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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
九章:虐殺の引き金
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報酬



「パリスのヤツ、大丈夫かなぁ……」


「大丈夫だろう、レムスさんも一緒にいるんだから」


「あの人が一緒ってのが余計に怖いんだよ~……」


 マティーニ北方でのティアマト討伐を終え、セタンタ君達はアワクムまで戻ってきました。帰路は大きなトラブルもなく安全に戻る事が出来ました。


 教導隊長であるエルスさんの判断により、行きと同じく寝ずの強行軍でしたが、竜種との戦闘が待っていないだけ教導隊参加者の気分は軽いものでした。


 ただ、セタンタ君はパリス少年の事を心配していました。


『ティアマトに致命傷を与えた策はコイツの発案だぞ!』


 ティアマト討伐後、レムスさんはパリス少年を摘み上げ、胸を張ってそう言いました。作戦参加者全員に触れ回る勢いで喧伝しました。


 パリス少年の方は恥ずかしがって逃げようとしましたが、鼻息荒く喧伝して回るカンピドリオ士族の青年の腕力には勝てませんでした。


『功労者である以上、褒賞の1つや2つぐらいあってもいいだろ!?』


 レムスさんはそう言い、パリス少年に特別な報酬を寄越すよう、政府に直談判しました。レムスさんの愉快な仲間達も面白がって「そうだそうだ~」と同調しました。


 現場に居合わせた冒険者ギルドの職員や政務官も「法外な要求でなければ……」と言い、レムスさんの訴えが聞き届けられました。


 そのため、最初は金銭でボーナスが与えられる予定だったのですが――。



『あの、オレ、どうしてもバッカスに連れて帰りたい人がいるんですっ!』


 本当に報酬が貰える事が確約されると、パリス少年はそう言いました。


 西方諸国内から2人、亡命させてほしいと土下座して懇願しました。


 さすがに政務官達も難色を示したものの、最終的に「要人を逃がすわけではない」というわけでパリス少年の願いは聞き届けられました。


 西方諸国内にいる少年の祖父母を、バッカスに連れ帰る願いが聞き届けられました。


 そのため、セタンタ君達と一緒にアワクムに乗り、バッカス王国に帰る予定だったパリス君はレムスさん達と共に寄り道をしていました。セタンタ君達とは一時離れ、お爺さんとお婆さんを迎えに行きました。


「ああ、せめてアタランテさんならまあ大丈夫かなぁ……と思えるんだが、なんであの人はついていかねえんだよー」


「こっちで仕事が出来たんだ。仕方ないだろう」


 アタランテさんはアタランテさんでレムスさんと別行動をしていました。


 政務官であるロムルスさんが西方諸国内で後始末に追われる事になり、人手不足のため臨時でロムルスさんに雇われて護衛として残る事になっていました。


 セタンタ君は「俺も強引にでもついていけば良かった」と嘆きつつ、アタランテさんというストッパー不在のレムスさんの行動を心配しました。


 ただ、心配な理由はそれだけではありませんでした。


「セタンタは心配しすぎだって」


「そんなことねえよ。……現実的に考えて」


「パリスの奴、一緒にバッカスに来れなかったお爺さんお婆さんの事はずっと気がかりだったみたいだし……これで心が軽くなるだろう! 良かった良かった」


「……そうなってくれればいいんだけどな」


 快活に笑うガラハッド君と違い、セタンタ君は暗い表情をしていました。


 自分の悪い予感が外れる事を祈りつつ、気をもんでいました。


 気をもみつつ、アワクムで出発の準備をしていたセタンタ君にマーリンちゃんから連絡が届きました。パリス少年が帰ってきたという連絡が。


 ガラハッド君の方はパリス少年が帰ってきたと聞くと、走って向かえに出ようとしました。が、セタンタ君はそんなガラハッド君の肩を掴んで止めました。


「待て」


「んがっ……! なんだ、どーした、そんな眉間にシワを寄せて」


「様子を見たい」


 セタンタ君はパリス少年の姿が見えるまで待つ事にしました。


 待っていると、丘を越えてパリス少年が戻ってきました。


 四足歩行の大狼と化したレムスさんの背に乗り、戻ってきました。2人以外には同伴していた政務官とライラちゃんの姿もありました。


 それだけでした。


 それ以外に人影は見受けられませんでした。


 パリス少年はうつむいたままレムスさんの背で揺られていました。


「あれっ……? パリス達だけ……?」


「慎重に接する必要がある。俺から話しかけるから……」


 パリス少年の姿を確認したセタンタ君は、ガラハッド君の肩から手を離して歩き始めました。パリス少年を迎えに行くために歩き始めました。


 ガラハッド君も察しました。パリス少年達しか戻ってきていない事がどういう事か察し、表情を強張らせながらセタンタ君に続きました。



 西方諸国にはもう、パリス少年が望んだものはありませんでした。


 生まれ育った家もなく、会いたかった人は誰もいませんでした。


 沈んだ表情で手ぶらで帰ってきたパリス少年は、セタンタ君達やレムスさん達に気遣われました。腫れ物に触るように大事に気遣われましたが、パリス少年の表情はなかなか晴れやかなものになりませんでした。




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