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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
十章:なれ果てのメサイア
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そして次の冒険へ



 マーリンちゃんがカヨウさんと別れ、ヴィンヤーズを出た頃。


 セタンタ君は首都にあるアパートの一室にいました。


「うーん……こんなもんでいいか? ……いや、ちょっと曲がってねえか……?」


 彼はブツブツ言いつつ、アパートの壁に張り付いていました。


 墓守との戦いで破壊された槍を、新居の壁に飾っているのです。自身への戒めとして壊れた状態のまま飾る事にしたのですが、壊れているなりに見栄えを気にしているらしく、ウンウンと唸りながら飾り方を工夫しているようです。


 その作業を鼻歌交じりでやっているセタンタ君ですが――。


『ふざけんじゃねーッ!! ブッころすぞ教導隊長アハスエルスゥ~~~~ッ!!』


 数日前は、狂い叫んでいました。


 そうなったのは、ニイヤド商会が起こした首都襲撃事件で――魔物達が大暴れした影響で――彼の住居が完膚無きまで破壊し尽くされたのが発端でした。


 住居内にあった家具や財産も、壊れた槍がまだマシに見えるほど無残な状態になったため、彼は激怒しました。瓦礫撤去の片付けに来たガラハッド君とパリス少年達がドン引きするほど怒り狂っていました。


 最終的に、ナスの士族長が「私は悪くないですが、ウチの養父の起こした不始末なので、弁済しましょう。私は悪くないですけど」と言い、他の被害者達共々弁済を受ける事が出来たので何とか怒りは収まりました。


 弁済で大儲け――とまではいきませんでしたが、以前使っていたものより少しだけ良いものが新品で手に入る事になったので、概ねホクホク顔になりました。


 住居もこの際なので引っ越す事にして、今日が引っ越し当日。


 新しい家財の殆どはまだ届いていませんが、無事だった品物や直ぐに必要になる小物や寝具は友人らの力を借り、運び込みました。


「うーん……まあ、こんなもんでいいかな……?」


 セタンタ君は1時間ほどかけて槍の飾り方を模索し、ひとまず納得した様子で壁から離れました。


 一仕事終えた少年は、飲み物を取りに台所へ行きました。


 その途中、居間を横切ると、パリス少年が地図を前に他の人々と激論を交わしていました。集まった機会に次の冒険の計画を話し合っているのです。


 そこにはライラちゃんを抱っこしたジャンヌちゃんが素っ頓狂な意見を挟んでいる姿もありました。引っ越しを手伝いに来てくれたベオさんやレムスさん、そしてアタランテさんも好き勝手に口を挟んでいました。


 皆が楽しげに話をしている様子を、セタンタ君は飲み物片手に満足げに眺めていました。友人らと集まって宴会したり、冒険の計画を話し合う会議室にも使えるよう、少し広めの部屋を借りた甲斐があったな――と思い、笑顔を浮かべました。


 彼はひとまず議論には加わらず、ベランダで外の光景を眺めつつ、黙って話を聞いているだけでしたが――。


「お」


 ベランダに近づいてくる人影を見つけ、声を漏らしました。


 その人影はふよふよと浮遊しながら近づいてくる猫系獣人の女の子でした。


「マーリン。墓参りはもう終わったのか?」


「うん。まあまた行くけどね、しばらくしたら」


 マーリンちゃんは買ってきたお菓子の袋を渡しつつ、ベランダに侵入しました。


 セタンタ君は「玄関から入れよ」と文句を言いつつ、受け取ったお菓子の袋から自分とマーリンちゃんの分を取り、残りは友人らに渡しました。


「皆、盛り上がってるね~。特にパリスがやる気みたい」


「今回はアイツ主導だからな。例の技能経歴書の比べ合いっこに関わる狩りだし」


「なるほどね」


 パリス少年は冒険者としてのさらなる躍進を目指し、燃えていました。


 単に功績を上げるだけではなく、収入の向上も目指していました。セタンタ君の新居を「いいないいな」と見て回った結果、「オレ様も自分の家を借りるんだ!」と意気込み、フェルグスさんの家からの独立を考えているようです。


 住むところだけではなく、書斎も作り、そこで魔物の研究とかもしたい――楽しげにそう語っていた友人の様子を思い出しつつ、セタンタ君は微笑みました。


 セタンタ君は、躍進や収入以外に、もっと大事な目標も持っている友人の力になる事を心中で誓いつつ、マーリンちゃんに言葉をかけました。


「次の冒険、お前も来いよ。まあ他に仕事なかったら、だけどさ」


「いいよん。しばらく予定入ってないから、いつでも行ける行ける」


 マーリンちゃんが笑顔で応じると、ライラちゃんがジャンヌちゃんの腕から抜け出し、トコトコと歩いて近寄ってきました。


 以前より、ちょっぴり覚束ない足取りで近づいてきました。


 マーリンちゃんは近づいてきたライラちゃんに「おいで~」と声をかけながら抱き上げ、問いかけました。


「ライラちゃんも一緒に行くの?」


 パリス少年達には聞こえないよう、声を潜めて問いかけました。


 セタンタ君は困り顔で唸った後、「そうみたいだな」と言いました。


「ライラちゃん、最近元気ないみたいだけど」


「まあ、な。パリスも心配してる。……けど、ライラに『留守番しててほしい』って言っても、唸って怒られちゃうんだってさ」


「そっかぁ」


 マーリンちゃんは老犬ライラプスの頭を優しく撫で、「パリスの事が心配でたまらないんだねぇ」と声をかけました。


 ライラちゃんは撫でる手に自分から頭をなすりつけつつ、肯定するように「ヘッヘッ」と舌を出して息をしました。


 賢いうえに魔術も使える優秀な子ですが、種族は犬。


 人間パリスとは、同じ時を過ごす事が出来ません。


 それでもライラちゃんは、最期まで少年を見守る決意をしていました。彼が危なっかしくてたまらないため、まだまだ自分がついていてあげないと駄目だと思っているのです。


「だから、今回は一緒に行く。パリスは……今回の狩りを成功させて、ライラに『オレ様は大丈夫だぞ』って証明するつもりなんだろうな」


「あー……なるほどね」


 少女はやんわりとした笑みを浮かべ、「そりゃ燃えるわけだ」と言いました。


「アイツは、アイツなりのやり方で頑張ってる。……正直、まだまだ危なっかしいけど、応援してやりたいんだ。基本的に見守って、本当にどうしようもない時だけ手を貸す」


「一から十までは手を貸さない、と」


「そう。俺だって、いつも仕事手伝ってやれるわけじゃないしさ」


「なるほどね。じゃあ、尚更ボクも同行しなきゃかな~? ライラちゃんはボクが抱っこして移動しつつ、妙な事が起こらないよう、目を光らせておいてあげる」


「ああ、頼――ぬおっ?!!」


「おうっ! セタンタ! もう引っ越しは終わったのか!?」


 セタンタ君はマーリンちゃんに言葉を返そうとしましたが、ベランダに飛び上がってきた友人の姿に驚き、言葉をつまらせました。


 やってきたのはガラハッド君でした。


 額の汗を拭い、「なんだ、もう終わったのか?」と言い、身につけた甲冑をガチャガチャ鳴らしながらベランダから室内に入っていきました。


「おいコラ、玄関使え、玄関!」


「それは次回の楽しみにしておく! おーい、パリス!」


「野生児か、まったく……」


 セタンタ君は、室内にズカズカ入っていくガラハッド君の姿を、苦々しい表情で見送りました。


 見送りつつ、鼻をひくりと動かし、ガラハッド君に告げました。


 彼から血の臭いがする事に気づいたのです。


「ガラハッド、先にシャワー浴びてこい。臭い」


「臭いとは失礼な! 勲章のようなものだぞ、これは」


「はいはい、そこの廊下の右側な。早くさっぱりしてこい」


「……ガラハッドも頑張ってるねぇ」


「だな」


 ガラハッド君は闘技場帰りでした。


 セタンタ君の引っ越しを手伝う予定でしたが、闘技場で戦う先約があったので、そちらに行っていたのです。


 教導遠征で自信をつけた彼は、「まだまだ強くならないと!!」と意気込んでいました。自身の無力を痛感しつつ、それでいて自分の伸びしろも自覚したため、エレインさんの紹介で闘技場にも通い出したのです。


 他にもランスロットさんにこっそりと稽古をつけてもらったりしつつ、メキメキと強くなり始めていました。


 武術の研鑽ばかりで、冒険者としての算盤勘定などは放り出してしまっていますが――その辺に関しては「パリスが考えてくれるからいいのだ」などとのたまい、座学に関しては怠け気味のようです。


 それでも、彼はメキメキ成長していき、冒険者として頭角を現していきました。


 腕っぷしはセタンタ君を凌駕するほどに。


 パリス少年を、置き去りにしてしまうほどに――。


「いやはや、皆、若人らしく燃えてるねぇ」


「お前もその若人だろうが」


 セタンタ君は手の甲で「ぺちん」とマーリンちゃんを叩きつつ、「お前は目標とかないのかよ」と聞きました。


 少し、心配そうに。


 少女は少年の不安を一掃するような満面の笑みを浮かべ――。


「神様をやっつけて、世界を守るのがボクの目標!」


 と自信満々な様子で言いました。


「ボクの目標が一番デッカいよ」


「確かに。ただ、デカすぎやしねえか?」


「でも、やりたい事だからね。神様が支配している世界じゃなきゃ、おかあさんも師匠も不幸にならなかった。ボクにとって神様は親の仇。倒したいよ」


「あー……」


「まあ、そこまでガッツリ復讐心持ってるわけじゃないから。相手がデカすぎて。でも、機会があればボコボコしてやるぞぅ、とは意気込んでる」


 そこまで暗い感情を伴う目標じゃないから、安心して。


 そう言い、少女はたおやかに笑いました。


 その笑みを受けた少年は、ちょっとドキリとしながら頬を掻き、視線を逸し、「それならいいんだ」とこぼしました。



「セタンタの方は目標ないの?」


「無い」


 少年はキッパリと言い切り、言葉を続けました。


「今より強くならねえとな、って気持ちはあるが、それは結構漠然としたものだからな。お前らみたいなちゃんとした目標はねえよ」


「そっか」


「毎日、面白おかしく生きていく。人生楽しむので忙しいんだよ」


 少年は手をそらにかざし、それを片目で見ながらそう言いました。


「ただ、面白おかしく生きていくなら、ひとりじゃ無理だなぁ……とは思う」


「ほう? つまり?」


「面白おかしく生きていくために、仲間おまえらが必要だ。だから、お前らも幸せになれるよう、お前らの目標達成も手伝ってやるよ」


 無理のない範囲でな、と彼は言いました。


 微笑し、目の前の少女の獣耳を指でつまみました。


「お前らが幸せじゃねえと、俺も幸せになれそうにねえわ」


「へへっ……こっ恥ずかしいこと言うねぇ?」


「うるせっ。神の打倒、手伝ってやんねーぞ」


「えー、それは困る~。……まあ、困った時は助けてもらおっかな?」


「ああ。困った時は、ちゃんと相談してくれ。力になる」


 いたずらっぽく笑った少女のおでこを、軽く突いた少年は、遠くの空を見つめながらしばし呆けていましたが、やがて口を開きました。


 遠くの空に向け、飛んでいく鳥の姿を見送りながら――。


「10年後も、20年後も、お前らと馬鹿やって騒ぎてえなぁ……」


「同感。でも実際、10年後とか、ボクらどうしてるだろうね?」


 少女は少年の視線を追いつつ、「5年後すら思い浮かばないや」と言いました。


 少年はそれに同意しましたが――。



「まあ、なんだかんだで楽しくやってるだろうさ」


 彼らそう言って、少女の肩を叩き、室内に入っていきました。


 友人達との楽しい冒険計画を立て始めました。


 彼らは夜遅くまで騒ぎ、あーだこーだと意見を交わし続けました。


 雑魚寝もしながら夜を明かし、皆で連れ立って大衆浴場に行き――さっぱりした後は「とりあえず何か狩りに行くか」と言葉を交わし、冒険に向かいました。


 それが日常いつもの光景となっていきました。


 その「いつも」は、「いつまでも」は続きませんでしたが――。






 少年冒険者の生活はこれにて完結です。

 本当は本編である異世界職業図鑑の最後の長編章前に完結させるつもりだったのですが、向こうから1年遅れの完結となってしまい、申し訳ありませんでした。

 本編の方では少年冒険者の後の世界の話で、そこでも神が支配する神代が続いていますが、その終わりについても書かれた物語です。

 こちらでは謎だった事も、いくつかは本編の方で明かされているので、良かったら異世界職業図鑑の方もよろしくお願いします。




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