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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
十章:なれ果てのメサイア
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不死身の墓守/不死身の老魔術師



「そもそも、騒乱者として活動していた墓石屋じんぶつが、なぜメサイアに取り込まれている? 後から取り込ませるのは出来なかったのでは無いのか?」


『彼は最初から取り込まれてるんだよ』


 エイさんは、フェルグスさんの疑問にそう答えました。


『取り込まれているが、まだ完全に自我崩壊に至っていない。……もうほぼ別人だけど、それでもまだかろうじて抗えているんだ』


「色々と疑問はあるけど、ええっと……何でアイツは無事なんだ?」


 手放しに無事と言える状態ではない様子ですが、それでも他とは違うらしい事を察したセタンタ君はそう聞きました。


『彼は耐性があるんだよ。元々、彼は他者の魂に干渉アクセスして、他者の業を扱う能力を持っていた』


 それゆえに他者の魂とはずっと前から触れ合ってきた。


 墓石屋は神によって他の魂と混ぜ合わされても、かろうじて自我を保ってきました。ただ、「耐性がある」というだけで、完全に自我を保つ事は不可能でした。


 可能な限り抗ってきましたが――メサイアに取り込まれて途方も無い年月が経ってしまったことで――既にまともなやり取りが出来ない状態でした。


『ニイヤド商会の騒乱者として活動出来ていたのは、神が記憶操作魔術で彼の精神を整えたからだ。バラバラの自我を強引にくっつけて、騒乱者として戦える状態にしていたからだ』


 神は墓石屋の事を古くから知っていました。


 墓石屋も神の事は古くから知っていました。


 神は自身が保管していた墓石屋の記憶の転写も使い、彼をある程度は人間らしく振る舞える状態に戻しました。


 かなり強引な施術だったため、多くの記憶が喪失してしまったものの、墓石屋自身が妖精郷システムによる「統合」に抗っていた甲斐もあって、かつての仲間であるエルスさんやエイさんと再び言葉を交わす事が出来ていました。


 おかげで笑って『殺してくれ』と頼む事が出来ました。


 今はもう、システム側に引き戻されてしまっていましたが――。


『ニイヤド商会の騒乱者として活動していた間も、彼の魂は妖精郷システムに囚われたままだった。……そこで、システムの仮想素体出力機能を使って意識だけを妖精郷の外に出力してたんだ』


 身体は機屋が用意したものを使い、それを操作する。


 魂そのものは妖精郷内にあるため、首都地下でセタンタ君に倒された時や、首都での一連の戦いで身体を破壊されても別の身体で何度も蘇る事が可能だった。


 それが墓石屋という騒乱者が暴れまわるのに使っていた力の正体でした。


『けど、それは誤魔化していたに過ぎない。ずっとその状態は続けられなかった。いつかは完全に自我が崩壊する状態だった。メサイアが召喚された事で、彼の意識はトドメを刺される事になった』


「それ、本人は知ってたのか?」


『ああ』


 墓石屋は喜んでさえいました。


 ようやく解放される、と。


 エイさん達に「手間をかける」と恐縮してもいました。


 エイさん達の方は、真の意味で救ってあげられない事を悔やんでいましたが――それでも、殺害という手段を選ぶ事にしました。


 エルスさんに関しては――モルガンさんと比べると――神の事を信じていましたが、それでも自分メサイア達を真の意味で救ってくれるとまでは信じていませんでした。


 ゆえに、自分達で終わらせる事にしたのです。


『ま、ともかく、再戦の可能性が高いから、解呪領域対策はしておくべきだ。これで少しは楽になる……はずだ』


「向こうが対策してくる可能性は?」


『無い。彼らにはもうそこまでの思考能力が残されていない。だが、解呪領域にある程度対策が取れてもキツい相手だと覚悟しておいてくれ』


「…………」


『……ちょっと脅し過ぎたかな?』


 戦争屋は肩をすくめ、言葉を続けました。


『全ての墓守と戦う必要はない。それどころか、勝つ必要もない』


「システムとやらを破壊したら、後は向こうが勝手に自滅するから?」


『そう。案外、作戦が上手くいけばスンナリ勝てるかもね――』


 そう言って立ち去ろうとした戦争屋の身体が、ぐらりと傾きました。


 よろけた彼は何とか自力でバランスを取り戻し、「大丈夫か?」と手を差し伸べてきたセタンタ君達に『へーきへーき』と返しました。


『新しい脚の調子が良くないみたい。やっぱ僕の調整じゃダメだね~』


 そう言ってごまかし、セタンタ君達から離れていきました。


 彼が立ち去った後、セタンタ君はマーリンちゃん達に呟きました。


「脚の調子だけじゃ無い……よな? 多分」


「うん。身体は補修できても、魂はそのままだろうから……」


「いつも飄々としているあのオッサンをあそこまで消耗させるとか、神器はやっぱやばい代物なんだな。上手く使えば強力だとしても」


「うん……」


 セタンタ君達から離れた戦争屋は、誰もいない物陰に座り込みました。


 ふぅ、と溜息をつき、機械の手を開閉させて具合を見ましたが――彼が思っているよりも一拍遅い開閉となりました。機械の補助込みでも調子は芳しくないようです。


「エイ」


『あぁ』


 物陰に1人いたエイさんのところに、エルスさんが近づいてきました。


 座り込んでいたエイさんは立ち上がり、元気な姿を見せようとしましたが――エルスさんは座ったままでいるよう促しつつ、機械の手に触れました。


「……すまない。こんな身体にして、神器まで使わせて」


『いいって。この身体は昔思い出して好きだし、神器も使いたかったし。いま戦っているのは僕自身のためだ』


「…………」


 眉根を寄せ、申し訳無さそうにしている老魔術師に対し、エイさんは笑いました。笑い返して欲しいと思いながら笑いました。


『バッカス側も協力してくれる事になって、良かった。さすがセンセイの計画だ』


「穴だらけの計画だよ。キミに、全て忘れて新しい人生を謳歌してくれと言っておきながら、結局はキミや皆の力を借りなければいけなかった」


『もー、またそうやって抱え込もうとする。苦悩を独り占めしないでよ』


 戦争屋は老魔術師の肩をゆすり、『大丈夫』と言いました。


『僕は大丈夫。けど、センセイはいいの? 本当に、メサイアを倒してしまって。倒せば、センセイは――』


「いいんだ。それが俺の望みだ」


『そっか』


「バッカスの人達にとっては、とても無責任な選択だけどね」


『まあいいじゃん。センセイはバッカス王国に、十分尽くしたんだからな』


「…………」




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