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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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狼の士族


 治療により火傷も癒えたセタンタ君は天幕の中で目を覚ましました。


 大事なミスリルの槍の安否が気になりましましたが、直ぐ傍に無事な状態で立てかけられている槍を見て、ホッとしています。


 そして話し声がするので声の方向を見ると、褐色の肌を持ち、黒髪を伸ばし放題にした大柄な青年――人型に戻った狼系獣人のレムスさんが「キミ、かわいーねっ」とマーリンちゃんに話しかけていました。


 レムスさんは双子のお兄さんのロムルスさんと同じくイケメェンなので、可愛いと言われたマーリンちゃんも満更でもない様子で「えへへ」と笑っています。


 笑いながら、ワイルドな雰囲気を持つイケメェンの引き締まった尻を見て、密かに舌なめずりしています。


 レムスさんは気づいてませんでしたが、セタンタ君は気づいてしまいました。


「お、目が覚めたか、セタンタ」


「やっぱレムスの兄ちゃんだったか、さっきの人狼は」


「まあな。その調子なら完治したみてーだな。良かった良かった」


 セタンタ君は軽く腕を回しつつ、体調を確認しました。


 特に痛みは感じません。死んでいてもおかしくない大やけどを負っていましたが、治癒の魔術を死ぬ前にかければ治す事も可能です。


 後遺症も残らないでしょう。


「助けてくれたんだな。ありがとう」


「どーいたしました。つっても、人助けに行ったお前らをさらに助けに行く事に決めたのはウチの兄者だからな。兄者に感謝するといい、兄者を拝め」


「そうするよ」


 セタンタ君とレムスさんは冒険者稼業を通じ、知り合った仲です。


 出会って一年も経ってないので、まだそこまで親しくはありませんが何度か冒険者として共に戦った事があり、そこでお互いの名前と実力を知ってから一目置きあっているようです。


「カンピドリオ士族の戦士団がここに来てるのか?」


「ああ。つっても全体の一部だけどなー」


 セタンタ君はそんな会話をしつつ、いまの状況を聞きました。


 夜燕は無事に討伐されましたが、討伐からまだ一時間と経っていないようです。


 つまり、まだ夜です。辺りは暗いものです。火事がまだ完全に消えず広がっていますが、人狼さん達が遊びながら自分達には火が及ばないよう処置してるのでここが火に呑まれる事はないでしょう。


 人狼の皆さんはひとまず、セタンタ君達の救助と夜燕の討伐は終えたので、今夜は陣を築いてここに野営するそうです。


 人の営みを見つけた魔物達が走って襲ってきたりはしていますが、魔物達より化け物らしい人狼さん達がそれをやっつけています。


 頭を潰して殺しつつ、「追加の肉が来たぞー」と呑気にエッサホイサと運び、解体して食べているようです。鉄板で肉が焼ける匂いも届いています。


「焼肉してるにおいがする……」


「ハハハ、取れたて新鮮だぞ。お前らも食いに来い! 俺は食いにいくぞ!」


 セタンタ君は携行食を食べたとはいえ、それだけではちょっと足りなかったので「白米もあるぞ」という言葉につられ、食べに行く事にしました。


 毒持ちの魔物もいたらしく、毒混じりの肉食べた人もいましたが人狼さん達は「ガハハ!」と笑いながら再生したりして無理やりどうにかしてるようです。


「ボクもお腹すいたー……けど、睡眠欲が勝っちゃってる……」


「じゃあカワイコちゃんには何か消化しやすいもんを持ってこさせよう。俺達、カンピドリオ士族が責任持って都市に送り届けるから、明日までしっかり寝てな」


「うん、ありがとー、おにーさん」


「いいってことよ」


 マーリンちゃんは微笑みつつ、レムスさんの尻を見ていました。


 セタンタ君は真顔で見て見ぬふりをしました。



 駆け出し冒険者のお兄さんも身体的には完治しましたが精神的にキツイ状態が続いたため、マーリンちゃんと一緒に天幕内でお留守番。


 駆け出し巨乳冒険者のお姉さんは貸し与えられた衣服を身に纏い、ショタ冒険者のセタンタ君と一緒に助けてもらったお礼を言うために野営地で焼肉パーティーしてる人狼さん達に会いにいく事にしました。


 レムスさんはお姉さんの大きなおっぱいに視線を向けつつ、しきりに「キミ、かわいいねっ」などと言いながらエスコートしてます。


「かわいいしか言ってねえ」


「実際かわいいからな。だが可愛い子に可愛いって言って何が悪い。さっきの猫系の子も可愛かったが、こっちの子も可愛い。おっぱい大きいとか最高だな。あと、冒険者って他の職業より身体の手入れが乱雑な子が多いんだが、この子はちゃんとしてる。髪は精油で手入れしてみたいだ。手入れしてる本人の手間としてはちと面倒かもだけど、いい匂いするし、髪の毛つややかで見てて心地いい。触りたい」


 サクサクとナンパしてます。


 お姉さんはちょっと戸惑っていましたが、イケメェンにそういう事を言われると悪い気分はしないのか、恥ずかしがりつつもレムスさんに髪の毛を触らせてあげていました。美形は強いです。


 レムスさんはレムスさんでそれをうやうやしく、絹糸のように手に取って「ありがてえありがてえ」と拝んでいます。


「これぞ、男視点では見えないきめ細やかな手入れの賜物だ。おいセタンタ、可愛いってのは外見に表れるけど、その可愛いを実現するには女の子が陰でやってくれている手入れのおかげでもあるんだぞ。その努力に裏付けされた可愛さで俺達みたいなムサい男連中の心をくすぐり、癒やし、鼓舞してくれてるんだからな」


「俺はまだムサくない」


「んだよー、どうせ直ぐ胸毛生えてオッサンになるんだよぅ」


「どうせなら美形で背が高いオッサンになりてえなぁ」


 そんな話をしつつ、セタンタ君達は野営地の一角にやってきました。


 人狼さん達が交代で見張りを立てつつ、騒ぎながら食事をしています。騒ぎに釣られてやってきた魔物を駆除しつつ、食料も補給しているようですね。


 セタンタ君はそんな感じで食事している人達の中でお酒を飲みつつ、まったりしている雪のような白い髪、白い肌に白い狼の耳と尻尾を持つ白い青年――ロムルスさんのところへと進んでいき、助けてもらったお礼を言いました。


 この集まりのまとめ役がロムルスさんなのです。


 ロムルスさんの弟であるレムスさんは駆け出し巨乳冒険者の女の子をそれとは別方向に伴っていき、「カワイ子ちゃんが来たぞー」と人狼の男性陣を湧かせ、皆でチヤホヤし始めました。



「今日はありがとう、ロムルスさん。おかげで助かった」


「飛燕さえ来なければ、キミ達だけで何とかなっていただろう。運が悪かったな」


 そう言いつつ、ロムルスさんはセタンタ君に「まあ座れ。座って飲み食いしなさい」と隣の席を勧めてきました。


「言い訳になるけど、遊星の飛燕がこの辺来てるなんて知らなかった……」


「無理もない。ギルドの方でも観測したのが今日の夕方の事だからな」


「それで派遣されてきた討伐隊がアンタら、カンピドリオ士族だったって事か」


「そういう事だ」




 バッカス王国には「士族」と呼ばれる集団がいます。


 ざっくり言うと、部族みたいなものです。


 同時にそれを治める長の家はバッカス王国では貴族に類する立場なのです。


 主に同種族で――例えばオークはオーク、エルフはエルフなどで――寄り集まって生活しており、バッカス王国が建国される以前から各地に存在していた古い歴史を持つものも少なくない集団です。


 規模は大小様々ですが、大きなところは一つの国家並みのものがあります。


 現在は多くがバッカス王国の傘下に下り、王に臣従しつつ都市間転移ゲートなどの技術を享受しています。臣従といっても政府の要請に答えて軍を動かすような義務も特になく、庇護下に入ってるだけのような感じですけどね。


 それでも立場的には王様の下についてる形なので、士族をまとめる立場にある長の家は貴族のようなものです。


 ロムルスさんが所属しているカンピドリオ士族もバッカス王国の庇護下で暮らしている士族です。主に狼系獣人の人達で構成されている士族で、バッカス建国初期から身を寄せ、共生関係に続けています。


 規模としてはかなり大きな部類の士族です。


 再生能力に優れた人狼で編成された軍団で魔物相手に立ち回り、蹂躙しているバッカスでもそれなり以上に名の知れた武闘派士族です。


 ロムルスさんはカンピドリオ士族の長たる現士族長の息子で、次期士族長になる事が決まっています。わりとエラい人です。レムスさんと同じく若様です。


 現在は社会勉強と遊びを兼ねて冒険者稼業をしつつ、士族の人達で構成された士族お抱えの戦士団の仕事も手伝っており、今日はその士族戦士団の一部を預かり、魔物討伐にやってきたようです。



「我々は明日の朝までここで野営する。朝が来たら10人ほど護衛を割き、キミ達を最寄りの都市まで送ろう」


「10人もいらないと思うけど……俺もいるし」


「いや、キミの心配は一切していない。ただ少なくともキミの連れの二人はまだ弱い駆け出し冒険者だろう? 都市に辿り着くまでがこちらの仕事だ。ついでだからキミもあくびしながらそれについて帰ってくれ」


「了解。……ちょっと待ってくれ、護衛以外の人達はどうするんだ?」


 セタンタ君は訝しげに首を傾げました。


 その質問に対し、ロムルスさんは都市と逆方向を指差して答えました。


「ついでなので、飛竜の巣を落としてくる」


「そんな近所に買い物にでも行くように……。夜燕と戦ったばっかじゃん」


「こちらは特に被害は出なかったからな。なに、規模としてはそこまで巨大なものじゃない。精々、50匹程度の飛竜の巣だろ」


「大型がついてない。大型飛竜の巣だ」


「飛竜には変わりない。そうだ、キミも来るか? キミほどの腕の持ち主ならこちらも歓迎だ。ウチの可愛い妹が『おっきなドラゴンさんのオムレツがたべたいよ』と言ってるから卵を確保してこなければならんから協力してくれ。レムスから聞いたと思うが、討伐を行った後でそのままウチに来て食事会に参加してくれればいい。どうだろうか?」


「さすがに帰りたい……。てか、俺はレムスの兄ちゃんから何も聞いてないぞ」


「愚弟め……」


 ちゃんと説明してなかったな、と思いつつ兄である白狼獣人のロムルスさんは黒狼獣人である弟の姿を探しました。


 すると、弟さんは助けた駆け出し巨乳冒険者の女の子とちゅーしてました!


 かなり情熱的な接吻で、周りが囃し立てるなか口を離した女の子は顔を真っ赤にしてトクトクと胸の鼓動を高鳴らせつつ、レムスさんの唇の感触を思い出すように俯き、下唇を恥ずかしそうに触っていました。


「どうだ、俺の方が上手だろ?」


「次、オレ! オレとキスしましょー、お嬢さんっ」


「は、はぃ……♡」


 どうやらカンピドリオ士族の若者達の「キスの巧さ比べ」の審査員として起用され、半ば流されてそれに参加する事になってしまったようです。


 その後、皆さんでいそいそと天幕の一つへと入っていきました。


 その中で、みんな仲良く一夜を明かしていきました。


 翌朝、精神的に具合を悪くして寝込んでいた駆け出しリーダーさんは仲間がそんな夜を過ごしていたなど露知らず、朝起きたらホッとした様子で勧めてもらったポトフとパンを口にしました。


 巨乳の女の子の方は、何事も無かったように微笑んでいます。


 男物のワイシャツを身にまとい、大きすぎるので腰紐で縛りつつ、袖を取ってもらったものをノースリーブのワンピースのように着ています。


 元々のサイズと腰紐の影響もあり、シャツしか着てない胸部はとても強調されていました。腰紐と前側のボタン程度しか阻むものがない、危うい衣装です。


 彼女の前にはカンピドリオ士族の青年達が一列に並び、「昨夜はムスコが大変お世話になり……」とお礼に来ていました。


 女の子はちょっぴり恥ずかしそうに何十人と握手しつつ、全員と連絡先と住所を交換などされているようですね。


 レムスさんは夜のうちに済ませたらしく余裕のドヤ顔です。


 最後にやってきたロムルスさんには肩を抱かれつつ、食事中の駆け出しリーダーさんの背中を指さされながら耳元で話しかけられました。



「彼もまた、キミのために命を張ってくれた男だ。街に帰ったら、膝つき合わせ、その件についてよく礼を言ってあげなさい」


「は、はい……」


「彼が眠る頃に訪ねていくといいかもしれない。蜂蜜酒を一本、携えて」


「はい……そうしますね♡」



 女の子はあどけなさも残しつつ、ぺろりと舌なめずりしました。


 そんな会話が交わされたりしていましたが、駆け出しリーダーさんはパンを噛み締めながら生の喜びを痛感するのに忙しく、何も気づいていませんでした。


 色々と察したのは、街に帰って大衆浴場で汗を流した後、自室で身体を休めている時、潤んだ瞳で嬉しげな様子の無垢な少女が――無垢であった少女が訪ねてきた後の事でした。


 それぞれの奮起があり、失われた命はありませんでした。


 しかし、何もかもが今まで通りとはいかなかったようです……。



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