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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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魔王の加護



 セタンタ君達はレムスさんの家でグースカと寝ました。


 レムスさんの家と言っても実家の方ではなく、ロムルスさんとレムスさんが二人で借りている住居でした。ちょっとお高級なとこです。


「おはよっ、おはよっ」


 アンニアちゃんに揺り起こされたセタンタ君とマーリンちゃんは伸びを一つ。


 先に起きていたロムルスさんが裸エプロンになりつつ作ってくれた朝食を食べさせてもらっていると、アンニアちゃんがレムスさんのとこから戻ってきました。


「にーたんにーたん、れむにーたんが死んでりゅ」


「そうか。まあそのうち生き返って起きてくるだろう」


 連戦に次ぐ連戦で少しだけ疲れているだろうから寝かせてあげなさい、と言い、ロムルスさんはアンニアちゃんの頭を優しく撫でました。裸エプロン姿で。


 アンニアちゃんは「ちゅかれてるなら、しかたナイナイねー」と言い、お兄さんの足元でモジモジとしています。


「レムスと遊んでほしかったのかな?」


「んっんっ……でも、あんにゃがまんするぅ」


 そう言ったアンニアちゃんはチラチラとロムルスさんを見ました。


 何か期待しているように見ています。それを見たロムルスさんは笑ってアンニアちゃんを裸エプロン姿で抱っこしました。誰か通報してあげてください。


「昼からで良ければ私がお相手しよう」


「やったぁー。あんにゃ、アサからがいいなぁ」


「午前中はこの後、報告に行かねばならなくてな……。連れていってあげるにしても庭や騎士の方々の詰め所ぐらいだ。魔王様の使い魔達に遊んでもらうか?」


「んんっ、あんにゃ、ともだちとあそぶやくそくしてりゅのん」


「そうかそうか」


 アンニアちゃんは舌っ足らずな声でお兄さんに甘えました。


「にーたん、お昼からあんにゃとデェトしてねぇ」


「ああ。一緒に昼食を食べて、お前の好きなところへ出かけよう」


 ロムルスさんとアンニアちゃんはチラチラとセタンタ君達を見てきました。


「妹が友達と遊ぶのはまったく構わないし、喜ばしい事なのだが、せっかくだから誰か大人が一緒についていてあげてくれると嬉しいな?」


「うれしーねぇ~」


「俺は子供だ」


「セタンタ、こういう時は子供ぶる……」


「子供の世話なんてもう散々したぞ、もうゴメンだ……」


 セタンタ君とマーリンちゃんは小声で話し、孤児院時代を思い起こしました。


 二人を預かっていた孤児院の院長さんは子供に対してはとても慈悲深く、それでいて怒ると国を傾けかねないほどの力を持つ淫魔サキュバスです。


 子供達が孤児院を出る時の事も考え、庇護出来るうちに生きて食っていけるような術を教える優しい方ですが、1000人ほどの子供達を抱えているので孤児院内はちょっとしたカオスになっています。


 年長組は孤児院職員の手伝いをしつつ、年少組のお世話をするように頼まれており、セタンタ君とマーリンちゃんもチビっ子達のお世話を色々とやってきました。


 元気いっぱいの子も多いのでセタンタ君など全身にチビっ子達に抱きつかれて「いてて」と髪の毛やほっぺたまで引っ張られ、こねくりまわされたりしました。


 マーリンちゃんは魔力切れでブッ倒れる寸前まで浮遊魔術による「高い高い」をさせられる事もあり、二人してヒィヒィと頑張っていたのです。


 ギャンギャン泣いたり大人を翻弄してくる年少組の子達を相手にする事が情操教育に役立ったかもしれませんが、大変な事には代わりありませんでした。



「でもまあ、ボクは楽しかったけどねぇ」


 今でも孤児院に顔を出し、孤児達と遊んであげてるマーリンちゃんは「お安い御用」とアンニアちゃんについていってあげる事にしました。


「やったぁ! あんにゃ、リンちゃんのこと、れむにーたんより、しゅき♡」


 眠るレムスさんが悪夢にうなされました。


「タンタちゃんも、あしょんでほちぃ……ほちぃなぁ」


「セタンタも行くよね? どうせ今日は暇でしょ?」


「ホント!?」


「まことに~、だよ」


「まことにぃ~!?」


 外堀を埋められ、子供相手にはちょっと弱いセタンタ君は溜息を一つつき、「はいはい、仰る通りにしますよ」と応じました。


 ロムルスさんもニッコリです。


「すまないな、ウチの妹をよろしく頼む」


「ロムルスさんにしろ、アンニア……さんにしろ、護衛とかいるんだろ? もっとこう、俺達みたいな元……いや、もっと身分確かな護衛に遊んでもらえば?」


「アンニアは呼び捨てでいい。もしくはアンニアちゃん、とでも」


 ロムルスさんはセタンタ君達に食後の珈琲を出しつつ、「私はともかくアンニアには護衛はいるが、護衛とばかり遊ぶのはな」と言いました。


「親に与えられた護衛より、アンニアには自分で交友関係を広げていってほしい。それにキミ達は身分確かで信頼のおける人物だよ。冒険者ギルドに登録してキチンと働きつつ、それでいて赤蜜園を出た国の未来を担う若者なのだから」


「「担わない担わない」」


「まあそこは個々人の自由だな」


 ともかく妹を頼むと言い、ロムルスさんはセタンタ君達を送り出し、部屋に鍵をかけ、バッカス王国のお城へと向かっていきました。




 一方、セタンタ君達はアンニアちゃんに導かれ、遊び場に向かいました。


 遊び場にはアンニアちゃんの友達がコロコロいます。


 皆、アンニアちゃんに負けず劣らずチビっ子なので獣耳や尻尾をピコピコ動かして遊んでいます。ワンちゃん達が仲良く遊んでいるような様子を想起させますね。


「みんな、おはよっ、おはよ~」


 アンニアちゃんがトテトテ走って皆のところに行くと、子供達が「おはよ~」と挨拶を返しつつ、何人かの子供達はアンニアちゃんに近づいてきて「えへへ」と笑いあってほっぺたをぷにぷにしあっています。


 どうも、最近はやっているぷにぷに挨拶のようです。


 遊んでいる子供は大半が狼系獣人のチビっ子でしたが、中にはそれ以外の種族の子もいました。アンニアちゃんのパパが取り仕切っているカンピドリオ士族は狼系獣人が主な構成員ですが、それ以外の種族もいるのです。


 バッカス王国が出来る以前は同族同士で集まり、血みどろの戦争もしていた士族でしたが、多種族国家であるバッカス王国が出来てからは年々、種族の垣根は薄くなっていっています。


 カンピドリオ士族の狼系獣人はまだ遺伝子的に強いらしく、片方が狼系獣人なら子供も狼系獣人になる事が多いため士族内では狼系の獣人が多いです。


 ただ、中にはエルフの士族だったのに婿入りしてきたオークの血が強すぎて、オークばかりの士族になっていったという事例もあったりします。放っておくと世界中の人間がオークだけになるかもしれませんね。


「きょーはなにしてあしょぶのん?」


「きょーはポンポコポコンなの?」


「きょーはポンポコポコンすりゅ?」


「きょーはポンポコポコン?」


『ポンポコポコン、するー!』


 よくわからないうちに決まったようです。


 皆でポンポコ言ってたところ、アンニアちゃんは「あ、そうだー」と言い、嬉しげにセタンタ君とマーリンちゃんのところに走り、二人を引っ張ってきました。


「きょうはね? このふたりも遊んでくれりゅんだよ?」


「皆、こんにちわー。今日はボク達も仲間に入れてねー?」


「しらにゃいひとっ」


「こあいっ! こあくない……?」


「うぉぉぉん、うおぉぉん」


「あんにゃちゃんにしゃわるなっ、ぼくんだぞ!」


「べしべしっ! ボクんだぞ?」


 子供達の反応は十人十色。


 不思議そうに見てきたり、不安そうに見てきたり、好戦的にがおがお言ってたり、マーリンちゃんのスカートをめくってびっくりして気絶する子もいました。


「弱っちそうです」


 ポツリ、とそう言う女の子もいました。


 そう言った女の子は木の枝に腰掛けつつ、下には玩具の武器で武装した男の子や女の子を侍らせ、ツンとした様子でセタンタ君達を見下ろしています。


 どうも、彼らのリーダー格のようです。


 アンニアちゃんより少し年上っぽいですが、それでも幼女です。幼女で侍らせている子達よりも背が小さい子でしたが、おっぱいは大きいです。ロリ巨乳です。


 しばしセタンタ君達を見つめていた巨乳幼女は木枝の上にスクッと立ち上がり、魔術も使わず5メートルほど飛び、おっぱいを揺らして着地しました。



「かりちゃん! あんにゃのおともだちをしょーかいするよっ」


「だめです」


「ふぇぇ……にゃんで……?」


「雑魚はだめです。ロムにぃやレム兄みたいな強いのを連れてくるのです」


 アンニアちゃんはロリ巨乳にほっぺたをつかれ、「ふぇぇ」と言いました。


「タンタちゃんとリンちゃんはちゅよい? ちゅよいよね?」


「「ふつう」」


「ふつーだって?」


「ふつーならいいですよ」


「やったぁ」


 いいそうなので、仲間に入れてもらえる事になりました。


 セタンタ君達のことを「むむむ」とにらんでいる子もいましたが、この場のボスっぽいロリ巨乳ちゃんが許可すると矛を収めはじめました。


 そんなやりとりがありつつ、皆はポンポコポコンをする事にしました。




 ポンポコポコンとは、バッカスの子供達の遊びです。


 一対一ではなく、集団でやる剣道のような遊びです。


 頭に紙風船をつけ、各々が持ってきた玩具の武器や防具を手に「ポンポコポコン!」と叫びあいながら相手を攻撃し、風船をポコンと叩かれて割られた子は「やられたー」として退場です。


 紙風船無しだと「倒した」「倒してない」がスゴく揉める事になるので、良い子はバッカス政府が製造販売している「ポンポコポコンセット」を買い、紙風船と頭にとめるための紐を手に入れましょう。


「あんにゃちゃん、ブキもってきた?」


「うんっ! あんにゃ、ドンキーをもってきたーよ?」


 鈍器というかまんまマラカスでしたが、両手に持って「シャンシャンシャシャン!」と鳴らしているアンニアちゃんは楽しげで、周りの子達も真似しました。


「あっ、タンタちゃんとリンちゃん、ブキは?」


「これだ」


 セタンタ君は愛用のミスリル槍を見せて、皆にタコ殴りにされて仕方なく、道端に生えていたニャンコじゃらしを抜き、武器にしました。


 マーリンちゃんもそれに倣い、ニャンコじゃらし二刀流になりました。


「いや、三刀流だよ。セタンタも二刀流だねぇ」


「お前は尻尾入れれば四刀流だろ」


「確かに」


 ロリ巨乳ちゃんは徒手空拳だったので、マーリンちゃんは一本あげようとしましたが「いりません」と断られました。


「私は、この身そのものが武器なのです」


「なんかカッコイイね」


「ぽっ……」


 ロリ巨乳ちゃんは照れました。




 子供達は二つの陣営に別れ、「ポンポコー!」と叫んで遊び始めました。


 遊び場のそこかしこで無秩序に戦闘が開始されています。中ではさっそく同士討ちが発生しているところもあり、クーデターを起こして第三勢力を立ち上げる子達もいましたが、子供達は楽しげでした。


 マーリンちゃんは浮遊魔術で空に逃げました。


『ふぇー! おしょらとんでりゅ~!?』


「セコい! おりてこい、マーリン!!」


「魔術の使用禁止じゃないしー」


 マーリンちゃんにとって孤児院時代からの常套戦術でした。


 セタンタ君はニャンコじゃらしで撃ち落としてやろうかと思いましたが、一応は同じ陣営なのでガマンしました。


 子供達の中には飛んでるマーリンちゃんを見て、ポンポコポコンそっちのけで「しゅごいしゅごい!」と喜んで見上げて、セタンタ君に鼻をニャンコじゃらしでくすぐられて「きゃふふふ」とくすぐったそうにしてる子もいます。


 アンニアちゃんは「あにゃーん!」と雄叫びをあげ、仲間を引き連れて敵陣営に突っ込んでいきましたが、返り討ちにあって仲間は全滅しました。


「み、みんなー」


「あんにゃちゃんは捕虜だよ」


「ふぇぇ、えっちなことされちゃう」


 アンニアちゃんは風船を割られず、手を引かれて牢屋として勝手に区切られた場所でおままごとをさせられる事になりました。


 アンニアちゃんは囚人役で、他の子達は看守役として「おなかへってない?」「おだんごくう?」「かたももうか?」「チューしていい?」と遊んでます。


 アンニアちゃんは「くっ、ころしぇー!」と言いつつ、楽しげです。


 困ったのはアンニアちゃんが所属している陣営です。主攻を担っていたはずのアンニアちゃんの部隊がサクッと全滅し、形勢は一気に傾きました。


 そして、アンニアちゃんとは敵陣営にいるマーリンちゃんはふよふよと浮きつつ、「あっ、そこから回り込んできてるよー」と伏兵をバラしたりしてくるので色々とままなりません。


 さらに、セタンタ君がチョロチョロとすり足で逃げ回りつつ、子供達の鼻をニャンコじゃらしでくすぐり、そこで「きゃふふふふ」とくすぐったそうに足を止めようものなら他の子が「ポンポコポコン!」と倒しにきます。


 もはや、アンニアちゃん陣営の勝利はゼツボー的に見えました。


「み、みんなにげてー」


 アンニアちゃんは仲間の身を案じ、オロオロとしています。


 その仲間達は仲間達で囚われのアンニアちゃんを助けようと「やー!」と叫んで奪還作戦を敢行したりしてましたが、阻まれて失敗しつつあります。


 そこに分裂していた第三勢力もやってきました! 仁義なき戦いが始まり、アンニアちゃんはメソメソと戦いの虚しさを痛感しました。


 第三勢力も第三勢力でアンニアちゃんを手に入れ、捕虜にして愛でようとしているようです。どうもアンニアちゃんは結構モテるようですね。


「アンニアちゃんを嫁にするんだ!」


「アンニアちゃんはおれのもんだー!」


 特に血気盛んな男の子が二人、激突しました。


 激突が激しすぎて、勢い余って片方の武器が相手の目に突き入れられました。


「わぁあああん」


 目に武器を突き入れられた子は悲鳴をあげました。


 すると皆、ポンポコポコンを止めて心配そうに集まってきました。


 武器を突き入れてしまった子も、申し訳なさそうに「大丈夫?」と言い、どさくさに紛れて脱走してきたアンニアちゃんも「ふぇぇ」と寄ってきました。


「どちたの?」


「目に武器が入ったのん」


「ふぇぇ」


 失明しかねないような事です。


 が、そんな事にはならず、突き入れられた子は直ぐに立ち上がりました。


「んー? 言うほど痛くなかった」


『なーんだ』


 目も少し赤くなっただけで無事でした。


 普通は痛いのですが、魔術的に保護された結果です。



 バッカス王国には、とても危険なものがあります。


 魔術です。


 大変便利なものですが、同時に大変危険なものでもあるのです。


 魔術は身体能力を強化し、空を飛び、怪我や病をたやすく治療する便利なものですが、魔物相手のみならず人間相手にも振るえる武器になります。


 バッカスの王は自国民の武力行使による争いを禁じており、武力蜂起の矛先がどこに向こうともさらに強い力で押さえつけて鎮圧しています。


 しかし、それだけでは足りません。


 魔術は子供も使う事ができ、まだ分別が育ってない子供が魔術を使えば、悪気無しでも鉄砲どころか爆弾並みの被害が発生する可能性があります。


 そのため、バッカス王国の王は未成年者への加護の付与を義務付けています。


 子供が生まれたら王が使役している使い魔を招き、その使い魔越しに王が魔術を行使して子供や周囲を守るための加護を与えます。


 加護の効果は「人体の保護」及び「危険な魔術行使の無効化」で、先程のポンポコポコンで目に玩具の武器が突き入れられた時は前者が機能した形ですね。


 目が潰れても魔術で治癒も可能ですが、バッカスの王は子供に対してはちょっと過保護なので無料で子供と無邪気な子供によって起こりかねない被害を止めているのです。ロリコンではありません。単にこども好きな女性というだけです。


 また、保護はしますが「多少は痛まないと学習しない」という事でピリッと痛んだりはします。


 カンピドリオ士族は武闘派士族のため最低限の王の加護しか受けさせてない家庭が殆どですが、他所では薬によって子供の魔術行使を抑制したりもしています。



 そんなこんなで子供は無事です。


 そもそも加護が無いとポンポコポコンも危ういチャンバラ遊びなので、そういうのをやっているのもどうかといったところではありますが、そもそもは政府がそれとなく推奨している遊びなのです。


 幼いうちから戦士になるよう、誘導しているのです。


 小さいうちから魔術の使用や遊びを通じて戦う事に慣れさせ、将来的には冒険者などの職業で魔物相手に戦ってほしいという思惑があるのです。


 名前は可愛らしいですが、要は「殺すための練習」です。


 あくまで矛先は魔物に向かせ、戦った末の最終目標が「魔物を創造している諸悪の根源たる神様の排除」という事情はあるので、子供に殺し合いの教育をしている、というおぞまじい面もバッカス王国は持ってしまっているのです。


 魔術の存在を恐れる他国との戦争は王様自らが少数精鋭で相手をしにいってるのですが、魔物相手の戦争でも命の危険はつきまといますからね。




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