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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
二章:足跡の読み取り方と砂塵舞う採掘遠征
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群狼戦術



 人狼は一人だけではなく、群れを形成していました。


 夜闇の中、セタンタ君達が森を進んだ痕跡を獣の嗅覚を交えて高速で追跡してきた彼らはガス爆発の音と光を察知し、さらに行軍速度を上げました。


 奇襲を敢行するためにあえて咆哮をあげず、夜燕飛び交う朱の森に辿り着いた人狼達は獣の剛毛に包まれた腕で器用に弓を引き、矢を放ちました。


 複数の人狼達が同時に放った矢は点ではなく面として飛び、夜燕の進路を一瞬で塞ぎました。高速で飛ぶ夜燕ではありますが、早すぎるがゆえに軌道変えて矢群を避ける余裕もなく、まともにそこへ突っ込む事になりました。


 夜燕は危険な魔物ですが、無敵の魔物ではありません。


 高速飛翔と異能によりに剣や槍の間合いの遙か外から攻撃してきますが、羽は比較的脆いため、魔術によっても強化された矢で羽を壊され、悲鳴のような叫びをあげて大地に向けて落下しました。


 そこで死ねた遊星の夜燕は、まだ幸運だったかもしれません。


 死にきれず、かといって再び飛ぶ気力もなくのたうち回っていた夜燕の身体は蝶にたかる蟻の如く押し寄せた銀の刃を振るう人狼達に一瞬で捌かれ、最後っ屁として腹中のガスを引火する事も叶いませんでした。


 戦闘開始から10秒ほどで夜燕の群れのうち半数が地に落ち、生き残りも新たな敵の到来に飛行軌道を変えたものの、またたく間に地に落とされていきました。


 反撃の糞を放とうとしたところで火矢を食らい、身体の内側から膨れ上がってガス爆発により木っ端微塵になる夜燕の姿もありました。


 中には、他の人狼にレシーブのように打ち出され、空中に躍り出てきた黒い体毛の人狼に取りつかれ、振り払おうとしたものの笑いながら攻撃をしかけてくる人狼の手により翼を折られ、地に落されるものもいました。


 かくして、この場にいる遊星の夜燕は瞬く間に全滅していきました。


 一瞬で逃亡に転じていれば、あるいはそうならずには済んだかもしれませんが、神によって人に害を為す害獣として生まれた魔物達の頭には「逃げる」という思考は最期まで湧く事がありませんでした。




「あちち、あちちちち!」


 夜陰を照らす戦後の炎の中から一匹の人狼が出てきました。


 セタンタ君が目撃した黒い体毛を持つ、身の丈2メートルを超える人狼です。


 あちちと言いつつ、黒い体毛を赤々と燃やしつつ、何かを抱えて燃え盛る森の中から出てきました。大やけどを負ってますが結構元気そうです。


「あにじゃー! 四人共いたぞー! あちち、あちいっ、股間も燃えてるっ」


 どうも黒い人狼はセタンタ君達を救出してきてくれたようです。


 セタンタ君達は虫の息になっていましたが、それでも何とか生きています。


 見た目こそ魔物に似た人狼達ですが、魔物ではありません。


 人間です。


 部類としては猫系獣人であるマーリンちゃんに近い、狼系の獣人です。


 黒い人狼は仲間の人狼達に消火してもらいつつ、ぐったりとしているセタンタ君達を引き渡し、「治療してやってくれー」と言いました。


「若もこちらへ。治療します」


「俺は大丈夫だ。だってカンピドリオの人狼だもの」


「しかし、イチモツがキャンドルのように燃えてますが……」


「ホントだー! なんでここだけ消えてないんだよぅ!?」


 黒い人狼は慌てて股間を叩き、消火しようとしました。


 したところ、叩きすぎて長物がポロリと落ちました。セルフ去勢!


「ヒェッ、お、俺のチンチンがサヨナラしてしまった」


「ち、治療しましょう……」


「いやいや、自分で治すよ」


 そう言って手を振った黒い人狼の身体を黒い炎が包みました。


 森を焦がしているオレンジ色のものとはまったく別種の炎です。


 黒い炎は直ぐに消えましたが、炎が消え去った後にはポロリしたチンチンが戻ってきていました。それだけではなく、大やけどを負っていたはずの身体までもふさふさの黒い体毛に戻っています。


 一瞬で再生したのです。


 彼ら人狼は、このように再生能力に秀でた種族なのです。


「ほら治った。俺は大丈夫だからアイツらを見てやってくれ。俺らと違って脆いから、ちょっと全身に火傷負っただけで死んじゃうからなぁ」


「わかりました。若もご自愛ください」


「はーい。あ、ポロリチンチンは記念に持って帰ろう」


「ばっちい!」


「ぎゃっ! なんで叩き落としたんだ!? く、砕けちゃったぞ……?」


 黒い人狼は悲しげに古いイチモツを見ました。


 しかし、新品のイチモツはちゃんとあるので「まあいいや」とチンポジを直しながら「兄者兄者、兄者はどこだ」と言いながら人狼達の中を歩きはじめました。


 人狼達は群れを、部隊を編成して動いていましたが、中には普通の人間の姿もあります。飛燕との戦闘は人狼部隊が行ったようですが、支援部隊として人狼ではない人達も随伴してきていたようです。


 人狼も、本来の姿はそれらの人々と大差ないものです。


 その証拠に、人狼から普通の人型へと戻っていく者もいました。


 普通といっても狼の尻尾と獣耳を生やしたものですけどね。


 彼ら人狼は通常形態がケモ度そんな高くないフツーの人型なのです。人狼へと変身する事で戦闘能力や再生能力を高め、戦闘しているだけなのです。



「兄者はどーこだ」


「ここだ」


 うろついていた黒い人狼を白い外套に身を包んだ青年が呼び止めました。


 その青年も狼系の獣人です。いまは通常形態の人型で行動していますが、黒い人狼と同じように人狼になる事が出来ます。


 いまは討伐した飛燕の解体作業を指揮していたようですね。


 飛燕の体内にはまだ可燃性のガスが残っており、先にそれをしっかり抜いてからの解体作業です。少し遠くでしくじった人狼達が「ギャア!」と飛燕の死体から吹き上がったガス爆発をモロに食らいましたが、直ぐに再生して「いてて」「ばか!」「慎重にやれー」と言葉を交わしています。丈夫な種族なのです。


「兄者、救援対象は四人とも生きてたぜー。まあいまちょっと死にかけだけど、治癒の魔術かけはじめたから何とか息を吹き返すだろ。多分」


「ご苦労。まとめて二つの仕事が片付くとは幸運だったな」


「まったくだぜ」


 彼らはギルドの要請でここに来た戦士達でした。


 セタンタ君達と別れた駆け出し冒険者達が救援を呼んでくれていたのです。


 駆け出し冒険者達は一度都市に戻り、セタンタ君達が戻ってくるのを待っていたのですが直ぐに戻ってくる様子も無かったため、冒険者ギルドに向かいました。


 若い冒険者達が死ぬのは偲びない――以前に、国民にバタバタ死なれて冒険者稼業への忌避感が増すと困る国営冒険者ギルドはちょうど夜燕対応のために動こうとしていた人狼達に声をかけ、念のため救援も依頼していたのです。


 人狼達にとって、救援対象と討伐対象が同じところに居合わせたのはちょっとした驚きでしたが、おかげでひとつところに留まって呑気にウンコ爆撃していた遊星の夜燕の討伐もやりやすかったみたいです。



「だから、夜燕の討伐報酬は少しだけ彼らにも渡そうと思う」


「んー、まあ、服とかも焼けてえっち通り越してグロくなってたからなぁ」


「全額にまで足りるかどうかはともかく、まったくのタダ働きも惨たらしい。能力と仁心ある冒険者のやる気がそがれるのは国にとっても損失だろう。大儲けはさせてやれないが、多少の報酬はな……」


「りょーかい。あ、そういえば兄者、救援対象の一人はセタンタだったぞ」


「ほう?」


 白い外套の青年が治療行為の行われている天幕を見ました。


「ちょうどいい。先日、アンニアを助けてもらった礼もしないといけないと思ってたところだ。報酬とは別に食事会に招待させてくれるよう、言っておこう」


「じゃー、俺が言ってくるよ」


「お前は飛竜討伐に向けて身体を休めていろ。酷使するからな」


「それはそれでへーきだよ。可愛い女の子もいたし、ちょっと会ってくるぜ」


 黒い人狼から褐色の人間形態に戻りつつ、白い青年から離れていきました。


 白い青年の名をロムルス。


 黒い青年の名はレムスと言います。


 二人は双子の兄弟で、冒険者稼業をしている身ではありますが、バッカス王国において貴族に類する立場の人狼達です。




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