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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
十章:なれ果てのメサイア
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養母の仇



「……ごめん。ちょっと、索敵に集中する……」


『マーリン』


「集中させて。いま、あの人達の事を考えるだけの余裕がない」


 マーリンちゃんは目元を揉みつつ、3人から少し距離を取りました。


 工房の隅っこにちょこんと座り、目をつむって周辺の索敵に集中し始めました。


 セタンタ君は少女に付き添おうとしましたが、フェルグスさんに腕を掴まれ、「そっとしておいてあげなさい」と言われ――心配そうにしながらも――少女から離れて見守る事にしました。


「……エルス殿はまだだろうか?」


『まだみたいだね』


「あなたが虚偽の情報で私達を足止めしていない事を祈らせてくれ」


『まあ当然、そういう線は疑うよねぇ』


 戦争屋は困った様子で機械音声の溜息をつきました。


 そして腕の換装作業を終えました。


『いまここでやりあう? まあそれでもいいよ。僕を殺した後、センセイがやってきて同じ話をしたら信じてあげてね――って事ぐらいしか言えないな』


「ひとまず、もう少し待って判断したい」


 その代わり、もっと情報をくれ――とフェルグスさんは言いました。



「先程の話を少しまとめておこう。あなた達は……エルス殿やモルガン女史達は妖精郷ここで暮らし、神やそれ以外の勢力と戦っていた」


『うん』


「家族のような距離感で?」


『……そういう人もいたけど、僕にとって皆は同志だったかな』


 戦争屋は天井を見上げて過去を思い返しつつ、ポツポツと語り始めました。


『僕は、皆とここを守りたかった。守るために戦って、戦って……負けたり勝ったりを繰り返した末に……最後は神に負けた』


「…………」


『神に全てを台無しにされた。守りたかった人達も、守りたかった理想郷ここも、今じゃ墓場のような廃墟になっちゃった』


「…………」


『僕は、メサイアに取り込まれずに済んだけどね』


 戦争屋は自嘲するように言いつつ、自分の頭部をグリグリと拳で刺激しました。


「エイのオッサンは、神に捕まらずに済んだって事か?」


『いや、違う。神との戦いで敗北して、僕は他の人達と同じく捕まった。あの場からは何とか逃げきった人もいたけど……僕は逃げられなかった』


 戦争屋と同じく、捕まった人達はメサイアの「材料」となりました。


 ただ、彼はそうならずに済みました。


『僕が取り込まれずに済んだのは、センセイのおかげだ』


 神に挑んだ騒乱者の1人であったエルスさんは、他の騒乱者達と同じく敗北しました。敗北し、それを神に嘲笑されながら言われました。


『センセイは神に「1人だけは助けてやる」「誰を助けるか、お前が選べ」って言われたんだ。……捕虜になった皆の前でね』


「…………」


「それは……選ばれたあなたも、つらかっただろう」


『僕の事なんて、どうでもいいさ』


 悩みに悩んだ老魔術師が選んだ時、捕虜達から落胆の声も漏れました。


 自分が選ばれなかった事を悲観し、老魔術師を罵倒する仲間もいました。


 選ばれた戦争屋に呪詛を吐く者すらいました。


 ただ、戦争屋は「よかった」「元気でね」「私達の事はいいから、自分の幸せだけ考えなさい」と言い、送り出してくれた声もあった事を忘れていなかったため、自分の事などどうでもいいと思っていました。


 皆を助けられなかったうえに、命の恩人に苦渋の決断をさせてしまった自分の無力さを恥じていましたが、自分が罵倒されるのは仕方ないと思っていました。


『で、まあ……僕だけ五体満足で生き残った後は、センセイと一緒に神の奴隷にされていた。「神の尖兵」という意味での騒乱者になったのは僕らが初めての存在だっただろうねー』


 神の奴隷になった戦争屋は、寿命を注ぎ足されながら酷使され続けました。


 過酷な労苦を背負わされ、時には理不尽な戦場に投入されました。


 死んでも死んでも強引に蘇生させられ、戦わされ続けました。



『センセイが不死になったのはその時期からだ』


「神の力で不死の呪いをかけられた、ってやつか」


『そう。正確には、メサイアの力(・・・・・・)だけどね』


 2人は時に離れ離れになりながらも生き続けました。戦い続けました。


 最初は神への復讐を誓い、実際に反抗していた戦争屋も、長年酷使されすり減り続けているうちに、すっかり心を折られてしまいました。


 死にたくても死ねないため、機械的に毎日を過ごしていました。


 心が完全に死んでしまう前に、神に精神を癒やされました。長く遊べるよう、幸せだった頃の夢を毎日のように見せられ、カラカラに乾いた心に雀の涙程度の燃料こうふくを注ぎ足され続けていたのです。


 そんな生活が何年も続いていましたが――。


『センセイが……また、僕を助けてくれたんだ』


 靴屋は戦争屋以上に酷使されていました。


 それでも何とか神と交渉し、「自分が彼の分も働くから、彼を解放してあげてほしい」と願いました。


 神はその願いを受け入れ――弄ぶのに飽きた玩具エイを手放す事にしました。靴屋に対し、恩着せがまく言いながら戦争屋を解放しました。


 解放された戦争屋は、巨人の士族の子として人生を再スタートする事になりました。靴屋に「全てを忘れて幸せになってくれ」と言われ――戦争屋自身は望んでいなかった第二の人生が始まったのです。


『センセイはその後もずっと、神の奴隷のままだった』


「モルガン女史や、他の騒乱者……機屋や墓石屋と名乗る者達は?」


『モルガンさんや機屋は、神との戦いでは何とか逃がす事が出来たんだ。んで、彼女達は姿や名前を変え、長らく潜伏していた』


「……あの神の目を誤魔化す事が出来ていたとは」


『当時は、あの神でも世界を完全掌握できてなかったからね。だから何とか逃げ延びてくれていたけど……彼女達はずっと逃げるのを良しとせず、仲間を解放するために戦いに挑んだ』


 挑んだものの、勝つ事は出来なかった。


 神が世界を掌握し切る前に勝利を目指したものの――封印から完全に復活した神は、もう、止める事が出来なかった。


『機屋は――マーキナーさんは神に命じられて、僕らが捕まえた。他に抵抗していた人達もね』


「彼女らはメサイアに取り込まれずに済んだのか?」


『神はそうしようと試みたようだけど、完成したメサイアに途中から放り込むのには失敗したみたい。だから、マーキナーさん達は魂だけラインメタルに保管されたり、必要に応じて蘇生して僕らみたいに奴隷として使われてたんだ』


 神の都合で使われ、飽きたら解放される事もあった。


 今でも神の手中にあるラインメタルに魂を封じ込められている者もいる。


 戦争屋はそう言いました。


『今回のメサイア討伐が成功したら、その人達も解放してもらう約束なんだ。……今回の件も、神にとっては娯楽ゲームなんだよ』


「…………。モルガン女史も捕まって、神の奴隷として――」


『いや、モルガンさんは捕まらずに済んだんだ。彼女自身の力と、仲間が上手く逃してくれたおかげでね。……神に泳がされていただけかもだけど』


 皆の希望を託され、何とか逃げ延びる事が出来た。


 だからこそ、余計に思い詰めるようになったのかもしれない――と戦争屋は語りました。実際、彼女は1人逃げ切れた罪悪感に縛られていました。


『彼女は1人になっても神に反抗する手段を探していた。ずっとずっと諦めず、何とか神の支配を覆す方法を探していた』


「…………」


仲間メサイアを解放する手段も探していた。長い間、ひとりで。考えて考えて、考え続けた末に……神を殺すという選択肢に至った』


 それによって世界が滅びようとも、信用できない存在カミに世界が支配されたままで最終的に滅ぶより、ずっといい。


 問題を先送りにして、不幸が積み重なり続けるより、ずっといい。


 神を殺せば世界は滅ぶ。玩具にされ、兵器にされた仲間達を解放できる。


 もうそれしかないと、女魔術師は思いつめた末に神殺しの道を選びました。


『皆、辿ってきた道や見てきた景色が違うんだ。センセイとモルガンさんは夫婦のように仲睦まじかったけど、それでも別の道に進んだ』


「…………」


『センセイは僕を解放してくれただけじゃなくて、メサイアに取り込まれた皆を解放する機会まで掴み取った。神と辛抱強く交渉して、神の協力を得た。……まだメサイアを殺せたわけじゃないから、何か裏があるかもだけど』


 それでもようやく辿り着いた好機。


 靴屋はそれに機屋達と共に挑む事にしました。


 靴屋達は、戦争屋には声をかけない予定でした。


 ですが、神から情報を聞いた戦争屋は、巨人種としての新しい人生を捨て、靴屋達と共に戦う道を選んだのです。


 今まで積み上げてきた栄誉も繋がりも、命すらも燃え尽きてしまっても構わない。仲間メサイアと一緒にいけなかった後悔を晴らすため、靴屋達が止めても聞かずに「仲間はずれにしないでよ」と戦いに身を投じました。


 いつまで子供扱いすれば気が済むんだよ、と言いながら。


「世界は神に支配されたままだけど、少なくともアンタらの仲間を解放する目処は立った……って事か。教導隊長の粘り勝ちで」


『結果的にはね。僕はセンセイの判断を支持するけど……モルガンさんの判断も一理あるな、と思ってる。モルガンさんが世界を滅ぼそうとした大罪人として後ろ指を指されるのは、とても嫌だ』


 戦争屋は溜息をつき、言葉を続けました。


『モルガンさんの暗殺未遂事件が公にならなかったのは、バッカス政府に感謝かな? 政府がどういう思惑で伏せたのかは知らないけど』


「私はそれについて詳しくないが――」


 フェルグスさんは大剣の柄を集中で弄びつつ、言葉を続けました。


「魔王様達の事だ、幼い少女マーリンが真実を受け止めきれるか心配だったんだろう。モルガン女史なりの考えがあったのはわかるが、しかし――」


「でも隠せなかったじゃねえか。神に最悪なバラし方されて」


 協定を結んでいたらしいとはいえ、そこは明らかに政府の手落ちだろ――とセタンタ君は眉根を寄せて唸りました。


 フェルグスさんが「すまん」と言うと、少年は「いやオッサンが謝る事ではないだろ」と困惑しましたが、フェルグスさんは「そうかもしれんが、すまん」と言いました。


「ただ、魔王様達も悪気はなかったのだ。絶対に」


「うーん……」


「今回の件が片付けば、直ぐに魔王様が直々にマーリンと話をするだろう。事の経緯と釈明を、キチンとしてくれるはずだ」


「それだけで解決する問題じゃあないと思うけど……」


 政府に悪気がなかろうが、モルガンさんが神を殺そうとした事実は消えない。


 間接的に世界を滅ぼし、間接的に養女マーリンを殺そうとした事実も消えない以上、マーリンは永遠に救われねえんじゃねえのかな――と少年は考えました。


「とにかく、今はメサイアとやらを倒すしかねえのか」


『よろしく頼むよ。メサイアは妖精郷システムを破壊したら、それで終わるから』


「本当にそれだけで倒せんのか?」


『メサイアにとって、妖精郷システムはに当たるものだ』


 システムに取り込まれ、改造された人々は人らしい姿を失い、心すらも混ぜ合わさって自我すらも失っています。


 そうしてシステムの一部に組み込まれた彼らは、メサイアという身体を構成する臓器や血管のような存在になりました。


 だからこそ、脳を破壊すれば――。


『脳を破壊すれば、取り込まれている皆も死ぬ。全て崩れて死んでいく。メサイアは正面から正々堂々戦うと魔王ですら手こずる……どころか、勝てない存在のはずだ。さすがの彼女でも多重解呪領域メサイア相手では相性が悪すぎる』


 だからこそ、戦争屋や靴屋達は内部からの破壊を目論みました。


 首都のレイラインとゲートを利用してメサイアを召喚し、顕現する隙をついてメサイア体内に――妖精郷に侵入。


 暴れるメサイアはバッカスの王に抑え込んでもらい、その隙にシステムを破壊してメサイアを滅ぼそうと考えていました。



『システムさえ破壊すれば、アリスト達も解放できる』


「……ん? あれっ? 墓石屋アリストって奴は、お前らと一緒にいたじゃん」


 少年は墓石屋が戦争屋らと共に戦っていた光景を思い出していました。


「アイツもメサイアに取り込まれずに済んでたんじゃないのか?」


『いや、彼もずっとメサイアに――』


「ねえ! 例の墓守が近づいて来てるみたい……!」


 戦争屋が語ろうとしたところ、索敵をしていたマーリンちゃんが口を挟みました。こちらに敵が近づいてきていると反応がある、と言いました。


 精度無視で広域に展開された彼女の索敵魔術は、端から――敵がいる方からゴッソリと食い破られつつありました。


 解呪領域が端から消失していっているのです。


 少女の言葉を聞き、男性陣も建物の外の様子を伺いました。すると、遠くから建物が損壊する音が近づいてくるのに気づきました。


居住区ここに来る人がいるなんて……』


 念のため警戒していたとはいえ、居住区に墓守が大々的にやってくる事は戦争屋にとって想定外の事でした。


 墓守達の多くは巨体に変質しており、常人のために設計された居住区に無理に押し入ろうとすると建物を直ぐに損壊させてしまいます。


 彼らも無意識に――自分達が穏やかな生活を送っていた場所を――破壊しないよう、居住区には近づかないようにしていました。


 だからこそ、騒乱者達は落ち合う場所を居住区ここにしていたのです。


 墓守達は戦争屋しんにゅうしゃ達がやってくるまで、何年も何年もその行動パターンを守り続けていたため、居住区の損壊が壊滅的なものにならずに済んでいたのですが――。


『ちょぉっとマズいかな……索敵型の墓守だったら、簡単に見つかっちゃう』


「エルス殿が来るまで待つか、あるいは応戦するか」


『センセイ抜きでやり合うのはキツい。ひとまず逃げよう』


 戦争屋はモルガンさんの工房を後にする提案をしました。


 フェルグスさんもその提案に乗りました。


 セタンタ君はマーリンちゃんをエスコートしつつ、工房から出ましたが――。


「おい、エイのオッサン……! なにチンタラしてんだ」


 戦争屋は直ぐには工房から離れませんでした。


『ちょい待って! センセイへの目印と、書き置き残してるから……!』


 仲間と行き違いにならないように印を残した後、戦争屋はフェルグスさんに伴われながら少年少女に追いつき、居住区から逃げ始めました。


 戦争屋の案内で、セタンタ君達は居住区から離れた地下通路に辿り着きました。


『あれは草原から居住区に来た時みたいな連絡路だから、最悪、アレを使って次の階層に逃げよう。ただ、センセイと合流できないと困るから――』


「入り口付近に身を潜めつつ、墓守をやり過ごすまで待機」


『そう。やり過ごせないなら次の階層まで避難する』


 いつでも奥に逃げ込めるように、地下通路に入った4人は身を潜めつつ、外の様子を――居住区を蹂躙している墓守の姿を見ました。


 それは全長数キロほどの大蛇でした。


 金属板のように艶のある紅色の鱗に身を包んだ大蛇は、目玉らしきものをギョロギョロと動かしつつ、二又の舌をチロチロとのぞかせながら進んでいきました。


『あぁ……くそ……』


 ただ進んでいくだけで、居住区の建物がなぎ倒されていく光景を、戦争屋は悔しげに見守りました。


 妖精郷システムを破壊してしまえば、メサイアと共に滅んでいく妖精郷ばしょでしたが、彼にとってはかつての無力を思い出させる嫌な光景でした。


 それでもさすがに飛び出し、戦ったりはせず、身を潜め続けました。


「アイツ、こっちに気づいてたりは――」


『今のところ、その様子はないね』


 紅色の大蛇は目玉らしきものを――目玉の代わりに生えた巨大な人の頭部をギョロギョロと動かしていましたが、隠れ潜んでいる戦争屋達の存在には気づきませんでした。


 ただ、その巨体は――。


「あっ…………」


 居住区の端にあったモルガンさんの工房も押しつぶしてしまいました。


 その光景を目撃したマーリンちゃんは思わず声を漏らし、悲しげに目を伏せました。それを見ていた少年は、ポケットをごそごそと漁り、少女に話しかけました。


「マーリン。ほら、これ」


「…………? あっ」


 少年は、少女からひとまず取り上げていた写真を差し出しました。


 少年が工房から持ち出していた写真は無事でした。


 少女はモルガンさんが写っているそれを受け取るか、躊躇う様子を見せていましたが、「ありがと」と言っておずおずと受け取りました。


「……あの大蛇、通り過ぎるまでしばらくかかりそうだな」


『だねぇ。もうすっかり解呪領域に飲まれてるけど、キミらは魔術使える?』


「ん……」


 少年は身体強化魔術を使おうとしました。


 が、あまりにも強力な解呪領域に飲み込まれているため、解呪に強いとされる身体強化魔術すら使えなくなってしました。


「俺は駄目だ。か弱い男子状態」


『自分でか弱いって言うとかキモいな』


「は?? 俺はそういうの言える年齢だが??」


「ボクも、ちょっと無理かな。何の魔術も使えない」


『だよねぇ。でも、フェルグスはさすがにイケるだろ?』


「身体強化魔術ぐらいなら、何とか」


 フェルグスさんは手のひらを開閉して見せつつ、そう言いました。


 そして、墓守達の危険性を再認識しました。


 フェルグスさんは何とか身体強化魔術が使えているとはいえ、他の魔術行使が覚束ない状態であり、これで墓守達の巨体とやり合うのは相当厳しい戦いになると思っていました。


 あるいは、一方的な戦いになると考えていました。


「エイ殿は?」


『僕もキミと同じぐらい――と言いたいところだが、身体強化魔術はカスみたいな性能になってる。ただ、機械からだの方の補助で何とかキミと同じぐらいは動けるかな? けど、戦力としてあまり期待しないでね』


「そんな事はない。警戒しているとも」


『いやそういう意味じゃなくてさ――』


 墓石屋は「なかなか信用してもらえないなぁ」と苦笑しつつ、ひとまずやり過ごせそうな様子なので安堵を抱いていました。


 ですが、直ぐに異変に気づきました。


 紅色の大蛇が遠ざかりつつあっても、状況が変わらない事に気づきました。


『……キミら、魔術の調子は相変わらず?』


「え? うん」


「全然ダメ」


「…………」


『アァ~……ツイてないというか、なんというか……!』


 フェルグスさんは大剣を構え、戦争屋も工房で手に入れた金棒を構えました。


 2人は並び立ち、背後の暗闇を睨みました。身構えた2人がただならない様子なのに気づいた少年少女も慌てて構えました。


「なあ、まさか俺ら……」


『挟み撃ちだ。向こうは意図なんかしてなかっただろうけどねぇ……! あっちの領域に飲まれてた所為で、気づくのが遅れた……!』


 紅色の大蛇は遠ざかりつつありました。


 ですが、解呪領域の力は弱まるどころか、強まりつつありました。


 次の階層からやってきた新手の墓守により、強まっていたのです。


 セタンタ君達は後方を大蛇、前方を新手に挟まれる事になりました。大蛇の方はまだ彼らに気づいていませんでしたが――。


『くそ……。よりにもよって、アンタか……!』


「おおおうおおおううおおうおおきききき来たかカカカカ来てくれれれレレレ」


 地下通路の暗闇から現れたのは、フェルグスさんより小柄な人影でした。


 ただ、「人」とは呼び難い異形の存在でした。


 身体のあちこちに赤ん坊の顔面が生えており、その赤ん坊の顔は一様に嗤っていました。ケラケラと笑い、少年達を見据えていました。


 それらに寄生された人物は視線をさまよわせていました。幻覚でも見ているように焦点のあわない視線でふらつき、うわ言のように言葉をこぼし続けました。


 写真にも写っていた禿頭の人物アリストは、舌を回し続けました。


「ころこぉろおぉおお殺し……! わわががみみみ吾輩がみみみみみんんああぁあああなあああをまもぅるるるるルルルルルル……!!」


 禿頭の人物は、手のひらから刃渡り2メートルの刀を生成し、それを振り回しながら――口からよだれを垂らし、ツバを吐きながら襲いかかってきました。


『ッ…………!』


 戦争屋とフェルグスさんは協力して一刀を防ぎました。


 魔術が満足に使えない状況で、なんとか、かろうじて防ぎました。




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