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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
十章:なれ果てのメサイア
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合流



 一時は危うい状況に陥ったマーリンちゃん達でしたが、エルスさんやカヨウさん、さらにはエレインさん達とも合流する事が出来ました。


 墓石屋に殺されたセタンタ君も蘇生後、エレインさん達と再会してホッとした表情を浮かべていました。


「エレインさん達、やっぱあの墓石屋に取り込まれてたんだな」


「残念ながら不覚を取りました。心配かけましたね」


「いや、とにかく無事で良かったよ……。てか、いつ解放してもらえたの?」


「首都での戦いが一段落した時ですね。セタンタ君やフェルグス達の活躍も、騒乱者の眼越しにボンヤリながらも見させてもらってましたよ」


 エレインさんはそう言って微笑し、セタンタ君とフェルグスさんの頬にキスをして「よく頑張りました」と褒めました。


 エレインさんだけではなく、カスパールさんとランスロットさんも同じタイミングで墓石屋に解放してもらっていました。


 解放してもらった際には魂だけの状態だったのですが――。


「カヨウ様共々、エルス様に妖精郷内で蘇生してもらったのです。我々も」


「そして、師匠殿もエルス殿に協力する事にした、と」


「そうです」


「ふぅん……よく協力する気になったなぁ」


 セタンタ君はそう疑問しましたが、エレインさんは涼しい顔で「カヨウ様がキレ散らかしていましたからね」と言いつつ、言葉を続けました。


「殺気込みで激怒してる人がいたら、騒乱者に取り込まれていた組の私達はさすがに冷静になってしまったのですよ。いや、あれは大変でした」


「怒りを収めてもらうのに?」


「そう。首都に続いて親子喧嘩第二弾が始まったので……」


 エレインさんはその時の光景を思い出し、「ふぅ」と息を吐きました。


 結局、カヨウさんはひとしきり怒った後――養父の言葉に説得されてしまい、メサイア討伐のために騒乱者と手を結ぶ事にしました。


 相手は養父とはいえ、今まで自分を騙してきた騒乱者でもあるので、わだかまりもあるようですが――それでも外の状況も知ったため、感情的な問題は脇に置いたようです。


 という話をエレインさんがすると、セタンタ君もフェルグスさんも「首都の状況はどうなっている?」と食い気味に問いました。


「一応、まだ滅びていません。首都66丁目付近は酷い状況のようですが、メサイアが来る前に避難終わってましたから、一般人への被害は無いようですよ。現場の人間はボッコボコにされたようですが」


「魔王様が協定に阻まれずに参戦できても、それでも――?」


「ええ」


 エレインさんは頷き、「バッカス王国が出せる総力を結集しても、メサイア討伐は完了していません」と語りました。


「ティアマトも協力してくれているようなんですけどね」


「ティアマトが? ああ、エイのオッサン達の指示かな……?」


「詳しい話は移動してからにしましょう。他にも敵が来そうですし」


 そう言い、エレインさんは移動を促しました。


 この場に来た応援はカヨウさん、エルスさん、エレインさん、ランスロットさん、カスパールさんだけでしたが――離れた場所にある居住区に移動すると、他にも人がやってきました。


 騎士団長を筆頭に首都66丁目で戦っていた面々の生き残りが合流してきました。


 エルスさんはカヨウさんと和解した後、カヨウさんの協力を得て、妖精郷内で散り散りになっていたバッカスの残存部隊をかき集めていたのです。


 その残存部隊と移動中――墓守が妙な動きをしたのに気づき、先行した結果、セタンタ君達を危ういところで助けるのにも成功しました。


 全ての残存部隊を収集できたわけではありませんが、まとまった戦力を整える事に成功したため、彼らはひとまず偽装処理を施した野営地を作り、墓守達の目を盗んで潜む事にしました。


 決戦に備え、準備や作戦会議を進める事にしました。


「さて、さっきの話の続きですね」


 野営地に腰を落ち着けたエレインさんは、セタンタ君達に状況説明の続きを話始めました。


 話の大筋は戦争屋が――エイさんが語った事で間違いなかったのですが、エイさんではカヨウさんのように首都の詳しい状況までは把握できていませんでした。


「現在、首都で暴れていたメサイアは封印されています」


「討伐は出来ていない、と」


「ええ。近衛騎士隊長と組んだ魔王様ですら手に負えないため、大規模空間制御術式でメサイア周辺の空間を歪め、そこから出られないようにしているそうです」


 大軍を軽く一掃できる王の大魔術でも、メサイア討伐は叶いませんでした。


 王ですら、純粋な魔術ではメサイアの解呪領域を貫く事に失敗し、解呪対策を施した物理攻撃も敢行されましたが――メサイアはそれらを迎撃、あるいは吸収してしまったため、決定打は一切与えられませんでした。


 解呪に縛られない魔物達が――ティアマト達が攻撃を仕掛けても同様でした。騒乱者達が対メサイア戦も睨んで用意していた隕石爆撃も、メサイアが体外に生成した墓守の射手プロメテウスが全て撃ち落としました。


「そんなこんなあって倒せなかったので封印中なのですが、封印にも魔術が使われているので長くは持たないそうです」


「どの程度持つ予定?」


「当初予定では1週間でしたが、敵の解呪が強まったため、残り20時間ほどですかね?」


「うげ……封印解いて出てきたところを再封印したり出来ねえの?」


「おそらく無理です」


 エルスさんの見立てでは、首都に現れた当初のメサイアは「本調子ではなかった」と語っていました。


 召喚の衝撃で弱るよう、騒乱者側が調整していたため本調子ではなかったのですが、それでもバッカス側の攻撃を跳ね除け、封印されているうちに調子を取り戻したのです。


 封印から脱した時には、召喚当初を凌ぐ圧倒的な力を振るう。


 バッカス側はメサイアによる死者を遠隔蘇生機構で蘇らせていますが、解呪領域内でもまともに戦えるのはバッカス王国でもごく少数の人材しかいないため、バッカス人が何人いたところで焼け石に水の状態でした。


「最悪、首都放棄して逃げるしかない……のか?」


「ところがどっこい、敵はレイラインに対して致命的な攻撃を行えるようでして……。近衛騎士隊長がそれに気づき、急遽封印したので難を逃れましたが……そうしていなければ首都のレイラインが完膚無きまで破壊されてしまっていたようです」


「うへー……! それって、ひょっとして」


「世界の危機だな。国どころか世界が滅びかねん」


「まとめると、『外まじやばい』って感じですねー」


 セタンタ君は「世界が滅んだら妖精郷ここも終わりだろ……」と思いましたが、「やばい」のは確かなので口をつぐみました。


 今は何とかメサイアの封印に成功している。


 ただし、それは時間制限付きの封印。


 封印が解かれる前に、メサイアの脳を――妖精郷システムを破壊しなければ、メサイアが首都どころか世界を壊してしまいかねない。


 メサイア召喚時にメサイア内への侵入に成功した首都66丁目攻勢の残存部隊の力と、ニイヤド商会の総力を結集してシステムを破壊しなければならない。



「いや、待てよ? 世界の危機なら、最終的に神が動くんじゃね?」


 セタンタ君は膝を叩き、そう言いました。


 メサイアを作ったのは神。


 自分が作ったものがボヤ騒ぎどころか、世界まで滅ぼしたら、さすがの神だって止めに動くんじゃないか――とセタンタ君は言いました。


「「…………」」


 エレインさんとフェルグスさんは腕を組んで黙ったままでした。


 が、フェルグスさんにチラリと見られたエレインさんは、ちょっと言いづらそうにしながら「あまり期待は出来ないようです」と語りました。


「今のところ、神が動く気配は一切ないようですから」


「んなバカな」


「本当にギリギリの状況になれば動くかもしれんが……機械仕掛けの神の如き活躍は期待しない方がいいだろう。所詮は悲劇嗜好者の邪神だ」


「…………」


「まあ、私達が勝てばいいんですよ、勝てば」


「そうそう」


 引きつった笑みを浮かべて固まっているセタンタ君の肩を、大人2人はポンポンと叩きました。


 彼らは本気で「勝てばいい」と思っていました。今回は駄目かもしれん、とも思っていましたが、「とりあえず勝つしかない」と考えていました。


「相手がエルス様とはいえ、騒乱者の目論み通りに事が進んでいるのはちょっと癪に触りますが……」


「メサイアがそれだけ強い相手なら、最初からバッカス王国を巻き込むつもりだった……って事だよな?」


 単にメサイアを呼びつけるわけではなく、召喚したメサイアが世界を滅ぼすまでの猶予時間を作るためにバッカスの王達に抑え込んでもらう。


 その間にカヨウさんや騎士団長のような、解呪領域内でも十分な戦力になる人物と共に妖精郷内で戦闘を行い、システムを破壊する。


 エルスさんの目論みはそんなものでした。


「理性的に考えると『まあやるしかない』って気になるけど、感情的に考えると『全て騒乱者の思い通りってのは気に入らない』ってなるなー」


「かなり危ない橋を渡っていたと思いますよ、向こうも。予定より早くカヨウ様が来襲したので、かなりカツカツの戦いになったようですし」


 エルスさんはカヨウさんも妖精郷内に巻き込むつもりでしたが、首都ではカヨウさんと戦闘は行わず、カヨウさんが来た折りに召喚を行うつもりでした。


 カヨウさん来襲時間を調整するため、ガッチガチに対策を用意した機屋に足止めを任していたのですが――カヨウさんは最終的に全ての対策を粉砕し、機屋も殺し、予定より早くやってきました。


 結果的に何とかなりましたが、あくまで「結果的に」の話でした。


「この件から下りるか? セタンタ」


「まさか。俺も手伝うよ」


 気に入らないといった様子で、口を尖らせていたセタンタ君でしたが、フェルグスさんに問いかけられると「参加する」と即答しました。


「解呪領域内だとろくに働けないけど、囮ぐらいなら……」


「……ボクも協力する」


 黙って話を聞いていたマーリンちゃんも、協力を約束しました。


 セタンタ君達はマーリンちゃんを気遣わしげに見ていましたが、少女は「大丈夫」と返しました。


「色々と言いたいことはあるけど、そういう事してる場合じゃないし……」


 少女は残存部隊の面々の中にいるエルスさんを見つめました。


 騎士団長が現場の指揮官として残存部隊をまとめ上げる事になったようですが、エルスさんはカヨウさん共々指揮者側に立っていました。


 つい先ほどまで騒乱者としてバッカス王国と戦っていたというのに、その事を指摘する者はいませんでした。カヨウさんが睨みを効かせている事もあり、疑問視はしても疑問を口にする人はいませんでした。


 疑問すら抱かない人もいました。


 エルスさんが――騒乱者という身分を隠していたとはいえ――バッカス王国に長年貢献してきた事も事実であり、それを高く評価している人や、エルスさんに教えを受けた人達などは喜んでエルスさんの指示を聞いていました。


 マーリンちゃんは疑問を抱いている側でしたが、それでも不平と不満と罵声を飲み込み、硬い表情でエレインさん達に向き直りました。


「ボクだって、バッカス王国と世界は守りたいから」


「……大丈夫ですか? 戦闘に参加せず、休んでてもいいんですよ?」


「大丈夫。自棄を起こしたりしないから。もう大丈夫だから」


 マーリンちゃんは、頬を撫でてくるエレインさんの手に触れつつ、そう誓いました。それでもエレインさん達は心配そうにしていましたが――。


『取り込み中かい?』


 のしのしと歩いてきたエイさんが会話に割り込んできました。


 彼は墓守と化した墓石屋との戦闘でダメージを受けていましたが、妖精郷内にあった有り合わせの部品で補修し、復帰してきていました。


 口を挟んできたエイさんに対し、マーリンちゃんは頷きました。


「何かあったの? 敵が来たわけではないようだけど」


『キミらにもお守りを支給しにきたんだよ。精製が済んだから』


「お守り……?」


『ほら、これ』


 そう言い、エイさんが渡してきたのは注射器でした。


 セタンタ君達は怪訝そうな顔を浮かべつつもそれを受け取り、注射器これに何が入っているのか解説を求めました。


『さっきセンセイ達が墓守の死体漁ってたじゃん? 回収した死体の一部から抽出した体液を加工して作ったもんだよ。遠慮なく打って』


「遠慮なく打つ以前に、遠慮するわ。なんてもの寄越しやがった」


 注射器の中には墓守と化した墓石屋と、紅色の大蛇と、さらに他にもカヨウさん達が倒した墓守の体液がブレンドされていました。


 セタンタ君は「気持ちわりい」と露骨に顔をしかめましたが、投げ捨てたりはせず、「効果は?」と続けて問いました。


『解呪領域の一部無効化、あるいは減衰が出来る』


「どういう理屈で?」


『解呪の対象外として誤認させる』


 解呪ディスペルはバッカスの魔術師でも可能です。


 解呪を行いつつ、戦闘を行う事もありますが――その場合、解呪行使者は解呪を使っていても同時に別の魔術を使う事ができます。


 それは自身を解呪の対象外にしているためであり、墓守の体液を打ち込む事でそれに近い事を行おうとしていました。


『全ての墓守の解呪を無効化する事は出来ないけど、大半が減衰可能になっている。彼らが一個の生命体になっているおかげでね』


「なんとなく、理屈はわかるけど……」


『さっき倒した奴らとかは……墓石屋なんかは直接抽出に成功しているから、彼ら相手ならほぼほぼ解呪領域を無効化できるよ』


「いや、アイツはさっき倒したんだから、もう出てこないはずだろ?」


『いや、もう再起している頃合いだよ。妖精郷システムの力でね』


 墓守達は人を辞めさせられただけではなく、不死身の存在と化していました。


 殺されようとシステムが身体を再生成し――エルスさんのように身体を修復していき――何度でも復活するようになっているのです。



『システムを破壊しない限り、彼らは不死身だ』




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