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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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おめかしマーリンちゃん



 お姉さんと連絡先と住所を交換し、セタンタ君はマーリンちゃんと公衆浴場に行き、汗を流して施設内に休憩用に敷かれている畳に寝っ転がり、くつろぎました。


「あー、生き返った……そして睡魔に殺されそう……」


「ふぁ……確かに……」


 一応、無事にやることはやり遂げました。


 なので二人は夕方まで昼寝する腹積もりのようです。


「おにーさんもおねーさんもキレーな身体で生きて返す事が出来たからねぇ」


「お、おぅ……」


「あ、ボクにも住所は教えておいてね」


「なんの話だ?」


 セタンタ君はすっとぼけましたが、マーリンちゃんは得意げに「ボクは千里眼をの持ち主だよ」と言い、ふふんと笑いました。


「千里眼は言い過ぎだろ。でもまあ、今回は助かった」


「今回は、が積り重なって今回も助かった、になるんだよ」


「お前は器用だからマジでそうなりかねんな……」


 セタンタ君は住所を書き写した紙を渡し、ゴロゴロ寝転がりました。


「お前はどこか大きなクランか、強いクランに入った方がいいな」


「なんで?」


「器用に色んな魔術使えるからだよ。せっかく冒険者になったんなら、こうしてダラダラと腐らせてるのはもったいねえだろ」


「知らなーい。あんまりあくせく働きたくない。世界開拓事業とか世界平和とか、神様と魔王様の親子喧嘩にも興味ないもん。ボクにはボクの目的があるもん」


「けどな」


「セタンタは自分のこと棚上げで言わないでくださーい。ああそれと、今回の件でもわかったでしょ? 郊外は危ないとこだから、一人でノコノコ歩かないように」


「一人の方が気楽な時もあるんだよ」


「そういう気楽さは都市内で享受すればいいんだよ。保険かけてるとはいえ、いい加減、孤児院長ママが強襲してくるよ。賢くない生き方をする子は去勢よー、ってね。フェルグスのオジ様は放任だけど、オジ様のとこのエレインさんはセタンタが一人でフラフラしてること聞いた時は包丁持ってプリプリ怒ってたよ」


「…………」


「聞いてる? おーい?」


 セタンタ君は狸寝入りを決め込み、そのうちホントに寝てしまいました。


 マーリンちゃんはセタンタ君の背中をにらみながら「ぷぅ」とほっぺたを膨らませて怒りましたが、やがてその傍で背中合わせにネコちゃんのように丸まって眠りました。


 夕方に起きた二人は「何か忘れてるような?」と互いに思いつつ、夕飯を食べて別れかけたところ、セタンタ君は手を叩いて「そういえば」とマーリンちゃんを呼び止めて呼びかけました。



「そうだ、マーリン」


「ん?」


「明後日か明々後日ぐらいになるらしいんだけど……」


 セタンタ君はロムルスさんに誘われた食事会の件を話しました。


 何でも、ロムルスさん達が遠征から帰ってきたその日に獲ってきた魔物を捌いて仲間内で食事会を行うらしく、それに招かれているのです。


「良かったらお前も誘ってくれってさ」


「えぇー……あのおにーさんって、カンピドリオの次期士族長でしょ?」


 マーリンちゃんはロムルスさん達がバッカス王国でも有数の名家だと言い、「そんな人達の食事会なんて堅苦しそう」と言いました。


 実際、ロムルスさんとレムスさんの家は時折、堅苦しい食事会――というか晩餐会もしている家柄なのです。バッカス王国の王様よりいくつかの都市の自治を任されている貴族に類する立場なのです。


「そんな堅苦しい集まりじゃないってさ。昨日の夜と同じぐらいだよ」


「まことに~?」


「ロムルスさんも兼業とはいえ冒険者だから、わりと気のいいあんちゃんさ」


「士族長家でも冒険者してる人はそこまで珍しくないけど……うーん」


 マーリンちゃんはちょっと悩みましたが、「まあセタンタが行くなら」と言って同行を決めました。


 セタンタ君も「堅苦しくない」という言葉を信じつつも、一応は高貴な立場の人達のとこに行く事はちょっと不安でした。一人はちょっぴり心配だったので気心知れた友達が同行してくれる事に内心ホッとしました。


「食事会は食事会として、何か忘れてる気がするんだよなぁ」


「セタンタも? ボクもそんな気がするんだよねぇ」


「なんだったかなぁ?」


「なんだったっけ?」


 先に帰したパリス少年の安否ですよ、お二人さん。


 まあ無事と言えば無事ですが、向こうは向こうで連れて行ってもらえなかった事にプンスコ憤慨しつつ、フェルグスさんになだめられているところです。


 思い出したら会いにいってあげてくださいね。



 三日後、セタンタ君とマーリンちゃんのところにロムルスさんから寄越された使者の人を通じ、「若様方が帰還されました」という連絡が届きました。


 夕方頃、指定の店に来てほしいという連絡に従い、首都とは違う都市に都市間転移ゲートで二人揃って来ました。


 セタンタ君はかなりラフな格好でしたが、マーリンちゃんはおめかししてきています。普段からそこそこオシャレしている子ですが、今回は堅苦しい晩餐会の可能性を少し疑いつつ、慌てて可愛らしいパーティードレスを買ってきたようです。


 ふよふよ浮いて移動しつつ、そわそわと手鏡で髪型を気にしている様子は物理的にも精神的にも地に足がついておらず、見かねたセタンタ君が「落ち着けって」と声をかけました。


「落ち着かないよっ、さすがに」


「あっ、まさかお前、玉の輿とか狙ってるのか」


「違う違う。服装規定ドレスコードに引っかかったら恥ずかしいでしょ? セタンタなんて絶対引っかかるよ、だってシャツに短パンにサンダルだもん!」


「いや、引っかかったらフツーに帰ればいいだろ……?」


「ボクを置いてかないでよぅ!」


 マーリンちゃんは「むきぃ!」とセタンタ君にちょっかい出そうとしましたが、セットしてきた髪型が崩れると大変なのでガマンしました。


 やがて二人は指定された店に辿り着きました。


 服装規定は特に無いようです。


 レムスさんを含め、殆どの人達が風呂上がりかのように腰巻きしかしてない姿で「ギャハハ!」と笑いながら酒を飲み交わしています。


 あ、いえ、レムスさんに関しては腰巻きすらしていない全裸でした。無礼講です。その股間は獣の如き黒い剛毛で覆われていました。


「なーんだ、ボク心配して損しちゃった」


「これはこれで嫌だよ、俺は」


 セタンタ君はちょっと「帰ろうかな」と思いましたが、レムスさん達に見つかって「ギャハハ!」と担ぎ上げられ、席に座らされました。


 カンピドリオ士族の獣人さん達は男女共に魔術使わずとも力持ちが多く、それが何人も全裸や人狼化して担ぎ上げてくるとセタンタ君も為す術なしでした。


 美女も美少女もいますが、女性陣もカンピドリオの戦士あるいは冒険者であるらしく、スポーツ選手のような良い身体つきをしています。


 男性陣に関しては格闘家のように筋肉質で体格の良い人が多いです。殆どが若い人で、カンピドリオ士族でも若手の者達が集まった食事会のようです。



 そんな中でも一際若い子がセタンタ君に近づいてきました。


 幼女です。


 トテトテと歩いてきたその子は、まごうことなき幼女でした。


 おめかししている幼女ちゃんは白くモフモフの獣しっぽをふりふりしつつ、獣耳をぴこぴこ動かしてセタンタ君に「んにゃぁ~!」と抱きついてきました。


「かたぐりゅまのにぃたんだっ! わぁ~い」


「あ、お前、この間の……ギルドに行こうとして迷子になってた子じゃないか」


「あんにゃはマイゴゴになってにゃいよ? あんにゃぷんっ」


 ぷんぷんしつつも、ニコニコしてる幼女ちゃんはセタンタ君に肩車するようにせがみつつ、自分で頭部への頭頂を開始しました。


 それを見たレムスさんが慌てた様子で駆け寄ってきて、「こらこらアンニア! はしたないことをするんじゃない!」と幼女ちゃんを抱っこしました。全裸で。


「あにゃ~、あんにゃはかたぐりゅまがいいっ」


「おうおう、それじゃ兄ちゃんが肩車してやろう」


「やったぁ~! あんにゃ、れむにーたんのこと、しゅき♡」


「ヤダァ~! ちょっとみんな聞いたァ~!? ウチの世界一可愛い妹が『れむにーたんのこと大好き』だってぇ~!! はーーー、可愛くて死にそう」


「なんでカマっぽくなってんだ」


 セタンタ君は呆れた様子でレムスさんを見上げ、その顔と幼女ちゃんの顔をまじまじと見比べて呟きました。


「にーたん……? 妹……? えっ、兄妹なのかアンタら」


「そうだぞ」


「しょーだよっ」


「似てねー!」


 セタンタ君は思わずそう言いました。


 レムスさんはイケメェンですがムキムキ系の褐色男性。


 対する妹ちゃんは白くもちもちの肌の持ち主です。


 ふわふわコロンとしているぬいぐるみのような子なのです。


 レムスさんはプンプンと「なんだとコラ、そっくりだろうが」と言い、妹ちゃんはレムスさんの髪の毛を引っ張って自分の口周りに巻き、「おひげ!」とか言っています。


「肌の色も雰囲気も全然違うしなぁ」


「俺は親父の血が濃くて褐色で、アンニアは母上様の血が濃くて白いんだよ」


「ふぇー! そうにゃの?」


「そうなんだよぉ~!」


 レムスさん、妹さん相手だと瞬時にデレッデレになります。即堕ちです。


「なるほど、まあロムルスさんと比べればよく似てるな……。どっちも肌が白いし、獣耳とか尻尾も白い。レムスのあんちゃんは全体的に黒いけど」


「だろ?」


「れむにーたんだけ、にゃかまはずれだっ! すてごなのん?」


「捨て子だったら妹と結婚出来たのになぁー……ハァ」


「誰か、この全裸を捕まえなくていいのか? おいっ!」


 いつもの事なのでセーフだそうです。


 レムスさんは結構シスコンでした。


 セタンタ君は幼女ちゃんに「あんにゃのとなりきてっ」とフンフンと鼻息荒く連れていかれ、マーリンちゃんも地に足をつけてそれに続きました。


 幼女ちゃんの名前はアンニアと言います。


 ロムルスさんとレムスさんの年の離れた妹ちゃんで、ちっちゃな身体にあふれんばかりの好奇心を詰め込んだコロコロとした幼女です。


 一応はお兄さん達と同じく狼系獣人なのですが、小型犬のようにコロコロしています。もしくは狼の子供といった感じです。いや、実際に子供なのですが。


「かたぐるぅまのにいたんは、ここにすわるんだよ? わかた?」


「俺の名前はセタンタだ。よろしくな」


「サンタちゃん?」


「セタンタ」


「タンタちゃん? タンタンターン?」


「セ・タ・ン・タ」


 アンニアちゃんはよくわからず、タンバリンをタンタン鳴らしました。


 鳴らしているうちにそっちの方が楽しくなってきたのか、タンタンシャンシャンとキャッキャと鳴らし始めました。まだ小さい子だからなのか、地に足がついていない感じです。


「タンタちゃんっ」


「あと一文字なのに……」


「タンタちゃんっ、タンタちゃんっ」


 アンニアちゃんはキャッキャとはしゃいでいます。


 はしゃいで、マーリンちゃんにぶつかって「んにゃっ」とうめきました。


「ふぇぇ……しらにゃいネコしゃんだ……」


「こんにちわー」


「しゃべったぁ……」


「そりゃ喋るよ!」


 アンニアちゃんは好奇心旺盛な子ですが、ちょっと人見知りさんでした。


 知らない女の子を前に「ふぇぇ」と怯え、セタンタ君の後ろにコソコソと隠れていき、でもちょっと興味はあるらしく、コソコソ覗いてきています。


「んにゃ……あんにゃは、あんにゃだよー?」


「アンニアちゃんか。可愛い名前だねっ」


 アンニアちゃんは「えへへ」と照れ笑いしつつ、自分の手でモチモチとしたほっぺたをこねこねしました。


 褒められて嬉しかったのか、ちょっとだけ出てきました。


「ネコしゃんは、なんてネコしゃんなのん?」


「ボクの名前はマーリンだよ」


「えめるちゃんっ?」


「マーリン、だよー」


「んにゃぁ~? んににっ?」


 アンニアちゃんはふしぎそうに、落ち着きなく首をひねりました。


「えとっ、えとっ……リンちゃん?」


「そうそう。アンニアちゃん、今日はボクも一緒にご飯食べていいかな?」


「んっ、んっ……あんにゃとあそんでくれりゅ?」


「いいよぉ~! そらっ!」


「あにゃっ!?」



 マーリンちゃんがアンニアちゃんの手を取りました。


 すると、アンニアちゃんはマーリンちゃんと共にフワフワと浮遊を始めました。



「あにゃ~!? あんにゃ、ふわふわあんにゃっ!」


「へへっ、ご飯食べたら、後でいっぱいふわふわさせたげるね?」


「あにゃー! あんにゃ、リンちゃんのこと、れむにーたんよりしゅき♡」


 レムスさんがこの世の終わりのような顔をしました。


 一方、この場に集まった人達でマーリンちゃんが浮遊の魔術を修めている事を知らなかった人達は驚いたり、関心した様子でマーリンちゃんを見ています。


 浮遊の魔術はとても難しい魔術であり、使える人は中々いません。それを見事に使いこなしているマーリンちゃんはちょっと一目置かれました。


 アンニアちゃんも浮遊ふわふわに大興奮でお気に入りになったらしく、セタンタ君ではなくマーリンちゃんにベタベタと引っ付き始めました。


「ボクの溢れんばかりの女子力に当てられたようだね」


「女子、力……?」


 モテパワーの類かもしれません。



 その後も食事会――という名の宴会は和気あいあいとした雰囲気で進みました。


 マーリンちゃんが懸念していた堅苦しい雰囲気は特にありません。お客様のセタンタ君やマーリンちゃんにも親しげに話しかけてくる初対面の人達が多くいます。


 皆さん、セタンタ君以上にラフな格好です。


 食事会が進めば進むほど全裸の人が増えていきました。


 ロムルスさん達が獲ってきた大型飛竜をふんだんに使った料理で、繁殖期に入っていた飛竜の大きな卵で作られたオムレツや大きな目玉焼きはアンニアちゃんが「ふわぁ~!」と大喜びし、「あむあむっ」と食いついていました。


 ただ、この日のアンニアちゃんが特にお気に入りだったのは別のもの。


 ちょっと特殊な食事法でした。


「あにゃ~、あんにゃのたまごしゃんがにげてくっ。まてぇ~」


 ふわふわと浮かびながら無重力状態のように食事をしています。


 マーリンちゃんが浮遊の魔術で浮かせているのです。


 それが出来るように魔術を行使しているマーリンちゃんは、時折、風の魔術も使いながらアンニアちゃんの食べようとしているものや、アンニアちゃん自身の動きをコントロールし、あまり他所のテーブルに行かないようにしています。


 ただ、カンピドリオ士族の人達が相好崩して「アンニア様、こっちおいで~」と呼んでいたりすると、ジタバタと空中を泳いでいたアンニアちゃんをそこに向けて運んでくれたりはしていました。


 セタンタ君はお肉確保しつつ、その光景を見ていました。


「そんなに複数同時に浮かせれるようになったんだなぁ」


「そうだよ、マーリンちゃんは日々進化し続けているのだ」


「身長は頭打ちしてるけどな」


「その言葉はセタンタにも返してあげよう」


「そんな事ねーし! これから伸びるんだよ!」


 最悪、魔術で整形したら伸ばせます。


 マーリンちゃんは楽しげな様子で手をフリフリしてくる裸足のアンニアちゃんに微笑み、手を振り返しながら「ただ、限界もあるんだよねぇ」と呟きました。



「将来的にはもうちょっとマシになるかもだけど、やっぱり自分より大きなものを浮かせるのは苦手だし、いまやってるので手一杯ぐらいかなぁ」


「俺だけなら抱えて飛べるか?」


「セタンタはやや厳しい。アンニアちゃんとボクぐらいなら二人まとめてでも多少は浮くけど、移動がちょっと厳しいかな」


「何人もまとめて浮かせたり出来たら、色々便利なんだけどなぁ」


「頑張ってみてるけど、現状だと何人もはキツいかなぁ」


「浮遊魔術以外の手も混合でいけば、あるいはってとこか」


「そうだねぇ」



 そんな会話をしつつ、夜は更けていきました。


 アンニアちゃんはパクパクと食べ続けていましたが、それでも次第におねむになってきたのか、「んにゃにゃ……」と眠そうにまぶたをこすり、やがてふわふわと店内を漂う風船オブジェのようになって眠り始めました。


 時折、士族の女性陣が捕まえ、「よちよち」と揺らし、あやしていましたが起きたりはせず、ふわふわと浮きながら綿菓子でも食べているかのような幸せそうな表情でスピスピと寝ていました。


 セタンタ君とマーリンちゃんは遅くまで起きていましたが、やがて食事会もお開きとなった事で「帰るか」「もうここで寝たい」と言葉を交わしました。


 そんな二人をレムスさんは「今日はウチに泊まっていけよ」と、ふわふわ漂う妹ちゃんを捕まえつつ誘ってきたので、お言葉に甘える事にしたようです。




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