妖精郷システム
『あ~……こじ開けるしかないかぁ……』
地下通路を先導していた戦争屋は、眼前にある壊れた大扉を見上げ、『手伝ってくれ』とフェルグスさん達を呼びました。
マーリンちゃんが周囲を警戒しているうちに、男3人が大きな扉をこじ開けました。そして4人は地下をさらに奥へ進む事にしました。
「…………?」
「マーリン? 行くぞ」
「あ、うん。…………」
マーリンちゃんは扉をくぐって直ぐの壁に、落書きを――小さな子供が描いたような落書きを見つけましたが、セタンタ君に呼ばれ、トテトテと走ってその後に続きました。
『ここまで来たら、一休みできそうだ』
戦争屋は地下にあった一室に入り、身体を軋ませながら座り込みました。
「エイのオッサン、なんかいまにも壊れそうな音がしてねえか……?」
『実際壊れそうなんだよぅ。お前らのとこの騎士団長にド突き回されてさぁ……。痛覚はないけど、エラー音が鳴り響いてんのよ。どうしようもないからカットしたけど』
戦争屋はボヤきつつ、『応急処置させて』と訴えました。
セタンタ君達はそれに難色を示しましたが――。
『心配なら、いつでも僕を殺せるようにルーンでも刻んでおけば? ほら、どこでもいいから、ミミナーシホーイチのように刻めばいいさ』
「なんだよ、ミミナーイチって」
『ミミナーシホーイチね。異世界の怪談だよ』
戦争屋が『早くしてくれー』と促すので、セタンタ君はフェルグスさんと顔を見合わせ――フェルグスさんに「頼む」と言われたので、戦争屋の身体によじのぼり、身体のあちこちにルーンを刻みはじめました。
戦争屋はされるがままにしつつ、セタンタ君の作業の邪魔にならない範囲の補修を始めました。そして、語り始めようとしましたが――。
『あ、マーリン、観測魔術でもなんでもいいから、魔術を常に展開しておいてくれ。広く、全方位へ。精度は度外視でいい。彼らが……解呪領域を展開している彼らが近づいてきたら、かき消されただけでわかるからさ』
「わかってる。なんで騒乱者が仕切ってんのさ……」
マーリンちゃんはブツブツと文句を言いつつ、「言われなくても、やってるよ~……」と呟き、索敵・観測用の魔術を広域に展開しました。
フェルグスさんはいつでも動けるようにしつつ、戦争屋に言いました。
「さて、そろそろ話を聞かせてもらえないか? 隠し事は無しだ」
『いいよ。ただ、準備を終えたら直ぐにでも出発したい。長い話になるから、ここで全てを話しきれない。続きは移動しながら、だ』
「…………」
『そんな目で見ないでよぅ。ここでも出来るだけ話すって。話を飛ばし飛ばしでしてたら信用されないだろうしね……』
「移動を急ぐ必要なんてあるのか? 現状の把握が優先だろ?」
『そんな悠長なこと言ってらんないんだよ。あ、セタンタ、そこだけじゃなくて、こっち……首にも刻んでおきな?』
「うるせえなぁ、指図すんなよ騒乱者め」
『僕を殺したいんなら、肩に鮭飛びのルーン刻むのなんて無駄だよ』
「うるせえ、使う事もあるかもだろうが」
セタンタ君は口を尖らせ、墓石屋に言われたところにも爆砕のためのルーンを刻みつつ、「早く話せよ」と指先で軽く小突きました。
『はいはい、まず、ここがどこかわかるかな?』
「知らねえ」
『ここはね、妖精郷システムが■■■げた仮想空間だ』
「は?」
「ん?」
『いや、キミらには「異空間」と言った方が伝わりやすいかな? 何年も前、キミ達の■■がこの■で暮らし始めるよりも前、騒乱者達が生存と戦闘のために……■■に対抗するために作ったのが妖精郷システムで――』
「おい待て」
「ちょっと待ってよー! なに言ってんのか全然ワカンナイ」
『おや?』
戦争屋は『そこまで難しい話はしてないつもりだが――』と思いましたが、直ぐに合点がいきました。
セタンタ君達に、自分の言葉が伝わっていないと気づきました。
『神の■■は■■■だ。■は■と自称しているが■■は…………いま言ったこと、キミらの耳にはなんて聞こえた?』
「聞こえたとか以前の問題なんだが……」
「どうやって発音してんの? って感じの声だったよ」
「大量の砂をこすりあわせたような音ばかり聞こえたな」
『あぁ、そうだった。秘匿事項だから伝えられないんだよね~……』
「秘匿事項? 神がどうのこうの、とか聞こえたけど」
『その神に禁じられているんだよ。魂をイジられてね』
戦争屋は――戦争屋達は、この世界の秘密を喋る事を禁じられていました。
神に禁じられているため、喋ろうとすると言葉が単なる雑音に変換される呪いを与えられているのです。
文章等に残す事も出来ないため、戦争屋は『どうやって伝えればいいかな……』と困った様子で首をひねりました。
フェルグスさんは戦争屋に対し、「とりあえず、言えそうな範囲でざっくりと言ってみてくれ」と言いました。
「詳しく聞きたいところはこちらから聞く、そこでまた上手く聞き取れない時は……まあその時に考えよう」
『ふーむ……』
「察するに、何かを特定させる特殊な用語を言うのが難しいのだろう。ボカした言い方をすれば、ある程度はわかるはずだ」
『僕はそれでも構わないけど、キミらはいいのかい?』
「とりあえず構わん……というか、話を聞いて判断する。エイ殿のように、神に言論を封じられている者には以前も会った事がある。その時も、エイ殿のように聞き取れない言葉が出てきた事がある」
「オッサンに判断任す」
「ボクもおまかせ~」
ガキ共は思考放棄してないか――と思いつつ、戦争屋は再び語り始めました。
『ここは、バッカス王国が出来るずっと前から存在する場所だ』
「あ、さっき妖精郷しすてむ? っていう単語は聞こえたよ」
「あと、異空間という言葉も」
『え、それは聞こえたの? ん……まあいいや。とにかく、ずっと昔から存在する場所だよ。バッカス政府上層部の人間ですら、知らないんじゃないかな』
戦争屋はそう言い、フェルグスさんやマーリンちゃんをチラリと見ました。
2人は政府上層部に近しい人間ですが――ここについて知っている事はないので――特に反応は示しませんでした。
『ここは僕の故郷みたいな場所でね』
「生まれ故郷?」
『いや、育ちの故郷だね。セタンタにとってのバッカス王国みたいなものさ』
「ふぅん……?」
『僕らはここを破壊したくて、バッカス王国と敵対したんだ』
「「「…………」」」
『世界各所で陽動を行って、首都を防衛するための戦力をほどほどに減らして……それから首都66丁目・6号ゲートを媒介にここを呼び出した』
戦争屋の最後の言葉が引っかかったマーリンちゃんは問いました。
「呼び出した? 6号ゲート経由して、この場所に飛んだんじゃないの?」
少女はそういう予想を立てていました。
自分達は敵の転移に巻き込まれ、こんな場所に来たんじゃないのかと思いました。しかし、戦争屋は『違う』と否定しました。
『逆だ。僕らはここを……妖精郷システムを、召喚したんだ』
「つまり、ここはまだ首都ってこと?」
『そうそう。いま、僕らは妖精郷システムが■■■げた異空間にいる。首都という場所に、妖精郷システムの異空間があると思ってくれ』
「よくわからん」
「セタンタ、首都を2枚の硬貨だと思え」
「はあ?」
フェルグスさんは実際に硬貨を2枚取り出し、語り始めました。
硬貨を重ね合わせつつ、語り始めました。
「重ねた硬貨の外側部分が首都だ。我々は、重ねた硬貨の内側にいる」
「俺らそれだと潰れねえ?」
「そういう物理法則の外にあるものなのだ、異空間とは」
「首都内でもたま~に現れるでしょ、迷宮。あれと同じ」
「あぁ」
セタンタ君は「マーリンの例えの方が馴染みあるな」と思いつつ、エイさんに対して言葉を投げかけました。
「ともかく、ここは首都だけど、首都じゃない場所が重なっている」
『そう』
「俺達はその首都じゃない異空間の中にいる」
『そう。僕らニイヤド商会はゲートとレイラインを使ってここを召喚した。おそらく、首都66丁目やその付近にいた子達も異空間内にいる。……キミ達もさっき見た墓守達に喧嘩を売ってなければね。アレが無数にいるんだよ』
「首都全域が飲まれてるわけじゃないの?」
『ああ、そうなるように調整した。じゃないと、バッカス王国が即滅びかねないからね』
「…………?」
『僕らがいる異空間の外には……最強最悪の魔物がいるんだよ』
戦争屋は上を指差しつつ、そう言いました。
『妖精郷システムの異空間は、その魔物の体内に存在しているんだ。……おそらく、その魔物はヒューマン種の赤ん坊ぐらいの大きさだ』
異空間の外殻となる魔物は赤ん坊ほどの大きさ。それでも異空間はその中に圧縮されているため、ここには広大な空間が存在していると戦争屋は言いました。
セタンタ君は首をひねりながら問いかけました。
「最強最悪の魔物……ねえ。大仰な肩書きだな。ティアマトとどっちの方が強えんだ?」
『ティアマトが1000匹いようと勝てないよ。実際、大昔にティアマトの大集団が決戦を行ったけど……彼らは敗れた』
鎧袖一触という表現すら生ぬるいほど、一方的な戦いだった。
ティアマトを使役していた者達の運送屋はいるけど、当時の戦いで殆どが滅ぼされてしまった――と戦争屋は語りました。
「それをやったのは、なんて名前の魔物なんだ?」
『人殺し機』
「聞いたことない名前の魔物だね……?」
『そりゃそうさ。メサイアは神にとって、とっておきの魔物だからね』
本来、世界開拓戦争の最終決戦に出てくるはずの魔物さ、と戦争屋は言いました。自分達はそれを強引に引きずり出したと言いました。
『メサイアはこの世界で最も強力な解呪領域を持つ魔物だ。バッカス人のほぼ全員が魔術使えなくなるぐらいの解呪領域だ。解呪ですら、余技でしかないけど』
「そんなのがホントにいるとしたら、バッカス王国の天敵だな」
『ホントさ。キミらは実際、解呪領域を使う墓守達にさっき会っただろ? メサイアの力は墓守達の全ての力を束ねたものだと思ってくれ』
「……魔物って事は、魔王様や騎士の人達じゃ協定に阻まれて戦えないって事?」
『いや、そんなことはない。メサイアは……分類としては魔物だが、通常の魔物とは異なる経緯で誕生している。だから協定関係なく戦えるよ』
戦争屋の言葉を聞いたマーリンちゃんは、ほっと胸を撫で下ろしました。
それなら魔王様達なら勝てるだろう、と考えましたが――。
『けど、協定の護り無しだろうと、魔王達ですらメサイアには勝てないかもね』
「そ、そんな魔物、存在するはずないよ」
『メサイアは世界開拓戦争の最終決戦に出てくるはずだった魔物だ。神が最後の最後に頼る魔物が、魔王達にあっさり蹴散らされたらしらけるだろ?』
しらける、という表現は神っぽくて嫌だけどね――と戦争屋は言いつつ、さらに言葉を続けました。
『メサイアの解呪領域は、たくさんの神器を束ねたモノに匹敵する。僕も総数は知らないけど、神器換算で千は超えてるだろうね。雑な計算だけども』
「そ……そんな魔物、存在、するはずが……」
『楽観しない事をオススメする。終焉を司るに相応しい存在だからね。今頃、魔王達は交戦中だろうけど……異空間が壊れていない以上、決着はついていないだろうね』
「…………」
「まあ、とにかくヤバイ魔物だって事だ」
セタンタ君はルーンを刻みつつ、端的にまとめました。
『雑なまとめだけど、その通り』
「そんなもんを首都に放つとか、お前らバッカスを滅ぼすつもりだったのかよ」
セタンタ君はルーンを刻むために使っていた短剣を突きつけつつ、戦争屋に問いかけました。厳しい目つきで戦争屋に問いただしました。
戦争屋は『そういうつもりじゃないよ』と言いつつ、弁解を始めました。
『僕らはメサイアを楽にしたいだけだ』
「…………? ぶっ殺すって事か?」
『まあ、結果的にそうなるね。……僕ら、ニイヤド商会だけでは勝てないから、バッカス王国の力も借りようとしたわけ。無理やり巻き込んでね』
「……そもそも何故、エイ殿はそのメサイアの事を知っている」
フェルグスさんは「メサイアが本当に最終決戦に現れる魔物であったとしたら、それは神にとってとっておきの魔物はず」「それをなぜ、一介の騒乱者に過ぎない者が知っているんだ」と思いながら問いかけました。
「ここはあなたにとっての育ちの故郷らしいが、なぜ、それが魔物になっている。いや、最初から魔物だったのか?」
『違う。魔物だったわけじゃない。妖精郷システムは神が作ったわけじゃない。けど、神はシステムを取り上げて、それをメサイアの中枢として再利用しているんだ。……他にも僕らから大事なものを取り上げてね』
「大事なもの?」
『仲間さ。神は、メサイアを作成する材料に、僕らの仲間を……人を使った。彼らの魂はずっと、ずぅっと前からここに囚われ続けているんだ』
「囚われているって、牢屋でもあんのか?」
『セタンタのくせに察しが悪いね。……そっちの2人は気づいたようだけど』
戦争屋はフェルグスさんとマーリンちゃんにチラリと視線を送りました。
マーリンちゃんは表情を強張らせ、黙ったままでした。
フェルグスさんの方はアゴを指で弄びつつ、戦争屋に問いかけました。
「先ほどの4本腕の巨人や、焔の巨鳥の正体は、人間か?」
『その通り。墓守達の正体は元人間だ』
「は? 人間が魔物に取り込まれてるって事か?」
『そうとも言うし、魔物そのものに変質させられたとも言う』
かつて、戦争屋達は神に逆らいました。
彼らにとって神は「救世主」のはずでしたが、それとは真反対の存在と知り、多数派のために少数派を殺す選択をしました。
『けど、僕らは負けた。……多くの仲間が捕虜にされた』
神は「これは罰だ」「天にツバを吐いた罰だ」と言いました。
『神は捕虜の魂を混ぜて、妖精郷システムにブチ込んだ』
「たっ、魂を混ぜた……!? そんな事したら」
『個人の自我はほぼ崩壊しちゃった。1人が違う存在なのに、無理やり混ぜ合わされた結果、彼らはメサイアという名の集合生命体と化した』
「……元の人間に戻す事って出来ねえのか?」
『神なら、出来るかもしれない。記憶操作魔術を始めとした精神干渉魔術に長けていれば、あるいは……ってところかな?』
けど、神には頼れない。
集合生命体を生み出した元凶が救ってくれるとは思えない。
さらなる地獄を生み出す可能性すらある――と、戦争屋は神を疑っていました。
『助ける方法はほぼ存在しないから、それならせめて……楽にしてあげようって、僕らは誓ったんだ。メサイアと化した人々を解放するために、僕らは神と取引して、バッカス王国に喧嘩を売った』
「そして、本来は終末に出てくるはずだった魔物を引きずり出した」
『そう。キミ達、バッカス王国の人間にとって、僕らは突かなくていい藪を突いた大罪人だ。メサイアを滅ぼす事が出来なかったら、世界が滅びかねないからね』
「…………」
『でも、それでも、どうしても仲間を楽にしてあげたかったんだ』
世界開拓戦争の最終決戦まで待てなかった、と彼は言いました。
『メサイアに取り込まれた人達は、自我が崩壊しているうえに、絶え間ない苦痛に苦しめられ続けている。神にとってメサイアは決戦兵器であり、自分に逆らった騒乱者に永遠の責め苦を与えるための監獄なんだ』
「……で、ここに囚われている人達を殺して、解放する。それを手伝えって事?」
『手伝ってください』
戦争屋は無事な片手と頭部を地面につけ、そう言いました。
『虫のいい話だってのは、わかっているんだ。先にこうして頼むんじゃなくて、メサイアを呼び出してから頼んでいるのは、ずるい事だ』
メサイアはバッカス王国が総力を結集しても、勝てないかもしれない相手。
最悪、国も世界も滅ぼしかねない存在。
それを呼び出した後で――巻き込んだ後で協力を要請するのは「ずるいことだ」とわかっていましたが、戦争屋達はなりふり構わずにそうしました。
「…………」
『僕らはメサイアに囚われている仲間の魂を早く救いたいんだ。……他にまともな方法がない以上、殺してでも、救いたいんだ。頼む。お願いします。助けてください』
「エイ殿、頭を上げてくれ」
セタンタ君とマーリンちゃんは顔を見合わせて困り顔でしたが、フェルグスさんは戦争屋の肩を叩き、そう言いました。
文句は色々と思いつきましたが、ひとまずそれは飲み込みました。
「メサイアとやらが現れた以上、我々(バッカス)には選択肢がないという事だろう? どっちにしろ倒せねばならんという事だ」
『そうそう、というわけでよろしく~』
「うわ……こいつ、頭上げた途端に軽薄になりやがった」
『話が早くて助かるよ。いやぁ、セタンタとマーリンも協力してくれるよね?』
少年少女は騒乱者の変わり身に表情を引きつらせたものの、フェルグスさんの言う通り、「他に選択肢がない」と考え――不承不承といった様子で頷きました。
「他に方法なかったのかよ。バッカス政府に事前に相談するとかさ」
「そうだよ、もっと穏便になんとか……。バッカス王国には蘇生魔術があるとはいえ、人的被害はゼロじゃないだろうし、物損とかも……」
『神の指定なんだ。今回の方法は』
戦争屋は『メサイアを呼ぶには神の協力が必要不可欠だった』と言いました。
首都のレイラインとゲートの力を借りたとはいえ、メサイアが休眠状態に入っている場所へのアクセスには神に手伝ってもらう必要があった。
その神が「どうせならバッカス王国に喧嘩売りつつ楽しくやろうぜ!」「お前らに拒否権はな~い」と言ってきたため、戦争屋や靴屋は神の書いた筋書きに従って動く事になったのです。
『全部が全部、神の責任じゃないけどさ。結局のところ、バッカスに迷惑をかけても決行したのは僕達だし』
「責任の話は後回しにしよう」
『助かるよ。じゃあ――』
「ただ、私はエイ殿の言い分を全て信じたわけではない。我々を騙そうとしている可能性も考慮したうえで動くので、下手な動きをした時はいつでも斬りかかるという事は了解してもらいたい」
セタンタ君が刻んだルーンもそのまま。
必要に応じて拘束もする、とフェルグスさんは宣言しました。
戦争屋は『それでひとまず協力してくれるなら、全然文句ないよ』と肩をすくめながら言い、ゆっくりと立ち上がりました。
『とりあえず移動しようか。残りの話は移動しつつ話すよ』
「どこ行くんだ? さっきの……元人間の墓守って人達を倒しにいくのか?」
『彼らは妖精郷システムが健在な限り、不死身だ』
バッカス王国の遠隔蘇生機構のように、死んでも蘇生する。
だからシステムそのものを破壊する必要がある、と戦争屋は言いました。
『ただ、僕らだけじゃ破壊するのは無理だ。センセイ……アハスエルスや、他にもこの異空間に取り込まれたバッカスの人間と合流したい』
「…………」
マーリンちゃんは靴屋の名を聞くと、少しだけ表情を歪めました。
戦争屋はそれに気づき、マーリンちゃんの前にしゃがみこみ、『わだかまりがあるだろうけど、勘弁してくれ』と言いました。
『センセイも……バッカス王国やキミを裏切りたくて裏切ったんじゃあないんだ。あの人は、神に行動を縛られてしまっているんだ』
「…………。そんなこと、知らない」
そういう事情なんて知らない、と少女は吐き捨てるように言いました。
「あなた達のことは信用できない。オジ様の言う通り、嘘ついている可能性もある。けど、今は他に選択肢がないから協力はする」
『ありがとう』
「仲良しするつもりはないから」
『うん、まあ、そうだよね』
戦争屋は困った様子で頭を掻きました。
『僕達の事は信用しなくていい。所詮、バッカスを巻き込んだ騒乱者だからね』
「…………」
『けどさ……アラク……じゃなかった、モルガンさんがこの場にいたら、彼女も僕らに協力してくれたと思う。彼女は僕らの仲間だったからね』
「えっ?」
養母の名を聞いた少女は、目を見開きました。