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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
十章:なれ果てのメサイア
353/379

箱庭



「セタンタ、マーリン。起きなさい」


「「…………」」


「ふむ……」


 フェルグスさんは少年少女が意識を失ったままなのを見て――観測魔術で身体に異常がないのを確かめ――直ぐに起こすのは諦めました。


 周囲を見回し、2人を守るために警戒し始めました。


 そうしているうちにセタンタ君の方が目覚め、マーリンちゃんも一拍置いた後に頭を抑えながら目を覚ましました。


「んぇ……」


「は……。あっ、フェルグスのオッサン」


「ねぼすけ共め。戦闘は……おそらくまだ続いている。警戒しなさい」


 2人が起きた事に頬を緩めたフェルグスさんでしたが、直ぐに硬い声色で警戒を促しました。2人はそれに従い、直ぐに起き上がって警戒し始めました。


 そして、フェルグスさんに遅れて気づきました。


 自分達が首都66丁目にいない事に気づきました。


「ここ、どこだ?」


「わからん。一見すると都市郊外のようなのだがな」


 3人は草原のど真ん中にいました。


 緩やかな起伏はあるものの、街中とは言い難い光景。びゅうびゅうと吹く風が草をさらさらと鳴らしている音の中、フェルグスさんが周囲をアゴで指しながら言いました。


「首都のものらしき瓦礫はあるのだがな」


「うん、けど……なんだろうな、ここ……」


 3人の周囲にはつい先ほどまで戦場となっていたはずの首都66丁目の瓦礫が転がっていました。ただ、量は大したものではなく、3人の体積の2倍程度の瓦礫しか転がっていませんでした。


「俺の記憶が確かなら、俺達って首都で戦ってたはずだよな?」


「うん。首都66丁目の6号ゲートに向かおうとしてた。フェルグスのオジ様が騒乱者を倒してくれたから、強行突破しようとして――」


「爆発に飲まれた」


「うん。いや、あれは爆発じゃなかったような……」


 セタンタ君の言葉をマーリンちゃんは訂正しました。


 爆発のように見えたけど、実際は光に飲み込まれただけだと言いました。


 身体を焼き焦がされたり吹き飛ばされたりはしなかったものの、光に飲み込まれた瞬間、急速に意識が遠くなっていったと言いました。


「うーん……本部に連絡取ろうとしてるんだけど、全然ダメ。繋がんない」


 マーリンちゃんは交信魔術を使い、作戦本部や他の部隊と連絡を取ろうとしましたが、誰とも連絡が取れないと言いました。


「俺達、まさかまた夢の中にいるとか? これは敵の攻撃か?」


「さあ……? ただ、セタンタと一緒に夢の中に閉じ込められた時とは、感覚が違わない? 僕らは確かにここにいる感じがする」


「じゃあこれ現実か。……敵に転移魔術でどっかに飛ばされたとか?」


「仮説は色々ありそうだが、断定できる情報は無いようだな」


 瓦礫を調べていたフェルグスさんは特に収穫がなかった事に嘆息しつつ、マーリンちゃんに問いかけました。


「マーリン、交信で連絡が取れないというのは、連絡が取れる場所に誰もいないという意味か? それとも交信魔術を妨害されているのか?」


「あ、ごめん、ちょっと待って…………。……妨害されてるかも。解呪領域でかき消されてる感じ。ただ、それがどっちの方向かがよくわかんない」


「どういう事だ?」


「ボクらは既に解呪領域の中に入り込んでいるみたい。ただ、その中心がどこかわからない。今いる場所はまだそこまで魔術行使に支障ないんだけど、少し離れたところではろくに魔術が使えなくなりそうなぐらい領域が濃いところがある。それも複数・・存在してるっぽい……かな……?」


 解呪領域で魔術行使を阻害されているため、詳細を探りづらくなっているようでした。調べられる範囲で調べてみたところ、首都66丁目より遥かに広いエリアが解呪領域の影響下にあるようでした。


「近場で最も解呪領域が濃いところはどこだ?」


「げっ。調べにいきますぅ……?」


「とりあえず見に行くだけだ。遠方から」


 首都66丁目の街中から、都市郊外のような場所に移ったという不可思議さはあるものの、その事実を無視すれば解呪領域以外、何の変哲もない草原。


 そこを当てもなくウロウロするより、あえて解呪領域きけんに近づく事を選ぶ事になりました。


「あ~……動いてる解呪領域があるぅ……」


「動いてるってなんだよ」


「その解呪領域を発生させている主が移動してるんじゃないかな」


「……神器持ってるヤツがそこにいる、って事か?」


「うん、そうかも。これほど強い解呪領域が展開されているのって、神器があるか、かなり高位の魔術師がいるかのどっちかのはず……なんだけど……」


 マーリンちゃんは自分が観測しているものが信じられず、言葉を濁しました。


 ですが、伝えるべきだと考え、冷や汗を流しながら口にしました。


「ボクが観測できただけでも、9以上の解呪領域が発生してる」


「は?」


「それだけの神器、あるいは術者が存在しているという事か?」


「どっちなのか判断つかな――――いま10以上の解呪領域確認。ぼ、ボクらの後方3キロほどの辺りを、解呪領域が時速600キロほどで通り過ぎっていったぁ~……!」


 セタンタ君は「俺とコイツでは見えてるモノが違うんだろうな」と考えました。


 少年は「言われてみれば確かにいつもより少しだけ魔術が使いづらい」と感じていましたが、周囲の風景はのどかな草原にしか見えませんでした。


 遠くまで魔術で見通す少女には、複数の解呪領域が入り乱れる空間を認識してしまったことで、「怪物の腹の中にいる気分なんだろうな」と考えたのです。


 実際、少女は表情を引きつらせ、脂汗をかいていました。


「マーリン、落ち着け。こっちにはフェルグスのオッサンもいるんだぞ」


「うむ。まあ私もさすがに神器や高位の術者相手に絶対に勝てるとは請け負えんがな。嵐之夜(ワイルドハント)は強力な解呪領域相手では相性が悪くてろくに使えんと思っていただこう」


「わーん……! そこは嘘でも『余裕だ』って言ってよぅ……!」


 マーリンちゃんが半泣きになる中、フェルグスさんは「止まれ」と言いました。


「戦いの音がする」


 そう言い、草原内の丘を中腰で進み、3人で丘の向こう側をこっそりと覗きました。音の発生源はまだ遠くでしたが……それでも、目視する事が出来ました。


 そこでは、バッカスの戦士達が戦っていました。


 フェルグスさん達とは別部隊の人間でしたが、首都66丁目に一緒に攻め込んでいた戦士達でした。最精鋭というわけではなくとも、開拓戦線の第一線を走っている腕利きの戦士ばかりでしたが――。


「かなり押されてるな」


「解呪領域の影響だけではないようだが――」


 丘の向こうで戦っている一団は、次々と数を減らしつつありました。


 彼らが対峙している敵に――青白い身体の4本腕の巨人に、一方的に蹴散らされているためです。


 巨人の身の丈は10メートルを超えており、4本の腕にそれぞれ別の得物を持っていました。それを縦横無尽に振り回し、草原の大地をえぐりながらバッカスの戦士を血祭りにあげていきました。


 フェルグスさんは解呪領域込みなら「自分が出ていっても分の悪い勝負になりそうだ」と思ったものの、潰走を始めた一団を逃がすため、囮を買って出るために行こうとしましたが――。


『待った待った! やめといた方がいいよ』


「あっ……!」


「あなたは……」


『あそこの戦闘にはもう直ぐ新手も加わる。彼らを逃がそうとしても死ぬ人間がキミらの分、増えるだけだよ』


 背後から近づいてきた騒乱者に――戦争屋に止められました。


 解呪領域でマーリンちゃんの索敵精度が弱まっている隙に近づいてきた戦争屋は、片手を挙げて『敵意はないから安心して』と言いました。


 本人は両手を挙げたがっていましたが、騎士団長との戦いで片腕をもがれてしまったため、それは叶いませんでした。


『さっきまで敵対していた身だけど、信じてほしいな。無駄死にしたくないでしょ。ほら、僕の言う通り新手が来たよ』


 セタンタ君とフェルグスさんが戦争屋に対し、武器を構えて警戒する中、4本腕の巨人のところにさらなる怪物が現れました。


 それは、全身が眩い焔に包まれた巨鳥でした。


 巨鳥は身体から焔を振りまき、潰走するバッカスの戦士達をあっという間に消し炭に変えていきました。


 戦士達は魔術で焔の防御を試みましたが、それはことごとく失敗しました。巨人だけではなく、巨鳥も強力な解呪領域を展開していたためです。


 殆どの戦士達がろくに魔術を使えないまま焔に包まれ、あるいは巨人の手で殺され、草原を汚していきました。


『ほら、ね』


 戦争屋は自分が言った通りになったと言いつつ、『さっさと逃げるよ』と言ってセタンタ君達を手招きしました。


 セタンタ君達は――相手が騒乱者なので警戒しましたが――他に選択肢がないため、ひとまずは戦争屋の先導で逃げ出しました。



『ふぅ。この辺まで来れば、ひとまず大丈――――』


 殺戮現場から離れた戦争屋は、再び手を挙げる事になりました。


 正面から大剣フェルグスが、背後からセタンタが突きつけられた事で。さらには少女の「怪しい真似しても、お見通しだからね」と言いたげな厳しい視線が注がれたため、再び片手を挙げました。


『ちょっとちょっと、命の恩人に対してその態度は何さ』


「エイのオッサン、自分の立場わかってんのか?」


『当たり前だろ。僕は騒乱者で、キミらの敵。……ただ、キミらよりはこの場所について詳細に知っている。貴重な情報源だよ』


「情報源、ねぇ……」


『信用できないなら縛るなりなんなりしなよ。ただ、落ち着いて話をしたいなら、もうちょっと移動した方がいいよ』


「罠にでも誘導するつもりか?」


「ぼ、ボクも移動するに賛成……」


 セタンタ君は騒乱者に同調したマーリンちゃんに対し、「なに言ってんだ?」と言いかけましたが、マーリンちゃんが尋常ではないほど脂汗をかいている事に気づき、その言葉を飲み込みました。


 フェルグスさんもマーリンちゃんの様子に気づき、察しました。


「解呪領域が近づいてきているのか?」


「うんうんうん、明らかにこっち来てる」


『はいはい、逃げよ。案内するから』


 騒乱者は大剣と槍に構わず、スタスタと移動を始めました。


 フェルグスさんとセタンタ君はひとまず矛を収め、その後に続きました。


 戦争屋はマーリンちゃんに『こっちに逃げたいんだけど、大丈夫だよね?』と確認を取りつつ、小走りになって先導し始めました。


『ここは、ひとまず逃げるのが大正解だよ』


「エイ殿、先程の怪物達は何だ。魔物か?」


『うーん……まあ、なんというか……英雄の成れの果て、かな……?』


 頭を掻き、そう言った戦争屋はさらに言葉を続けました。


『彼らが神器並みの解呪領域を展開したのはわかっただろ? アンタら魔術師とは相性が悪い相手だ。アンタらは死んだところで遠隔蘇生で生き返るが……ただそれは、バッカス王国が滅びなかった場合ね』


「いったい、何が起こってんだよ。ここはどこなんだ?」


『墓場、かな。……墓守メサイアがうろつく墓場さ』


 戦争屋は『詳しい事は後でね』と言いつつ、3人を手招きしました。


 そして、草原の一角にある地下の入り口に辿り着きました。




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