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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
十章:なれ果てのメサイア
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墓石屋/破壊者



『エルス……!』


 墓石屋はバッカスの戦士らと交戦しつつ、仲間の心配をしました。


 靴屋の反応が消えた事に気づいたのです。


 カヨウさんに異空間に引きずり込まれたものだとは気づきませんでしたが――靴屋は靴屋で上手くやっていると信じ、前を向く事にしました。


『退け。邪魔だ』


 襲いかかってきたバッカスの戦士達を魔眼で撫で斬りにし、騎士団長らと交戦中の戦争屋への援護射撃を開始しました。


『アリスト、反対側の様子が気になる。僕が後退して反対側むこうも神器の影響下に起きたいが、これ以上下がるのは難しい……! 行ってくれ!』


『しかし、お前1人では――』


 墓石屋は戦争屋の身を案じました。


 神器を使ってなお、倒せない騎士団長あいての足止めを必死にこなしている仲間に対し、「いま自分が離れたら押し切られるのではないか」と考えましたが――。


『昔みたいに、いつまでも子供扱いしないでおくれよ……!』


『――わかった。任せる』


『任され、たッ……!!』


 戦争屋は槍型の神器を振るい、騎士団長に一撃を入れ、さらに周辺ごと爆破しました。その爆撃の振動は、彼らの反対側から首都66丁目・6号ゲートに向かっていたフェルグスさん達の部隊にまで届きました。


「さっきからドカドカと爆発起こってやがるけど、あれ大丈夫なのか……!?」


「大丈夫じゃないかなぁ~……! 騎士団以外は壊滅に追い込まれてる。騎士はまだ1人もやられてないけど、かなり攻めあぐねてるみたい」


 鼓膜どころか身体全体まで揺れる爆音を聞いていたセタンタ君が不安を滲ませボヤくと、マーリンちゃんが騎士団長達の状況を解説しました。


 そして、「6号ゲートまであと1000メートル――」と言った直後、仲間達に「後退後退!!」と連絡を飛ばしました。


 バッカスの部隊が進もうとしていた街路を、ティアマトの身体が薙ぎ払っていきました。何とか誰も潰されずに済みましたが、飛んできた瓦礫だけで多数の負傷者が出ました。


「いってぇ……」


「大丈夫!?」


「もう治した。問題ねえよ」


 セタンタ君はマーリンちゃんを守るために、飛んできた瓦礫を蹴り落とした際に足をひねりましたが、治癒魔術で直ぐに再起しました。


「向こうの爆撃なんかより、ティアマトの方が差し迫った危険か」


「うん、だけど、爆撃が直接飛んでこなくても……こっちの魔術にも影響が及びかねない。敵が使っているのは神器みたいだからね」


「解呪領域か。こっちにはまだ影響ねえみたいだが……」


 神器はそれ単体で強力な解呪能力を持っています。


 ただそこにあるだけで周囲の術行使を妨害するため、魔術に依存したバッカスの戦士達は――並大抵の戦士達では――解呪の効果範囲内にいるだけで大きく戦闘能力を削がれる事になります。


 騎士団長達の援護をしていた部隊が壊滅したのも、神器の解呪領域による影響が強いものでした。魔術による抵抗を剥奪され、そこを魔物の軍勢に襲いかかれて次々と討ち取られていったのです。


 解呪領域それの影響は、セタンタ君達が所属するフェルグスさんの部隊には及んでいませんでしたが、マーリンちゃんはいつ効果範囲内に入るかひやひやしていました。


 神器を振るう戦争屋は騎士団長達の相手で手一杯のため、フェルグスさん達の方へ来る余裕はないようでしたが――。


「…………! 墓石屋がこっちの戦線に顔を出してきたみたい!」


 マーリンちゃんは自分達より先に進んでいた部隊が、墓石屋との交戦状態に入った事を皆に知らせました。


 墓石屋は神器こそ使っていないものの、殲滅能力はそれに匹敵する活躍をしていました。転移魔術による神出鬼没の移動能力に加え、ただ睨むだけで古傷を開く魔眼でバッカスの戦士を次々と殲滅していきました。


 墓石屋は2体のティアマトを始めとした魔物達と連携してくるため、バッカス側も簡単には突破できない状況です。


「さっき6号ゲートの辺りに雷落ちただろ。あれって味方じゃねえのか!?」


「味方のはずだよ」


 マーリンちゃんは――先程の雷撃と共に――カヨウさんがやってきた事に気づいていました。


 靴屋ちちおやと接触したカヨウさんがどういう反応をするか戦々恐々としていたものの、カヨウさんはバッカスを裏切ったりせずに戦闘を開始したと人伝に聞いていたため、最初ほど不安感は抱いていませんでしたが――。


「向こうは向こうで靴屋と交戦中みたい。6号ゲートもまだ停止できてない。騎士団長達も足止め食らっている以上、それ以外の誰かがゲートまで辿り着けなきゃ……」


「マーリン、敵はあと何分で目的を達成する?」


「10分は切ってると思います」


 マーリンちゃんはゲートに施されている細工の状況を見て、推定の時間をフェルグスさんに告げました。それは概ね正しいものでした。


「無茶して押し通らねばならんか……」


「かもですね。あと1キロが遠い~……!!」


 目標の6号ゲートに近づけば近づくほど、敵の抵抗は激しくなりました。


 魔眼と転移魔術を自在に扱う墓石屋。


 巨体と熱線で大暴れするティアマト。


 騒乱者と竜種をサポートする魔物の軍勢。


 普段なら即時踏破できる距離を進む事が出来ず、立ち往生しかけていました。それでもマーリンちゃんは「どこか突破口があるはず」と信じ、索敵を続けていましたが――。


『ランスロットさん達が、墓石屋との交戦を開始しましたっ!』


 味方と騒乱者が激突し始めた事を知らせるため、叫びました。


『先日は随分と世話になったな。お礼参りをさせてくれないか?』


「…………」


 転移魔術で降り立った騒乱者は、ランスロットさん1人と対峙しました。ランスロットさん以外にも冒険者がいましたが、魔眼により、一瞬で屠られてしまったのです。


 冒険者ランスロットは魔眼に解呪魔術で対抗しつつ、自分の方から踏み込みに行きました。時間をかければ魔物にも包囲される。早急に片付けないと押し切られると判断して――。


『来い。この業は貴様の師のモノらしいな? 師を超えていけ』


「――――」


 騒乱者の煽りを聞いた冒険者は心を乱さず、踏み込み、横一閃に剣を振りました。


 墓石屋は双剣で受け流しつつ、転移魔術を使いました。


 相手の背後に転移門を開き、「いつでも回り込めるぞ」と威圧しましたが、冒険者はそれをブラフだと見抜き、構わずに猛攻を仕掛けました。


『ハッ――では、これはどうだ?』


 騒乱者は左の剣を納剣しつつ、拳銃を抜き放ちました。


 剣で鍔迫り合いつつ、拳銃を乱射しました。


「ぐッ……!!」


 マティーニ北方での戦いでは転移銃撃を防いでみせたランスロットさんでしたが――魔眼に対する防御も同時にしなければならないため――全ての銃撃を防ぐ事には失敗しました。


 ただ、体内の急所を撃ち抜かれても彼は止まりませんでした。


 魔術で強引に身体を動かし、剛剣を振るいました。その一撃は強くなった墓石屋でもヒヤリとするものでしたが――間一髪で凌がれました。


 冒険者が障壁魔術を使い、障壁を相手の背後に出して退路を断ってみせても、転移魔術で距離を取られ、不発に終わったのです。


『おしいおしい。だが、吾輩の敵ではないな』


「……他人の牙のくせに、よく吠える犬だな」


『ふふっ、言ってろ言ってろ。今から貴様に、貴様も知らん太刀を見せてやる』


『ランスロット様! 退避してください!』


「――――」


 墓石屋がゆらりと動く中、ランスロットさんは味方の交信を聞いて動きました。味方が何をやるか察知し、動きました。


『構わん。私ごとやれ』


 騒乱者に向けて突撃し、足止めしようとしました。


 バッカス陣営の砲撃手達による砲撃を、確実に敵に当てようとしたのです。


 砲弾の雨が降り注ぐ中、冒険者と騒乱者は轟音響かせ剣を交わしました。冒険者が一方的に攻め立てましたが、彼は歯噛みしました。


 瀕死の身体で全力を振り絞っても、全て軽々と凌がれたために――。


からだが覚えているようだ、弟子の稚拙な技巧など!』


「世迷い言を……!」


『宣言通り、不知しらずの太刀をくれてやる――――露と滅せよ』


 騒乱者は双剣を交差させ、剣先を鋏のように構え、振るいました。


『虚剣・虹式カラド煌剣ボルグ


 詠唱を唱え、斬撃を放ちました。


 放ちましたが――剣先からは何の虹式煌剣ざんげきも生まれませんでした。


 ですが、冒険者ランスロットの胴体は四等分されました。


『これぞ我が剣。混沌の剣技。達人技巧の融合技あわせわざよ』


 崩れ落ちていく冒険者に視線を送りつつ、無傷の騒乱者は呟きました。


 彼はエレインさんとカスパールさんの業を盗み――虹式煌剣そのものを転移魔術で飛ばし、相手を体内から斬り殺す技術を手に入れていました。


 それだけならランスロットさんなら防ぎようがありました。が、魔眼による威圧も同時に行われているため、全てに対処する事は出来なかったのです。


『成ったわ。いや、まだか?』


 騒乱者は死体に歩み寄りました。


『貴様の剣技は称賛に値する。防御の面では師を超えているのだろう。素晴らしい。なればこそ、我が一翼を担うに相応しい』


 騒乱者は冒険者ランスロットの魂をむしり取り、それも吸収しました。


 降り注ぐ砲弾に向け、障壁魔術を――ランスロットさんの障壁魔術を使い、全て防ぎきってみせながら高笑いしました。


 ただ、バッカス側は単にがむしゃらに攻撃を仕掛けるのではなく――。


『嗚呼、またこれか。馬鹿の一つ覚えだな』


 阻害効果付きの煙幕弾も撃ち込み始めました。


 騒乱者側の視界だけを塞ぎ、転移銃撃を阻むための煙幕に紛れ、墓石屋との戦闘を回避して首都66丁目・6号ゲートに向かおうとしましたが――。


『やれぃ、ティアマトッ!』


 墓石屋の振った剣筋をなぞるように、2匹のティアマトがブレスを放射。


 煙幕や建物の陰に隠れていたバッカスの戦士達をまとめて焼き殺しました。


 煙幕に紛れ、墓石屋に肉薄して切りかかってくる一団もいました。


 振り下ろされた斬撃は墓石屋のあと少しのところまで迫りましたが――。


『どうした? 皮一枚すら捉えておらんではないか』


「きッ、貴様ッ……?!!」


『それでは冒険者ランスロットの守りは崩せんぞ』


 墓石屋は全身を障壁魔術の鎧で包み、全ての攻撃を受け止めました。


 自分達では倒しきれないと考え、離脱しようとした一団に『逃げるな』と言葉を投げかけつつ、彼らを一瞬で薙ぎ倒していきました。


『うむ、うむ。成ったか? いやいや、まだまだか?』


 墓石屋は新たに手に入れた技術たましいの感触を確かめつつ、呟きました。


『まだいるはずだ。強者の魂が……吾輩をさらに強くする強者の魂がまだまだあるはずだ』


 墓石屋は、魔刃の応用で新たに2本の腕を生成しました。


 それに拳銃を持たせ、次の犠牲者を求めて歩み始めました。



「ら……ランスロットさんがやられたみたい」


 魂も吸収されたみたい――マーリンちゃんは仲間にそう語りました。


 現場の様子を覗き見していた観測手から情報を貰い、仲間に共有しました。


 敵は転移魔術で移動・回避・防御・攻撃を行ってくる。


 詰め寄ったところで剣技で圧倒してくる。


 そもそも詰め寄る前に魔眼でひと睨みされれば瞬殺されかねない。


 そのうえ、元騎士の防御能力まで手に入れた。


 攻防全ての面で非常に高い水準の能力を手に入れたいま、悪夢のような力を騒乱者が手に入れつつある事を知り、多くの者が戦慄しました。


「まあ勝てない相手ではないさ」


 フェルグスさんだけは泰然と構えていました。


「複数人の達人の力を束ねようと、墓石屋ヤツは1人だけだ。束ねるからこそ生まれる強みもあるが、束ねてしまったからこそ生まれる弱みもある」


「弱み?」


「1人で全てに対処しなければならんという事だ。1人で育児と家事をしつつ、仕事もやれというのは難しいだろう?」


「ああ、なるほど。でも、その数の問題は魔物が補えるんだろ」


 家事も育児も出来なくても戦闘ぐらいは魔物だって出来るぜ――と言ったセタンタ君に対し、フェルグスさんは笑って「その通り」と返しました。


「だが、それでも勝ち目はあるさ。ヤツが無敵の戦士なら、今頃は騎士団長もやられている。その様子はない以上、ヤツの力はまだ騎士団長達を凌ぐ水準には至っていない」


「じゃあ、アレか? 俺達が騎士団長を足止めしている戦争屋エイを止めにいって、騎士団長にヤツを倒してもらうとか?」


「その時間は無いし、戦争屋むこうは向こうで神器の解呪領域があるから私達ではいよいよ歯が立たなくなる」


 私達が墓石屋を倒すしかない。


 フェルグスさんはそう言い、レムスさんに目配せしました。自分と似た業を持つレムスさんに――敵に対抗できる業を持つレムスさんを見ました。


「古傷を開く魔眼の力は確かに脅威だ。だが、対処法はある」


「えーっと、無傷の人間を連れてくるとか……?」


「それに近い。若殿レムスも力を貸してくれ」


「おっ? ああっ! アレか、いいぜいいぜッ!」


 レムスさんは自身の毛をむしり取り、それで使い魔を作りました。


 3体の使い魔はレムスさんの姿を模していても、一切の古傷を持たない存在でした。なぜなら、たったいま生まれたばかりの存在だからです。


「作り立ての使い魔なら、魔眼なんか無視して近づけるなっ!」


「その通り」


「フェルグス殿、使い魔の扱いの心得などあったのですか?」


 部隊に参加していた1人の冒険者が、フェルグスさんに問いかけました。


 フェルグスさんはニヤリと笑い、「それに近いものだ」と言いながら、自身のとっておきの魔術を起動しました。


「我が威を受けよ――嵐之夜(ワイルドハント)


 レムスさんの使い魔と同じく、生まれたての存在を生成しました。



『誰ぞ、吾輩を殺せる者はおるか!? おらんのかぁ~!? んっ……?』


 バッカスの戦士を次々と屠っていた墓石屋は、敵の接近に気づきました。


 土煙の中から現れた2人の戦士に――フェルグスさんとレムスさんに気づき、さっさと片付けるために魔眼を使いましたが、抹殺に失敗しました。


『魔眼が効かない? ほほう、人形か幻の類か』


 魔眼による鏖殺に飽きてきていた墓石屋は、「少しは歯ごたえがありそうだ」と思いながら新手を歓迎しました。


 そんな彼の前で、レムスさん達の姿が増え始めました。


獣人レムスが3人、大剣使いが1人、2人、3人…………おい、待て……8人、14人……に、にじゅう……』


 レムスさんの生成した使い魔は3人だけ。


 ですが、フェルグスさんの生成したそれは、20を超えてもゾロゾロと現れ続けました。その様子にはさすがの墓石屋もうろたえました。


 50を超えたところで数えるのをやめました。


『同じ顔が、そこまで出てくるか!? 幻風情が、私に勝てると――!』


 墓石屋は転移銃撃で乱射しました。


 フェルグスさんの「幻」を消し去るために、攻撃しましたが――その殆どが大剣と共に振るわれた解呪魔術で無効化されました。


 放たれた弾丸の半数ほどは「幻」に届きましたが、銃撃で倒れても直ぐに新しいオークが現れ、死体から大剣を拾って戦列に参加しました。


『幻……では、ないのか……!?』


『全て実体のある存在さ』


 フェルグスさんはマーリンちゃんの交信魔術まじゅつを借り、にこやかに声をかけていきました。魔眼の効果範囲に入らないように隠れながら。


『分身か。なるほど、それなら魔眼も効かんかもな。……フン、だが、やたらめったら増えたところで、吾輩に剣が届くと思うたか?』


『届くさ。なにせ、1体1体、全てが私だ』


 フェルグスさんの分身ワイルドハントが一斉に動き始めました。


『騎士団長はお忙しいようだ。今なら私が好き勝手に暴れても問題あるまい』


 ただ1人しかいない敵に向け、一斉に殺到し始めました。


『我が妻を強奪した騒乱者よ、無数の本体わたしと戦ってもらおう』




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