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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
十章:なれ果てのメサイア
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遠隔蘇生に頼れない事情



 セタンタ君達が騎士団長達に合流した後も――多数とは言えませんが――さらなる残存部隊がやってきました。


 エルスさんの差配で、墓守達が気づかないように魔術的に加工した狼煙が使われ、それを見た残存部隊がそれや案内役の戦士を頼りに合流してきたのです。


 首都66丁目で戦っていた折りに巻き込まれ、妖精郷に引きずり込まれたバッカスの戦士達の中には「ここはどこ?」「墓守あれはなんだ?」「とりあえず攻撃!」と暴れて死んでいく者もいましたが、それはどちらかというと少数派でした。


 解呪領域を展開している正体不明の存在というだけで「近づくとまずい」とさっさと逃げ始める者が大半で、そこまでポコポコと殲滅されていったわけではありませんでした。逃げ切れずにボコボコにされた人々もいましたが。


 合流してきた人の中には、セタンタ君が見知った顔もいました。


「おーい、セタンタ~、マーリンちゃん! お前らも無事だったか~」


「おっ、レムスの兄ちゃんとベオ。元気にしてたか」


 レムスさんとベオさんも合流してきました。


 2人はつい先程までずっと走り回っていました。


 レムスさんが「なんかよくわかんねーとこ来たけど、とりあえず走るか!」と闇雲に走り、最終的に10体の墓守に追い回されていましたが――たまたま偵察に出ていたカヨウさんがウンザリとした表情をしながら逃走を手伝ってくれたため、何とか生き延びていたのです。


「良い観光になったわ。今度、アンニアや兄者も連れてきてえなぁ」


「うろついてる奴らが物騒すぎるからやめとけよ……」



 騎士団長達は残存部隊をまとめあげて再編成し、各部隊の代表を集めて作戦会議を行いました。作戦事体はエルスさんが考えていたものが採用されたため、会議というよりは作戦内容の説明となりましたが――。


「メサイアはその中核である妖精郷システムを破壊しさえすれば、倒せます」


 外側からの攻撃では、バッカス王国の力を結集しても勝てない。


 今は封印による足止めが成功しているものの、それも長続きしない。


 首都を放棄して逃げたところで、首都にある世界最大のレイラインの要所が完膚無きまで破壊し尽くされれば、世界崩壊の危険すらある。


 しかし、内側からの――妖精郷からの攻撃ならチャンスはある。


 エルスさんとエイさんは、バッカス王国の協力が得られなくても2人だけでシステム破壊に動くつもりでした。綱渡りなところもありましたがバッカス側の協力が得られたため、共同作戦となりましたが――。


「そのシステムとやらの位置は、把握してらっしゃるので?」


「はい。いまいる階層よりさらに下……中枢階層に存在しています」


「……騒乱者の情報だけでは、ちと不安ですな」


「裏付けは取れています。妖精郷内の魔力の流れを観測した結果、そこの騒乱者が語った場所と数分違わない場所に大きな反応がありましたから」


 カヨウさんがエルスさんの発言を補足し、騎士団長も支持をすると、それ以上に疑念の声は上がりませんでした。


 システム破壊には中枢階層に行き、そこでシステム本体を叩けばいい。


「システム本体はただの機械なので、破壊は誰でも出来ます。問題は……中枢に潜れば潜るほど、墓守と遭遇する可能性が高まる、という事です」


 墓守は倒しても倒しても中枢近辺で蘇る。


 一体ずつ狩っていったところで、ほぼ無意味。狩れば狩るほどシステムの守りが硬くなってしまう。中枢付近の墓守が増えると解呪領域の「濃度」も上昇してしまうため、最悪、魔術無しで特攻しなければならない。


 墓守の体液を使った解呪対策は用意したものの、それも完璧な対策ではない。そもそも解呪領域は大半の墓守達にとって余技に過ぎず、彼らが持っている特殊能力は解呪領域無しでも生半可な魔術師では対抗できない。


「殺さず無力化……あるいは誘導しなきゃいけない、って事ですか」


「そうです。そのため、心苦しいのですが――」


「はいはい、我々雑兵が囮役になればいいって事ですね。いいですよ」


「まあ、仕方ないか……」


「すみません、本当に」


 残存部隊の大半は、墓守の誘導を務める事になりました。


 殺したところで復活する。それも作戦遂行の都合の悪い場所で。


 だから、出来るだけシステムから遠ざかる場所に誘導する。


 囮部隊が墓守を誘導している隙に、システム破壊部隊が動く。


「敵は実質的に視覚を共有しているんですよね? 囮部隊に食いついても、システム破壊部隊を一部の墓守が目撃したら、一斉に中枢を守りに動くって事は有り得ないんですか?」


「彼らはもう、そこまで冷静な判断は行なえません。手近な異物に……我々に食いついてくるだけでしょう」


「ふむ……」


「ただ、手近の異物がいない墓守は、別の墓守が追っている囮部隊に迫る可能性があります。挟み撃ちされないように注意してください」


 そうならないよう、観測部隊も動かす。


 全部隊と墓守の位置を可能な限り把握し、各部隊の逃走及び侵攻ルートの指示するための部隊も用意する事になりました。


 墓守の戦闘能力に関しては、エルスさんが――神の奴隷にされていたうちに可能な限り調べたため――ある程度は把握できています。


 敵の移動速度、索敵能力、攻撃能力を加味したうえで逃げ切れる人員をぶつけ、対応していく事になりました。


 全ての墓守の能力を把握できていないという不安要素もありましたが、それらに関しては他よりもさらに強く警戒を行ったり、逃げ足に自信のある面子が作戦前に軽く仕掛けてデータを取る事になりました。


 システム破壊の決死隊は、騎士団長、カヨウさん、エルスさんといった残存部隊内でも最上位の面々が担当。


 セタンタ君やフェルグスさん達は囮部隊に配属という事になりました。


「作戦内容は理解しました。囮が墓守達の注意を引いているうちに、決死隊がシステムを破壊する。……言葉にすると簡単なものに思えますね」


「楽勝だった、って後で笑えるようにしようぜ。俺達の努力で。なんせ、世界の命運がかかった戦いだからな」


「急にそんなこと言われても、あまり実感わかないけどね……」


「作戦成功後の退路はどうするんですか?」


 全員、遠隔蘇生帰還ですか――と嫌そうに聞いた士族戦士に対し、エルスさんではなくカスパールさんが手を挙げて答えました。


「退路はこっちで用意しとくよ~……外の魔王様の力も借りてね」


「転移魔術ですか。ですが、外の解呪領域の影響で接続困難なのでは?」


「システム破壊したらメサイアも死ぬ。そしたら解呪領域の力も消えていくから、外部の力も借りればいけるはず……」


 そうだよね、とカスパールさんはエルスさんに問いかけました。


 エルスさんは頷き、「最悪は遠隔蘇生を使うという事で」と言いました。


 ただ、その話をしている時、カヨウさんは厳しい目つきをしていました。視線の先にはエルスさんがおり、彼を軽く睨んでいました。


 彼女は「遠隔蘇生には頼れない」と考えていました。


 頼らずに済むよう、注意深く作戦に挑むべきだと思っていました。



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