山います。それでも満席では無かったので、待たされずに直ぐカウンター席に通してもらう事になりました。


「ここ、おいしいよな。西方諸国はこんなとこ無かった、と思う」


「お前、向こうから来たのか?」


「うん、バッカスの生まれじゃないんだ。こっちで生まれたかった……」


「いまはバッカス王国にいれるから、別にいいだろ?」


「うん。でも、もっと早くが良かったなぁ……」


 そんな話をしつつ、二人は注文を済ませました。


 セタンタ君はデザートまで注文し、「一人だと食べづらいからお前も頼めよ」と言い、パリス少年はちょっとハニカミながら「同じの」と店員さんに言いました。


 注文の品が来るまで、二人は冒険者絡みの話をしました。



「オレ、いま鎧を買うためにお金貯めてんだ」


「鎧?」


「うん、全身甲冑! カッコイイだろ? なんかいい店あったら教えてくれ」


「いや、全身甲冑はまだ止めといた方が良くないか?」


 セタンタ君の言葉にパリス少年はムッとしました。


「なんだよ、オレ様には似合わないとか言うのか?」


「そうじゃねえ。お前、身長とかもう伸び止まってんのか?」


「そんなことない。これからもぐんぐん伸びる。伸びなかったら整形だ」


「なら、なおのこと止めた方がいい。成長しきってからじゃないと何度か仕立て直したり、買い替えたりしないといけなくなるぞ」


「んんっ? あー……そっか、大きさが合わなくなるって事?」


「ああ。全身甲冑は高いし、そういうとこ注意しないと」


 二人とも成長期が終わりそうな時分ですが、冒険者稼業という重労働を経て腕や脚が太くなり、身体はまだ出来上がっていくでしょう。


 服のサイズが変わる事があるのと同じく、まだ若い彼らは鎧のサイズまで変えていかなくてはならない可能性を秘めています。


 鎧の方でまったく調整が出来ないわけではないのですがそれも限界があり、全身甲冑となると相応に高額となってしまいます。


 魔術による整形で成長を止める事も出来ますが、それはそれでお金がかかりますし、魔術に頼らずとも動ける肉体を育んでおく事は良いことです。


「どうしても全身甲冑がいいって言うなら止めねえけど、ちょっと勿体無い事になるかもしれないぞ。金が有り余ってるならともかく」


「そんなにない……」


「中古買おうにもピタリと合うものがあるとも限らねえし。ちょっと着るだけで部屋の飾りになっちまうかもなぁ……」


「そんなー」


「少し大きめの鎧を買って、下着の方で調整するって方法もある。でもそれも限界あるし、あんまり大きすぎると隙間とか多くなって防具の意味が損なわれるかもしれないからな。よく考えて決めた方がいいぞ」


「うーん……」


「買うにしてもフェルグスのオッサンとかによく相談した方がいい。オッサンの方がもっと詳しく知ってるし、オッサンなら何か良い解決策も知ってるかもしれない。何するにしても良く知ってる人に意見聞くのが無難だ」


「そうする」


 パリス少年はションボリと頷きました。


 彼の頭の中では全身甲冑に身を包んだ騎士の如く、獅子奮迅の活躍をする自分の姿が思い描かれていたようです。


「そんな落ち込むなよー」


「落ち込んでないっ」


「少なくとも、もう何年かしたら身体も出来上がるだろうし、その頃に買えばいいんだよ。将来は今より、もっと良いものが楽に買えるようになってるさ」


「うん。でもそれまでどうしよう、何買っても大きさの問題はあるだろ?」


「対策としては、買い替えとかしても大して金のかからないものを買うとか、調整の利きやすい防具を買うとかあると思う」


「調整の利きやすい防具?」


「例えばベルト式で固定する鎧とかな。とりあえず手甲と胸当て辺りがあればいいんじゃないか? 金属鎧にこだわらず、革製の安いの買ったりとかな」


「なるほど。なるほどなー」


「金属鎧は重くなりがちだし、魔術使わず移動したい時とかつらいぞ」


「そんな時ってあるのか?」


「魔力消費押さえたい時とか、魔力を感知して追ってくるような魔物とやりあう時だ。それこそ痕跡の話だよ」


「なるほどなー」


「魔術の加護が込められた紡器つむぎもいいぞ。大体軽いし、加護があれば下手な鎧よりも堅い時がある。まあそれはそれで大きさの問題とかあるが、ピッタリじゃなくて余裕のある大きさの外套でもいいだろ」


「なるほどだな。教えてくれてありがとな!」


 二人は料理が来ても冒険者稼業に関する話を交わしていました。


 食べ終わった後、パリス少年は「仕事戻らなきゃ」と言いつつ、別れ際にはセタンタ君に「ちゃんとオレ様も次の冒険には連れていけよ!」と念押ししました。


 セタンタ君は適当に生返事をしました。


「連れていくにもパリスの実力だと、危ないとこは問題だしなぁ……」


 生返事ではありましたが、ウンウンと悩みつつ、駆け出し冒険者向けのプランを考えながら寮へと帰っていきましたとさ。




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