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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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作戦会議用の酒場



 セタンタ君はレムスさんに連れられ、酒場へやってきました。


 昼営業をしている酒場で、入って直ぐの大部屋には昼間からお酒を飲んでいる人の姿もありましたが、セタンタ君達はそれに混ざってお酒飲んだり食事したりはせず、奥の個室へと通されました。


「ここで昼メシ食いつつ、遠征の作戦会議と行こうぜ」


「俺らまだ参加決めたわけじゃねえんだけど……」


「そういやそうだったな! まあ、兄者も待ってるから話を聞いてくれや」


「きいてくれやぁ」


 レムスさんの言葉にその頭に捕まっていたアンニアちゃんが続き、二人は奥の個室へと入っていきました。セタンタ君とマーリンちゃんも「まあとりあえず話だけなら」とついていきました。


 レムスさん達が入っていったのは、ちょっとした密談用の個室です。


 食事しながら儲け話――遠征計画や魔物討伐の相談や話し合いを行うのに利用されています。貸し会議室的な側面もあるのです。


 そのため、個室内の一面に大きなコルクボードがありました。


 地図や遠征計画について記した書類を張り出すのに使えるようですね。


 ところによっては黒板やチョークも備え付けているところもありますが、ここの酒場は衛生面の事を考えているのかコルクボードしかありませんでした。



 個室の中にはセタンタ君が予想してなかった人物の姿がありました。


「あ、おっちゃんじゃん」


「む? セタンタか、思わぬところで会うなぁ」


 セタンタ君の知り合いのドワーフ山師さんでした。


 郊外で排便ぶりぶりしてたドワーフ山師さんです。


 どうも今回のロムルスさん企画の遠征において、要の鉱石の採掘場所についての情報元であるようです。自分で調査して、場所の情報を売りつけたようですね。


「若殿達――というかカンピドリオ士族には結構世話になっとるんじゃ」


「お世話になっているのはこちらですとも。ヴェスヴィオの件も助かりました」


 今回だけではなく、随分と前から取引があるようです。


 なんでも小さな鉱脈の情報だけではなく、何度か大きな鉱脈の情報も売りつけた事もあり、既に信頼関係が構築されているようです。セタンタ君もドワーフ山師さんとは知人同士なので「まあ、おっちゃん情報なら九割方正しいだろう」とか考えていました。


 セタンタ君とマーリンちゃんが来たので、ロムルスさんはある砂漠の地図を張り、説明を始めました。アンニアちゃんは夢中で料理のメニューを見てます。


「今回はアラク砂漠の北部における小規模採掘を予定している。出発は砂漠採掘の本場、アルヒから。移動はもちろん砂上船だ。採掘場所は、大体この辺りだな」


「あれ? アルヒって砂漠のド真ん中で……採掘場所が北部なら、エルミタージュから出発した方が近いんじゃね?」


「地図上はな。ただ、砂上船の移動は砂質が関わってくる。アルヒがある砂漠中央部はアラク砂漠で最も砂上船の速度が出る砂質なのだ。アルヒから出た方が大抵は速い。ゆえにアルヒは砂漠における採掘の本場になっているわけだ」


「へー」


「セタンタ、孤児院での座学でその辺の話はあったよ……」


「マジか。寝てたかも」


「試験に出なくて良かったね」


 セタンタ君達がいた私設孤児院・赤蜜園は冒険者になる教育も施していますが、孤児院長さんが子供達にあまり冒険者になってほしくないため、かなり厳しい教育を突破しないとなる事を許されません。実技以外の試験もあるのです。


 その辺はさておき、ロムルスさんによる説明は続きました。


 とりあえずはセタンタ君達に「遠征に参加するか否か」を決めてもらうための説明なので、詳細な採掘場所は伏せつつ、「遠征期間」「頼みたい仕事」「報酬」「物資の扱い」「死亡時のケア」などの話をしていました。


 遠征を取り仕切る隊長あるいは参謀にとって、この手のプレゼン能力があると便利です。自分の冒険者クランだけでは戦力や能力が足りず、他所のクランやフリーの冒険者に応援を依頼する時に使うのです。


 現実味や危険性、そして危険に対する対策を立てているかどうかの確認のために行われます。よほど気心知れてない限り、二つ返事で依頼を受けずにこの手の話し合いや説明を経る方が無難ですね。


 ロムルスさんは手慣れた様子で、参加する冒険者にとって気になる点をポンポンポンとわかりやすく提示しました。


 口約束だけではいけないだろう、と署名捺印付きで説明した内容を確約する書面も渡してくれました。


「死亡時の保険は全額こちらの費用負担で再契約する事を確約する」


「それは嬉しいんだけど、俺は砂上船での遠征は初なんだ。それでもいいの?」


「ボクも砂上船での遠征は初でーす」


「その点は大丈夫だ。操舵は専門家を呼んでいるので、キミ達には護衛と索敵だけやってもらえればいい。今後も各地で転戦しつつ冒険者を続けていくのであれば、砂上船での遠征は良い経験になると思うのだが」


「「うーん……」」


 セタンタ君とマーリンちゃんは説明内容も明快で、危険に対する対策もちゃんと立てられており、何より物資を切り詰めに切り詰めた窮屈な遠征ではないようなので参加を決める事にしました。


 それを見たアンニアちゃんはコクリ、と頷きました。


「あんにゃはコレとコレとコレとコレとコレとコレが食べたいよぉ」


「おうおう、じゃんじゃん頼め」


「じゃあ、おみせごと買って~」


「手加減してくれていいんだぞ?」


 皆も飲み物以外の注文をし、食事しながら話の続きをする事にしました。



「おっちゃんも遠征に参加するのか?」


 と、セタンタ君がドワーフ山師さんに聞きましたが否定されました。


 何でも自分は行きつけの飲み屋の女の子達と七泊八日で温泉旅館に泊まりにいき、詳細な案内は助手さんに任せるそうです。


「あんにゃもしゃんかするよ?」


「アンニアはお留守番だな」


「にゃんでー!? あんにゃぷんっ」


 アンニアちゃんはロムルスさんに対してぷんぷんしました。


「あんにゃもしぇんしだよ? れむにーたん、たおちたし」


「ええっと、アレだ、アンニアはまだ小さいからな?」


「少し違う」


 ロムルスさんはレムスさんの言葉を遮り、否定しました。


「子供を都市郊外に連れていくと、我々がバッカス政府に処罰されるからだ。特に過失があると判断された場合、処刑される可能性もあるほどの罪だ」


「しょうなの!?」


「ああ。すまないアンニア、私もまだ死ぬわけにはいかないのだ」


「ふぇぇ……それは、しかたナイナイね……」


 さすがに処刑までされる事はあまりありませんが、バッカスにおいて正当な理由なく未成年を都市郊外に連れていくのは御法度です。


 都市郊外には魔物がいて危険ですし、王様の加護もそういうところでは上手く効果を発揮出来ません。魔物による事故死に見せかけて子供を殺し、処分するような親もいるので処刑はともかく、収監ぐらいは十分有り得ます。


 赤蜜園にはその手の罪で親が収監され、引き離された子供も暮らしています。


「でも、大人になったらついてっていーよね?」


「ああ。それは考えておこう」


「やったぁ!」


 連れていくとは言ってません。


 ロムルスさんにしろレムスさんにしろ、妹のアンニアちゃんが可愛いので危険な都市郊外には行ってほしくないと思っているようですね。


 そのためアンニアちゃんが戦士としての修練を励もうとしたら、お菓子やご飯で釣ってサボらせたりもしています。「戦う技術がない」として戦士にも冒険者にもなれないようにし、都市内で可愛がっていく腹積もりのようです。


 将来、そのことで揉めなければいいのですが。


「連れていけない代わりに、アンニアに贈りたいものがある」


「えっ! たべもの!?」


 ロムルスさんの発言にアンニアちゃんが食いつきました。


「食べ物ではなく、ある意味では形は無いに等しいが大事なものだ。遠征出発の日に渡したいと思っているから、早起きして見送りにきてくれるだろうか?」


「わかたよ! あんにゃがんばる」


 アンニアちゃんはムフムフと楽しみそうに笑い、セタンタ君とマーリンちゃんにも「えんせー、がんばってきてね」とエールを送りました。




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